2022年10月より外国人観光客の受け入れが再開し、インバウンド観光に注目が集まっています。新型コロナウイルスの影響により旅行の在り方が変わり、インバウンド観光客のニーズも変化してきています。そんな状況において、今後のインバウンドの回復・拡大に地域はどう対応すべきなのでしょうか。
インバウンドマーケットの最新動向とそれに対応していくためのポイントについて、マガジンで掲載している内容をダイジェスト版でお届けしますので、参考にしていただければ幸いです。
INDEX
インバウンド観光の最新動向と今後地域に求められるインバウンド戦略について
はじめに、日本政府観光局(JNTO)にて理事を務める中山 理映子氏より寄稿されたコラムを一部抜粋してご紹介します。
日本におけるインバウンド観光の経緯と課題
日本におけるインバウンド観光は、2003年の日本政府による「Visit Japan キャンペーン」の始動を契機に本格的な取り組みが始まりました。2019年には過去最高となる3,188万人を記録したものの、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、インバウンド観光は一時停止へ。しかし、昨年10月11日、ついに外国人観光客の受入が本格的に再開し、12月には1ヶ月間に約137万人が入国するなど、徐々に外国人観光客が戻りつつあります。
インバウンド消費については、2019年に4.8兆円と日本の輸出産業における輸出総額第3位に相当するまでになりました。他方、一人当たりの消費額については、2015年に中国人による「爆買いブーム」の効果で一時的に17万円を超えたものの、その後は約15万円で推移するなど伸び悩んでいました。
その要因としては、名所旧跡などを「観る」観光が中心で「体験する」形の観光が少ないこと、滞在期間が長い欧米豪からの誘客が相対的に少ないこと、高付加価値旅行層の取り込みが遅れていることなどが考えられ、今後はこのような課題に対する取り組みなどを進めていく必要があります。
また、地域活性化をもたらすことが期待された地方部への誘客についても、十分に進んでいるとは言い難く、観光庁の「宿泊旅行統計調査(2019年)」によると、延べ訪日外国人観光客宿泊者数上位5都道府県が全体の62%を占めています。
コロナ禍を経て世界の旅行者は、密を避け、自然の中を散策し、地域や自然環境との触れ合いを求める傾向が強まっているとも言われています。自然豊かで独自の地域文化が残る日本の地方部への誘客は、そうした世界的な観光トレンドに呼応する観点からも、重要になっています。
JNTOの重点取り組み
JNTOでは、インバウンド観光の早期回復を後押しするとともに、従前インバウンド観光が抱えていた課題を踏まえ、「高付加価値旅行」、「サステナブル・ツーリズム」、「アドベンチャートラベル」を活動の3本柱に据えて、取り組みを進めています。
01高付加価値旅行
JNTOにおいては、「高付加価値旅行」として「国際航空券を除き1人当たり1回の旅行で100万円以上を消費」する旅行を想定しています。高付加価値旅行層を誘致するためには、その地域・施設における特別な体験・演出を提供するなど、旅行体験に高い付加価値をつける必要があります。
02サステナブル・ツーリズム
「サステナブル・ツーリズム」とは、訪問客、産業、環境、受け入れ地域の需要に適合しつつ、現在と未来の「環境」「社会文化」「経済」への影響に十分配慮した観光です(UNWTOによる定義)。世界中の旅行者が「環境に優しい方法で旅行するためなら、旅費が高くなっても構わない」という視点を持ち、世界的にサステナブル・ツーリズムへの関心が高まっています。
03アドベンチャートラベル
「アドベンチャートラベル」とは、アクティビティ、自然、文化体験の3要素のうち、2つ以上で構成される旅行です(ATTAによる定義)。一般的な観光旅行よりも地方への訪問率が高く、現地での長期滞在が見込まれ、一人当たり観光消費額も比較的高い傾向にあることから、地域に高い経済効果をもたらすことが期待されています。
アドベンチャートラベルについての詳細は、 こちらの記事をご覧ください。
日本の地域に求められるインバウンド戦略
今後のインバウンドの回復・拡大に向けて、まず日本の地域に求められるのは「地域のコンテンツの磨き上げ」と「地域の受入対策の強化」です。さらに、地域のコンテンツを磨き上げ、受け入れ準備が整ったら、その存在や魅力を海外の人々にいかに訴求していくかも重要になります。マガジン本誌では、具体的にどのような考え方や対応が必要かについて執筆者の見解をご紹介していますので、ぜひご覧ください。
ケーススタディ 広島県東部地域
続いてはケーススタディとして、広島県東部地域の事例をご紹介します。
デジタルの会員基盤構築と広域連携による戦略的インバウンド誘客
広島県東部地域では、デジタルの会員基盤構築による地域のファンづくりと、複数の市町の連携による地域一体となった取り組みで、戦略的にインバウンド誘客を進めています。
POINTデジタルを介した“海外関係人口”の創出
広島県東部地域では、地域への興味関心度が高い外国人を「ふるさと会員」として組織化しています。「ふるさと会員」は地域の特産品を詰め込んだ「地域BOX」を購入することで会員権を得られる有料の会員組織ですので、地域にお金が落ちるとともにロイヤルティの高いユーザーの囲い込みに成功しています。このように情報発信やモノの消費で繋がる“海外関係人口”の創出は、地域経済活性化の重要な鍵となり、持続的な関係や消費にも繋がります。
マガジン本誌では、ほかにも事例のポイントをご紹介していますので、チェックしてみてください。
変化するラグジュアリートラベル市場とJTBグループの富裕層戦略
続いては、JTBグループのインバウンド向け富裕層戦略についてご紹介します。
JNTOがインバウンド観光戦略の重点取り組み分野の一つとして掲げているのが「ラグジュ アリートラベル(富裕層旅行)」です。富裕層は観光消費単価が高いだけでなく、トレンドセッターとして人々の新しい価値観や需要を創出し、観光産業全体の押し上げに貢献することが期待されています。2002年にはラグジュアリートラベルに特化した世界最大規模の商談イベント「ILTM(International Luxury Travel Market)」が初開催され、2022年12月に開催された「ILTM Cannes 2022」には日本の多くの団体・企業等が参加しました。今後の訪日再開に向け、日本の観光業界はILTMで共有された最新動向を踏まえた富裕層戦略を検討していく必要があります。
今注目されるラグジュアリートラベル
「ILTM Cannes 2022」はB to Bの商談イベントで、バイヤー側には世界中の富裕層旅行会社が参加、サプライヤー側には世界各国の政府・地域の観光局、観光事業者などが参加しました。出展団体数は、過去最大となった2019年の数を大きく上回ったことから、昨今のラグジュアリートラベルへの世界的な注目度の高さがうかがえます。イベントの中ではILTM Asiaによる富裕層に対するマーケット調査の結果が共有され、ラグジュアリートラベルの市場の変化についてポイントが示されました。
JTBグループが手がける富裕層インバウンド向けブランド「BOUTIQUE JTB」
JTBグループからは、インバウンド旅行を専門に扱う株式会社JTBグローバルマーケティング&トラベル(以下、JTBGMT)が「ILTM Cannes 2022」に参加。JTBGMTは2008年に「BOUTIQUE JTB」という欧米富裕層向けの旅行商品に特化したブランドを立ち上げました。「BOUTIQUE JTB」は富裕層コンソーシアム「Virtuoso」に加盟しており、そのネットワークやWEBサイト等を活用して、日本の様々な地域のコンテンツを欧米豪の富裕層エージェントにプロモーションしています。また、地域の方々とともに富裕層に刺さるコンテンツの磨き上げにも取り組んでいます。こうしてJTBグループは富裕層インバウンドへのアプローチを続けてきましたが、ラグジュアリートラベルの市場の変化に対応していくためには、新たな戦略や取り組みも必要になります。
「BOUTIQUE JTB」のブランドサイトは こちら
ラグジュアリートラベルをフックにJTBグループが地域にもたらすもの
昨今のラグジュアリートラベルでは、1度の旅行での滞在時間が以前より長くなる傾向があり、定番の観光地以外の地域にも足を運ぶようになりました。JTBGMTはこの傾向を受けて、日本の新しい地域での商品開発を進めています。また、ハイキングやサイクリングなど自然・アドベンチャー系のコンテンツも増やし、日本の多彩な魅力を体感できる旅を提案しています。日本中の地域とネットワークを持つJTBグループだからこそ、こういった日本の様々な地域のコンテンツを活かした旅行商品を提供することができると考えています。
訪日観光客の動向予測と地域に求められる対応
最後に、今後の訪日観光客はどのように変化していくのか、そして地域にはどのような対応が求められるのかについて、株式会社JTB総合研究所 フェロー 黒須 宏志氏のコラムより抜粋して紹介します。
訪日需要の戻りに勢い、コロナを経ても日本人気は健在
訪日観光客の受け入れが再開され、2022年10月~12月までの3か月間に旅行者数は急速に回復しました。この時点までは国外旅行を事実上ストップしていた中国を除く12月単月の旅行者数は2019年同月比で73.6%と驚異的な水準に達しています。2019年下期に韓国からの旅行者が急減していますが、この分を差し引いても回復率は6割弱とハイレベルで、近隣の韓国、タイ、シンガポールなどと比べても高い水準です。
さらに注目したいのが、欧米豪の旅行者もアジアと同様のペースで回復している点です。訪日需要の回復ペースが近隣国を上回っているのは、確かに円安も追い風になっていると推測されますが、観光客の受入再開直後に来る人の多くは以前から水際オープンを待っていた国のファンであると考えると、コロナを経ても日本の人気が衰えていないことの証ではないかと考えられます。
コロナ前と変わるマーケット、消費単価の上昇とリピーターの増加に注目
コロナ後のマーケットでは消費単価の上昇とリピーターの増加が注目されています。円安と日本の物価上昇率の低さを原動力に訪日客の消費単価は今後上昇すると予想しています。ショッピング支出だけでなく宿泊費、飲食費、娯楽費など幅広い費目に上昇の可能性があります。ここで留意すべきことは、消費単価は販売側が価格を上げることで初めて上昇する、という点です。ホテルのように需給に応じた料金変動の仕組みでなければ意識的に料金を上げていく必要があります。価格を上げる際に重要なのがリピーターの増加です。リピーターの増加は日本滞在中の行動に変化をもたらすと予想され、これが販売価格引き上げに繋がると考えられます。具体的にどのような旅行商品やコンテンツに販売価格を引き上げられる可能性があるか、マガジン本誌では詳しく論じています。
地方訪問促進の好機、国内運輸機関との連携強化を
コロナ後の訪日市場でもうひとつ注意を払うべきなのが地方分散です。需要回復局面では、航空会社側の事情で地方空港への直行便の運航再開が遅れる可能性があります。図3は2019年と比較した空港別の国際線座席数回復状況を示しており、図の「その他」に含まれる地方空港への国際路線の運航は大幅に遅れています。コロナの下で航空会社が機材を絞り込み、財務内容が悪化していることが原因となっています。
訪日需要の地方分散はオーバーツーリズムを回避しつつ高単価なリピーターの定着を図る上で欠かせない要素であり、地方分散促進のチャンスですが、当面は、直行便だけでは座席数が足りず、首都圏空港などで国内線に乗り継いで来訪する旅行者が増えると予想されます。それぞれの地域が、国内線の乗り継ぎや鉄道・バスなどの国内運輸機関と連携した販売促進策を考えていく必要があるのではないでしょうか。
まとめ
今回は、「インバウンドマーケット」をテーマに、有識者の見解や、ケーススタディとして広島県東部地域の取り組み事例をご紹介しました。この記事ではダイジェスト版でお届けしましたが、ダウンロードしてお読みいただけるマガジン本編には、ご紹介しきれなかった内容も掲載していますので、ぜひご覧ください。
ホワイトペーパー(お役立ち資料)Tourism1.5 ~ツーリズムフォワード~(Vol.4) 回復・拡大する 訪日インバウンドマーケット ~選ばれる地域・観光地になるために~
外国人観光客の受け入れが再開し、インバウンド観光に注目が集まっています。新型コロナウイルスの影響により旅行の在り方や、インバウンド観光客のニーズも変化してきている中、地域独自のインバウンド戦略について、具体的にどう取り組んでいくべきかお悩みの自治体様も多いのではないでしょうか。