新型コロナウイルスの変異株の出現や感染の拡大を受け、国内の観光業は未曽有の危機に直面しています。この記事では、観光マーケティングにご関心のあるご担当者様に、観光マーケティングの主な施策やポイントなどを解説します。各地域において観光客誘致を成功させるためにもぜひご覧ください。
INDEX
観光マーケティングとは
観光マーケティングとは、自地域に誘致したい観光客のニーズ・ウォンツを探り、他地域ではなく、自地域を訪問して頂き、自地域のファンになって頂くための活動全般を指します。また、商品・サービスが売れる仕組みを作る事とも言われています。以下では、新型コロナウイルスが観光業にもたらした影響をはじめ、観光マーケティングの現状やツーリズム産業のトレンドを解説します。
新型コロナウイルスがもたらした観光の変化
新型コロナウイルスの感染の拡大によって国内外の移動が制限され、観光業全体が深刻なダメージを受けました。国土交通省の統計によると、2021年1~3月期における国内旅行の消費額のは9兆1,835億円で、2019年の同月期と比べると、58.1%減少しています。少しずつ観光客が戻りつつあるものの、引き続きツーリズム産業は厳しい状態が続くと予想されています。
旅行・観光消費動向調査の2021年年間値(確報)について|国土交通省観光庁
観光地におけるマーケティングの現状
日本では、観光マーケティング、特にデジタルを活用したマーケティングはまだまだこれからの状況です。原因は、戦略を立てられる人材の不足や、データ分析による論理的なアプローチの活用が不十分なためです。
インターネットによる情報収集や宿泊予約をする消費者が増えたことで、デジタルを活用したマーケティングを進めていきたい自治体が多いものの、デジタル戦略を立てられる人材の不足や、デジタル活用のためのシステム導入に課題を感じている、というのが現状です。
最新旅行トレンド
コロナ禍を踏まえて、安心安全な旅行を選択する動きは当然になってきています。そのうえでコロナ禍で顧客の意識が変化し、ニーズも変化したため、屋外でのアクティビティや家族や身近な人との少人数旅行など、密を避ける新たな旅行スタイルが生まれてきています。おこもりステイなど、ホテル内で完結するような旅行プランも多く出てきています。加えて、テレワークへのシフトなどワークスタイルの変化からワーケーションへの意識の高まりも見受けられます。
観光マーケティングの施策例
次に、観光マーケティングの施策例を紹介します。
Web広告・ローカルSEO
Web広告とローカルSEOは、IT技術を駆使したマーケティング手法の一つです。Web広告の目的は観光地などの認知の拡大や、再来訪者への行動を喚起することです。ローカルSEOの目的は、Googleマップに登録した店舗や施設情報の最適化を行うことにあります。
観光DX
DXとは、デジタル技術を活用してビジネスや生活を変革することです。観光マーケティングにDXを導入すると、顧客体験の質を向上させ、観光ビジネスにおける収益の拡大につなげることができます。観光DXの一例は、観光客の行動データの集計・分析や地域コインの導入、バーチャル体験の実施などが挙げられます。
観光客による口コミの収集
観光マーケティングを行うためには、口コミなどの情報を集めることが大切です。よい口コミを収集してマーケティング戦略に活用すれば、見込み客の訪問意欲を向上させたり、特定の観光地の宣伝効果を高めたりします。口コミの収集は、口コミ投稿ページやSNSのツイートを参考にしてみてください。
観光マーケティングのデータ分析に必要な4つの視点
口コミをはじめ位置情報や宿泊の予約実績、ウェブの訪問データ等を分析する際は、以下の4つの視点が必要です。
01顧客のニーズに即した観光コンテンツの開発
ターゲット層が観光先でどのような体験を期待しているのかを知ることは、観光マーケティングにおいて重要なポイントです。ターゲット層の行動特性やニーズ、興味・関心、嗜好などを把握し、顧客の細かなニーズに合わせた観光コンテンツを開発していく必要があります。
02観光先での観光客の行動パターンを分析する
収集したデータから観光客の行動パターンを分析すると、潜在的なニーズや気づきを発見しやすくなります。たとえば、観光地の周遊ルートや観光客が集まりやすいエリア、観光スポットの滞在時間などを分析できます。ただし、観光地での行動は、年代や居住地などの属性で異なることも理解しておかなければならないでしょう。
03ターゲット層の観光の仕方を理解する
ターゲット層が観光先でどのような体験を期待しているのかを知ることは、観光マーケティングにおいて重要なポイントです。ターゲットが求めている体験を理解しなければ、適切な戦略を立てられません。ターゲット層の行動特性やニーズ、興味・関心、嗜好などを把握することをおすすめします。
04個別の行動の変化を追跡する
同じ観光客の行動の変化を調査することで、特定の観光地にリピーターが訪れる頻度やファン層の割合を把握できる場合があります。リピーターの可能性が高い層をターゲットにすることで、効果的な施策の実行が可能になります。個別の行動の変化を追跡する方法として、ターゲット層へのアンケートの実施が有効です。
観光マーケティングを成功に導くための戦略
観光マーケティングを成功させるには、適切な戦略を立てる必要があります。以下で詳しく解説します。
01目標・KPIを設定する
設定したゴールを達成するためには、まず目標を明確にしておく必要があります。明確な目標がなければ、最終的に達成すべきゴールも設定できません。
たとえば、目標を初年度の来訪者数を前年比より1割増やすとした場合、ゴールは5年後の年間来訪者数を100万人にするなどのように設定します。目標は現状を把握した上で、現実的に達成できそうな数値を設定するのが正しいKPI(重要業績評価指標)の立て方です。
02市場分析を行う
マーケティング戦略を立てる際は、まず現状の分析が必要です。必ずしも観光地側でPRしたいことと、観光客が求めるニーズが一致するとは限りません。外部・内部の環境分析を実施し、観光地の魅力や弱み、考慮すべきリスクなどを調査してみてください。
外部環境とは、自治体を取り巻く外部的な要因のことです。一方、内部環境は、インフラ・人材・資源などの現状を指します。外部環境の分析には、PEST分析が用いられるのが一般的です。PEST分析とは、政治・経済・社会・技術の4つのマクロ環境が、現在もしくは将来に与える影響を予測するための分析手法のことです。
次に、観光市場において観光地のポジションを明確化し、ほかの観光地との差別化戦略の立案に活用するためにSTP分析を行います。STP分析とは、市場を細分化するセグメンテーションと、ターゲットにする市場を決めるターゲティング、自治体の立ち位置を明確にするポジショニングの頭文字を略した言葉です。
03ターゲット・ペルソナを絞り込む
前述のプロセスで設定したセグメンテーションを基に、ターゲットの絞り込みを行います。複数のセグメントを組み合わせると、詳細なターゲティングが可能です。ターゲットを絞り込み、対象となる人数が減れば目標を達成する確率が高まります。加えて、ペルソナの作成も必要です。
ペルソナとは、ターゲット層に対し、訴求力を高めるために架空の人物を想定することです。架空の人物を基に、ターゲットユーザーの思考や行動などを時系列でまとめたシナリオのことをカスタマージャーニーマップと呼びます。
カスタマージャーニーマップを作成することで、旅行のスタートからゴールに至るまでのペルソナの感情や行動データ、具体的なアクションを網羅できます。
047つのPを設定する
観光マーケティングの戦略は、サービスマーケティングで重視されている7つのPを基に立案します。7つのPとは、以下に挙げる7つの要素のことです。
- Product:商品・サービス(製品戦略)
- Price:価格・プライシング(価格戦略)
- Place:流通・チャネル(流通戦略)
- Promotion:販促・プロモーション(販促戦略)
- Personnel:人・要員
- Process:業務プロセス・販売プロセス
- Physical Evidence:物的証拠
7つのPのうち、上から4つ目までのPはマーケティング施策を実行する際に必要な要素です。残り3つのPを加えて、サービスマーケティングの7Pと呼ばれています。
05ポジショニングを決定する
市場分析で出た結果を基に、ライバルとなる観光地と差別化できるポジショニングを決定します。ポジショニングとは、市場における位置づけのことです。観光マーケティングにおいては、観光客を誘致したい自治体の立ち位置を把握するうえで有効です。現状の立ち位置が不明なままでは、効果的な差別化戦略は立てられません。
現状の立ち位置を知り、ポジショニングを決定してから他の観光地には真似できないオリジナルの価値を見出すことが大切です。
06施策の実行・評価する
ポジショニングが決まり、他の観光地との差別化戦略を立てた後は、施策の実行が欠かせません。施策は実行して終わりではなく、数字やデータを基に分析を行い、効果を検証します。効果検証後、次に改善策の検討に入ります。設定した目標に対する達成度の割合や、効果が出なかったものを把握したうえで、再び計画を立案し、実行まで進めていきます。
さらに精度の高い施策を実行するためには、PDCA(計画・実行・評価・改善)を継続的に回していくことが大切です。
観光マーケティングに成功した事例を紹介
観光マーケティングで成功をしている地域の事例を紹介します。
01 長野県諏訪市 SUWAーケーションで観光誘致
諏訪市では、首都圏などから近い好立地を活かした宿泊モニターツアーを実施しました。市は、市内のホテルや公共施設のフリースペース、フリーWi-Fiなどをツアーに提供しています。ツアーの実施により、参加者の従業員同士のコミュニケーションの活性化や、心身のリフレッシュ、福利厚生の充実などの効果を得ています。
02 熊本県人吉球磨地域 食をテーマにした農泊
人吉球磨地域では、色をテーマにした農泊を実施しました。農泊とは、個人旅行者を対象にした宿泊プランです。行政と地元の女性、地元企業の連携によって、地元の農産物を使った郷土料理の提供、農家民宿での宿泊を実現しました。結果的に、地産地消の実現や、農山漁村に興味を持つ人が増えるなどの効果を上げています。
03 岐県県下阜呂温泉 データの連携・活用で観光振興
岐阜県下呂温泉では、デジタル活用で集約したデータに基づき、「体験型アクティビティのWeb予約・販売」や「クーポンの電子化」などさまざまなマーケティング施策、プロモーション施策を実施。デジタルマーケティングをさらに進化させ、多様化するニーズや環境の変化にスピード感をもって対応することで、地域全体を発展させ、新しいビジネスや価値を創出しています。
04 埼玉県川越市 人流計測によるデータ取得で街づくり
人流を可視化し、そのデータを地域事業者と共有することで、地域と一体となったリアルサービスへ向け、人流計測事業の実証実験を行いました。改めて観光客の行動傾向を把握することができ、今後の観光施策を実施する上で根拠となるデータを得ることができました。
05 静岡県熱海市 事業者の連携で「観光まちづくり」の意識改革
「意外と熱海」を熱海市と観光事業者6社の共通ブランドに設定。点在するさまざまな魅力を個別に発信するのではなく、四季ごとに統一したコンセプトを設定し包括的にPR。何度訪れても「新たな発見がある」「感動がある」と感じていただけるように地元熱海の人々が自ら魅力を発信しました。今まで接点が少なかった観光事業者同士の連携が深まり、「観光まちづくり」への意識改革に成功。結果、観光客、事業者、地域行政の関係構築できました。
まとめ
観光マーケティングとは、観光客の誘致を目的としたマーケティング戦略です。主な施策例として、Web広告・ローカルSEOや観光DX、口コミの収集などがあります。観光客を地域に誘客するためには、顧客ニーズに即したマーケティング戦略が必要です。
JTBのホワイトペーパーでは、お客様起点のデジタルマーケティングを導入し、お客様とどのように接点を持っていくのか、概要をまとめています。観光マーケティングを成功させたい自治体の観光政策担当者は、ぜひホワイトペーパーを参考にしてください。