今年度は、新型コロナウイルス感染症の影響により過去2年間の中止をやむなくされていた海外教育旅行再開の年となりました。出入国制限の緩和や、リアルコミュニケーションが求められる風潮から、中学校・高等学校においても、海外短期研修や海外修学旅行復活の兆しがみえています。そんな中、先陣を切って、2022年の夏に海外短期研修を実施した学校は、どのように催行の判断をし、陽性者発生時にはどのように対応していったのか。研修前と研修後、2回のインタビューをもとに紐解きます。
講演DIGEST
「JTB教育旅行セミナー」では、教育旅行の「今」をお伝えすべく、2022年は以下のテーマでお届けしました。
- 第1回(2022年7・8月配信)
今だから知りたい、ニューノーマル時代の海外教育旅行 - 第2回(2022年11月配信)
夏の海外研修実施レポート、変化する海外教育旅行のカタチ
第1回・第2回ともに、学校法人山崎学園 富士見中学校高等学校でグローバルセンター長を務められている伊藤 恭子先生をお迎えし、この夏に実施した海外研修旅行についてお話を伺いました。研修前及び、研修中、帰国時の各段階における学校の準備や対応等、苦労した点や押さえるべきポイントを赤裸々にお話し頂きました。
01 今だから知りたい、ニューノーマル時代の海外教育旅行 2022年夏・海外研修旅行実施に至るまで
第1回のセミナーでは、前半JTB取扱いの海外教育旅行に関するデータをもとに、海外修学旅行・短期研修・中長期留学それぞれの復活状況に関する考察をお話しました。その後、富士見中学校高等学校の伊藤先生に、出発が1か月後に迫った夏の海外研修旅行について、お話を伺いました。
催行までのロードマップ
インタビューの冒頭では、7月末の研修実施に向けて、学校がどのような準備を行い、参加者募集や催行決定を行っていったのかをお話頂きました。以下がそのロードマップです。
実施の1年前から情報収集を開始し、刻々と変化していくコロナの状況に対応するために、募集説明会を例年より2か月後ろ倒しするなど、コロナ禍ならではの対応をされていたことが分かりました。またそれぞれの決定をするにあたり、学内や保護者の方々への対応で意識されていたポイントについても、伺いました。
周囲への情報共有や対応のポイント
対学内
- 伊藤先生
- 今回の研修は希望制ではあるものの、高校1年生の行事の1つとしての位置づけでした。そのため、学年の先生・学校長・教頭も行かせられる条件が揃い、生徒の安心安全が確認できれば、是非催行したいという気持ちで動いていました。渡航に心配な声がなかったわけではないですが、「安心できる情報というよりは、正確な情報を」という観点で情報をシェアしていました。
対保護者
- 伊藤先生
-
説明会では、中止のリスクを丁寧に説明していました。研修費用にプラスでかかる費用についてや、催行決定後に中止の可能性もあり、その時にはこういう費用がかかるという事を、先にきちんと説明しました。その上で申込みをするかどうかを家族で検討してもらいました。
伊藤先生は渡航前段階で一番大変だったポイントとして、「日々変わる状況を正確にキャッチ」し、「(収集した情報を受けて)どう動くか、学内の先生と相談しながら判断しなくてはならないこと」と話されていました。一方で、この情報収集をはじめとする周到な準備や、冒頭にあった綿密なスケジューリング、そして学内及び保護者の方からの理解があったことで、海外研修旅行が実現した事が分かりました。
02 夏の海外研修実施レポート、変化する海外教育旅行のカタチ 2022年夏・海外研修旅行実施レポート
続く第2回目のセミナーでは、研修実施後に改めて伊藤先生にお話を伺い、現地の様子や苦労された帰国時の対応について、実体験をもとにお話頂きました。先生の経験談からは、どんなにシミュレーションしても起こってしまう想定外の事態とその対応等、新型コロナ感染症に限らず、旅行実施時の危機管理のポイントが詰まっていました。
オーストラリア研修 | アメリカ研修 | |
---|---|---|
日程 | 7月23日~8月7日 | 7月25日~8月8日 |
研修先 | クイーンズランド州ブリスベン | オレゴン州セーラム |
参加人数 | 23名 ※出発前に陽性者1名発生しキャンセル |
28名 ※出発前に陽性者1名発生しキャンセル |
研修中のコロナ感染状況 | ①7日目に2名陽性発覚、7日間ホームステイ先で隔離 ⇒ 隔離終了後再度PCR検査を受け、陰性証明を取り帰国 ※4日遅れの帰国となった ②帰国前PCR検査で2名陽性発覚、7日間ホームステイ先で隔離 ⇒ 隔離終了後再度PCR検査を受け、陰性証明を取り帰国 ※10日遅れの帰国となった |
・研修2週目以降体調をくずす生徒が出始め、研修最終日は10名が陽性または発熱で欠席 ・帰国前PCR検査の結果が帰国日に間に合わず、当初の日程での帰国が不可能になった ⇒ 生徒たちの様子を確認し、状況が同じ生徒をグループにし隔離明けに順次再度PCR検査を受け、陰性証明をとり帰国となった ①7名が2日遅れで帰国 ②3名が6日遅れで帰国 ③12名が9日遅れで帰国 ④6名が11日遅れで帰国 |
保護者対応 | 現地研修先から直接保護者に状況報告の連絡を入れた。今後の対応についても説明し、変更があった場合は都度連絡 | |
学校との連携 | 通常の研修報告に加え、コロナ関連は都度情報を整理して報告。 必要に応じて学校からも保護者に連絡(特に時差のあるアメリカの対応)。Zoomでの報告や打合せも実施。 |
上記は富士見中学校高等学校が2022年夏に実施した研修の概要と、コロナ感染状況及び帰国時の状況をまとめた表です。このフリップを元にインタビューでは、研修中と帰国時の2段階に分けて、状況を伺いました。
研修期間中
事前にホストファミリーが集まりづらいという状況があったものの、実際に渡航してからは、現地の受け入れ機関(現地校・大学キャンパス)やホストファミリーは、コロナ前と変わらずに受け入れられたそうです。ホストファミリーは生徒がコロナに感染した際の隔離中も、受け入れを継続してくれ、生徒が時間を持て余しているときには、お庭で一緒に遊んだりコミュニケーションをこまめに取ってくれる等のほっとするエピソードもありました。また現地の様子として、人出は少し減っているが、街中の様子はコロナ前と変わらなかったというお話もされていました。
帰国時
今回、上記フリップにも記載の通り、アメリカ研修では、日本帰国時に義務化されていたPCR検査 の結果が帰国便までに間に合わずに、全員が予定便に乗れないという予期せぬ事態が起こりました。またPCR検査での陽性者も複数名おり、結果として、オーストラリアは3回、アメリカは4回に分けての帰国となりました。実際にオーストラリア研修の引率もされた伊藤先生をはじめとする引率教員の方々は、そこでどのように対応されていたのでしょうか。
- 伊藤先生
- 起きていることがどういうことなのか、(起こっている事に対して)どのような対応をしなければいけないのかという事を、引率教員・現地スタッフ・旅行会社の三者で話をしました。その際には様々なパターンを想定したうえ、判断をしていました。
2022年12月現在では、有効と認められる新型コロナワクチンを3回以上接種した接種証明書を所持している方は、現地出国前72時間以内に採取した検体が陰性である検査証明書は不要となりました。
日本への連絡体制
新型コロナウイルス陽性者の発生などにより、例年に増して現地から日本側への連絡体制確立の重要性が問われた今回、富士見中学校高等学校ではどのような体制で実施されていたのでしょうか。
- 伊藤先生
- 感染者が出た際の保護者への連絡は、可能な限り引率教員から直接状況のご説明をしていました。しかし、アメリカに関しては時差の関係で、日本にいる教員経由での説明となることが多かったです。今回大変だったのは、検査結果次第で対応が変わるという点です。ただ、そういったところまで説明することが一番重要だったのではないかなと思っています。また事前の説明会で、この時期にPCR検査で陽性になったら(予定通りには)帰れませんよ、というリスクも説明していたため、スムーズに保護者の方々の理解も得られていました。
海外研修旅行を終えて
今回の研修の総括として、伊藤先生は「色々あったけれども、本当に行って良かった」という言葉を力強く仰っていました。現地に行って、対面でコミュニケーションをする生徒たちは本当に良い顔で、更にそこで感じたこともとても多かった中で、改めてリアルコミュニケーションの体験価値を感じられたようでした。
また今回の収穫として、学校の対応力という面でも経験値が上がったという事も話されていました。今後何かあった場合にも、今回のような動きで体制を整えればなんとか行けるのではという自信になったというお話もあり、学校の組織力アップにも繋がる研修だったようです。
まとめ
コロナ禍での海外研修旅行という事で、この夏の研修を実施された学校の多くが、想定外の事態への対応に苦慮されたのではないかと思います。今回の2回に渡るインタビューからは、周到な準備や情報収集、想定される様々な状況のシミュレーションを考えておく一方で、想定外の事態が起こった際の体制等、次年度以降の研修旅行にも参考となるお話が盛りだくさんでした。