「日本の社会をいかにデザインするか」の答えは、
DMCとしての知見とデジタルテクノロジーの融合にある!

PROFILE

一般社団法人 電子情報技術産業協会 代表理事/専務理事
長尾 尚人
1980年 通商産業省(現 経済産業省)に入省、資源エネルギー庁石炭部計画課に配属。
1996年 通商政策局 西欧アフリカ中東課 中東アフリカ室長に就任。
1997年 JETRO(日本貿易振興機構)の前身である日本貿易振興会 ロンドン・センターへ出向。
2001年 経済産業省 資源エネルギー庁 電力・ガス事業部政策課長に就任。
2003年 経済産業省 中小企業庁 事業環境部 企画課長に就任。
2004年 通商政策局 通商政策課長に就任。
2005年 内閣府参事官に就任。
2007年 経済産業省 中小企業庁 経営支援部長に就任。
2008年 中部経済産業局長に就任。
2009年 日本政策投資銀行 常務執行役員に就任。
2014年より現職。

株式会社JTB 代表取締役 会長執行役員
田川 博己
1971年 株式会社日本交通公社(現 株式会社JTB)に入社し、別府支店に配属。
1990年 営業企画部企画課長に就任。マーケティング、全社店舗展開、広告宣伝等を担当。
1996年 川崎支店長に就任。
1999年 米国法人日本交通公社取締役副社長に就任。
2008年 株式会社ジェイティービー代表取締役社長に就任。
2014年より現職。一般社団法人日本旅行業協会(JATA)会長、 WTTC(World Travel & Tourism Council世界旅行ツーリズム協議会)副会長、一般社団法人日本エコツーリズム協会会長、公益財団法人日本生産性本部理事、一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)副会長などの要職を務め、福井県、鳥取県その他の観光アドバイザーとして、観光振興と観光人材の育成、地域活性化に積極的に取り組んでいる。

IoTと共創をテーマとするSociety 5.0の総合展「CEATEC」の主催団体の一つであるJEITA((一社)電子情報技術産業協会)は、Society 5.0の推進を掲げ、改革を断行。業種の制限を撤廃し、CPS(Cyber Physical System)/IoTに関連する企業であればいずれも加盟できるように、定款を変更した。この「改革」に伴い、JTBをはじめ、セコム、LIXIL、TOTOなどのIT・電機業界以外の企業が新たに加盟。今年5月には、JTB会長である田川 博己がJEITA副会長に就任する運びとなった。
JEITAが、全くの畑違いとも言えるJTBへ加盟を打診した理由とは何だったのか。また、JEITAとJTBの連携の先に、どのようなビジョンを描いているのか。JEITAで代表理事/専務理事を務める長尾 尚人氏とJTB会長 田川 博己に話を聞いた。

頑張ることの大切さを、一流選手の姿から学んでほしい。

JTBが持つ「消費者と製造業者をつなぐインターフェイス」としての機能が、現在のJEITAには必要だった。

−JTBのJEITA加盟、田川会長へのJEITA副会長就任要請の際には、どのような思いがあったのでしょうか。

長尾 JTBさんをJEITAの正会員にお迎えした時は、いろいろなメディアから「なぜJTBが電機業界に?」と驚きの声が上がりました。しかし、私としては、全く意外なことではないと思っていました。JEITAには、日本経済の中枢となるリーディング・インダストリーを担う企業が結集しています。かつてのJEITAの役割は、基本的に同じ業種に属する会員企業間の連携を深めるために、標準化を進めたり安全対策を立てたりすることが主たるものでした。そうした取り組みがあったからこそ、高品質で安価な製品を世界中に供給することができたのだと思います。
ところが今、企業に対する価値観が変わりつつあります。2011年、ハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授が論文でCSV(Creating Shared Value)という概念を提唱しました。CSVは、社会的な価値を生み出すことが、すなわち企業の価値であるという考え方。わが国でも、あるべき未来の姿としてSociety 5.0が提示され、サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させることで、経済発展と社会的課題解決の両立をめざすとしています。

田川 たしかに、日本の企業への要求は変わりつつあると感じています。かつては製品の質が良ければ、買ってくれました。しかし今は、海外企業から「御社は、社会に対して、どういう貢献をしていますか」と問われます。その問いに、明確に答えられない企業は、もはや振るい落とされます。

長尾 ただ、社会的課題とは、メーカーの事業活動の中にではなく、消費者が暮らしている日常にあります。ということは、メーカーは、人々が抱えている課題をもっとよく知るために、サービスを介して消費者とつながっている産業と強固に結びつく必要があります。JEITAがJTBさんにお声がけしたのは、ものづくりとは違うサービス業界で消費者と密接につながっている企業だからです。
JTBさんなどの電機業界以外の企業に加盟していただくために、まず定款を2年前に見直しました。CPS/IoTを使った製品やサービスを提供できる企業であれば、どなたでも参加できるようにしたのです。同時にJEITAが主催する展示会である「CEATEC」の改革も進め、20周年を迎える今年は、社会的課題を解決できるヒントや新たな社会的価値を創出できる技術の展示会となっています。
JTBさんは、第3の創業をめざすと伺いました。私も、今やらなくてはならないのは、日本の第3の創業だと考えていました。JEITAは、その第3の創業をCPS/IoTでめざしますから、ぜひご一緒させていただきたいと思います。

田川 当社が第3の創業をめざし、「デジタル × ヒューマンタッチの融合によるJTBならではの新たな価値提供」というビジョンを掲げたのは、2017年4月のことでした。これだけインターネットが普及すれば、消費者が自ら旅行に関する情報を取得できますから、わざわざ旅行会社に頼まなくてもいい、という人が増えていきます。ただし、誰もが得られる情報にはオリジナリティはなく、旅行商品としての稼ぐ力は弱いと言えます。
ですから、旅行会社は自ら、旅先の地域とともに「稼ぐ力のある」商品を開発しなければならない。その思いが、当社が取り組んでいるDMO(Destination Management and Marketing Organization)の発想につながっています。企業ですから、私たちはDMC(Destination Management Company)と呼んでいますが。観光地経営の基盤を整備し、新たなサービスを始めるには、IoTをはじめとするデジタルテクノロジーは必須となります。JTBの事業の舞台であるリアルの世界とデジタルビジネスをどう結びつければいいのかを日々検討していた頃でしたから、JEITAさんやCEATECへの参加は、大変ありがたいお話しでした。
JTBも、JEITAさんがめざしているSociety 5.0実装までの道のりをご一緒したいと思います。そのためには、デジタルテクノロジーを活用するだけでなく、観光を基軸とした交流人口の拡大につながるような地域活性化の取り組みが必要だと私たちは認識しています。

※観光庁が規定した日本版DMOは以下の通り。「地域の「稼ぐ力」を引き出すとともに地域への誇りと愛着を醸成する「観光地経営」の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、多様な関係者と協同しながら、明確なコンセプトに基づいた観光地域づくりを実現するための戦略を策定するとともに、戦略を着実に実施するための調整機能を備えた法人」

Society 5.0実装のカギは、コミュニティ再構築。<br>
JTBに期待されるのは、地方再生を担うDMCの役割。

Society 5.0実装のカギは、コミュニティ再構築。 JTBに期待されるのは、地方再生を担うDMCの役割。

−Society 5.0の実現をJEITAはめざしているというお話が出ましたが、JEITAは、どのような社会の未来像を描いているのでしょうか。

長尾 それにはまず、日本の社会モデルがどのように移り変わってきたかを説明した方がいいでしょう。現在のアメリカ西海岸では、シェアリングエコノミーというサービス、もしくは社会形態が普及しつつあります。これは、インターネットを介して、さまざまな物・サービス・場所・技術などを貸し借りする方法ですが、日本では既に、Society 2.0とされる農耕社会の集落で実現できていたのです。非常に原始的なシェアリングエコノミーではありますが。Society 2.0の集落では、地縁血縁が信認のベースとなり、みんなが共存していく仕組みを構築していました。
やがて工業社会が訪れた日本では、会社に擬似的な地縁血縁モデルが持ち込まれ、会社型サラリーマンエコノミーとなっていきました。日本経済が強かったのは、会社組織の中に強い助け合い精神があったから。当時の社会を支えるメカニズムは終身雇用と年功序列、過干渉な地元から出たい若者たちを狙っての一括採用でしたが、これが非常に合理的だったわけです。一方で、会社からはじかれた人は社会からも疎外されてしまう。そうした副作用が現れているのが、これまでのSociety 4.0(情報社会)でした。
Society 5.0では、個人の属性を信認のベースとした現代的なシェアリングエコノミーの世界が訪れるでしょう。現在のデジタルテクノロジーで、個人の属性はリアルタイムですべて捕捉できますから。ただし、便利で快適とばかりはいかないと思います。副作用として、情報流出と私的独占が起きるリスクがありますので、防衛策を考えなければなりません。また、昔は集落の地縁血縁、会社の擬似的な地縁血縁のつながりがありましたが、これからは個人の認証ですべて済むようになります。そうすると、自由だけど、帰属する社会がないということもありえる。安心や心の豊かさが、自分の住む世界からだんだんなくなっていくことも考えられます。その点をどう考えるのかが、Society 5.0の実現に向けた課題だと思います。
そうした課題を解決するためのカギは、「コミュニティの再構築」にあると考えます。Society 5.0では、国民や国家という概念を超えたコミュニティを想定しており、そのためには、情報流出や私的独占といった不正を防ぐルールを規定し、みんなが安心して暮らせる社会にしなくてはなりません。そういうルールメイキングは、エレクトロニクスやデジタルテクノロジーに携わる企業と技術を使ってサービスを提供する企業が一緒になって考えていくことが必要です。しかも、急いで進めるべきです。だからこそ、私はJEITAやCEATECの改革に着手しました。
今年のCEATECのテーマは、「日本の社会全体をどうデザインするか」です。海外では、大学や企業が社会をデザインするためのデザインスクールを設立しています。日本でも、社会をデザインできる人材を育てなければなりません。CEATECでは、いろいろなテクノロジーやビジネスモデルを提示しますが、そのことが人材育成のヒントになればと考えています。

−では、共創する上で、JTBに期待することとは何でしょうか。

長尾 日本のシェアリングエコノミーの出発点は、集落にありました。集落は言い換えるなら、現在の「地方」です。地方再生が、コミュニティ再構築のモデルケースとなるように導いていく必要があると思います。JTBさんには、地方が抱えている課題や要望をまとめて、「元締」のような存在として再生へと誘導する役割を期待しています。

田川 その役割は、言い換えればDMCなのだと思います。「コミュニティの再構築」は、まさにJTBが取り組むべき仕事だと認識しています。地方の人々の興味は、自分が属する地域コミュニティよりも、外の都市部へ向いています。地方再生のためには、人々の興味を再度、地元へ戻すような試みが必要です。それには、昔から伝わってきた文化を守っていかないと。訪日客を増やそうとした時、情報発信ばかりに偏りがちですが、本来は地方の伝統文化や食文化をどう守るかを考えるのが先です。JTBは、地方の課題をお伺いし、解決策をコーディネートして、みなさんが望むコミュニティとなるにはどうすればいいかを考えています。その姿が、DMCなのだと思います。

地域交流事業がめざすべき未来像は「住んで良し 訪れて良し」で表現される。

地域交流事業がめざすべき未来像は「住んで良し 訪れて良し」で表現される。

−IoTをはじめとするデジタルテクノロジーが地方再生にどう貢献するのでしょうか。

長尾 シリコンバレーではシェアリングエコノミーが既に普及しつつあって、認証の世界でgood performanceを提示し続ける人なら、低所得であっても暮らしていける社会が実現しています。日本にも、今はまだ低所得だけども将来性のある人がいる。そういう人たちが豊かに生活できる場所を作るには、ぜひともシェアリングエコノミーが必要。これは個人認証ですから、まさにIoTをはじめとするデジタルテクノロジーの独壇場です。

田川 私は、コミュニティの再構築や地方の再生は、ツーリズムの視点で取り組むのが良いのではと考えています。JTBにとってのツーリズムとは、レジャーや観光といった意味ではなく、「人流を創出して、交流や消費を促し、新たな価値を創り出す活動」と定義しています。JTBグループの事業ドメインである「交流創造事業」につながる概念です。ツーリズムに関わる産業は旅行だけでなく、宿泊、運輸、飲食、小売、農林水産、金融・決済など多くが関わり、もちろん、ITも含まれます。
IoTを使うことで、多種多様なデータを収集することが可能です。旅行前・旅行中で収集した情報、SNSで発信した情報、その他にもGPSによる位置情報などが集まり、それらを分析することで、その地域に求められることを知るからこそできるサービスの提供が可能となります。
例えば、2018年から展開している「ラゲッジ・フリー・トラベル」は、デジタルテクノロジーを活用した外国人旅行者向けの手ぶら観光サービスです。これは、旅行前・旅行中にオンラインで集荷を予約すれば、発行されたQRコードを空港やホテルの専用端末にかざすだけで、次の目的地まで荷物を配送してくれるというもの。送り状は不要、料金はクレジットカードから自動決済されます。ストレスフリーな旅を実現してくれるサービスです。
他にも、観光地向けのデジタルマーケティングツール「エリアアナライザー」を使用すれば、旅行者の属性や行動データ、購買データなどが収集でき、マーケティングプロモーションに役立てることができます。さらに、交通手段による移動をシームレスにつなぐMaaSに関しても、いくつかの実証実験がスタートしています。日本の社会がMaaSを実装できれば、旅行者の移動は飛躍的に効率良く自由なものになるでしょう。

−観光客のニーズにいかにきめ細かく応えるか、が重要ということでしょうか。

田川 それだけでは不充分だと思います。私は、地方再生のために重要なことは「住んで良し 訪れて良し」だと考えています。特に「住んで良し」を大事にするべきです。地域に住む人の豊かさを優先し、さらには住んでいる人が自分たちの「まち」を自ら作るという方向へ導かなければなりません。それが、先ほど申し上げたDMO/DMCのあるべき姿だと思います。
まず、守るべきもの、変えるべきものを明確に分けて扱うことが必要です。住んでいる人にとっては、生活の利便性は欲しいが、伝統的な文化は変えてほしくないかもしれない。実際、訪日客も、日本の原風景が見たかったが見られなかった、と感じていることは多いようです。IoTなどのデジタルテクノロジーによって、「見た目は伝統的、中身は現代的」という地域を現出させることは可能だと思います。
先駆的な考え方をお持ちの知事のみなさんは、DMOが先陣を切って地方再生ビジネスに取り組んでほしいとおっしゃいます。その言葉には、観光地のためというよりも、生活地を豊かにしたいという願いが込められていると思います。

長尾 エレクトロニクス企業を地方再生ビジネスに参加させるためには、まずは一定の規模に育て上げなければなりません。その役を誰がやるのか。また、全体を見据えてデザインする事業者も必要です。ぜひJTBさんには、そういった役割で手を貸していただきたいと思います。

Society 5.0の実現をめざすJEITAと、DMCとして地域交流や地方再生に取り組むJTB。サイバーサイドとフィジカルサイドの違いはあっても、未来に見ているゴールは同じだ。さまざまな課題が解決され、誰もが安心して暮らしていける社会の実現のために、JTBの活動はこれからも続いていく。

■CEATEC 2019 CONFERENCE(KEYNOTE/SUMMIT)

2019年10月15日 14:45~15:30
幕張メッセ 国際会議場 / 展示会場内

『ツーリズムで地域を元気に』
講演者:株式会社JTB代表取締役 会長執行役員 田川博己

JTBは、1912年に日本を訪れる外国人観光客を歓待するための組織として誕生しました。長らく旅行会社として歩んできましたが、近年DMC(Destination Management Company)戦略を掲げ、地域交流事業を大きく拡大しました。創業107年を経過した今、事業ドメインを交流創造事業に定め、更なる進化を図っていきます。ツーリズムの力により人々の交流を創造し、社会課題の解決や地方創生に貢献するJTBグループの持続可能な取り組みについて発表いたします。

https://reg.jesa.or.jp/?act=Conferences&func=Detailed&event_id=9&conference_id=729

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