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自治体・行政機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 地方自治体のインバウンド回復のポイントとは シンガポール市場へのアプローチと今後の可能性

2023.09.19
インバウンド
認知拡大・流通促進
誘客促進
地域マーケティング
商品開発・販売

2020年から2022年の間、観光業界では訪日プロモーションが実施できない状況が続き、苦戦を強いられてきました。その間、「コンテンツ開発」や「受け入れ体制作り」などに注力をしてきた地方自治体様は多いのではないでしょうか。今まさに、作り上げてきたコンテンツや体制をもとに、海外へ向けてプロモーションを進めていくチャンスです。

そして、インバウンドの回復、さらなる成長のために、特に注目したい市場のひとつがシンガポールです。

本記事では、石川県シンガポール事務所の駐在員北田拓也氏(以下、北田氏)へのインタビューを通じて、シンガポール市場へのアプローチ、インバウンド需要回復に向けたポイントなどをご紹介します。

Pre―NATAS Fairの様子

石川県シンガポール事務所 駐在員
JETRO SINGAPORE Director
北田 拓也(きただ たくや)氏

民間企業で勤務の後、2014年石川県庁に入庁。情報産業、機械・繊維・食品産業などの担当を経て、2020年より海外展開を担当。2023年4月より石川県のシンガポール事務所の駐在員として、現地での情報収集やプロモーション、日本の施策の展開を行う。

石川県が抱えるインバウンドに対する課題

-2023年の中盤を過ぎ、日本全国で外国人観光客が戻ってきているようです。石川県のインバウンドの状況を教えてください。

北田氏:

現在は、コロナウイルスが流行する以前の2019年頃の状況に戻りつつあります。石川県を代表する観光地である兼六園をはじめ、県内の百貨店やお土産物屋、飲食店などにも多くの外国人観光客の方々が戻ってきていますね。

交通インフラにおいては、小松空港の国際線復便や県内の港へクルーズ船の寄港も再開してきており、今後のさらなる増加が期待されています。

-回復傾向にある中で、今後の成長のためにどんな工夫が必要だと感じていますか?

北田氏:

外国人観光客の方々に対して、いかに長く滞在していただくか。いかに消費を増やしてもらうかがポイントになってきます。

そのために、富裕層へアプローチし来訪してもらうこと、そして、コンテンツの磨き上げが重要だと思っています。

-コンテンツの磨き上げとは、具体的にどんな取り組みをしていますか?

北田氏:

石川県では今年、「いしかわ文化観光推進ファンド」を新たに創設しました。

石川県には、伝統工芸・伝統芸能・食など多様な文化が存在します。それらを活かすために、文化の担い手と観光事業者の連携による「発掘」から「磨き上げ」、「販売促進」に至るまでの各段階の取り組みに対し、 複数年度に跨る一貫した支援をスタートしました。

シンガポール市場への関心

-インバウンド増加のためにアプローチするターゲットと、伝えるべき魅力を明確にしているんですね。シンガポール市場には高い関心を持っているようですが、その理由を教えてください。

北田氏:

シンガポールは、日本好きの方が多く、訪日経験がある方もたくさんいます。近年は、リピートする方も増えており、日本の地方都市に対して、大きなチャンスがあるのではと思っています。

-JTBのデータによると、2019年に日本を訪れたシンガポール人観光客のうち、初来日した人が約27%、2回目以上の来日は約73%でした。高いリピーターの割合は特徴であり、さらに広がる可能性を感じます。

北田氏:

そうですね。日本へ初めて訪れる方々は、やはり大都市へ行くことが多くなるでしょう。しかし、リピーターは新たな観光の目的を探している方が多いため、地方都市へ足を運んでもらうために、さまざまな工夫ができると思っています。

シンガポールの旅行博「NATAS」に参加とは

ーそういった背景を踏まえて、シンガポールからの誘客のための新たな動きをはじめたんですね。

北田氏:

はい。シンガポール最大の旅行博「NATAS Fair(以下、NATAS)」とその前イベントである「Pre-NATAS Fair(以下、Pre-NATAS)」へ参加しました。

NATAS Fairとは

毎年2月と8月の年2回に開催され、毎回10万人規模の来場があるシンガポール最大の旅行博 。3日間の日程で行われる本イベントには、旅行代理店、政府観光局、航空会社、ホテル、レンタカー会社、旅行関連サービスなどがひとつの場所に集まり、入場者に商品の販売の他、トレンド、観光地などを紹介します。JTBシンガポール支店も毎回出店をし、日本の各自治体のPRや旅行商品の共同販売をしています。

Pre-NATAS Fairとは

高島屋JTBトラベルサロンのメール会員3,500名とCitibankのカード会員を対象に、一足早く限定的な「NATAS Fair」を開催。対象会員様は、日本に興味があり、かつ日本行きが2回目以上訪れたことがある、富裕層の方々です。落ち着いた雰囲気の中で各自治体の魅力を直接プレゼンテーションし、事前にお客様のニーズを把握している店頭スタッフと共に作り上げた旅行商品をお披露目する場にもなっています。

-まず、2023年7月に開催されたPre-NATASに参加して限定的なお客様にアピールをしたんですね。イベントへ参加を決めた理由を教えてください。

北田氏:

まず、Pre-NATASは、日本に対して興味・関心を持った方々が集まる場であり、そういった方々へダイレクトにアピールできることは大きな魅力です。

石川県のことを直接プレゼンテーションし、現地の人とコミュニケーションをとりながら、旅行商品の販売までできる機会はとても貴重です。

-どのように準備を進めていったのでしょうか?

北田氏:

まずは、観光資源の洗い出しを行いました。石川県には、伝統芸能、伝統工芸、自然、食、文化、街並みなど、多様なコンテンツがあるため、それらをピックアップ。その後は、JTBのサポートをいただきながら、周囲の地方自治体との連携、行程への落とし込み、魅力付けなどの商品造成を行いました。

また、石川県のシンガポール事務所にはシンガポール出身の職員(クリスティーシャ)が在籍しています。彼女は日本のことが大好きで、石川県にも2度訪れたことがありますので、自身が現地で体感したことをもとに資料を作成し、実際にプレゼンテーションを行ってもらいました。

大切なことは、現地の視点で伝えること

-Pre-NATASでは、どんな人たちが集まっていましたか?

北田氏:

実際に、東京や大阪などの大都市圏に行ったことがあるという富裕層の方が多く参加されていました。しかし、石川県に対しては、予備知識がない方がほとんどでした。

そんな中で、「石川県はどこにあるのか」「どうやって行くのか」「どんな魅力があるのか」など、たくさんの質問を受けました。参加者のみなさんが日本に興味を持っているため、次に行く場所や新しい魅力を熱心に探しているようでした。

Pre-NATASの様子

-具体的にどんなところに興味関心を持っていましたか?

北田氏:

特に「食」へ興味を持っている方は多かったですね。

石川県には、近江町市場という魚介類の販売や飲食店が集う場所があり、参加者のみなさんが特に注目しているようでした。シンガポールの方々にとってもシーフードは馴染みがありますが、市場の景色や石川県特有の食材・料理があることが新しい魅力に映ったようです。

-Pre-NATASでは、石川県の魅力を伝えるためにプレゼンテーションを行いましたが、その際のポイントはありますか?

北田氏:

資料の表現や話し方など、現地の目線で魅力を伝えることは大切です。例えば、シンガポール人であるクリスティーシャが、現地の人の雰囲気に合わせて楽しそうに石川県の話をすることで、石川県のへの旅行の楽しさがよりストレートに伝わると感じました。

-具体的に日本を見る視点にはどんな違いがありますか?

北田氏:

日本に住んでいると当たり前だと思われていることが、実はシンガポールの人には魅力的に映っていることがたくさんあります。

例えば、四季ですね。四季による自然や観光地の変化に大きな関心を示します。桜や紅葉、雪景色など、季節によって、ガラッと景色が変わり、そういったところに感動するようです。

兼六園

-シンガポールは四季の変化が見られないからですね。そういった意味でも現地の人の目線で魅力を伝えることは重要ですね。

北田氏:

はい。ほかにもプレゼンテーションの中では、動画を見せながら現地の様子をわかりやすく伝えることを意識しました。

動画を映しながら、クリスティーシャが自身で体感したことを伝えることで、参加者のイメージも膨らんだのだと思います。実際に参加者の方々にも好評を得て、たくさんの成約につながりました。

Pre-NATASにてプレゼンテーション

地方自治体と旅行会社が連携し、新たな魅力を発信

-シンガポール市場へのアプローチの際、大切だと思うポイントを教えてください。

北田氏:

“体験”を提供することだと思います。

観光地を見てもらうだけでなく、いかに“独自の体験”をしてもらうか。そのために石川県では、和菓子の体験や伝統工芸の体験、酒蔵の見学などさまざまな体験コンテンツをつくっています。

-シンガポールの人たちが「やったことがないこと」、「はじめてのこと」を提供することはとても重要ですね。

北田氏:

また、シンガポールでは、長期間の旅行を楽しむことがトレンドになっています。そのために、石川県だけでなく周囲の地方自治体と連携して商品づくりをしていくことが重要です。

その際、我々だけで周囲の都道府県と連携して商品造成をしていくことは難しいため、JTBを含めた外部の企業と協力することが必要不可欠ですね。

-最後に、地方自治体として描く、今後のインバウンドの展望や戦略を教えてください。

北田氏:

今回のPre-NATASへの参加を通じて、シンガポールはとてもチャンスのある市場だと感じました。しかし、まだまだ、地方自治体の存在や魅力が知られていない状況だと思います。そのため、日本と現地と関係企業が手を取り合い、創意工夫をしながら地道に継続することが大切だと感じています。

今後は、現地の方々のニーズをさらに深掘りし、プロモーション活動に取り組んでいくことが、ポイントだと感じています。継続することでよりよい商品造成につながり、魅力が伝わっていくと感じています。

そして、シンガポールを含む世界中の人たちに石川県の魅力を伝え、たくさんの人に来ていただけるよう、今後も引き続きPRしていきたいと思います。

本インタビューは2023年7月に行われました。その後、8月に行われた「NATAS Fair」についての様子を簡単に紹介します。

2023年NATAS Fairの様子

2023年8月11日~8月13日の、NATAS Fairが開催されました。シンガポールでの訪日旅行ブームの勢いもあり、50団体がブースを出展し、来場者102,744名と旅行熱の高さを感じる3日間でした。

JTBはブースを出展し、そこに石川県も自治体として参加。一緒にプロモーションを実施しました。たくさんのお客様がJTBブースを訪れ、3日間でブース全体1億円という過去最高の売上を達成する事ができました。秋冬のグループツアーの申し込みが顕著であり、全体売上の53%をグループツアーが占める結果となりました。

シンガポール支店 マネージャー執行 覚

教育旅行を中心とした渉外営業を経験後、2018年から1年間グローバル研修員としてインドに駐在。
帰国後は宮崎支店にて営業課長として、法人・行政・教育のマーケットを統括。
2023年2月より現職。在シンガポール企業へのセールスと、シンガポール市場に於ける訪日プロモーションの両軸に取り組んでいる。

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