JTBの法人サービス感動のそばに、いつも。

JTB大阪第三事業部 事業創造室

a day of us

日本最高峰生地で挑む、豊岡鞄の海外ブランディング

私は生まれも育ちも兵庫県で夏になると足元まで透き通るコバルトブルーの海を求めて、毎年のように竹野海岸へ海水浴に行っていました。ですので豊岡の街に入ると「鞄」という文字をあちらこちらに見かけ、昔から豊岡市は鞄が有名な街なんだと思っていました。
もちろんそこが日本最大の鞄の産地であることは知りませんでしたが。

兵庫県鞄工業組合の由利理事長と初めてお話させていただいたのは2021年7月。コロナ禍ということもありオンラインでの対談となりましたが、とにかく豊岡鞄に対する思いが熱く、チャレンジ精神が画面越しに伝わってくるぐらいで、私も越境ECや海外販路のご相談は年間150件近くいただくのですが、間違いなく2021年最も熱意を感じた方でした。
ですので「何をやる」とか「いつやる」とかは関係なく「この方の熱意のお役に立てる仕事がしたい」というのがはじまりでした。
日本には四大鞄産地とよばれる地域があります。
東京、大阪、名古屋、そして豊岡です。違和感のある並びと感じる方もいらっしゃると思いますが、その中でも最大の鞄の産地が兵庫県豊岡市です。
大手のビジネスバックやラグジュアリーブランドの依頼を受けて生産するOEM形式を基本としてきたため「豊岡鞄」という名称そのものに馴染みを感じることはないかもしれませんが業界では最高峰の生地として評価されています。
豊岡で生産されている鞄すべてが「豊岡鞄」というわけでなく、製造品質や地域ブランドとしての基準を満たした製品だけが「豊岡鞄」として認定されています。
生地を型抜きした際に発生する端切れを無駄にせずキーホルダーや小物にするといったSDGsへの取組みや、職人養成学校の運営による人財育成と技術の伝承など、サスティナブルの観点でも様々な取組みを実践されています。

そんな豊岡鞄の海外販路展開が由利理事長はじめ鞄工業組合の皆様からのご相談案件でした。
コロナ前は台湾の商談会やイタリアの見本市など、バイヤーとのマッチングイベントを中心に世界各国へ飛び回っていたが、コロナでそういったイベントが開催されない上、海外への渡航そのものもできずに困っているため、越境ECなどオンラインの販売チャネルを構築していきたいというお話を伺いました。
海外販路のご相談をいただいた際や講演などに登壇させていただく機会にいつもお話させていただくのですが、商品が世界中に売れれば最高です。ですが世界中にチャネルを構えるフルカバレッジ戦略はコストや労力、そして戦略などが国の数だけ雪だるま方式に増えていくことになります。ですので「まずはこの国」というターゲットを選定し集中的に攻めていくことがいいと思います。

では豊岡鞄のターゲットはどこの誰なのかという議論になりました。
ファッションに対する意識が進んでいるのは欧米ですが、欧米には数多くの一流ブランドが存在し、その中で豊岡鞄がブランドとして価値を示せるのか、逆にアジア圏の消費者は日本商品に対する憧れが強いがカテゴリ内では高価格帯である豊岡鞄と物価や相場が見合うのかというような話が続く中、ターゲット候補となり得そうな国の消費者に対し、鞄に対する消費動向や豊岡鞄の購入意向などを調査し、ターゲット国を決めようということになりました。
一括りに「豊岡鞄」といってもカジュアルなものからビジネス向けのもの、ショルダータイプのものからリュックサックまで様々な製品があり、これを「豊岡鞄」という1つの名称としてブランディングしていくのも非常に難しいと感じました。
まずは豊岡鞄へのエンゲージメントを牽引する製品を見極めるため、海外消費者に対し人気投票を含めた興味度調査を実施することにしました。
「いくらぐらいの対価であれば豊岡鞄を買いたいと思うか」、「豊岡鞄のどういう特徴に興味を持ったか」、「豊岡鞄をあなたの国で広めるならどのような手法や媒体を使うか」といった質問を海外消費者に投げかけることで、どのぐらいの価格帯の製品を、どのようなキャッチコピーやメッセージで、どのような広告手法で浸透させるか、海外消費者のリアルな声を集めました。
プロモーションはいつも消費者目線でなければならない。特に海外はそう思う。文化や思想、価値観が違う彼らに対し、私たちの意向や思いが強くなりすぎてはいけないということはいつも考えるようにしています。

この調査には世界各国から3,000人以上の声が集まりました。
翻訳しながら目を通しました。人気投票では各商品を抽選で1名様ずつにプレゼントしたのですが、「僕の彼女は鞄を集めている!豊岡鞄は絶対持っていない!だからどうしても僕はこの鞄を手に入れてプレゼントしたいんだ!」というような熱い想いを添えてきたヨーロッパの男性もいらっしゃいました。今頃は彼女の手に渡っていると思います。
多くの声をいただき豊岡鞄のターゲットは「台湾」に決まりました。
ここからがスタートです。BtoC向けに構築した越境ECに加え、BtoB向けのチャネルを整備し買い場を増やす。そして「技術」を伝えていく必要もあると思っています。豊岡鞄の品質は生地が鞄になっていくプロセスにこそ詰まっているのです。消費者が求める価値を1つ1つ届けていきたいと思っています。

豊岡へは二カ月に一度程度お伺いします。
特急列車で向かうのですが、行きの列車では提案資料の準備をし、帰りの列車ではいただいたたくさんの宿題をどう進めていこうというちょっとしたミーティングになります。この二カ月に一度の訪問は由利理事長はじめ組合の皆さんの熱意や我々への期待を再認識する機会にもなっていて、「いい仕事をしなければ」という気持ちの引き締めにもなっています。
初めてお伺いした際、列車の窓からみた山間の新緑は雪深い景色へと変わり、また緑の季節が近づいてきました。私たち事業創造室のプロジェクトは「中長期的伴走」を合言葉にしています。
まだまだ始まったばかりの豊岡鞄の海外販路開拓ですが、いつか見たコバルトブルーの海のような透き通る未来が開けるよう私も熱い思いを持って臨みたい。

筆者松野 友哉