教員の過酷な労働環境がニュースで話題になるケースも増えており、早急な改善が必要な状況になっています。この記事では、学校の働き方改革を目指している人に向けて、教員の働き方改革が必要とされている背景や、働き方改革を進める際のポイントを解説します。6つの具体例も紹介しますので、ぜひ、お役立てください。
INDEX
- 教員の働き方改革は急務
- 教員の働き方改革が必要とされる背景
- 教員の労働時間が増えている原因
- 教員の働き方改革のポイント
- 教員の働き方改革6つの具体例
- まとめ
教員の働き方改革は急務
政府は、2019年に「公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン」を策定しました。このガイドラインにおいて、勤務時間外の労働についての目安が示されました。具体的な勤務時間外の労働の目安は、1ヶ月で45時間、1年間で360時間以内です。
実際には、多くの教員がこの目安を大幅に超えて勤務時間外の労働をしています。教員の働き方改革へ早急に着手し、勤務時間外の労働を削減しなければなりません。
参考:公立学校の教師の勤務時間の上限に関するガイドライン|文部科学省
教員の働き方改革が必要とされる背景
教員の働き方は、具体的にどのような状況にあるのでしょうか。ここでは、教員の働き方改革が必要とされる背景について解説します。
教員の労働時間が増加傾向にある
平成28年に文部科学省が実施した調査によれば、10年前と比較して教員の労働時間が大幅に増えています。1日あたりの平均を見ると、小学校では平日43分、土日49分も労働時間が増加しています。一方、中学校では平日32分、土日1時間49分も労働時間が増加している状況です。教員の負担を軽減し、労働時間を削減する必要があります。
教員の時間外勤務が「過労死ライン」を超えている
過労死ラインとは、長時間労働により病気や自殺などのリスクが生じる基準のことです。文部科学省が実施した調査によると、小学校の教員の33.4%、中学校の教員の57.7%は過労死ラインを超えています。この結果をもとにすると、教員に対して過度な負担がかかっている状況がうかがえます。
教員不足を招く
教員は長時間労働に陥っており、労働環境が過酷だというイメージが一般に定着しています。教員を志望する人の数は、労働環境の過酷さを理由として減少傾向にあります。令和元年に実施された教員試験により令和2年度に採用された公立小教員の採用倍率は、過去最低の2.7倍でした。この状況が続けば、教員の慢性的な人手不足につながる恐れがあります。
参考:令和2年度(令和元年度実施)公立学校教員採用選考試験の実施状況のポイント|文部科学省
教員の労働時間が増えている原因
教員の労働時間が増えている原因はさまざまあります。ここでは、具体的な原因について解説します。
部活動の時間が増加している
教員の負担として特に大きいのは、部活動の指導です。特に中学校の教員について、部活動の指導に費やす時間が増加傾向にあります。文部科学省が実施した調査によると、教員が土日の部活動に費やす時間は、10年前と比較して1時間以上も増加しました。土日の部活動に費やす時間は、10年前では1時間6分だったのに対し、平成28年度では2時間10分となっています。
事務作業の負担が大きい
教員の業務を見てみると、授業以外の業務がとても多いです。たとえば、クラス便りの作成、成績の処理、給食費の徴収など、細々した事務作業が多々あります。それぞれの業務内容は軽微でも、すべてに対応するとなると大きな負担になるでしょう。まとまった作業時間が必要になるため、労働時間の増加につながっています。
正確に時間外労働を把握しにくい
教員は残業しても時間外手当が支給されません。給与と労働時間は関連がないため、労働時間を正確に把握できていない学校がほとんどです。実際にどの程度の時間外労働が発生しているか分からず、長時間労働を招きやすくなっています。
教員の働き方改革のポイント
教員の働き方改革を進めるうえでは、さまざまなポイントがあります。具体的なポイントについて解説します。
教員の労働時間を正確に把握する
教員の働き方改革を進めるには、まず教員の労働時間を把握するところから始めなければなりません。すべての教員に出勤時間と退勤時間を打刻してもらい、データとして管理すると効果的です。
文部科学省が令和2年度に実施した調査によると、ICカードやタイムカードなどで勤怠を正確に把握している自治体は71.3%となっています。前年度の調査結果は47.4%だったため、大幅に増加しています。なるべく早く100%に到達できるよう、すべての学校が勤怠管理の仕組みを用意する必要があるでしょう。
参考:令和2年度 教育委員会における学校の働き方改革のための取組状況調査|文部科学省
業務そのものを減らす
教員が対応している業務が多すぎるため、働き方改革を進めるうえでは業務そのものも減らす必要があります。たとえば、夏休み中のプール指導のあり方を見直したり、部活動の朝練や時間外の指導についても改めたりすることが大切です。現在実施している行事についても、内容や頻度を見直す必要があります。
教員以外の人員を採用する
教員以外でも対応できる業務については、教員以外の人員を採用して対応するのもひとつの方法です。アシスタントとして業務の一部を任せられます。たとえば、部活動の指導員を新しく採用すると、部活動の質も向上させやすくなります。特に、競技の経験がない教員が顧問になるケースでは、専門の指導員を採用したほうがよりよい指導ができるでしょう。
事務職員の職務内容を検討する
教員はさまざまな事務作業に対応していますが、実際は教員でなくても対応できるものが多いです。事務職員に依頼できる内容を分類し、業務を分担できないか検討する必要があります。たとえば、成績処理や学校行事の準備・運営などは、事務職員でも十分に対応可能です。
教員の働き方改革6つの具体例
教員の働き方改革は、さまざまなところで推進されています。ここでは、具体例を紹介します。
01 教員の働き方改革具体例 横浜市立の学校
横浜市のある学校では、働き方改革の推進にあたり、19時までに退勤する教職員の割合の目標値を70%としました。教員の業務負担を軽減するため、職員室に教員以外の業務アシスタントを2名配置しています。また、プールの清掃は業務委託に切り替え、教員が対応しなくて済むようにしました。
さらに、部活動のために専門の指導員を招き、教員が部活動の指導に費やしている時間も削減しています。
これらの取り組みにより、各教員からは負担が軽くなったという意見が多く寄せられました。19時までに退勤する教職員の割合の目標値も達成できています。
参考:「横浜市立学校 教職員の働き方改革プラン」令和2年度取組み状況
02 教員の働き方改革具体例 千葉県内の小学校
千葉県内のある小学校では、教員の業務負担を軽減するために複数の取り組みを実施しています。たとえば、通知表を出す回数を3回から2回に削減し、教員が通知表を作成する負担を軽減しました。また、部活動の放課後練習は大会前1ヶ月だけに制限しています。
これらの取り組みにより、在校時間は1日あたり1時間も削減できました。ひとつひとつの取り組みによる効果は軽微ですが、さまざまな取り組みを合わせることで、着実に働き方改革の実現につながっています。
参考:学校における働き方改革~取組事例集~|文部科学省
03 教員の働き方改革具体例 群馬県内の小学校
群馬県内のある小学校では、ポイントを絞った取り組みで退勤時刻の早期化に成功しています。大胆な方針を打ち出しつつも、慎重に判断して取り組みを実施しています。また、目的や手段を明確にし、成果につながるよう配慮しました。
たとえば、登下校の時間を変更し、教員が業務に割ける時間を多く確保できるようにしています。また、教科担当制を導入し、授業の準備を効率的に進められるようにしました。その結果、退勤時刻は約2時間半も早期化できています。
参考:学校における働き方改革~取組事例集~|文部科学省
04 教員の働き方改革具体例 岡山県内の小学校
岡山県内のある小学校では、業務改善、時間改善、環境改善のプロジェクトを掲げて働き方改革を推進しています。業務改善においては、すべての教員の業務内容を棚卸ししたうえで、業務の廃止や簡略化を検討しました。
また、時間改善においては、時間外勤務の時間や内容を記録する仕組みを導入しています。環境改善においては、民間企業と協力して職員室のレイアウトを改善しました。より働きやすい労働環境の整備につながっています。これらの取り組みの結果、時間外勤務は25%も削減できました。
参考:学校における働き方改革~取組事例集~|文部科学省
05 教員の働き方改革具体例 熊本県内の中学校
熊本県内にある中学校では、教頭を中心として働き方改革推進のためのプロジェクトを立ち上げました。4つのチームを作り、それぞれで働き方改革を進めています。具体的には、ICTの活用により校務を改善するチーム、働く環境を整備するチーム、情報共有を効率化させるためのチーム、コミュニケーションの活性化を促すチームの4つがあります。
ICTの活用により、大幅な業務効率化を実現できました。また、働きやすい環境が整い、データの属人化も防止できています。教員同士の情報共有も盛んになり、よりスムーズに業務を進めやすくなりました。
参考:学校における働き方改革~取組事例集~|文部科学省
06 教員の働き方改革具体例 千葉県内の中学校
千葉県内のある中学校では、教員の時間外労働の縮減を目標として働き方改革の取り組みを始めました。具体的には、部活動の指導に費やす時間を見直しています。部活動ガイドラインを厳守し、想定されている以上に部活動の指導を行わないよう徹底しています。
また、部活動の休止日を増やし、メインの業務に使える時間を増やしました。教員が部活動の指導を行えないときは、地域や保護者に指導を依頼しています。
これらの取り組みの結果、1日あたりの在校時間の平均は、平日で1時間10分、休日で1時間30分まで削減できました。
参考:学校における働き方改革~取組事例集~|文部科学省
まとめ
教員の労働環境にはさまざまな問題があるため、早急に働き方改革を進める必要があります。そのためには、長時間労働が発生している原因を把握したうえで、必要な対策を取り入れることが大切です。
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