コロナ禍を契機に、地域にある自然は再認識されており新たな魅力となると言われています。地域の主要産業である「農業」で交流人口を生み出し地域の活性化を実現できるようになるにはどんな要素が必要になるのでしょうか。ずばり、ポイントは「人づくり」、「モノ・コトづくり」から「販路づくり」まで行なうことです。これらをバランスよく推進することで地域において新たなビジネスをスタートしやすい環境を生まれます。本記事では、実際の地域の事例を交えながら、農業と観光の連携による地域課題解決の糸口を紹介しています。
コロナ禍で注目!農業と観光の連携による交流創造の可能性
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、2020年以降、旅行を自粛する動きはいまだ根強いです。旅行・観光消費動向調査によると、2020年の国内旅行消費額は9兆8,982億円(前年比▲54.9%)と急激な落ち込みとなりました。
そんななか、農園リゾートをコンセプトにした「THE FARM(ザファーム)」(千葉県・香取市)は、コロナ禍でも3か月先まで土日の予約が満室になるなど好調をみせています。コロナ禍で多くの集客スポットが苦戦する中、自然の中の開放的な空間で、リッチな気分を満喫できることが支持されています。
近年、従来の物見遊山の名所を巡る観光型旅行に対して、これまで観光資源としては気づかれていなかった地域の資源を新たに活用し、体験型・交流型の要素を取り入れた新たな旅行の形態が広がりを見せています。これまで名所がないと考えていた自治体も、観光PRに地域の資源である地元の農業や食をいかに活かすかが求められるようになっているのです。
そこで農業・農業者側にとって重要になるのは、規模拡大や反収向上など”つくって売る農業(販売型農業)”から、”来てもらってファンをつくる農業(来訪型農業)”への転換です。
販売型農業から来訪型農業への転換
来訪者視点で地域の農資源を組み合わせ、磨き上げるための3つの要素
”来訪型農業”を実現するために重要なこととして、3つあります。
まず1つ目は、地元の農業者と地域事業者(「飲食店」「直売所運営」「観光施設」「宿泊」など)をコラボレーションさせることです。 農業者単体で新しい事業をしようとする場合、”販売型農業”の考えから離れることが難しく、発想の幅が狭くなってしまいます。地域事業者のみの場合も、自社でコンテンツとなる素材を保有していないため同様の状況に陥ってしまうことが多いです。しかし、両者がコラボレーションすることにより、両者それぞれが持つ強みを発見し、事業を検討することができるようになります。
次に2つ目は、来訪者目線で必要なコラボレーションを意図的に起こすことです。全国には多くの地域商品が存在しますが、その多くはプロダクトアウトで考えられている商品・サービスです。来訪者目線での自社や地域を見つめ直し、外からの視点をもとに事業検討を進めることで独りよがりでない商品・サービスを作ることが可能になります。
そして3つ目、最も大事なことは、それを進める人そのものを発掘することです。地域内では新しい事業をしようと思っていても一歩が踏み出せない人、未来を語りたくても周りから否定されるため言い出せない人などが一定数いますが、行動を起こさないと顕在化されず、自治体担当者からは存在を確認できません。そのため地域において、そのような人たちを発掘し、背中を押し、伴走しながら事業づくりを行なう人材や仕組みも必要となってきます。
各地で起こる、農業×観光の事例
”販売型農業”から”来訪型農業”への転換は各地で起きています。
ここでは、株式会社JTBが企画・運営する「食農観光塾」から生まれた熊本県山都町の「株式会社山都でしか」様の活動を紹介します。
若手プレーヤーが集まり、地域資源を活かしたまちづくり
有機JAS認定事業者数が日本で一番多い町としても知られる山都町では、2015年に地域リーダーの育成を目的とした勉強会「食農観光塾」を実施しました。地元生産者を中心に、山都町はこのままではいけないという想いを持った若手住民が参加し、より良い街にするためにはどうしたらよいか模索しました。そんななか、熊本地震が発生。卒塾生が任意に集まり、炊き出しを行なうなど地域のために活動をはじめました。そのなかで地域の若手農業者、飲食店オーナー等のメンバーで立ち上げた会社が「株式会社山都でしか」様です。
株式会社山都でしかは、その名のとおり「“山都町でしか”できない価値」で町づくりをはかる会社で、町の資源を活かしたさまざまな事業を手がけています。現在は4つの柱、「農資源活用」「滞在場所づくり」「地域経済循環」「人材育成」を中心に事業を推進。自治体と連携して多くのプロジェクトを実施しています。
今回はそのなかの特徴的な2つの事業について紹介します。
「農資源活用」では、地域資源を生かして地域の課題解決につながる商品・サービスを提供しています。有機農業が盛んな山都町に実需者(飲食店のシェフやバイヤーなど)を呼び実際に農地や農家と触れてもらい、地域と人をつなげるマッチングサービス『畑のコンシェルジュ』を展開。また、地元住民に山都町の地域や農業を知ってもらうため、畑にレストラン会場を設営し地元産の野菜をシェフが調理するイベント『畑のレストラン』開催し、すぐに席が埋まるなど好評を得ました。
2つ目に「地域経済循環」 です。
地域内ですべての財・サービスを自給自足できないため、多くの商品は地域外との取引を通じて確保されます。その際、取引した商品の売上は地域外の企業へ入り、地域内の企業への実入りは少なくなってしまいます。このことに問題意識を持ち、地域内の農作物を使ったビールの醸造をはじめました。2019年8月に観光名所である通潤橋のそばで「山都DE呑みフェス」を開催した際は、1日で100万円以上を売り上げました。これを契機に、地域内に醸造所を立ち上げるため検討を進めています。
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推進のポイントは「人づくり」「モノ・コトづくり」、そして「販路づくり」
ここまで紹介した通り、“来訪型農業”を生み出すには「人づくり」「モノ・コトづくり」を行なうことが必要です。そして、モノ・コトができたあとは、地域の魅力発信や、都市からの集客・誘致が必要になります。しかしながら、個人でも使用できる各種プラットフォームなどもあるものの、情報収集や選別をして運営することに労力を要してしまい、発信活動が手薄になってしまいます。
食農観光塾では「販路づくり」まで支援しています。具体的には、「旅行会社ならではのリソース・ネットワークを活用した地域の魅力発信・啓蒙活動」として、店舗やメディアを活用した情報発信やツアー造成。「消費者ニーズに合わせた地域コンテンツの具体的提案・誘致活動」として、観光商品、Web、連携企業などを通じて集客を支援しています。
このように地元の農業者や地域事業者がコラボレーションすること、そして「人づくり」「モノ・コトづくり」、そして「販路づくり」により農業により地域活性化につながっていきます。