観光DXとは、観光にデジタル技術を取り入れて業務の効率化や観光業の活性化を図る取り組みのことで、近年は観光DXを推進する動きが活発になっています。観光DXに取り組むことで、観光客の利便性の向上や観光マーケティングによる収益の最大化、新たなユーザー体験を提供できます。この記事では観光DXのメリットやデメリット、導入のポイントや導入事例をご紹介します。記事の最後に、お役立ち資料 「Tourism1.5 ~ツーリズムフォワード~(Vol.8) 観光DX 」を紹介しています。こちらもぜひ、ご覧ください。
INDEX
観光DXとは
観光DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、観光に関する業務にデジタル技術やITを導入して観光業を効率化する取り組みのことです。デジタル技術を活用して業務を効率化すれば観光業界が抱えるさまざまな課題を解決できるだけでなく、地域との連携を強化して地域全体の活性化を図ることもできます。
なお、観光DXと呼ばれる取り組みは、業務を効率化する取り組みだけではありません。デジタル技術を使ったデータ分析により観光戦略を検討したり、新しいビジネスモデルを構築したり、観光価値の向上を目指す取り組みも含みます。
観光業界が抱えている課題
観光DXの導入は観光業界が抱えている課題の解決にもつながります。観光業界が抱えている課題には、例えば離職率や効率性、予算などが挙げられます。
離職率が高い傾向にある
観光業界の離職率は、他の業界と比較して高い傾向にあります。実際に厚生労働省が発表した「令和5年 雇用動向調査結果の概要」を見ても、宿泊業・飲食サービス業は一般労働者、パートタイム労働者ともに高い離職率です。離職率が高い原因は、幅広い仕事をしなければならないにもかかわらず、仕事量と給料が見合っていないケースが多いことが考えられます。
非効率になりやすい
「おもてなし」を大事にする観光業界では、顧客1人に対して多くの従業員や時間を必要とします。確かに顧客満足度を上げるには、丁寧な接客や充実したサービスを提供することも大切です。しかし、1人の顧客にかける従業員や時間が増えるほど、生産性は低くなります。業務を効率化すれば生産性が向上するとともに、従業員の負担も減らせます。
課題解決のための予算が捻出できない
抱えている課題を解決するためには、資金が必要です。設備投資や人材育成を試みようとしても、必要な費用を用意することが難しいケースも少なくありません。課題の解決や利益向上を目指して状況に応じた対策を講じようとしたものの、予算の面で行き詰まり、改善できないことが多いという現実があります。
日本の観光DXをとりまく現状
観光DXは海外でも進んでおり、各国でさまざまな取り組みを行っています。では、日本の観光DXはどのような状況にあるのでしょうか。
日本は観光DX化が遅れている
日本では宿泊業のオペレーションやスマートフォンアプリの活用など、一部ではDXが進んでいます。新型コロナウイルスの蔓延により、デジタル技術を活用したサービスの提供が増えたことで、新しいビジネスモデルも登場しています。しかし、海外と比較すると遅れており、世界における日本の観光DXはまだまだ発展途上です。
離観光庁が観光DX化を推進している
観光庁では観光DXを地方創生に有効な手段の1つと位置づけています。近年、感染症拡大の影響を受けて落ち込んだ観光業の回復も必要です。そこで旅行者の利便性を向上して満足度をアップするとともに消費を促し、観光業においては生産性を向上させて収益を上げるための取り組みをサポートしています。
観光客だけでなく、観光業に携わる人や地域で暮らす人にもメリットがある仕組みを取り入れることで、持続可能な観光の実現を目指します。
導入における3つのメリットと2つのデメリットとは
観光DXの推進にはメリットとデメリットがあります。観光DXの3つのメリットと2つのデメリットを紹介します。
3つのメリット
MERIT01観光客の利便性が向上する
観光DXを進めることで、観光客の利便性が向上するというメリットがあります。例えば、オンライン予約システムを取り入れれば、観光客は自分の好きなタイミングで宿泊予約ができます。収集したデータを活用すれば、AIが観光客1人1人に合った観光モデルプランを提案することも可能です。
さらに、キャッシュレス対応を進めると決済がスムーズになり、現金のやり取りで発生しがちな金銭トラブルも防げます。金銭トラブルを防げる点は、観光客とサービスを提供する側の双方にとってメリットになります。
MERIT02 観光マーケティングで収益の最大化を目指せる
デジタル化により収集したビッグデータの分析やAIの活用は、正確な観光マーケティングにつながります。データを分析して観光客全体の属性、好み、行動などを把握し、AIを活用してより多くの観光客に求められるサービスを立案することも可能です。効果的なマーケティングで競争力がアップすると、効率的に収益を上げられます。
MERIT03新たなユーザー体験を提供できる
新たなユーザー体験を提供できるようになるといったメリットもあります。これまでの観光といえば、現地に足を運び観光地を回ることが一般的でした。しかし、デジタル技術を活用してオンラインツアーを提供すれば、観光客は自宅にいながら観光を楽しめます。オンラインツアーなら体調に不安がある人や、忙しくて遠方まで足を運べない人も特別な体験ができます。
また、これまで主流だった紙のパンフレットの代わりに、迫力のある音声ガイド付きのスマートグラスの貸し出しを行うなども、新たなユーザー体験の提供につながります。
2つのデメリット
DEMERIT01導入コスト・リソースが必要である
観光DXを進めるにはインフラの整備やデジタル技術の導入をしなければならず、コストが発生します。さらに、従業員が新しいシステムを使いこなせるようにするためには、周知・教育のためのリソースも必要です。観光DX導入の周知・教育は社内研修を開催するなどの方法が挙げられますが、研修を実施するために必要な労力が負担に感じるケースもあります。
DEMERIT02短期で結果を出すのが難しい場合もある
観光DXを導入するには、まずどのような戦略を打つのかの検討や新たなビジネスモデルの考案、市場の状況を見極めるなどしながら進めなければなりません。DXに対応できる人材の育成も必要になるため、中長期的なプロジェクトとして取りかかる必要があります。観光DXを導入する際は、短期で結果が出ないことを想定おくことが大切です。
活用できる補助金
観光DXの導入にはコストがかかりますが、観光庁や中小企業庁では要件を満たした企業が活用できる補助金制度を実施しています。
観光庁の補助金
観光庁が推進している「観光地・観光産業における人材不足対策事業」では、宿泊業の人材不足による問題を解消するための補助金を交付しています。対象となるのは、旅館業法に規定する許可を受けた宿泊事業者です。
自動チェックイン機や予約管理システムの導入、清掃ロボットや配膳ロボットの購入などに活用できます。1事業者あたり4施設まで申請が可能で、補助率は1/2、補助金の上限は1施設あたり500万円です。なお、補助対象が明確に異なる場合は、国費を財源とする他の補助金の申請も可能です。
中小企業庁の補助金
中小企業庁では、さまざまな補助金制度を用意しています。例えば、自社の課題に合ったITツール導入にかかる費用をサポートする「IT導入補助金」です。通常枠やインボイス枠など5つの類型が用意されています。また、「事業再構築補助金」は、新型コロナウイルスの影響で売上が減った企業や、ポストコロナ時代に向けて思い切った事業再構築を試みる企業に対するサポートをしています。
そのほか、小規模事業者が生産性の向上および持続的な経営を図るための取り組みを行う際に活用できる制度として「小規模事業者持続化補助金(一般型)」もあります。
導入に向けて押さえておきたい3つのポイント
観光DXを導入するにあたり、意識したいポイントが3つあります。ポイントを押さえることで、より高い効果が期待できます。
POINT01観光DXの実績がある企業と連携して導入する
デジタル技術を導入するには高度な技術や専門知識が必要です。そこで、観光DXの導入に必要な高度な技術や専門知識を持った実績がある企業と連携すれば、効率的に導入できるようになります。観光DXに関するノウハウを得られることはもちろん、専門知識や技術を持っている人材の獲得にもつながります。
観光DXの実現に向けて他企業と連携することで、技術革新をスピーディーに進められます。
POINT02解決したい課題を明確にする
観光業界全体を見ると離職率の高さや非効率な業務などの課題を抱えていますが、具体的な課題は地域によって異なります。そのため、観光DXの導入に成功している他の地域や企業のケースを模倣しても、成功するとは限りません。地域や自社の課題を明確にした上で、課題に応じた解決策を検討する必要があります。
POINT03セキュリティ面に注意する
デジタル技術を活用する観光DXでは、セキュリティ面に留意しなければなりません。個人情報を取り扱うこともあるため、情報管理には細心の注意を払う必要があります。セキュリティ面は、システムを設計する時点で対策を検討しておくことが大切です。
自治体による導入事例
地域によって抱える課題は異なるものの、具体的にどのような対策ができるのかイメージできないケースもあります。ここで、自治体による観光DXの導入事例を紹介します。
山梨県の事例
抱えていた課題
山梨県は景勝地やワイナリーなど多くの観光資源を持っているものの、それぞれが離れた場所にあるため観光の周遊性が低いことが課題でした。
取り組み
交通・観光事業者が連携して複数の交通手段と観光施設をつなぎ、スマートフォンでルート検索から予約、決済までできる環境を整備しました。
取り組み効果
マイカーがなくても観光できたり、観光地の新たな楽しみ方ができたりしたことで、観光客の満足度が向上しました。
- 詳しくはこちらをご覧ください。
- お酒を楽しむ旅行にも!観光スポットをつなぎ、マイカーなしでも楽しめる!「やまなし観光MaaS」
長野県箕輪町の事例
抱えていた課題
長野県箕輪町には紅葉の名所「もみじ湖」があり、紅葉の時期になると渋滞や駐車場不足といったオーバーツーリズムが深刻化していました。緊急車両が通れないことや、住民生活に影響を及ぼすことも問題となっていました。
取り組み
混雑期における「駐車場予約システム」の導入や、デジタル技術を活用した滞在時間の調査などを実施しました。
取り組み効果
渋滞対策として大きな効果を得ただけでなく、人員体制などの事前対策も可能になりました。
- 詳しくはこちらをご覧ください。
- 紅葉期の「駐車場予約システム導入」によるオーバーツーリズム対策
まとめ
観光DXは、デジタル技術やITシステムにより、観光業界の課題を解決しようとする取り組みのことです。観光業界ではさまざまな課題を抱えていますが、具体的な課題は地域や企業によって異なります。観光DXを導入する際は、実績のある企業と連携して取り組むことがおすすめです。
観光DXを導入することで、観光客の利便性が向上したり、観光マーケティングで収益の最大化を目指すことができます。また、新たなユーザー体験を提供できる点もメリットの一つです。
以下の資料では、自治体のみなさまのお役に立つ情報を提供しています。観光DXをテーマにした本号では、有識者の見解や観光DXの取り組み事例などを紹介しています。観光DX導入に向けて、ぜひご覧ください。