「誰一人取り残さない持続可能な社会」を実現するため、世界共通で推進されているSDGs(Sustainable Development Goals/持続可能な開発目標)。2030年までの開発目標として「産業と技術革新の基盤づくり」や「住み続けられるまちづくり」などが組み込まれたSDGsは、地域が目指すべき社会像ともリンクします。本記事では、SDGs未来都市の実施事業や、「DX化」「脱炭素化」に取り組む地域の挑戦的な事例から、持続可能な観光まちづくりに役立つ事例をピックアップしました。豊かで活力ある地域の未来のために、今できるアクションを考えてみませんか?次年度の「地方創生推進交付金」の申請アイデアとしてもぜひ参考になさってください。
今「自治体SDGs」を推進する意義
人口減少や高齢化が深刻化する日本において、医療・介護の確保や雇用の安定は多くの地域の共通課題です。その対策として各地で地方創生の取り組みが進む中、各種計画や体制づくりにSDGsを取り入れる「自治体SDGs」が注目されています。
自治体SDGsの推進によって実現するのは、経済・社会・環境の3側面のバランスが取れた「持続可能なまちづくり」。政府はSDGs達成に向け優れた取り組みを提案する都市、地域を「SDGs未来都市」「自治体SDGsモデル事業」に選定し、取り組みを支援するとともに、成功事例の普及展開等を行い、地方創生の深化につなげていくとしています。
「SDGs未来都市」には平成30年~令和3年の4年間で124自治体が選定されており、2024年までに210自治体が選定される予定です。
「SDGs未来都市」ほか国策と連動するメリット
SDGs未来都市に選定されると、SDGsに取り組む企業や団体とのネットワークが広がる、国や他の未来都市と有意義な情報交換ができるなどの利点があります。加えて、「地方創生推進交付金」を申請する場合に、申請事業数上限の枠外として1事業を追加できることも見逃せないメリットです。
また、「SDGs未来都市」の中でも先導的な取り組みである「自治体SDGsモデル事業」に選定されると、補助率10/10及び1/2の交付金を財源に、地域の将来に向けたサステナブルなまちづくりへの近道となります。
「SDGs未来都市」のみならず、環境省「地域脱炭素移行・再エネ推進交付金」や内閣府「地方創生拠点整備交付金」など、SDGs政策に活用できる自治体向けの交付金は多様に用意されています。地域は国策と連動した持続可能なまちづくりに取り組んでみてはいかがでしょうか。
脱炭素化・DX化に取り組む自治体の事例
カーボンニュートラルの実現を目指して「ゼロカーボンシティ」を表明したものの、具体的な計画の策定はこれからという自治体も多いのではないでしょうか。ここではエネルギーの脱炭素化に取り組む地域の事例を紹介します。
栃木県 「日光MaaS」
2021年10月、栃木県の日光地域で国内初の環境配慮型・観光MaaS「NIKKO MaaS」がサービスを開始しました。「NIKKO MaaS」は、地域の鉄道・バスをセットにしたデジタル限定フリーパスのほか、カーシェアリングやシェアサイクル、EVバス(低公害バス)等、環境に配慮したモビリティをスマホ1台で検索・購入・利用できるサービスです。EV・PHVカーシェアや急速充電器の設置などにより、渋滞緩和や二酸化炭素排出量の削減を図ります。
交通手段のほか、歴史・文化施設等の拝観・入場チケット、ネイチャーアクティビティ等の観光コンテンツもワンストップで購入できるのが特長で、「環境にやさしい観光地」としての日光地域のブランド強化と、周遊観光の振興による地域活性化に期待が寄せられています。
長野県松本市 「スーパーシティ構想(国家戦略特区)」の活用
長野県松本市は誰もが豊かさを実感できる「自律分散型社会」を構築するために、行政と社会のDX化に着目。「次世代の医療・福祉・健康づくり」と「100%カーボンニュートラル」の実現に向けて、「国家戦略特区」の枠組みを活用した規制緩和も視野に、「スーパーシティ構想」を進めています。
脱炭素の分野では、再生可能エネルギーを積極的に導入・事業化することでエネルギーの自給自足を目指すほか、スマートグリッドや電気自動車の技術の活用で災害時のレジリエンスを強化する「エネルギー自立分散型のまちづくり」に挑みます。
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「自然との共生」で地域のブランド力向上を図る地域の事例
サステナブルなまちづくりには自然との共生が欠かせません。ここでは豊かな自然を観光資源として活かしている事例を紹介します。
熊本県阿蘇郡 「黒川温泉2030年ビジョン」
未来のありたい姿を「黒川温泉2030年ビジョン」にまとめ、自然に調和した景観づくりや、地域資源の活用・循環を推進している黒川温泉。象徴的なのは、旅館から出る食品残さで完熟堆肥をつくり、その堆肥で育てた野菜を旅館で提供する取り組みです。ほかにも、里山の間伐材を利用した「入湯手形」の販売や次世代のリーダーを育成する「黒川塾」の開校など、地域全体でサステナブルな観光地経営に取り組んでいます。
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岐阜県高山市 「国際観光都市 飛騨高山」
令和3年度に「SDGs未来都市」に選定された高山市は、急速な人口減少や少子高齢化が進む地域の現状を「日本の縮図」と捉え、「国内外から愛され続けるまちづくり(国際観光都市)」を進めています。経済・社会・環境の三側面をつなぐ取り組みとして注力しているのが「飛騨高山SDGsパートナーシップ」の推進です。
児童公園や生活利便施設が密集する高山駅西地区には、飛騨高山の精神を表現する交流拠点を形成。また、市民がSDGsを“自分ごと化”できるように市民による情報発信「私なりのSDGs宣言制度」を創設しました。まちに関わる多様なステークホルダー(市民、事業者、NPO等)が同じビジョンを共有することは、持続可能なまちづくりに不可欠です。
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SDGsに資する観光コンテンツ開発の事例
観光コンテンツ開発の要点は、観光客の一時的な消費の喚起から、「関係人口創出」や「まちづくりの担い手育成」にシフトしつつあります。
静岡県富士宮市 「富士山SDGsツアー」
令和3年度「SDGs未来都市」にも選定されている静岡県富士宮市では、富士山の自然環境を守りながら地域経済を活性化するプロジェクトが進行中です。地域の自律的好循環を生み出す取り組みとして、富士山SDGsに積極的に取り組む地域事業者等を「富士山SDGsパートナー事業者」として登録する認証制度を構築。個別に発信・販売していた商品を、「富士山SDGsツアー」としてパッケージ化して、国内外に向けて発信する計画です。
地域の自然・歴史・文化に触れるエコツアーを通じて、富士山の保全・活用の意識を市民だけでなく、訪れる人とも共有し、量(マスツーリズム)から質(環境共生型観光)への転換を図ります。
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長野県下高井郡 「志賀高原 ×SDGs STUDY TOUR」
スキーリゾート地として有名な志賀高原は、手つかずの自然を生かし「自然と人間社会の共存」を学べる教育・企業向けコンテンツを開発しました。「志賀高原ユネスコエコパーク環境学習プログラム」「農業体験」など、自然に親しむ全18のプログラムを自在に組み合わせることで参加者の地域課題に対する新たな価値観を啓発し、持続可能な社会づくりの担い手育成を目指します。
まとめ
国策との連動でSDGsの推進を
持続可能なまちづくりには「ToDo(何をする)」ではなく「ToBe(どうありたいか)」という視点が欠かせません。コロナ禍への対応で財源が厳しい状況ではありますが、観光施策も地域が目指すビジョンに合わせて方向性を検討してみてはいかがでしょうか。
「SDGs未来都市モデル事業」は毎年2月ごろにプロジェクトの募集(3月初旬申請締切)があります。ソフト事業、ハード事業に利用できる「地方創生推進交付金」は年2回の申請がある見通しなので、次の募集にも注目です。
JTBは自治体のDX推進や持続可能な社会に貢献する観光コンテンツ開発をサポートしています。具体策でお悩みの際はお気軽にご相談ください。