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学校・教育機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 探究型の海外研修でイノベーターを育てる「福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校」の実践

2023.12.12
海外プログラム
校内プログラム
研修・留学

新型コロナウイルスの流行により、この数年間は多くの学校で中止されていた海外研修や修学旅行。2023年度に入ってから、徐々に再開する学校が増えてきました。中にはただ再開するだけではなく、改めて海外研修や修学旅行の意義を問い直し、内容をアップデートしている学校もあります。

2015年に開校した福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校は、2022年度にいち早く海外研修の再開を決めた学校の一つ。2011年に起こった東日本大震災と原発事故をきっかけに福島県双葉郡に設立された同校は、「変革者たれ」を建学の精神に掲げ、自ら社会を変えていく人材の育成を目指しています。

海外研修や、総合的な探究の時間のカリキュラム設計や全体統括を担っているのは、企画研究開発部主任の林裕文先生。他校での教員経験を経て同校に着任し、今年6年目を迎える林先生に、海外研修の意義と生徒たちの変容について伺いました。

プロフィール

福島県立ふたば未来学園中学校・高等学校 教諭林 裕文(はやし ひろふみ)

1978年福島県生まれ。地元の教育学部を卒業後、地理歴史・公民科の高校教員となる。教員歴23年目。2018年よりふたば未来学園高校へ異動し、同校勤務6年目。2021年より探究学習の計画・研究を行う企画研究開発部の主任となる。高校『世界史探究』教科書の執筆者。 教科学習と探究学習の往還関係の研究を日々模索している。

福島で暮らす若者の“代表”という気持ちで、海外へ

—— まずは、学校の特徴を教えていただけますか?

教育活動の柱となっているのは、総合的な探究の時間に取り組む「未来創造探究」です。多くの学校では3年間で3単位の履修だと思いますが、本校では8単位分をカリキュラムに入れています。2023年度からは文部科学省の「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業※(以下、WWL)」の事業拠点校に指定されたこともあり、地域や世界で起こっている社会課題に向き合いながら、それぞれが自分の関心のあるテーマを探究していくことに力を入れています。

WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業:将来、世界で活躍できるイノベーティブなグローバル人材を育成するため、高校生へ高度な学びを提供する仕組みの形成を目指す取組。(参考:https://b-wwl.jp/about/)

—— 地域や世界で起こっている社会課題と向き合うために、どのような取り組みをされているのでしょうか。

さまざまな取り組みがありますが、世界と繋がる機会として海外研修には特に力を入れています。1年次はドイツ、2年次はニューヨークへ。それぞれ選考を通過した10名前後の生徒が参加します。

1年次は、環境保護のための先進的な取り組みをしている都市フライブルクを訪問して再生可能エネルギーについて学んだり、ミュンヘンにある連携校の生徒の家庭にホームステイしながら交流を深めたりします。歴史的な教訓を後世に語り継いでいかなければいけないという意味でも、福島にいる私たちはドイツから学ぶべきところが多いと思っています。

2年次は渡航の3ヶ月前から準備を始め、事前学習や効果的なプレゼンの仕方、プログラム内容の検討などを生徒が中心となって進めていきます。私たち教員が与えた研修プログラムをこなすのではなく、生徒たちが自分で考えて実行していくプロセスが重要だと思っています。現地では国連本部職員のご子息、ご息女が通う学校で同世代の若者と国際的な課題について意見交換をさせてもらったり、コロンビア大学の学生や国連本部職員の方へプレゼンをさせてもらう機会があります。

—— 生徒の主体的な学びに伴走するために、大切にしていることは何でしょうか。

10年前であれば、福島の原発事故は世界中でも話題になっていました。けれど今は、世界中でテロや紛争、自然災害や地球温暖化など、向き合うべき課題が多くあります。そのような中で、「福島のことを、“今”発信する意味がどれほどあるのか?」ということは、常に生徒たちに問いかけるようにしています。

原発事故をきっかけに福島で起きたのは、分断と対立でした。それを乗り越えるためにしてきたことは、もしかしたら国際紛争の場で起こっている分断と対立においても活かすことができるかもしれません。そんな視点も含めて、本当に自分たちが発信したいことを考えてほしいと思っています。

海外で感じた「責任」や「悔しさ」が学ぶ意欲に繋がる

—— コロナ禍では海外に行けない期間もありましたよね。その間は、どのように対応していたのでしょうか?

生徒たちの学びを止めないことを何より大切にしていたので、海外研修と同じような学習効果が得られる取り組みを続けるために知恵を絞りました。重要なのは、やはり外国人の方と実際に交流する場があること。そこで実施したのが、すでに日本に滞在している留学生を対象にしたバスツアーの企画でした。生徒たちは事前に福島のことを調べ、留学生に福島のことを英語で発信しました。その体験を通して、早く海外に行きたい気持ちが強くなった生徒は多かったようです。

一方で、実際に海外に行って英語を喋るのと日本にいながら英語を喋るのでは、生徒の体験には大きな違いが出ることも実感しました。なので、コロナ禍であっても規制が緩んだらすぐに海外に行けるように準備をしていました。

2022年度は海外研修を実施するか悩んでいる学校が多い中、本校はドイツもニューヨークも実施することをいち早く決めました。そこに迷いはなかったですね。余程のことがない限り中断はしないと決めていました。本校の決断を受けて「それならうちも頑張って、海外研修に向けて準備します」と、海外研修の実施に踏み切ってくれた学校もあったようです。それはすごく良かったなと思います。

—— 生徒の体験の違いは、どのようなところで感じたのでしょうか。

まず、心理的な安心感は全く違います。日本にいながら外国人の方をお迎えして福島のことを英語で説明するのはもちろん簡単なことではありませんが、自分たちが普段いる場所なので、比較的落ち着いて対応できます。

海外だと馴染みのない場所で心理的な安心感が得られにくい中、「日本ってどういう国なの?」と聞かれることもあるわけです。ある意味、日本の高校生を代表する意見として受け取られる。そのプレッシャーは大きいですよね。生徒たちからは「英語を学ばなきゃいけない」という逼迫感(ひっぱくかん)が伝わってきます。

さらに「話したいことがあったのに、上手く話せなかった」と、自分が言いたいことの半分も言えず、悔しい思いをすることもあるようです。実際に海外に行った方が、今の自分の能力を知ることに繋がります。その体験が「もっと英語を話せるようになりたい」「もっと日本の文化に詳しくなりたい」など、次の学びのステップに繋がっていくのではないでしょうか。

地域を学び、世界を知ることで「自分はどう生きていくのか?」を考える

—— 今後はどのようなことに力を入れていきたいですか?

これまで総合的な探究の時間に実施する「未来創造探究」の授業をカリキュラムの中心に据え、海外研修にも力を入れ続けてきました。ありがたいことに、「探究型の学びについて教えてほしい」という声もさまざまな学校からいただくようになりました。

その中で感じるのは、教科横断型のカリキュラムで生徒たちの学ぶ意欲を高められるような授業をしていくことの重要性です。総合的な探究の時間や海外研修でのみ探究型の学びをして、その他の授業で全く違う学び方をしていては意味がありません。それぞれの教育活動の中で探究していることが教科を跨いで他の授業でも活きてこそ、本当の探究的な学びと言えるのではないかと思っています。この3年間はWWLの期間中でもあるので、その間に教科横断型のカリキュラムをつくり、授業の質を上げていくことを目標にしています。

—— 卒業時には、生徒にどのような状態になっていてほしいですか?

いきなり食糧問題や気候変動の問題に取り組もうとしても、自分との繋がりがないと何をしていいかわからないんですよね。なので、まずは自分が住んでいる福島について知ることが大切だと思っています。必ずしも地域の課題を解決しなければいけないわけではありませんが、解決を目指していく中で、「自分には何ができるのか?」を考えると思います。そうすると、自分のあり方や生き方にも目を向けることになる。それが自分を変えることに繋がると思っています。

本校が目指すのは、「変革者を育てること」です。ただ、本校はまだ開校9年目。本当に変革者を育てることができているのか。その答え合わせができるのはまだまだ先だと思っています。

世界を舞台に活躍する人を育てるために、高校のときにできることはすごく少ないかもしれない。けれど、やはり若いうちに海外に行くことは大きなきっかけにも繋がると思っています。自分が経験したことがない世界が、ここにあるんだと知る。それは誰もが経験できることではありません。海外で挑戦して上手くいったことだけではなく、上手くいかなかったことも含めて「次はこんなチャレンジをしたい」と思えるようなバネになっていくといいなと思っています。

旅先の体験を、アップデートしていきたい

—— 最後に、JTBに期待していることを教えてください。

修学旅行のあり方は、いい加減アップデートしていかなければいけないなと思っています。何百人もの生徒が同じところに行って、教員が決めた場所から生徒たちが行きたい場所を選んでいくようなパッケージングされた旅行の形式は、もう何十年も変わっていません。少人数のグループになって自分たちで内容を決めてもいいわけですよね。

前任校での話ですが、それまでは国内での修学旅行だったところを、思い切って行き先を韓国に変えてみたことがあります。最初は生徒からの反対意見もあったのですが、修学旅行を終えてみると「行ってよかった」という声を多く耳にしました。パスポートを取ってくることを夏休みの宿題にしたら、生徒たちはパスポートの取り方を調べるわけです。そして、旅行を楽しみたいので自分たちで下調べをして、韓国語も勉強する。環境を変えると、生徒たちは自分から学ぼうとするのです。

先生ではなく、生徒が決めていけるような仕組みに変える。それくらい大胆な改革があってもいいのかなと思っています。JTBさんにはこれまでに蓄積してきたノウハウや世界中のネットワークをもとに、修学旅行をアップデートしていけるような提案をしてもらいたいなと思っています。

また、私たちのような地方にある学校は、首都圏ほど多くの企業や大学は近くにありません。そうなると、日本で働いている外国人の方や留学生との交流もしづらくなります。オンラインを使えば国境は越えられますが、やはり実際に会って交流する経験には変えられないと思っています。そういった面では、国際交流の幅が広がるようなサポートをしていただけるとありがたいなと思っています。

JTB担当者のコメント

いわき店佐藤しおり

ふたば未来学園中学校・高等学校様を担当して日は浅いですが、ゼロからイチを生み出す先進的な取り組みに、毎回先生方の本気度を感じております。特に海外研修においては、完成されたプ ログラムに参加するというよりも、生徒さん一人ひとりが作り上げていく研修内容にたくさんの気づきをいただいています。海外を舞台に、ふたば未来学園の生徒さんだからこそ伝えられること、伝わることがあると思います。微力ながら、そのお手伝いができることは非常に光栄です。JTBの強みは世界中のネットワークと地域密着の両輪だと思いますので、研修がより円滑に進められるよう、現地支店との連携を深めつつ、いわき店でバックアップさせていただきたいと思います。先生方の本気、生徒さんの期待に応えられるよう、今後も努めてまいります。


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中高生の国際アイデアコンテスト「Global Link(グローバル・リンク)」
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