12年間連続で増加する不登校。2024年度は、小中学校における不登校児童生徒数が過去最多となる35万3,970人に達しました。国や自治体、学校現場でもさまざまな対策が講じられてきましたが、依然として減少には転じていません。
こうした状況のなか、学びに向かう土台となる非認知能力を育み、学校に心理的安全性を根づかせるアプローチとして注目されているのが、SEL(Social Emotional Learning)です。
今回は、学校に伴走しながらSELの導入・実践を支援している株式会社roku you代表取締役の下向依梨氏に、不登校対策としての可能性と、学校現場での具体的な活用のヒントを伺いました。


増加する不登校、学校現場に生じている課題とは?

高校生の不登校理由として最も多いのは、「学校生活に対してやる気が出ない等の相談があった」(26.9%)で、次いで「生活リズムの不調に関する相談があった」(26.2%)、「不安・抑うつの相談があった」(16.0%)が続いています。
「チーム学校」で醸成する心理的安全性
こうした不登校の増加を受け、文部科学省は2023年に「誰一人取り残されない学びの保障に向けた不登校対策COCOLO-PLAN」を策定しました。
このPLANでは、不登校により学びにアクセスできない子どもをゼロにすることを目指し、
- 不登校の児童生徒全ての学びの場を確保し、学びたいと思った時に学べる環境を整えること
- 心の小さな SOS を見逃さず、「チーム学校」で支援すること
- 学校の風土の「見える化」を通して、学校を「みんなが安心して学べる」場所にすること
が掲げられています。
SEL(Social Emotional Learning)とは?
SEL(Social Emotional Learning)は、北米で生まれ、シンガポールで全校導入が進められるなど、世界各国で広がっている教育アプローチです。日本語では「社会性と情動の学び」と訳されます。
下向依梨著『世界標準のSEL教育のすすめ 「切りひらく力」を育む親子習慣 学力だけで幸せになれるのか?』(小学館)より
今まさに、日本の子どもに必要なSEL
現在の日本の子どもたちを取り巻く環境において、SELの必要性はさらに高まっていると下向氏は言います。
実際に、各校ではどのようにSELを導入しているのでしょう。下向氏の関わる2校の事例をご紹介します。
高校の中途退学者を防ぐために、心理的安全性を醸成する【A高校の事例】
A高校は、例年、中途退学者が多いという問題を抱えていました。背景には、学校に通う価値が見出せず無気力になる生徒や、人間関係構築に苦手意識を持つ生徒が少なくない状況がありました。また、複数コース間での交流がなく、「同じ学校に誰がいるのかがわからない」ことも生徒たちの不安につながっていました。
教員間では、「中途退学者を出さないために何ができるか」「学校に居場所を感じてもらうためにどうすればいいか」といった議論が重ねられ、心理的安全性の高い学習環境づくりを目指してSELの導入を決定しました。
A高校の先生方にはもともと、学校の目標や悩みを共有しあう土壌が備わっていました。例えば、ある先生の「お酒の出ない飲み会をしましょう」という発案で、悩みを打ち明けたり意見交換をしたりする場がすでにできていたのです。
そこで、まず取り組んだのが、SELの視点を取り入れた新入生オリエンテーションです。具体的には、全クラスで生徒同士が安心して交流できるよう、グラデーションマッピングを実施しました。
教員間の対話を土台に、支え合える学校づくりを実現 【B小学校の事例】
B小学校では不登校児童の増加に加え、授業中に教室外へ飛び出すなどの問題行動が見られるようになっていました。また、年度途中でメンタル不調により休職する教員もおり、子どもだけでなく教職員にとっても負荷の高い状況が続いていました。
こうした課題に対し、B小学校ではSELを導入。取り組みの結果、「不登校のうち登校復帰した児童数」は15人にのぼりました。さらに、年間150日以上欠席していた児童が、週1回程度の欠席まで改善するなど、登校状況に大きな変化が見られました。
B小学校がまず取り組んだのは教員研修です。教員間の対話を土台に「支え合える学校」を目指し、先生も子どもも心理的安全性を感じられる環境づくりを進めていきました。
研修では、「人生の道」と呼ばれるワークを実施しました(進め方とワークシートはお役立ち資料に掲載)。これまでの人生を一本の道として描き、共有することで、互いの背景や価値観を知り合い、理解と安心感を育むことを目的としたものです。
あわせて、「普段感じている学校やクラスのモヤモヤや課題感」などをテーマにして、エンパシーサークルを実施。話し手の感情やニーズに意識を向けながら聴くことで、教員同士の相互理解を深めていきました。さらに、ある教員の発案をきっかけに、「お祝いと嘆きの共有の場」を設け、教員が率直に自分の気持ちを表現できる機会も生まれました。
こうした積み重ねにより、教員の心理的安全性が高まると、学校内では変化が現れ始めます。それまで「新しい取り組みを行う余裕はない」と感じていた教員から、「〇〇に挑戦したい」「△△をやってみたい」といった声が聞かれるようになったのです。
現在では、学校教育目標である「自律した学習者の育成」を軸に、子どもに委ねる学びや教科担任制など、各教員が主体的にプロジェクトを展開しています。
教員が心理的安全性の土台の上で挑戦する姿勢は、子どもたちにも波及しました。子ども一人ひとりの頑張りを大切にする関わりが増え、感情の背景を踏まえた対話が行われるようになっています。また、授業中に気持ちを落ち着かせるためのピーススペースを設けるなど、環境面での工夫も進みました。
その結果、不登校児童数は減少。家庭で子どもたちが「学校が楽しい」と話す機会が増え、保護者からのクレームも減少しました。授業参観や学校行事への参加率は8割以上に上昇し、学校と家庭の関係性にも前向きな変化が見られています。
こうした変化は、A高校やB小学校だけでなく、多くの小・中・高校、大学で起きています。学校に心理的安全性が根づいていくことで、不登校児童生徒が減少し、「学校に復帰したい」と考える子どもが増えるようになっていきます。
現在、沖縄県うるま市や愛知県名古屋市などで、自治体単位でSEL導入を進める動きも広まりつつあります。学校間で実践を共有し合いながら、地域全体で子どもたちを育てていく視線が今後ますます重要になっていくと考えられます。
まとめ
不登校対策というと、支援が必要な子ども一人ひとりへの個別の関わりに目が向きがちです。しかし、A高校やB小学校の事例が示すように、子どもたちが安心して過ごせる学校全体の風土や関係性を整えていくことも同じくらい重要な要素です。子どもも教員も安心して過ごせる、ウェルビーイングな学校の土台づくりこそが、不登校を減らし、「学校に戻りたい」と思える環境を生み出すのではないでしょうか?
