JTBは、各地の自治体や観光に携わる企業と協働し、地域の活性化事業に取り組んでいます。地域が抱える事情を聞き、問題の解決策や新たな施策を提案しているのが、JTBの観光開発プロデューサーです。コロナ禍で観光業が大きな打撃を受け、「持続可能な地域づくり」がさらに重要視される今、自治体や観光地域づくり法人(DMO)の担当の方々は何をすればいいのか?皆様にヒントをお届けできればと考え、日光市をはじめとした担当地域と連携し、さまざまなプロジェクトを進めてきた2人の観光開発プロデューサーに実体験を聞きました。
プロフィール
2014年にJTB関東 法人営業宇都宮支店に配属され、「出会いのまち 日光」推進事業、「日光ハイウェイマラソン」等を担当。16年にJTB関東 本社地域交流グローバル事業担当マネージャーに就任。栃木県DMO促進調査事業、環境省の外国人満喫ツアーコンテンツづくり支援事業などを担当。18年にはJTB群馬支店にて群馬県の観光を核とした地域振興事業を担当。22年より現職。
日光市出身で実家は旧日光市の門前町中心部で明治7年創業の旅館。2019年2月より現職。奥日光冬期活性化推進協議会「華厳ノ滝ライトアップ」運営、とちぎDMOとちぎ観光地づくり委員会委員、日光市観光振興財源確保検討委員会有識者、佐野市シティープロモーション懇談会委員などを拝命。「NIKKO MaaS」コンソーシアムメンバー。
観光開発プロデューサーはあらゆる課題を解決する「なんでも屋」
― 観光開発プロデューサーとして多くのプロジェクトに取り組まれてきたと思うのですが、各自治体や観光地域づくり法人(DMO)の担当の方から寄せられる相談はどのような内容が多いのでしょうか?
- 竹村
- 全国の中小の都市で言うと、人口減に対してどういったプロモーションをかければいいのかといったご相談は多いですね。ただ、日本は全体的に人口が減っているので、街の人口を増やすというよりも、いかに流出を少なくするかだと思うんです。地域のシビックプライドを高めて、住み続けたい街にするための意識づけをどうしていくかといった相談は多く寄せられます。
- 高橋
- 私の担当する栃木県は、台風による洪水はあったものの、比較的災害が少ないんです。首都圏から近いということもあり、サテライトオフィスとして対応できる施設で、宿泊もできる施設はないですかというご相談がありました。あとは、国からの補助事業の情報についてはよく聞かれます。「こんなことしたいんだけど何かいい助成金はないかな」といった相談は多いですね。
― 観光だけではない、さまざまな相談が寄せられるんですね。
- 高橋
- 観光開発プロデューサーと名乗っていますが、観光だけではない「なんでも屋」ですね(笑)。
- 竹村
- 確かになんでも屋ですね(笑)。コロナ禍で大変な時期にはワーケーションという新しい形での誘客の相談もありましたし、その他にも、企業側と行政のニーズをマッチングさせる企業版ふるさと納税の計画にも関わっています。
― コロナ禍で増えた相談はありますか?
- 高橋
- 観光に従事する働き手が、以前からどんどん減っていた状況の中で、コロナ禍でさらに減ったんです。これも移住定住の話に関連していくのですが、地域での働き手がいなくなっているという悩みは格段に増えました。そこをどう解決していくかがこれから先は重要だと考えています。人材バンクや派遣会社だけでは足りなくなってくると思うので、新しい仕組みや経営スタイルについての話もしています。
- 竹村
- 旅行に関しては、コロナで団体がいなくなったことが大きいですよね。栃木だと日光や鬼怒川あたりは職場旅行や慰安旅行を受け入れるための大型の旅館施設が多いのですが、団体旅行がNGになってしまった今、大きな旅館さんは苦慮されています。修学旅行はあるにせよ、おそらくこの先しばらくは続くので、我々の仕事に関しても転換期なのだろうと思っています。
大切なのは地域に暮らす人々が幸せであること
― 相談を受けたときに、まずはどのようなことをお話するのでしょうか?
- 高橋
- 地域に暮らす方が幸せであることの上に観光は成り立っていると思うので、まずはその街の魅力についてお伝えします。人々が幸せそうに暮らす街には行ってみたいと思いますし、行って幸せを感じることができたらリピーターにもなってくださる。旅行会社に勤めるプロとして、街の魅力を再認識していただけるような話をします。あとは、比較対象都市を選定して、そこと比べてどうかについてもお話していますね。
- 竹村
-
「持続可能な地域づくり」と聞くと、観光だけではないもう少し大きな範囲のイメージがあるので、観光や移住定住者も含めて地域活性化に貢献できる事業を我々はサポートできるということをまずはお伝えしています。地域によって事情は違いますが、何をもって持続可能なのかがわかっていない方も多いので、最初にゴールをしっかりと定めることも大切だと思います。
少し話が逸れるのですが、以前、埼玉県庁からの依頼で過疎地域の活性化事業をやらせていただいた時に、集落で月1回のワークショップを行っていたんです。テーマは「地域でどう明るく楽しく過ごすか」。地域再生は難しいから、暮らす人たちが明るく楽しく過ごすための方法を住民の皆さんと考えて、開催されなくなっていたお祭りを大学生のボランティアなどを募って復活させることにしたんです。それをきっかけに活動しなくなっていた婦人会が復活したり、ボランティアで来た若い人たちと交流したり。そこで暮らすおじいちゃんやおばあちゃんの笑顔を見た時に、いいお仕事をさせていただいたなと思いました。
観光型から住民型が便利に使えるMaaSへ
― ご担当された案件である、2021年10月にリリースされた「NIKKO MaaS(日光マース)」について教えてください。
- 高橋
-
「NIKKO MaaS」はJTBグループとして栃木県と東武鉄道さんと取り組んでいた事業で、JTB宇都宮支店もプロジェクトの一員として関わっていました。観光シーズンの渋滞や、渋滞を引き起こす駐車場問題などとあわせて、脱炭素社会への先導モデルになる「環境にやさしい観光地」を目指したプロジェクトで、環境省の補助金を使っての事業になっています。
東武鉄道の周遊パスをデジタル化し、パスを買ったあとにAPIでシームレスに観光入場施設の予約決済までできるのが「NIKKO MaaS」の特色です。さらに電気自動車やハイブリッド車の充電器を設置しているところにレンタカーを置き、それを使ってもらうといった施策になっています。
― リリースしてからの反響はいかがですか?
- 高橋
- 想定以上に購入者数が多いというお話は伺いました。東武鉄道沿線の住民の方以外の一般の方々も購入されているようなので、プラスの要素は大きいです。JTBが販売するチケットというところでは、お客様が求めているのは単発の施設ではなく、共通券といったお得感があるものだということは感じています。これまでの利用データから今後の課題をしっかりと打ち出しクリアしていきたいです。
― リリースする上で一番大変だったのはどのようなことでしょうか?
- 高橋
-
地域事業者の皆さんやJTB協定旅館ホテル連盟の皆さんとの細かい調整ですね。我々の一番のビジネスパートナーは、旅館、ホテル、観光入場施設の皆さんですから、どう告知して宿泊増加につなげるか。その結果が地域の経済効果になるので、ご理解いただいてどういった協力体制が取れるかが難しかったです。ご理解いただくために、あらゆる人海戦術を行いました。
「NIKKO MaaS」はまずは観光目的でスタートしましたが、個人的にいずれは地域に住んでいらっしゃる、特にご高齢の方に便利に使っていただけるサービスになったらいいと考えています。「観光型MaaS」と「住民型MaaS」と2つのコンセプトでやっている自治体が多いので、観光型がビジネスモデルとして成功すれば、住民型に拡充していくことも可能だと思っています。
責任と愛着を持って地域に寄り添えるのが強み
― 地域によって事情は違うとは思いますが、事業を進める上でのポイントを教えてください。
- 高橋
- 最近ニーズが増えてきたサテライトオフィスやワーケーションなど、若い感覚がないと上手くいかない事業も多いので、若い人の意見は積極的に取り入れるようにしています。今、よく言われる「SDGs」や「サステナブル」、持続可能な地域にするためには、地域の中心的なメンバーとだけ話していると、それまでの考えにこだわり過ぎていて、その先がないんですよね。地域に住んでいる若い方が動いてくれないと地域は変わりませんし、議論も活発にはならない。前職で担当していた群馬県の草津や神奈川県の箱根では世代交代が進み、結果的に観光地の活力になっているんです。世代間のコミュニケーションがきちんと取れているので、若い人の考えを尊重することで上手く観光地が回っているんですよね。観光地だけでなく、一般的なベッドタウンでも同じことが言えると思います。若い人たちの動向を知って情報を共有することが、事業を進める上での重要なポイントです。
- 竹村
- 持続可能な観光地を作っていくということは、観光地が収益を作っていくということです。そのためのJTBの役割は、地域の合意形成の間に入る調整役です。観光地はプレーヤーが多いのでその方たちをどうまとめるか、皆がWInWInの関係にどうすればなるのかなどをうまく調整していくことがやはりポイントだと思います。
― 地域にまつわるあらゆる事業を手がけていらっしゃいますが、JTBの他社にはない優位性や価値についてどう考えていらっしゃいますか?
- 高橋
- 旅行会社として何ができるかというところでは、今までの実績やデータから、個人旅行や団体旅行、特に教育旅行に関しては非常に強いです。かつては「旅行の総合デパート」と言われていましたが、まさしくその通りで、いかにOTAが宿泊数を伸ばしても、修学旅行などのデータは持っていないので、オールマーケットに対してデータを持っているところはJTBの強みだと思います。
- 竹村
- 他社との比較というところでは、観光開発プロデューサーがいることはやはり強みでしょうね。JTBとして一つに合併する前は、JTB北海道からJTB九州まで地域の名を冠した会社がありまして、地域にそれぞれJTB四国やJTB関東といった地域の名を冠した会社がありまして、そのときから地域を大切にする方針は変わっていません。合併後も同じ地域で担当している社員はいるので、地域に愛着のある方がばかりです。地元だからこそ、近くにいるからこそ失敗できないというか、しっかりと責任を持って地域に寄り添えるところが他社にはない最大の強みです。
- 高橋
- 僕は地元も日光ですから、絶対に失敗はできないです(笑)。そもそもJTBへの入社の動機が、地元である日光の日光東照宮や世界遺産エリア、奥日光といった多くの観光客が訪れる有名なエリアではなく、憾満ヶ淵のような、知られざる場所を紹介したいという思いがあったからなんです。たまたまですが、30年前の入社面接で表明したことをようやくやっています。ただ、この観光開発プロデューサーという仕事は、地元ではなくともその土地に愛着を持たないと絶対にできない仕事だとは思います。
地域の本質や源流を磨き上げて伝承していく
― 改めて「持続可能な地域づくり」に一番大切なことはどんなことだと思われますか?
- 高橋
-
実はコロナの影響をあまり受けなかった旅館や観光地もあるんです。その理由は「ぶれないコンセプト」。本質や源流、ルーツをしっかりと見つめて伝承していくことが、持続可能な地域づくりにつながるんじゃないかと思っています。
日光市の事例で言うと、宇都宮のほうから見ると日光連山があって、地元の人たちがイメージする故郷はその景色なんです。より多くの方にその景色を見ていただきたいと思っていた時に、輪王寺の総務部長とお話する機会があり、昔から伝わる神仏習合や山岳信仰をもっと広く紹介したいという想いになったんです。そこから国の補助金を得て「山岳信仰」というニッチな世界にフォーカスした事業を展開しています。地元の皆さんからの賛同も得られているので、間違った方向には行っていないとは思っています。
- 竹村
- 訪れる人も受け入れる方々もみんな笑顔でいられることが、「持続可能な地域」ではないかなと。高橋さんもおっしゃったように、その地域が持っている素材をどう磨き上げていくかだと思うんです。地域の方々との協力体制をどう取るかも「持続可能な地域づくり」には大切ですよね。
― 最後に、地方創生や「持続可能な地域づくり」に携わる方々へのメッセージをお願いします。
- 高橋
- 地域によって変わるとも思いますが、自治体やDMOの担当の方々は前向きで熱い人が多いです。「何をやればいいんだろう?」と迷った時には、全国のさまざまな自治体や観光地の情報をたくさん持っているJTBにご相談ください。我々は社内外に情報の宝箱をたくさん持っていますので、必ず良い答えを導き出せると思います。
- 竹村
- 美味しい焼肉を食べたいと思ったら精肉店が経営する焼肉屋さん、美味しいお寿司が食べたかったら鮮魚店が経営するお寿司屋さんがいいですよね。観光や地域についてのお悩みは、観光や地域に精通しているJTBがお手伝いしますので、ぜひお気軽にご相談下さい。
まとめ
今回は、「持続可能な地域づくり」のためにするべきことは何か? 暮らす人が「幸せ」な街づくりを目指して...と題してお届けしました。地域に住む方々の声に耳を傾け、地域が抱える様々な事情に合わせて多くの提案をしてきたJTBの観光開発プロデューサーに実体験を聞きました。コロナ禍で観光業は大きな打撃を受け、「持続可能な地域づくり」がさらに重要視されています。その「持続的な地域づくり」において大切なのが、“街の魅力を再認識すること”と“若い人の意見を取り入れること”の2つです。「地域に暮らす方が幸せであることの上に観光は成り立っている」だからこそ、街の魅力を再認識することが重要。人々が幸せそうに暮らす街には人が集まり、行って幸せを感じることができたらリピーターにもなるのです。また世代間のコミュニケーションをきちんと取り、若い人の考えを尊重することで上手く観光地が回っているという話もありました。「持続可能な地域づくり」が重要視される今、暮らす人にとって住みやすく、幸せな街づくりを一緒に目指していきませんか?自治体や観光地域づくり法人(DMO)の皆さまにとって、少しでもヒントになれば幸いです。