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自治体・行政機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 Tourism1.5~ツーリズムフォワード~vol.6 世界と地域をつなぐ大阪・関西万博 観光誘客のためにすべきこと

2023.09.14
地域マネジメント
インバウンド
戦略策定
誘客促進

「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマに、2025年4月13日から10月13日まで184日間にわたって開催される大阪・関西万博。今回の万博では、開催地の効果だけではなく、日本の各地域への誘客や消費の拡大等により、「万博×地域活性化」の波及効果が期待されています。

本記事では、大阪・関西万博を通じて国内地域への送客に対する可能性や送客を実現させる仕組みづくり、各地域が得られるメリットについてお伝えします。

提供:2025年日本国際博覧会協会

未来社会を「共創」する大阪・関西万博

1970年の大阪万博が開催されてから早55年。当時の大阪万博は日本の高度経済成長をアピールする機会でしたが、今回の万博は、世界が未来社会を「共創」する場となります。

コンセプトは「People’sLivingLab」(未来社会の実験場)。これは単に展示を見るだけでなく、世界80億人が万博を契機にアイデアを交換し、未来社会を「共創」(co-create)する場にしようというものです。そのため、万博の開催前からオンラインプラットフォームが立ち上げられ、世界中の課題やソリューションがオンラインを通じて共有されます。そうして共有された課題の解決に向けて、先端技術などの世界の英知が集められ、新たなアイデアを創造・発信する場として大阪・関西万博が活用されるのです。

大阪・関西万博の会場となる夢洲の会場には円環状の主導線が設けられ、「多様でありながら、ひとつ」という万博の理念を象徴します。世界150か国、25の国際機関をはじめ、多様な企業や団体がパビリオンを出展するほか、各界のトップランナー8名がプロデューサーを務める「シグネチャープロジェクト」は、リアルとバーチャルをインクルージョンした多様な体験のなかで「いのち」について考える貴重な機会を提供する万博の中核事業となります。

提供:丸紅株式会社

「People’sLivingLab」(未来社会の実験場)のコンセプトに基づいて展開される「未来社会ショーケース事業」も、大阪・関西万博の大きな見どころの一つです。これは、未来の技術や社会システムが見える万博をめざし、最先端技術や社会システムを会場内で運営・展示するものです。例えば次世代の移動手段として注目の高い「空飛ぶクルマ」は、大阪・関西万博で日本初の商業飛行が行われる計画で、会期中は万博会場内ポートと会場外ポートをつなぐ2地点間で運航される計画となっています。また、万博では、持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献と「Society5.0」の実現を大きな目標に掲げており、電子チケットや入場事前予約制度などの検討による需要平準化、再生可能エネルギーの活用、人と共存するロボットや自動翻訳の活用など、未来を感じさせる技術や社会システムが実証されます。

大阪・関西万博で地域活性化の未来を拓く

大阪・関西万博 EXPO共創プログラムディレクター 齋藤精一さんインタビュー

大阪・関西万博は、地球規模でソリューションを図り、未来社会を「共創」することが重要だと説く齋藤精一さん。期待することの筆頭に「日本の各地域が強くなっていく」ことを挙げ、万博を契機に「外からの目」によって各地域が再評価され、日本全国が「自信」を取り戻し、新たな時代を切り開くきっかけになれば――としています。万博や芸術祭などを通じた地域活性化に造詣の深い齋藤さんに、万博を通じた地域振興についてお聞きしました。(聞き手=JTB総合研究所チーフアナリスト・印南有理)

万博は「宇宙船地球号」
「共創」で未来社会の「実装」を

ー大阪・関西万博を開催する意義、「万博の再定義」についてどう考えますか

2000年代以降、業界横断で新しいものや新しい産業を作っていこうというイノベーションが起きており、万博がイノベーションの大きな起爆剤になることを期待しています。今回の万博の最大のミッションは、自国の国威発揚や産業振興だけではなく、地球規模でソリューションを図ること。万博のイメージは「宇宙船地球号」。そのなかで我々が何をすべきなのか、万博のなかで体現していきたいと考えています。

とくに重要なのは「共創」です。各分野の人たちが持つ知恵やアイデア、IT技術などを掛け合わせ、国籍や企業の大小を問わず「共創」し、万博が新しいものを生み出す場所になっていくことを期待します。

万博のコンセプトは「People’s Living Lab」(未来社会の実験場)。ここで生まれたつながりから、新たなつながりが生まれ、地球や社会を良くするアクションを引き起こす。それも、経済効果を得ながら発展していくというのが一番綺麗な物語。それを実装するのを今回の万博の圧倒的な意義だと考えています。

未知の領域の少子高齢化に差し掛かる課題先進国の日本には、その立場だからこそ見える風景があるはずで、万博を通じてそうした課題を世界と共有し、海外の方々と手を取り合って解決策を探り、シェアしていく使命があると感じます。

ー産業横断による「共創」は、非常にチャレンジングなテーマですね

振り返れば日本では1950~60年代にかけて業界団体が出現し、個々の産業セクターは強くなりましたが、現代における産業は一つのセクターだけでは成り立たない構造になっています。例えば自動車産業や都市開発の分野でもテックやデータなどの要素が複合され、インターネットの進化によって業界の横断が起きています。既に産業が次のフェーズに入り、世界各地で「共創」が起きているといってよいでしょう。

これまでのように業界単体での成長が難しい時代では、国内だけでなく世界との「共創」や横断をいかに図っていくのかが重要です。「万博でやらずにいつできるのか」との思いから、万博は直近のラストチャンスだと思っています。

万博で地域の魅力を「再評価」
共創によって「光」を当てる

ー齋藤さんは芸術祭を通じた地域振興などに取り組んでおられますが、万博を通じた地域振興についてはどう考えますか

今回の万博を何としても日本の各地域を強くしていくこと、地域振興につなげていかなければならないとの強い使命感を持っています。

芸術祭などの仕事で国内各地を巡ると、地域振興の手立てとして真っ先に挙がるのが「観光」です。しかし、観光とはその土地にある「光」を観に行くものですから、地域の側は自らが持つ「光」とは何なのかを再認識・再定義することが重要です。ここでも「共創」が効いてくる。

奈良では「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」という芸術祭を開催していますが、参加するアーティストの皆さんに伝えるのは、『地域の光を見るレンズとして作品を作ってほしい』ということ。例えば奈良には歴史、資源、森などがありますが、地元の方々には当たり前すぎてその魅力に気づかない。しかしそこに「外からの目」をもつアーティストたちを連れていくと、彼らはそこで発見した魅力を作品として具現化することができる。こうした作品はレンズのような作用を持っていて、外から訪れる人はもちろん、地域の人にも地元の魅力を再発見させる力があるというのが僕の考え方。

この「外からの目」の担い手は芸術以外にもあり得るでしょう。各地域には、親身になって魅力の再定義を一緒に考えていくパートナーをいち早く見つけてほしいと思っています。

ー万博には海外からも多くの来場者が訪れることから、それも「外からの目」として活かしていくと

そうですね。日本の産業が弱くなったのは、日本人がどこかの時代で自信を失ってしまったことも大きいのではないかと感じます。「クリエイティブ・コンフィデンス」に関する調査でも、「最もクリエイティブな都市」では東京が世界2位に入っている反面、「自分のことをクリエイティブだと思う人」は日本では22%で、ニューヨーク、ロンドン、パリ、ミラノの70%前後に比べて自己評価が極めて低い。しかし、「日本の底力はこんなものではない」と思うし、今回の万博ではそれを実感してもらいたい。

万博は「外からの目」で見てもらい、日本を再評価してもらう絶好の機会となります。日本では評価されていないものや、自分たちでは評価できていないものなど様々だと思いますが、そこをもう一回外部の目を通じて再定義し、失われた「自信」を取り戻すきっかけにしてもらえればと思っています。

つづきはリンク先よりご確認ください
 Tourism1.5 ~ツーリズムフォワード~(Vol.6) 大阪・関西万博

「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」

詳細はこちら

齋藤精一 JIKU #006 YOSHINO 撮影:都甲ユウタ
Photo. Muryo Honma
(Rhizomatiks)

パノラマティクス 主宰齋藤 精一

1975年 神奈川県生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からニューヨークで活動を開始。2006年株式会社ライゾマティクス(現:株式会社アブストラクトエンジン)を設立。社内アーキテクチャー部門『パノラマティクス』を率い、現在では行政や企業などの企画、実装アドバイザーも数多く行う。2023年グッドデザイン賞審査委員長。2025年大阪・関西万博EXPO共創プログラムディレクター。

提供:2025年日本国際博覧会協会
5月26日に開かれた「TEAM EXPO 2025 Meeting」の様子
提供:2025年日本国際博覧会協会

ケーススタディ:大阪・関西万博を契機とした国際交流

現在、大阪・関西万博に向けて、万博参加国と自治体を通じた国際交流の取り組みが始まっています。単なる観光交流にとどまらず、地域の産業や文化などに着目した交流が行われており、持続可能な交流のあり方の一つとして期待されています。ここではJTBが調査事業を実施した兵庫県三木市、栃木県那須塩原市による2つの事例を紹介します。

01 兵庫県三木市 刃物で国際交流? 「職人技」が交流に貢献

地場産業が交流の核に

兵庫県三木市とフランスでは、特産品や工芸品を通じた交流の促進に取り組んでいます。三木市では2018年の渡仏時にワイナリーを訪問し、ワインの製造過程で職人が腱鞘炎になるということを知りました。そこで、三木市は特産品の刃物(工具)を活用した課題解決に貢献しました。三木市は観光誘客においても旅行者が職人と出会うことに力点を置いており、地場産業が交流の核になっています。

また、JTBが手がけた三木市とフランスによる交流事業でも、包丁製造の鍛冶体験や、鉋(カンナ)の製造見学、酒蔵見学などのほか、総領事夫妻と三木市民による料理や工芸品を通じた交流も行われました。交流したい相手先のことを理解し、互いの文化や習慣を掛け合わせることで中長期的な交流につながっていくのです。

02 栃木県那須塩原市 音楽と新技術で国境も時差も超える!

那須塩原市とリンツ市の学生が音楽で交流

合唱をはじめ音楽が盛んな栃木県那須塩原市では、音楽の国オーストリアと音楽を通じた交流活動を行っています。(両都市は2022年に姉妹都市提携を締結)

JTBは、新たな時代に向けたオンライン音楽交流事業として、那須塩原市の中学校とリンツ市の中高等学校による合唱コンクールを実施しました。両市の学校で行われた合唱コンクールをリアルタイムにオンラインでつなぎ、同時に一つの歌を歌い上げるという体験価値を共有することができました。このような若者の交流や新技術の活用に関する取り組みは万博の根幹にも通ずるものであると考えられます。技術は日進月歩で進化していきますが、その時々に新たな技術を活用しながら、新たな交流の形を作っていくことが大切です。

ケーススタディ:三重県の食と観光の魅力発信

大阪・関西の周辺自治体では、万博に来場する国内外からの旅行者を呼び込もうとする取り組みが始まっています。万博を契機とした地域振興の先行事例として三重県の取り組みを紹介します。

POINT01「三重の食」を体験し、来県や購買意欲をかきたてる

三重県では、万博に合わせて、大阪府のキタとミナミに期間限定で情報発信拠点を開設する予定です。観光情報の発信や県産品の販売などに加えて、「三重の食」を味わう体験企画や生産者によるトークなど、三重県への観光意欲や県産品の購買意欲を高めるための取り組みを実施します。このような体験を通じて、古来より食に恵まれた三重県の食文化や食の背後にあるストーリーが伝わり、来県や購買意欲向上につながっていくことになるでしょう。

POINT02消費者動向調査で潜在ニーズを探る

パース図(イメージ)

今回、情報発信拠点が開設されるミナミとキタでは、それぞれの立地を活かして「消費者動向調査」を実施する予定です。

万博に向けて三重県が県産品の販路拡大や観光誘客に向けたプロモーションを行っていくうえで、指針となるデータを収集します。他にも、アンケート調査やスタッフによるヒアリングなども行い、潜在的な三重県の観光ニーズの掘り起こしを予定しています。分析結果をもとに、三重県にとって最も効果的なプロモーションのあり方を見つけていけるでしょう。

POINT03万博を契機に地域振興へ

三重県のような取り組みが全国に広がることで大阪・関西エリアだけでなく、日本全国にその効果を波及させ、地域活性化につなげることができます。万博は世界的なイベントですが、多くの自治体は、まだまだ手探りの状況にあるのではないでしょうか。しかし、三重県での取り組みはさらなる取り組みの深度化や横展開につながり、日本各地の魅力を知ってもらえるきっかけになるでしょう。

大阪・関西万博を契機とした地域への経済波及効果

21世紀の万博では、地球的課題と人類社会の持続的な発展がテーマになってきました。

大阪・関西万博においても持続可能な開発目標(SDGs)達成への貢献と日本の国家戦略「Society5.0」の実現が目指されています。また、万博協会は万博開催に合わせて以下の5項目の実現を掲げています。本稿では4と5に注目し、地域への経済波及効果について考えていきます。

  1. 最先端技術など世界の英知が結集し、新たなアイデアを創造発信
  2. 国内外から投資拡大
  3. 交流生活化によるイノベージョン創出
  4. 地域経済の活性化や中小企業の活性化
  5. 豊かな日本文化の発信のチャンス

2025年大阪・関西万博で実現すること (出所)公益財団法人2025年日本国際博覧会協会

訪日外国人による万博以外の観光行動における経済波及効果の計測

大阪・関西万博では、観光をはじめ、教育や文化・スポーツ、ビジネス・学術等、様々な分野で交流が生まれることで地域が活性化することが期待されています。

一般財団法人アジア太平洋研究所(以下APIR)より2023年7月に発表されたレポートによると大阪・関西万博では、2兆3,759億円の経済効果が見込まれており、これに加え、万博を契機に関西広域で様々なイベントや観光客にとって魅力的なコンテンツ等、滞在を促すインセンティブが高まることで、約4千~5千億円程度の上振れが見込まれることが発表されています。では、実際地域にはどれだけの経済波及効果が見込まれるのでしょうか。

大阪・関西万博に来場する訪日外国人による万博以外の観光行動における経済波及効果の計測結果
図1:大阪・関西万博に来場する訪日外国人による万博以外の観光行動における経済波及効果の計測結果
(出所)JTB総合研究所藤田・立正大学大井、共同調査より

JTB総合研究所主任研究員の藤田と立正大学データサイエンス学部の大井教授の共同調査では、大阪・関西万博に来場する訪日外国人に焦点を当て、万博以外の観光行動についての経済波及効果を大阪府以外の都道府県別に推計しました。計測の結果、各都道府県の生産誘発額の合計は約3,598.9億円となり、観光消費額に対する波及効果倍率は、約1.30倍になりました。生産誘発額の上位都道府県は、順に、京都府(約1704.2億円)、奈良県(約531.4億円)、東京都(約453.3億円)となり、生産誘発額の70%を超える規模となっています。これら上位の地域の大半は、今日、訪日外国人に人気の観光コースであるゴールデンルートの地域でありますが、各地域で万博を契機とした施策が展開され、訪日外国人観光の誘客を促すことによって、日本の各地域に経済波及効果を拡大することが可能になります。

推計を行う上での前提条件について、リンク先よりご確認ください。

自地域への誘客促進に向けて

約2,820万人の来場が予想される大阪・関西万博に向け、各地域で観光資源の磨き上げや旅行ニーズに対応した体験型観光等のコンテンツの拡充、地域ブランド化等を測り、世界の目を「自地域」に引き付けることが重要になります。

その際、地域においては、ターゲット顧客の特性を考慮し、自地域が提供可能な旅のテーマを訴求していくことが必要になります。今日の旅行者は、知的好奇心が高く自然や歴史、生活文化、食文化等に関心を持っていたり、その地域でしかできない体験を重視したりと、旅の動機が明確になっています。それに対応するかのように、ヘルスツーリズムやアドベンチャーツーリズム、スポーツツーリズム、エコツーリズム、ガストロノミーツーリズムなど、様々なツーリズムが出てきています。そのため、大阪・関西万博で訪れる観光客に向けて自地域の魅力的な観光資源を〇〇ツーリズムといった文脈で提供することによって、新たな魅力を訴求することができます。JTBグループといたしましても、そういった各地の誘客促進を地域の皆様と一緒に考えていきたいと思います。


まとめ

本記事は「万博×地域活性化」をテーマに、有識者の見解や各地域の取り組み事例をご紹介しました。この記事ではダイジェスト版でお届けしましたが、ダウンロードしてお読みいただけるマガジン本編には、ご紹介しきれなかった情報も掲載していますので、ぜひご覧ください。


ホワイトペーパー(お役立ち資料)Tourism1.5 ~ツーリズムフォワード~(Vol.6) 大阪・関西万博

大阪・関西万博の開幕までいよいよ2年を切りました。大阪・関西万博は、万博そのものによる効果だけでなく、万博をフックとした日本各地域への誘客や消費の拡大等の波及効果も期待できるため、大きな注目を集めています。

これからの観光への提言として、自治体のみなさまのお役に立つ情報をマガジン形式で発信している「Tourism1.5 ~ツーリズムフォワード~」。本号では、「万博×地域活性化」をテーマに有識者の見解や、万博の見どころ、ケーススタディとして兵庫県、栃木県、三重県の取り組み事例をご紹介しています。自治体のみなさまの取り組みの参考としていただければ幸いです。

本記事に関するお問い合わせ、ご相談、ご不明点などお気軽にお問い合わせください。

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