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自治体・行政機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 Tourism1.5 ~ツーリズムフォワード~(Vol.5)国立公園における「保護」と「利用」の好循環

2023.06.14
地域マネジメント
インバウンド
戦略策定
誘客促進

四季の変化、山川海などの景色、生物の多様性など、日本独自の自然環境に世界中が注目しています。旅が再開したことで、各地域では、自然環境を通じた新たなサービスの提供を模索しているでしょう。

その中でも、注目していきたいのが「国立公園」です。1934年3月に日本で最初の国立公園が誕生してから90年になります。国立公園の「保護」と「利用」によって、日本の観光のさらなる進化が期待されています。

本記事では、国立公園における「保護」と「利用」をテーマとし、国立公園にフォーカスしてお届けしていきます。マガジンで掲載している内容をダイジェスト版でお届けしますので、参考にしていただければ幸いです。

国立公園で目指す上質なツーリズムと持続可能な地域社会づくり

まずはじめに、環境省自然環境局国立公園課国立公園利用推進室にて室長を務める岡野隆宏氏より、寄稿されたコラムの一部を抜粋してご紹介します。国立公園の基本的な情報をはじめ、観光や地域との関わりをお届けしていきます。

国立公園とは

中部山岳国立公園上高地の雄大な山岳風

日本の各地には多様で美しい風景があります。優れた自然の風景を将来に引き継ぐとともに、来訪する皆さんに楽しみや癒し、感動と学びを与える場所が「国立公園」です。日本の国立公園では、人々の暮らしが営まれ、自然に育まれた伝統文化や食、温泉などその地域特有の多様な生活に触れられることが大きな魅力となっています。一方で、保護のために自然の改変を制限しており、地域社会との調整・連携が大きなテーマになっています。

国立公園満喫プロジェクトと目指す上質なツーリズム

十和田八幡平国立公園の蔦沼では、紅葉シーズンに予約制を導入し好評を得ている
インタープリテーションを用いたガイドツアー

2016年に策定された『明日の日本を支える観光ビジョン』において、観光政策の柱の一つに国立公園が位置づけられました。これを受けてスタートした「国立公園満喫プロジェクト」は、「国立公園の保護と利用の好循環により、優れた自然を守り地域活性化を図る」ことを基本方針としています。従来から行われてきた施設や環境の整備に加え、近年は滞在時間を延ばし、自然を満喫できる上質なツーリズムの実現へ。そして、地域の経済社会を活性化させ、自然環境の保全へ再投資される好循環を生み出すことを目指して取り組んでいます。

国立公園の可能性と持続可能な地域づくり

社寺仏閣が多く存在するのも日本の国立公園の特徴

2023年9月にアドベンチャートラベル・ワールド・サミット(ATWS)が北海道で開催されます。アドベンチャートラベルは、地域の中小事業者と地域住民に、経済・社会的な観点でのサスティナブルな効果を残せること、地域の自然や文化を保護・活性化することに期待されています。日本の国立公園は、アドベンチャートラベルに最適です。コロナ禍を経て自然への関心が高まる中、単に利用者を増やすのではなく、「最大の魅力が自然そのもの」という大前提の下で「高品質・高付加価値の観光市場の創造」を目指すことが大切です。地域の価値が磨き上げられ、「保護」と「利用」の好循環により、「豊かな自然と共生した地域社会」「持続可能な観光地域」づくりを目指していきたいと考えています。

ケーススタディ

01中部山岳国立公園
「国立公園外のエリア含めた地域一体の利用促進の取組を数多く実施」

中部山岳国立公園は、1934年に誕生した国内初の国立公園であるとともに、北アルプス一帯を占める日本を代表する山岳公園です。近年は台湾や欧米豪を中心とするインバウンドの来訪者も目立っており、今後、海外向けチャネルの整備により世界に誇れるルートになるでしょう。

POINT01Kita Alps Traverse Route

2021年から始動していた「松本高山Big Bridge構想実現プロジェクト」。本ルートは北アルプスが属する中部山岳国立公園を間に挟み、松本市街地と高山市街地を繋ぐルートであり、今年2月25日に正式に「Kita Alps Traverse Route」(北アルプス・トラバースルート)という名称に決定しました。この名称には、世界に誇るマウンテンリゾートとして「北アルプス」という固有名詞を世界にも広げたい、県跨ぎで地域それぞれの歴史や文化、観光資源が好循環を齎してほしい、という2つの願いが込められていています。

POINT02モニターツアーを実施

2022年にはモニターツアーを複数回、実施しています。まず、日本人訪問者に対して中部山岳国立公園に精通した山岳ガイドの方と一緒に歩くツアーを実施しました。モニターツアーの満足度は「やや満足した」という声が大多数を占めており、「それぞれの体験事にガイドからの説明があることで知的好奇心や地域への理解が深まった」「違う季節に改めて参加したい」という評価が残りました。そして 、モニターツアーの参加者の半数以上が「JTBが伝えたいテーマ=国立公園から地域の歴史・文化まで一体となった観光の素晴らしさ、を実感できた」という結果も出ました。また、ウェルネス部門の外部専門家とや外国籍のAT専門家からも最高ランクの評価をいただいています。今後、公園が今以上にしっかりコミュニケーションプラットフォーム(海外向けチャネルの整備)をタイムリーに提供できれば、海外メディアからも注目され、由来のとおり世界に誇れるルートになるでしょう。

モニターツアー調査結果

02阿寒摩周国立公園
アイヌ文化のブランディングとプロモーション

阿寒摩周国立公園は、北海道東部に位置し、日本最大のカルデラ地形、火山、森、湖で成り立ちながら原始的な姿を有している国立公園です。公園には多くの野生動物も生息し、複数の温泉やアイヌコタンがあります。顧客満足度、リピート率も高く、今回9月にはATWSが北海道で開催されるため、世界からの注目度は非常に高いといえます。

POINT01前田一歩園財団が管理している土地を観光業と自然保護の経済循環を実現

阿寒湖周辺の約3,900haの市街地を含むエリアは全て1983年4月に設立された前田一歩園財団の保有地です。前田一歩園財団は阿寒エリアの土地を利用して複数の事業を展開し、観光と自然保護の両立を実現しています。中でも、「一歩園森の案内人」の存在は忘れてはならないでしょう。自然に触れる際のマナー、自然保護の大切さ、観光客それぞれに対して知見を増やすという点でも「一歩園森の案内人」に同行いただくことで、楽しく安全に森に入れるのです。

POINT02アイヌ文化のリブランディングと新たなプロモーションで高付加価値の創造へ

認知度の高い阿寒摩周国立公園でも観光に対するニーズの変化はあらゆる所で影響を与えています。「国立公園の中でも阿寒摩周国立公園でしか味わえないものは何か」と模索する中で、現在、アイヌ文化と融合させながら地域全体のプロモーションを図っています。温泉地はあるもののナイトコンテンツが無いという点に着目し、湖畔の森から1.2Kmの道をアイヌ文化とプロジェクションマッピングを駆使して現代風に表現しているのです。これにより、夜間の楽しみが増えたことは勿論、温泉地や商店街からの導線作りにもなり、地域経済の活性化の役割も果たしたと言えるでしょう。

POINT032つの「えこ」による弟子屈町の持続可能なまちづくり

2008年に観光事業者、農家や会社員、主婦など様々な立場の住民たち自らがまちづくりのアイディアを出し合う「てしかがえこまち推進協議会」が設立しました。「えこまち」の「えこ」にはエコロジー(環境保全)とエコノミー(経済)の2つの意味が込められており、自然を守りながら各産業の活性化や地域振興に生かすエコツーリズムを行っています。

2019年には、インバウンドの先行的かつ集中的事例として阿寒摩周国立公園が選定されました。現在は、サステナブルツアーの新たな造成も進めており、「自然と人との共生」や「地球にやさしい暮らし方」を学ぶツアーも行っています。

「国立公園」の世界水準の旅行目的地化に向けて

ここからは、国立公園の観光目的地化のためのポイントついて、株式会社JTB総合研究所 主席研究員 吉口克利氏より寄稿されたコラムの一部抜粋してご紹介します。

「国立公園満喫プロジェクト」の始動

国立公園の訪日外国人利用者数の推計結果データ
図1 国立公園の訪日外国人利用者数の推計結果 データ:環境省「2020年の全国および国立公園等における利用動向」

環境省は2016年に『国立公園満喫プロジェクト』を立ち上げ、ビジターセンターなどの受入環境整備や国内外へのプロモーションなど、国立公園の世界水準の旅行目的地化を目指した様々な取り組みを展開してきました。プロジェクトの開始以降、国立公園を訪れる外国人旅行者は2015年の約490万人からコロナ禍前の2019年には約667万人に増加。同時に、日本人の注目度も高まっており、プロジェクトの効果が確認できます。

アフターコロナにおける国立公園利用の方向性

2020年、環境省によってアフターコロナにおける国立公園の誘客促進の方向性が示されました。国立公園内の団体や事業者によって展開されている自然体験コンテンツの質の向上を図り、国立公園での滞在を目的とする来訪者を増やすことを含む『国立公園における自然体験コンテンツガイドライン』が策定されました。

ガイドラインによる自然体験コンテンツの高付加価値化

近年は、国際的にサスティナビリティの視点が地域の観光振興に求められるようになりました。地域のストーリーづくり(地域の価値の再考)、自然環境や地域社会への貢献等の要素がより重要になるものと思われます。各国立公園の自然環境や生活文化など、その場所ならではの資源を活用した付加価値の高いコンテンツを提供することで、旅行者の価値観の変容につながる満足度の高い体験を届けることができます。

コンテンツ提供事業者はコンテンツの単価向上や旅行者のリピート化により事業の持続可能性を高めることができます。そして、地域社会においても、地域の自然環境・文化等の価値の再評価や継承意向の醸成につながります。ガイドラインはこのような「保護と利用の好循環」による地域づくりを目的として策定されました。

ガイドライン活用におけるコンテンツ提供事業者/旅行者/地域社会のメリット

具体的なチェック項目は、自然体験コンテンツの高付加価値化に求められる『コンテンツ造成』、『安全対策・危機管理』、『環境への貢献・持続可能性』の3つの観点それぞれについてブレイクダウンされています。

コンテンツ提供事業者、旅行者、地域社会のそれぞれが相互にメリットを享受しながら、自然環境、地域の文化の保全を図り、国立公園のブランディングにつなげていく。そんな好循環をつくるためには、より多くの事業者に地域を志向したコンテンツづくりや地域づくりに取り組んでいただく必要があります。

コンテンツ高付加価値化の意味

地域の魅力を一つのストーリーとして伝えることが、コンテンツの高付加価値化における最も重要なポイントになります。それを実現するためには地域内の多様な施設・プレーヤーたちとの協働が不可欠です。

また、高付加価値化を目指す地域に共通する課題としてガイド不足が挙げられます。地域への知的好奇心の強い旅行者の満足度を高めるためには、単に専門知識を伝えるだけではなく、旅行者の関心に合わせて柔軟に地域の魅力を伝える、“価値のインタープリター”としてのスキルが求められます。


まとめ

本記事は国立公園における「保護」と「利用」をテーマに、有識者の見解や各地域の取り組み事例をご紹介しました。この記事ではダイジェスト版でお届けしましたが、ダウンロードしてお読みいただけるマガジン本編には、ご紹介しきれなかった情報も掲載していますので、ぜひご覧ください。


ホワイトペーパー(お役立ち資料)Tourism1.5 ~ツーリズムフォワード~(Vol.5)国立公園における「保護」と「利用」の好循環

四季の変化、山川海などの景色、生物の多様性など、日本独自の自然環境に世界中から注目が集まっています。外国人観光客の受け入れが再開したことで、自然環境を通じた新たなサービスの提供を模索している地域が多いのではないでしょうか。

これからの観光への提言として、自治体のみなさまのお役に立つ情報をマガジン形式で発信している「Tourism1.5 ~ツーリズムフォワード~」。本号では、国立公園における「保護」と「利用」の好循環をテーマに有識者の見解や、ケーススタディとして中部国立公園と阿寒摩周国立公園の取り組み事例をご紹介しています。自治体のみなさまの取り組みの参考としていただければ幸いです。

本記事に関するお問い合わせ、ご相談、ご不明点などお気軽にお問い合わせください。

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