地域経済の活性化において、「食」は重要な役割を果たしています。農水産物など特産品の打ち出しはもちろん、加工品の開発、イベントの実施など、全国の自治体が食を通じて地域を盛り上げようと、さまざまな取り組みを行なっています。しかし、社会状況やトレンドの変化により、新たなトピックスの創出や継続的な発展につなげることは容易ではありません。そこで、本記事では、一次産業と飲食業が連動し「世界一の美食の街」となったスペイン・バスク地方の事例をご紹介。日本における、食を通じた持続可能な地域づくりと活性化のヒントをお届けします。
日本における食と街づくり
日本各地の自治体は、これまで、食を通じた街づくりのために、さまざまな取り組みを行ってきました。全国各地の直売所や道の駅に足を運べば、その土地でしか味わえない個性あふれる特産品を見つけることができます。地域の農水産物を加工した商品は、事業者にとっては生鮮食品として提供するのが難しい食材を使用でき、消費者にとっては日持ちがするお土産・ギフトとして選ばれています。メディアを通じて、地域の特産品をB級グルメとしてPRし、街の新たな魅力として発信するケースも増加しました。
近年は、オンラインショップやふるさと納税の普及により、地域の食と消費者の接点はますます広がっています。令和3年度からは、農林水産省が主体となり、「地域食品産業連携プロジェクト(LFP)※」を推進しており、地域経済を維持・発展するために、常に新たな視点が求められています。
地域食品産業連携プロジェクト(LFP)…地域の農林水産物を地域産業の中で有効活用しながら、社会的課題解決と経済的利益の両立を目指した持続可能な新たなビジネスを創出する仕組みを構築する取り組み。
「世界一の美食の街」スペインに学ぶ、食文化とまちづくり
食を通じた地域経済活性化のためには、一次産業と飲食業の連携がとても大切です。その成功例として挙げられるのが、スペインのサン・セバスチャンです。サン・セバスチャンは、スペイン北部のバスク地方に位置する人口18万人の小さな地方都市。隣国フランスまで20kmの場所に位置し、コンチャ湾という海に面していることから、美しいビーチリゾートとしても有名です。
近年は、ミシュラン星付きレストランの数が、世界で最も多い街(人口比/面積比)となっていることから、「世界一の美食の街」と称され、世界各地から人が押し寄せています。人口18万人に対して、年間観光客数が70万人とも言われており、食文化による創造文化都市のモデルとして注目を集めています。
「サン・セバスチャン」地域が注目される理由
サン・セバスチャンがいかにして、「世界一の美食の街」となったのか。歴史や食文化に注目しながら、発展の背景に迫っていきます。
みんなで、集まり・作り・味わう文化
サン・セバスチャンの食文化を語るうえで、欠かせないのが200年以上続く「美食倶楽部」と呼ばれる会員制食堂です。
各食堂には厨房が付いており、会員たちは自分たちで調理をし、仲間と食事を楽しむ場となっています。会員になるには入会費・年会費が必要であり、材料はみんなで持ち寄り、ワインや調味料などは使った分だけ支払う仕組み。現在、サン・セバスチャンには、会員の紹介がないと入れない「美食倶楽部」が100以上あり、旧市街には40近くあるようです。
かつて、バスク地方は、妻(母親)が家庭を仕切る風習があったことから、男性(夫)が別の場所に自分の空間としてキッチンを作ったことが起源とされています。次第に、漁師が集うようになり、皆で食材をまとめて揃え、昔ながらの伝統料理を作るようになりました。(現在、女性は美食倶楽部内で調理はできませんが、その場で料理を味わうことはできます。)
その他にも、サン・セバスチャンでは、夕食前に一杯一品でさまざまな店を食べ歩く、バル巡りが人々の習慣となっています。そこで食べられているのが「ピンチョス※」と呼ばれるサン・セバスチャン発祥のおつまみであり、この街の食文化として根付いています。
ピンチョス…バゲットパンを土台にして、肉、魚介類などさまざまな具材をのせて、楊枝で刺したおつまみ。近年は楊枝が使われていないものや小皿料理までピンチョスと総称するようになっています。
このように、地域の住人も観光客も、「街を舞台に仲間と食を楽しむ時間」が出来上がっていったのです。
地域の食が進化する、オープン化
加えて、サン・セバスチャンが美食の街として発展してきた背景に、「食のオープン化」があります。
1970年代のフランスでは、「新しい料理」を意味する「ヌーヴェル・キュイジーヌ」というスタイルが急速に広まりました。従来の形式的なフランス料理の常識を破り、手軽に味わえるフランス料理を展開する食文化として大流行。現地にいたバスク出身の若手シェフたちは、「ヌーヴェル・キュイジーヌ」に大きな影響を受け、そのスタイルを地元に持ち帰り、自分たちなりの「新しい料理」作りに挑戦しました。
その過程で、シェフたちは、本来「門外不出」というフランス料理界の常識にとらわれず、 レシピを共有し合い、新しい技法の研究をすることで、街のレストラン全体の底上げを図ったのです。
新たな食の学び場を創造
そんな歴史的背景もありながら、2011年には、欧州ガストロノミー界の最高学府「バスク・カリナリー・センター(以下、BCC)」が設立されました。世界で初の調理科学に特化した大学として、一流の講師や現役シェフから多角的・体系的に「料理」を学ぶことができ、一流の料理人を輩出しています。教育の観点からも常に、食の進化を続けています。
美食の街に大切なこと
サン・セバスチャンは、さまざまな食文化を積み重ね、融合し、美食の街として発展してきました。近年は、日本でもその取り組みを参考にした「サン・セバスチャン化計画」「バスク化計画」などの事業が見られるようになっています。
そこで重要なのは、『食の質を向上させる』こと。
そのためには、食材を活かすプロや目利きができるプロとの連携が大切になります。サン・セバスチャンの事例のように、随所にプロの視点が入ることで、地域全体の食の質が向上していくのです。
日本における地域の食文化を磨き上げる新たな取り組み
01 地域の食文化を磨き上げる新たな取り組み 廃棄食材を地域の新たな名物に
平塚市の漁業協同組合では、長年シイラという魚の活用に悩みを抱えていました。平塚漁港では、定置網漁で年間約7トンのシイラが水揚げされるものの、頭部が張り出した見た目の悪さと鮮度低下の早さなどから商品としてスーパーや鮮魚店にほとんど出回らないものでした。結果、廃棄され、サステナブルの観点から課題に。漁業協同組合の青年部では、小学校の給食にフライを提供するなどさまざま工夫を実施するものの、廃棄分は賄いきれず、根本的な問題解決には至りませんでした。
そこで、日本料理の専門家として魚の活かし方を把握し、シイラの調理経験のあるシェフをアドバイザーとして選出。専門家の視点から、特産品にするための改善点についてアドバイスをもらい、シイラという食材の新たな魅力創出・発信につなげています。
02 地域の食文化を磨き上げる新たな取り組 地域のシェフが語る、街づくり
千葉県の海匝地域では、地域の資源である食を起点としたまちづくりのきっかけを作るため、県主催でセミナーを実施しました。
講師には、都内でフランス料理を提供しているオーナーシェフを選出。シェフは、海匝地域に隣接するいすみ市で食大使を行っているため、県としても縁のある人物であり、身近な視点でアドバイスをもらいました。セミナーを通じて、食文化による街づくりについて、継続して行うことの大切さに気づきました。
JTBがサポートする食文化の創造と発信
ご紹介した2つの事例は、「JTB★料理マスターズシェフスポットコンサルサービス」を活用しています。このサービスは、JTBが地域の新たな食文化創造と魅力発信のために展開しているサービスです。
本サービスは、農林水産省料理人顕彰制度「料理マスターズ※」で受賞した日本最高級のプロの料理人(以下、料理マスターズシェフ)をコーディネートする料理マスターズ倶楽部と連携し、地域の食材や食文化に触れながら、新たな食文化の創造・魅力発信をサポートするものです。
「料理マスターズ」とは、日本の「食」や「食材」、「食文化」の素晴らしさや奥深さ、その魅力に誇りとこだわりを持ち続け、生産者や食品企業等と「協働」して地産地消や食文化の普及の取組に尽力した料理人を国が顕彰。更なる取組みと料理人相互の研鑽を促進することにより、日本の農林水産業と食品産業の発展を図る顕彰制度です。
自治体や農業者の課題や目的に合わせ、さまざまなサポートを行っています。
- 地元食・食文化のブランディング
- 消費者に向けたPR・発信サポート
- 地元食材を活かした食開発・レシピ開発
- 地域農作物×〇〇の食体験ツアーづくり
- 食にまつわるセミナー開催
「JTB★料理マスターズシェフスポットコンサルサービス」は料理マスターズシェフと日本全国の食を繋ぎ、地域の食文化に光を当て、豊かな日本の食文化を国内外に発信し、持続可能な地域づくりに貢献することを目指しています。
詳細はこちらをご覧ください。一流の料理人が、地域の食・食材の磨き上げを支援するコンサルティングサービス「JTB★料理マスターズシェフスポットコンサルサービス」
まとめ
今回は、地域経済の活性化において注目されている「食」について、「世界一の美食の街」として有名なスペイン サン・セバスチャンの取り組みをご紹介しました。「みんなで、集まり・作り・味わう文化の醸成」「地域の食が進化する、オープン化」「新たな食の学び場を創造」「食の質の向上」が「世界一の美食の街」を創り上げ、その裏にはプロの力があったことをお伝えしました。その他ご紹介した2つの事例のように、日本でも地域活性化に向けて「食」に力を入れる自治体が増えてきています。「食」は地域にとって重要なコンテンツの一つです。旅との親和性も非常に高く、訪日外国人の期待も大きいものです。皆さまの地域でも「食」にフォーカスした地域活性化を進めてみませんか。
JTBでは、地域の食文化に光を当て、豊かな日本の食文化を国内外に発信し、持続可能な地域づくりに貢献することを目指しています。お気軽にご相談ください。
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一流の料理人が、地域の食・食材の磨き上げを支援するコンサルティングサービス「JTB★料理マスターズシェフスポットコンサルサービス」