コロナを経て観光のあり方は大きく変わり、様々な課題に直面した自治体は多いはずです。また、同時にSDGs(持続可能な開発目標)に向けた取り組みも求められているなかで、これからの観光の姿を模索されていることと思います。そこで、JTBではこれからの観光への提言として、「Tourism1.5 ~ツーリズムフォワード~」と題して自治体のみなさまのお役に立つ情報をマガジン形式で発信。この記事では、マガジンのVol.1の内容をダイジェストでご紹介します。Vol.1のテーマは、「持続可能な観光」。有識者の見解や各地域の事例も掲載しているので、参考にしていただけたら幸いです。
INDEX
サステナブルツーリズムの概論
マガジンの巻頭では、世界持続可能観光協議会(GSTC)の理事であり、和歌山大学観光学部・武蔵野大学しあわせ研究所教授の加藤久美氏が表題のテーマでコラムを寄稿。本記事では、その一部を抜粋してご紹介します。
サステナブルツーリズムにおける世界の動き
グラスゴー宣言
2021年11月、英国グラスゴーにて「国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)」が開かれました。
観光分野においては何よりも「観光における気候変動対策に関するグラスゴー宣言」(2021.11.4)で、観光による二酸化炭素(CO2)の排出量を「2030年までに半減、遅くとも2050年までに実質ゼロに」というコミットが示されたことは大きな一歩となりました。
サステナビリティの定義
「成長の限界」(1972)や「われら共有の未来」(1987)、リオ地球サミット(1992)などの議論で、資源の枯渇や環境破壊への危機感が「未来世代に今より劣った環境を渡してはならない」、いわゆる世代間倫理という基盤となり、「持続可能な開発」が定義されました。
以来、「サステナビリティ」は「経済、環境、社会」の3つの側面のバランス、さらにSDGsに盛り込まれた「平和、連携」が加わった概念が基本となった好循環システムの構築と捉えられるようになりました。そこで求められるのは、環境や社会に配慮した「責任ある」行動や事業、そして「レジリエンス(回復力)」です。
サステナブルツーリズムにおける地域の動き
ツーリズムにおいてサステナビリティは、従来「光を観る」のは来訪者であったのが、光(利益、豊かさ)は地域社会、事業者、そして自然環境にももたらされるべきという考えのシフトでもあります。その考えにおいて特に「地域の力」への積極的な貢献が、「リジェネラティブ(再生)」ツーリズムとしてパンデミックや災害からの回復や復興の観点から注目されています。
地域の力の重要な基盤となるのが、地域の伝統や文化に見られる共生の知恵や価値です。ニュージーランド観光局でTiaki(土地、人々、文化を大切に)という先住民族のマオリの方々の考えを共通概念として掲げているのもその例です。
サステナビリティ推進のためのツール・システム
サステナビリティ推進のためのツールやシステムの開発も進み、多くの国や地域が総合政策ガイドラインや基準を取り入れています。
日本では観光庁「持続可能な観光指標に関する検討会」(2019)にて「持続可能な観光ガイドライン(JSTS-D)」が開発されました。JSTS-Dはグローバルサステナブルツーリズム協議会(GSTC)が定める地域基準をローカライズしたもので、マネジメント、社会経済 、文化 、環境、という4分野47項目からなり、それぞれに指標、相当するSDGsが紐づいています。
他にも様々な事業が展開されている日本のサステナブルツーリズムはまさに成長期に入ってきたといえ、今後はツーリズム以外のサステナビリティ事業との連携も重要になります。
「ローカル」への期待
今後のサステナブルツーリズム推進では、2つの「ローカル」に期待します。一つはサステナビリティというグローバルな目標に地域視点を活かし、ローカライズしていくことです。「沖縄MICE開催におけるサステナビリティガイドライン」は、地域視点を活かしたツールの良い事例です。
もう一つは、地域のビジョンや強み、地域の誇り、継承したいものを積極的に発信し、来訪者にも参画やコミットを求めるアプローチです。マガジン本編ではそのアプローチの具体的な取り組みについても紹介しています。
ケーススタディ
ケーススタディとして、ハワイと北海道・阿寒湖の2つの地域における持続可能な観光への取り組みをご紹介します。
ハワイ
ハワイでは、産学官・住民・観光客が一体となって環境保全に向き合っていくことを目指す、サステナブルツーリズムの取り組みが行われています。本記事では、マガジンで紹介している取り組み3つのうち1つをご紹介。
レスポンシブルツーリズム
ハワイにおける持続可能な観光に向けた取り組みのベースには、「レスポンシブルツーリズム」の考え方があります。「責任ある観光」と訳され、観光客自身が旅先での行動に責任を持つことで、より良い観光地形成を行っていこうとするものです。
ハワイでは、観光客にハワイの自然に対する考え方や文化、地元住民の暮らしについて知ってもらったうえで、それらに共感してもらうことこそが「レスポンシブルツーリズム」に繋がっていくと考えています。ハワイ州観光局は、そういったハワイの人々の考え方や文化を伝えていくため、様々なメディアでの情報発信や、体験プログラムの造成に取り組んでいます。
北海道・阿寒湖
観光振興と自然保護の両立は難しい課題ですが、北海道の阿寒湖周辺では国立公園に指定されるよりもはるか昔から、阿寒前田一歩園(現・一般財団法人前田一歩園財団)を中心とした自然保護のための仕組みづくりにより、持続可能な観光開発が進められてきました。本記事では、マガジンで紹介している取り組み3つのうち1つをご紹介します。
観光業と自然保護活動を両立する経済循環の実現
阿寒湖温泉では、阿寒で森林保全や温泉管理事業などを展開する一般財団法人前田一歩園財団が中心となり、持続可能な自然保護のための経済循環を構築しています。阿寒湖温泉にある旅館・ホテルなどの観光事業者は、前田一歩園財団に対して土地貸借料や温泉使用料を支払い、それらを資金にして同財団が阿寒の森づくりや自然普及啓発活動を行うという仕組みです。
外部の業者などに観光地開発を任せるのではなく、阿寒を知り、守り続けてきた地元の事業者が主導して進めていくことで、観光業と自然保護活動の両立が実現できています。
日本のサステナブルツーリズムの現状
観光は経済的裨益を地域にもたらし、主に雇用創出や地域産品販売の促進を通して、観光地及びそこに住み働く人たちの生活を向上させる力を持っています。海外では観光業が地域社会の発展に貢献するサステナブルツーリズムの事例が多く見られますが、日本の実態はどうでしょうか。
世界との比較から見る日本の課題
世界経済フォーラムが隔年で発表している「トラベル・ツーリズム競争力指標調査(2019)*1」において、日本は全体指標総合で140カ国中4位につけていますが、事業環境、観光政策、インフラ、自然・文化を観察すると、環境が4.4、自然資源が4.1と他の分野に比べて取り組みが遅れていることがわかります。(図1)
1 「トラベル・ツーリズム競争力指標調査(2019) 」WORLD ECONOMIC FORUM
それぞれのサステナビリティ関連指標を個別に考察しても、サステナビリティに対する日本の意識の低さがみてとれます(詳しくは、マガジン本編を参照ください)。
そんな日本でも観光コンテンツとSDGsを結びつけ、観光体験を通じてサステナブルな取り組みによるプラスの効果を体感してもらい、日常をよりサステナブルなライフスタイルへと転換させようとする動きが出ています。マガジンでは、その好事例も紹介しています。
まとめ
今回は「持続可能な観光」に関する有識者の見解や取り組み事例をご紹介しました。本記事は、マガジンの一部を抜粋して再編集していますが、マガジン本編には、ご紹介していない事例も多数掲載しています。以下からダウンロードいただけますので、ぜひご覧ください。自治体の皆さまの取り組みの参考としていただければ幸いです。
ホワイトペーパー(お役立ち資料)Tourism1.5~ツーリズムフォワード~Vol.1 持続可能な観光
関連情報
「旅と生活の未来地図 情報版」(3月号)特集: 持続可能な地域づくりの実現に、課題の可視化で旅行者との新しい関係を築く