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学校・教育機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 【セミナーダイジェスト】探究の軌跡と展望 ~3名の校長先生に聞く探究の現在地と深化への道すじ~

2025.08.18
学校運営・総合
探究学習
カリキュラム構築支援

高等学校で「総合的な探究の時間」が必修化されてから丸3年。
学校現場では創意工夫あふれる取り組みが進められる一方、「答えのない問い」に向き合う探究に戸惑いや悩みを抱える先生方も少なくありません。
このレポートでは、探究的な学びの環境づくりに積極的に取り組む3名の校長先生に伺ったお話から、ポイントをダイジェストでお届けします。「総合探究と教科学習との関係」「進路とのつながり」「先生方の役割」「より良い探究とは何か」について、先生方の貴重な経験や知見を分かりやすくまとめました。これからの探究をさらに深めるためのヒントが満載です。ぜひ、最後までお読みください。

このレポートは、2025年7~8月配信の「第7回 次世代教育フォーラム」の内容を基に、一部編集してお届けしています。

目次を表示(編集禁止)

【大好評配信中】 第7回 次世代教育フォーラム
探究の軌跡と展望 ~3名の校長先生に聞く探究の現在地と深化への道すじ~

配信期間:8月31日(日)まで
申込期間:2025年8月30日(土)23:59まで

お話をお聞きした先生

東京都立小平高等学校 校長 松永 今日子 先生
東京都立立川高等学校 統括校長 鈴木 宏治 先生
鹿児島市立鹿児島玉龍中学校・高等学校 校長 川上 隆博 先生
(モデレーター)一般社団法人 次世代教育ネットワーキング機構 理事 岡本 尚也 氏

文中では敬称略

岡本尚也氏

岡本

本日はよろしくお願いいたします。
総合的な探究の時間に関する先生方の疑問を解消していくためには、何のためにやるのか、どのような教育的意義があるのかを考えていく必要があります。そのために、総合的な探究の時間が教科学習や進路とつながっているというところから考えていきたいと思います。

総合探究と教科学習の関係

岡本

はじめに、総合的な探究の時間と教科学習の関係について先生方のお考えを聞かせてください。

鈴木宏治先生

鈴木

教科学習と総合的な探究はどちらも「生きるためのアイテム」であり、本質的には同じ力を育てるものだと思っています。語る力、書く力、聞く力などは進路にも直結する大切な力ですし、授業と探究の両方で育まれるものです。

川上

教科の授業のあり方、教師の授業の進め方も非常に大事で、従来の授業では「問う力」や「考える力」はなかなか育ちません。問いを投げてグループや個人で考えて深めることを、探究だけじゃなくて常々やっておかないと、こういう力はやはり育たないと思います。

松永今日子先生

松永

探究を進めると、授業でも探究的な要素を取り入れる先生が増え、生徒も普段から「探究っぽいこと」に触れる意識が芽生えてきます。すると教科書の内容にも主体的に向き合うようになり、探究と教科がつながっていく感覚があります。やはり、探究で学ぶ力と教科の力は両輪で育てていくことが大切だと感じています。

鈴木

探究の質を高めるには考えるための素材、つまり基礎的な知識が不可欠です。知識が増えるほど多角的にものを考えられるようになります。スマホですぐに知識を得られる時代でも、本当に必要な知識にたどり着くには問いが必要です。基本的な知識と思考力・判断力は車の両輪で、両方を回してこそ前に進めるのだと思います。

岡本

思考の中で新しい知識が生まれるサイクルに入ってくると、探究が面白くなってくるので総合探究もそこまで意識しなくてもできるようになります。教科の基礎的な知識や理解がうまく合わさっていくのが高校の探究の大きな指標だと思います。

鈴木

生徒が自ら探究を進めると、「自分は何も知らなかった」と気づくようになります。与えられた知識だけでは見えなかった「知らないこと」が、自分で調べ、実験し、文献にあたる中で明らかになり、知識や思考の幅がじわじわと広がっていく——生徒の探究をみているとそんな風に感じます。

総合探究と進路の関係

岡本

総合的な探究の時間と進路や進路実現は親和性が高いと思いますが、いかがですか?

松永

高校時代に興味を持って取り組んだことが直接大学や会社に繋がる人ばかりではないと思うんです。だとしたら、高校時代に取り組んだ経験が何らかの形で生きていくといいなと考えて取り組んでいます。とにかく何かに向き合ってほしいですね。

川上隆博先生

川上

私が総合的な探究の時間が重要だと考えている理由がまさにこれです。生徒の中には大学に入ってもなお、その探究を追い求めたり、あるいは探究で身につけたノウハウを持ってまた別なことにチャレンジしたり、あるいは自分でサークルを立ち上げてオンラインで全国の学生と繋がったりしている生徒がいます。大学に入ることが目的ではなくて、それをスタート地点として力強く進んでいる。また、コンテストに出た生徒に「探究やって一番良かったことは何ですか」って聞いたら、「自分の強みを知りました」って言うんです。「これを身につけてほしい」という教師の思いを突き抜ける様々なことを生徒が身につけるという意味で、探究は幹が太い人材育成に繋がるんじゃないかと思っています。

鈴木

どの分野、例えば大学のどの学部学科に進むかというところとの相関は非常に高いと思います。本校では、教師から「これをやりなさい」と指示することはなく、自分でテーマを決めさせます。そしてそれを大学や社会に出ても繋げていく。仮に違う分野に進んだとしても、課題解決の考え方やアプローチが生かされるという点が探究の意義じゃないかなと思っています。

岡本

テーマが途中から変わってもいいというのは重要なポイントです。大事なのは、与えられたテーマじゃなくて自分と向き合って選んだところから変わっていく過程です。そのような変化は成長の礎になります。探究のポイントは、進路実現よりももっと広い意味で自分と向き合っていく、これから生きていく中での自分の方向性の礎ができていくことだと言えます。

探究における先生の役割

岡本

探究に対する教員のあり方や生徒との関わり方は非常に重要な論点です。色んな学校を見ていく中で、大きく次の4段階に分けられると思っています。先生方の学校ではいかがですか?

  1. そもそも何も取り組めていない。
  2. 一部の意欲的な教員が主導して行っている、外部に丸投げをしてしまっている。
  3. ほぼ全ての教員が行っているが、深められていない、もしくは分野が偏っている。
  4. ほぼ全ての教員が関わっており、深められている。

川上

探究に対する先生方の意識は高いのですが、「指導、指導」と言うんです。そもそも指導できないものを指導しようとしているわけなので、そこをマインドチェンジしないといけない。生徒がもってくるテーマに先生も乗っかって一緒に楽しんで学ぶくらいの気持ちでいいと思います。また、生徒も先生も「まとめ・表現」に目がいって、見栄えの良いものにしなきゃという先入観から、先生がテーマを用意したり、生徒が良い壁にぶち当たっているのに先生がすぐ答えを出してしまったり。そうではなくて問いを大事にして少しずつ一緒にやっていく。仮に成果物の見栄えがよくなくても、プロセスがちゃんとしていて、探究を通して汎用的能力が身についていれば、その方が価値があると思っています。

松永

本校でも「教員とは指導するもの」というところから抜け出せずに、「うまく引っ張れなかったらどうしよう」という不安や負担を抱えている教員が多いように感じてます。そんなときに私は、「先生たちも一緒に楽しんでいいんだよ」という話をしています。

岡本

なるほど。そもそもゴールが見えているものは探究ではないのですが、教員は答えを知っていて、そこに導いていくことが仕事だと思っている場合、そこにミスマッチが起きているのでしょうね。

鈴木

自分が何か調べてわくわくした経験を持っている先生は、一緒になって子どもたちと付き合っている気がします。よく「伴走者」といいますが、一緒になって考えてあげる姿勢でいけば、探究はある意味、成功なんじゃないかなと思いますね。何かまとめなきゃいけない、みたいな呪縛があるとお互いに苦しくなる、笑。

岡本

教員の方々がやるべきことは、学ぶ姿を一緒に体現しながら見せていくことだと思うんですよね。学び方や楽しみ方というものを一緒に教員がやっていくのが一つの良い方法なのかなと思います。

より良い探究とは

岡本

先生方はどういうものが良い探究だと思われますか?

川上

一番は、生徒自らが興味関心のあるテーマを選択しているということでしょうね。

鈴木

コンテストで賞を取るような研究は、結論が優れていたり、新しい視点があるものだと思います。一方で、成果物としては出ない研究も沢山あって、そこにも目を向けないといけないと思っています。プロセスがしっかりしているものが質のいい探究ですので、賞だけに目を奪われないようにしないといけないというのは感じます。

岡本

私も高校生国際シンポジウムGlobal Linkに関わりながら常に葛藤があります。あくまでも探究は教育活動の一環なので、成果を求めるものではない。私はよく教員の方々に、「我々からは見えないようなプロセスの中で出る生徒のちょっとした変化や、頑張ったところを見て声をかけてください」と言うんです。先ほどの学校教員のあり方にも繋がっていて、日々のちょっとした変化を見ることができるのは、教員の方々だけなんです。生徒にとっては賞をもらう以上に、教員が見てくれてるんだということ自体が励みになるのだと思います。
先生方、本日はありがとうございました。

まとめ ~探究のこれからを考える~

大切なのは「生徒を中心にした学び」

3人の先生に共通していたのは「生徒の目線を大事にする」ということでした。総合的な探究の時間では「自己のあり方生き方」が重要ですが、先生方の言葉からも「生徒を中心にした学び」という点が非常に印象的でした。

より良い探究のカギは「問い」と「情報収集」

生徒の探究プロセスを質の高いものにするために最も重要なのは「問い」です。すべてがそこから始まります。はじめは問いの質を気にせず、生徒自身が問いを出すことに意識を向けるのが良いと思います。次に情報の妥当性や根拠をしっかりと見極める力をつけること。これからは自分で情報を取捨選択していく必要があります。それができてくると、問いを起点として問いと情報収集を繰り返す深い学びに繋がるプロセスが生まれていきます。

分からないことを前向きにとらえ、一緒に考える

教員の方々は、自分がすぐに答えを見いだせない問いが生徒から出てきたときに、「それ面白いね、一緒に考えてみようか」とポジティブに受け止めることが大切です。「その分野だったらこんな本あるよ」と紹介したり、司書の先生と連携してブックリストを用意しておくのも一つの方法です。教員が全部教えるのではなく、どうやって答えにたどり着くか、その道筋を一緒に考えてあげる。その対話の中で、生徒も教員も考えを整理していけると思います。

学校文化として探究を根付かせるためのポイント

公立学校は教員の異動があるのでノウハウの蓄積が難しい面もあります。だからこそ、校長先生が探究の意義を自分の言葉で語れることが大切です。また、年度はじめの研修や夏休みを使った教員の目線合わせの時間も重要です。人に頼りすぎず、共通理解としてのメソッドを共有しながら、生徒の変化を教員が間近で見る——その繰り返しが学校の文化を変えていくのです。

学校とは対話を通して成長を実感する場所

これから先、通信技術が発達し人口も減っていく中で、学校に行く意味や教員の役割も変わっていきます。生徒が学校にわざわざ来る意味とは、誰かと出会って話す中で自分の成長につながる実感を持てること。そのためには、教員が生徒の言葉に耳を傾けてあげることが非常に重要です。それこそが教育の本質であり最も大事にしてほしいことです。

一歩ずつ進みながらより良い探究を探し続ける

高校教育の中心に探究を据えていこうという流れがある中で、教員養成や採用試験にも探究的な視点を入れていく必要があると思います。私自身も教科の基礎学力の重要性は十分理解していますが、それをどう使うか、どこで活かされるかという実感がないと続かない。いわば筋トレだけして筋肉を使わないまま終わってしまうようなものです。その筋肉をどう活かすのか——それを見せるのが探究です。毎年少しずつ改善しながら、ベストじゃなくてもベターなものを探し続けていく、そんな姿勢がこれからの探究には必要なのではないでしょうか。

【大好評配信中】 第7回 次世代教育フォーラム
探究の軌跡と展望 ~3名の校長先生に聞く探究の現在地と深化への道すじ~

配信期間:8月31日(日)まで
申込期間:2025年8月30日(土)23:59まで

【次回セミナーのご案内】
「探究のジレンマ」を乗り越える! ~実践と評価を両立させる探究学習ロードマップ~

配信日時:2025年9月11日(木)17:00~18:00
申込期間:2025年9月9日(火)18:00まで

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