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JTB大阪第三事業部 事業創造室

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地域主体の海外販路戦略、「地域版越境EC」の必要性

越境ECで気軽に海外販路開拓ができる時代になりました。
私たちも企業のご担当の方から個人事業主の方まで、年間100件以上の海外販路のご相談をいただいています。
これだけ相談件数が増えてきている背景には、コロナでインバウンド需要が停滞する中、直接的に海外消費者に販売していこうという考え方が広まっていることや、ECサイトの構築が安価で容易になったこと、さらには消費者の購買がオフラインからオンラインに変化してきていることなど、いくつかの要因が重なっているのだと思います。

一方で、ご相談いただく企業や個人事業主の方々からは課題感も多く聞きます。
総じて言うと「個の限界」です。企業単体や個人事業主での取組みには多くのハードルがあります。
例えば、コスト面の課題、発信力の課題、運用体制や人財の課題などです。初期費用や運用費などが負担になるという声や、一社単独では商品の魅力発信や認知促進に限界があるという声、専門部署の立ち上げや専門スタッフなどの人財がいないという声などをよくうかがいます。
世の中のマーケティングがOne-to-Oneマーケティングやパーソナライズといった顧客一人ひとりに寄り添ったアプローチが求められる中、個のブランドの戦略が重要視されていくわけですが、同時に「個の限界」も感じるようになりました。

そこでもう少し広い枠組みで越境ECに取組む必要性があるのではと考えました。具体的には地方自治体が主体となり地域の地場産業を、商工会や商工会議所が会員企業を、金融機関が地域の取引先事業者を、というように「地域」を1つのコンソーシアムとし越境ECに取組むという考え方です。これを「地域版越境EC」というメニューにし事業支援を開始しました。
地域版越境ECとは?
地域版越境ECでは地域事業者への越境ECセミナーの開催による啓蒙、地域版越境ECモールの構築、出店事業者の募集から出店サポート、出店後の集客プロモーションなどの施策運用、アクセス解析などによる分析まで、越境ECの一連の流れをパッケージ化し、参画いただく事業者様のECリテラシー向上と、将来的な自立自走での越境EC事業のサポートを目的にしています。
2021年の春に兵庫県商工会連合会様と初めてお話させていただきましたが、「確かに最近、越境ECとか海外販路というキーワードを会員さんからの相談で聞くようになりました」ということで、すぐに「事業として実施してみよう」ということになりました。
最初に検討するのが「どこで売るか」です。
事業者様によってターゲット国も違えばターゲットとする年代層や性別も違う。また複数体制で事業ができる事業者様もいれば、一人で全部やらなければならない事業者様もいます。
そこで重要視したのが「なるべく多くの国や地域へチャネルを展開できること」、「なるべく事業者様の負担ならない手法で実施できること」でした。チャネルでいうと中国や台湾、東南アジア、欧米といった主要国をカバーしたモールへの出店を進め、事業者様の負担でいうと「言語」、「決済」、「海外配送」の負担がない手法を選択することで、より多くの事業者様に参画いただけるような企画設計としました。

そして事業者様向けのオンラインセミナーを2日程に分けて開催しました。
セミナーでは越境ECの基本的なことや、国や地域別のトレンドや市場動向、越境ECの出店や出品パターン、出店後の集客手法などをお話させていただき、今回の事業に関する出店条件や事業者様に負担いただく作業などについて説明をしました。
セミナー終了後、食品や日用品、伝統工芸品やアパレルなど、50社近い事業者様から事業への参画希望をいただくことになりました。

参画する事業者様が集まると実際の越境ECサイトを構築するわけですが、「地域版越境EC」の特徴は、単なる商品販売サイトでなく地域の観光情報や見どころを紹介するサイト設計になっています。
これは販売する地域ブランドのバックグラウンドを海外消費者に理解していただくも目的としていますし、将来的なインバウンド需要の再興を見据えたプロモーションという目的も持たせています。
実際に兵庫県商工会連合会のサイトでは姫路城や明石海峡大橋、城崎温泉、竹田城址といった県下の観光情報についてもご紹介させていただきました。

商品情報や画像データ等の登録作業は事業者様自身に経験いただくことにしましたが、テクニカルサポートやお問い合わせ対応は弊社で受け付けました。
また出店後の集客施策についても、越境EC会員へのメルマガ配信やデジタル割引クーポンの発行によるSALE開催、SNSを活用したターゲティング広告など、一般的な広告メニューを一通り実施することで、事業者様の体験の場を多く設けることで、少しでもECリテラシーを向上していただけるプログラムとして実施しました。
地域版越境ECは約半年間の越境EC支援プログラムになりますが、年度末には事業者様ごとに実績報告書を提出させていただきました。
ECサイトの特徴ではありますがアクセス解析を集計できることが事業者様のヒントになると思っています。販売実績だけでなく、商品ページの閲覧実績を国別、年代別、性別などの軸でクロス集計しています。
これにより、私の商品はどこの国のどういう年代層の方に興味を持ってもらえたというデータが手に入ります。当初狙おうとしていたターゲット国と一致する場合もあれば、まったく想定していなかったユーザー層からの閲覧や購買結果がターゲットを見直すきっかけになる場合もあります。
また売れたことがきっかけで本格的に海外販路開拓に乗り出す事業者様もいらっしゃいますし、逆に売れなかったことで価格やコンセプトの見直しや海外事業の徹底を検討される事業者様もいらっしゃいます。
私は良いデータも悪いデータも1つのきっかけを生み出すヒントだと考えています。
そして地域にとってはヒントを得た事業者様が「地域」という看板を背負い、海外へ積極的に情報発信や販路開拓に取り組んでいただくことで、地域の名が広く世界の消費者に知れわたり、それがきっかけで将来の来訪者になるかもしれない。
そういう未来志向のサイクルを「地域版越境EC」で創り出さればと考えています。

筆者松野 友哉