2022年に新学習指導要領が高校でも実施となりました。その中で、金融教育の内容が拡充される方針が示されています。こうした傾向は高校だけでなく、小中から連続して、体系立てて力を入れていくこととなっています。現在、なぜ金融教育が必要なのでしょうか。また、高校での金融教育の内容とは。実践のヒントと、指導に役立つ教材をご紹介します!
なぜ今、金融教育の必要性が高まっているのか?
新しい学習指導要領では、金融教育がより重視されることが示されました。これまで高校では公民科の政治・経済で、お金や社会・経済の仕組みについて学ぶこととされてきました。今回はそれに加えて家庭科でも、基本的な家計の収支管理や自立的な暮らしのための計画の立て方などについても盛り込まれたのです。
学習指導要領では家庭科における金融教育の狙いとして、下記2点を示しています。
01家計の構造や生活における経済と社会との関わり、家計管理について理解すること。
02生涯を見通した生活における経済の管理や計画の重要性について、ライフステージや社会保障制度などと関連付けて考察すること。
では、なぜ現在、金融教育が重視されることとなったのでしょう。
その背景として、社会の大きな変化に対応できる人材が求められるようになったという理由が挙げられます。クレジットカードやキャッシュレス決済アプリなどの普及により、「お金」のあり方が大きく変わりました。また、インターネットを通じて商品・サービスを購入できるようになり、より容易に消費活動を行えるようになっています。こうした環境変化から、お金の価値を実感させることや、その使い方について改めて学び、考える機会が求められるようになったのです。
さらに、金融業界や経済界で規制緩和が進行していること、また、政府や企業が提供してきたセーフティネット機能の衰えなど、社会や経済の担い手として金融的な知識を持った人材が求められるようになりました。
金融教育は、 子どもたちが生きるために必要な学びであると同時に、社会においても求められているといえるのです。
特に、目の前の生徒たちが選択する進路の傾向や、家庭の経済状況などを踏まえて、必要とされるリアルな情報を交えていくことができれば、より金融教育が実りのあるものとなるはずです。生徒に必要な学びについての判断は、学校現場で日々生徒たちと接している先生方しかできません。ぜひ、これから紹介する教材などを参考に、授業作りにつなげていってください。
金融教育の全体像 4つの分野を理解する
金融教育の教材作成などを行なっている金融広報中央委員会は、金融教育を「生活設計・家計管理」「金融や経済の仕組み」「消費生活・金融トラブル防止」「キャリア教育」の4つの分野に分けています。それぞれの項目でどのような教育が求められているのか、詳しく見ていきましょう。
「生活設計・家計管理」を学ぶことで得られる力
教材紹介
『基礎から学べる金融ガイド』(金融庁)
家計管理や生活設計の必要性、預貯金・保険・クレジットカードの基礎知識などを学ぶことができる金融庁が提供しているガイドブック。
https://www.fsa.go.jp/teach/kou3.pdf高校生向け授業動画「高校生のための金融リテラシー講座」(金融庁)
家計管理やお金を使うこと、貯蓄することなどを学ぶことができる、金融庁が提供する生徒向け授業動画。
https://youtube.com/playlist?list=PL0cfkMfU1dbkk2w4bnsVUjxN4nQwWvH3L「金融や経済の仕組み」を学ぶことで得られる力
教材紹介
動画「くらしとつながる日本銀行」(日本銀行)
日本銀行が提供する動画で、「日本銀行券の発行」「物価の安定」「金融システムの安定」などを解説。
https://www.boj.or.jp/announcements/education/thisisboj.htm/なるほど! 東証経済教室「教育支援プログラム」(東京証券取引所)
経済や株式会社、株式のしくみについて、ロールプレイングも交えて解説をする東京証券取引所の出前授業(授業支援プログラム)。
https://www.jpx.co.jp/tse-school/program/03.html「消費生活・金融トラブル防止」を学ぶことで得られる力
教材紹介
『18歳までに学ぶ契約の知恵』(金融広報中央委員会)
成人年齢の引き下げを踏まえ、18歳までに身につけておきたい契約の知恵についてまとまったパンフレット。
https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/seinen/pdf/seinen.pdf高校生向けWeb版消費者教育読本「大人になる君へ 社会で役立つ契約読本」(東京都消費生活総合センター)
消費契約についての基礎を学ぶことができるWebサイト。
https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/center/kyoiku/web/kou04/付属の先生・先生方解説資料
https://www.shouhiseikatu.metro.tokyo.jp/center/kyoiku/web/kou04/teacher/materials/「キャリア教育」を学ぶことで得られる力
教材紹介
「これであなたもひとり立ち」教材・指導書(金融広報中央委員会)
お金にまつわる知識を身につけて自立するための教材と指導書。
- 教材
- https://www.shiruporuto.jp/education/document/container/hitoridachi/text/
- 指導書
- https://www.shiruporuto.jp/education/document/container/hitoridachi/edu/
ライフプラン表の作成(参照:三菱UFJ銀行HPより)
お金への理解を深めた上で、人生の設計図であるライフプラン表の作成を行う。
https://www.bk.mufg.jp/column/others/b0023.htmlカリキュラムマネジメントの視点で金融教育を教科横断で実施
成人年齢の引き下げにより、18歳も「大人」として扱われるようになりました。社会経験が少ない18歳の時点で、ローンや詐欺といった金銭的なトラブルに巻き込まれる危険性を回避するためには、相応の金融的な知識が必要になります。また、子どもの置かれた環境によっては、高校生の時点でお金の知識が生き抜くために欠かせないというケースもあるでしょう。
「お金」にまつわる教育は一つの教科だけで完結するものではありません。他教科と連携したり、時には特別活動の中でお金の扱いや知識に触れる機会を設けたりするなど、目の前の生徒の状況に応じて、どういった金融教育がより重要かを話し合い、学校全体で充実させていけるとよいでしょう。まずは、金融教育が盛り込まれている公民科と家庭科との連携は実践しやすいはずです。他にも、「総合的な探究の時間」においても、金融教育の観点を交えて実践することが可能でしょう。
また、特別活動においては生徒に修学旅行や文化祭などの予算を伝えて、運営を任せていくといった取り組みも考えられるでしょう。もちろん先生方が相談に乗るなど、生徒に伴走をしていく必要はありますが、お金の価値などを学んでいく上で欠かせない経験となるはずです。
こうした金融教育の実践を行なっていくには、カリキュラムマネジメントの視点が欠かせません。公民科と家庭科の担当教員だけでなく、学校全体で生徒に求められる資質・能力をどう育成していくか、検討する機会を設けていけるとよいでしょう。
授業実践紹介
- 「ライフステージごとのリスクと保障を考える」実践事例 https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/guide/guide104.html
- 「『高齢者にやさしい携帯電話とは?』社会参加学習の試み」 https://www.shiruporuto.jp/public/document/container/guide/guide114.html
まとめ
金融教育には、「生活設計・家計管理」「金融や経済の仕組み」「消費生活・金融トラブル防止」「キャリア教育」の4つの領域があります。それぞれの目的に沿って、今回紹介した教材などをうまく組み合わせて、自校の生徒に合った活動を実現してください。
また、小中高の実践事例をまとめたWebサイトなども参考にしながら第一歩を踏み出してみるのもよいでしょう。
金融教育は子どもたちの生きる力を養う学びであり、一つの教科・科目だけで取り組めばよいというものではありません。目の前の子どもたちが、今後どのような生活の場面でそれらの知識を必要とすることになるかを想像しながら、時には教科横断的に学校として取り組むことで、近い未来に必要とされる「生きた知識」を伝える事に繋がるのではないでしょうか。