2022年末に策定されたデジタル田園都市国家構想総合戦略では、重点施策として「観光DX」が掲げられ、観光産業は地域に国内、海外の旅行者を取り込み、雇用創出など地域経済を支える重要な産業として位置づけられています。
この記事では、デジタル田園都市国家構想を活用した観光DX推進のポイントについて、スマートシティの実現に向けて積極的に取り組む、PwCコンサルティング黒田氏が徹底解説します。自治体や観光地域づくり法人の担当者の皆さまの参考になれば幸いです。
INDEX
観光DXの推進にデジタル田園都市構想活用が有効なワケ
~PwCコンサルティング黒田氏によるポイント解説!!~
プロフィール
ディレクター, PwCコンサルティング合同会社黒田 育義
システムコンサルタントとして、IT戦略の策定、システムの構想および計画立案、要件定義、プロジェクト支援(PMO)など幅広い業務に従事。特にデータ利活用支援、デジタルマーケティングを目的とするデータ基盤の計画・設計支援、データ活用業務支援に強みを有する。2021年PwCコンサルティング合同会社に入社。クラウドサービスを使ったデータ基盤などの各種支援や、スマートシティを実現するデータ連携基盤および都市OSの調査・研究をリードしている。
- 専門分野・担当
- テクノロジー&デジタルコンサルティング
- 執筆・講演
- 「スマートシティを加速させるパーソナルデータ流通の要諦」(京都スマートシティエキスポ2022)
デジタル田園都市国家構想の概要
デジタル田園都市国家構想とは、岸田文雄首相が掲げる「新しい資本主義」の重要な柱の一つであり、デジタル技術の活用により地域の個性を活かしながら、地域の社会課題の解決や魅力向上のブレイクスルーを実現し、地方活性化を加速させる取り組みです。この取り組みにおいては「デジタル田園都市国家構想交付金」(以下「交付金」)が設定され、特にデジタル活用による地域の課題解決や魅力向上の実現を単年度に限り支援する「デジタル実装タイプ」として、5つのタイプが設定されています。(図表1)
交付金申請では、図表2に示すTYPE1/2/3それぞれの申請要件に加え、TYPE1からTYPE3共通して、マイナンバーカードの普及促進、スタートアップの活用、地域間の連携などが申請に対する加点要素と設定されていることからも、交付金申請前からの事前準備が必要となります。また、申請に際して単年度の事業計画に加え、中長期のスケジュールや収支予定を記載した運営計画やPDCAの実施体制など、実装後の持続性を検討する必要もあります。
こうした申請と審査を経て、2023年4月に発表されたデジタル田園都市国家構想交付金の採択決定事業は1,845件、交付決定事業費総額は653億円となりました。特に申請要件が比較的緩やかなTYPE1は、その大半を占め事業数1,686件、総額456億円となっています。しかし、TYPE1の事業分野別で見ると観光分野は、交付決定事業件数が63件、交付決定金額(国費)が8.2億円と他事業分野と比較してやや少ない印象があります。(図表3)これは、申請期間の2022年12月から2月に掛けてはまだ感染症対策が行われている最中であり、その需要が見通せなかったという背景があると想定されます。
デジタル田園都市国家構想における観光DX
観光分野で採択された中には、観光周遊を目的としたポータルアプリや観光データ(位置情報・人流)の分析など観光DX(注記4:後述)とされる旅行者の利便性向上や観光地経営の高度化につながる取り組みがあります。また観光分野以外にも、観光DXに資するものがあり、例えば、文化・スポーツ分野の「図書館のデジタル化による機能強化及び歴史を起点とした観光誘客事業(熊本県 上天草市)」や産業振興分野の「地域通貨を用いた地域経済DX事業(福岡県 東峰村)」なども観光客をターゲットとしています。こうした取り組み事例、実績が多く生まれ、かつ感染症対策が緩和されたことを受け、2023年度の申請ではさらに観光分野の取り組みが多くなることが予想されます。
また、2023年5月以降、感染症対策が緩和されたことを受けて国内外の観光客が徐々に増えつつある中、一部地域では「周辺の地域も含めて周遊を促進したい」というニーズが生まれてきています。背景には、感染症対策前から上げられていた「オーバーツーリズム」にみられる一部地域に観光客が偏るといったことへの対策という位置づけだけではなく「一人ひとりにあった周遊ルートの提案するによる体験価値の向上」や「地域全体の消費拡大」といった目的が掲げられます。
この目的に向けて、すでに取り組んでいる地域では、地域外の方が認知している特徴を起点とし、周辺地域の回遊性を高めるためにデータやITを活用しています。こうした取り組みにおいては「旅ナカ」という旅行中の体験価値だけでなく、旅行前後においてもデータに基づく一人ひとりにあったマーケティングやフォローなども行うことも再訪問を促す上で重要であり、それを支えるデータやITが必要不可欠なものなのです。
持続可能な観光を目指して
こうした回遊性や、特定の時期に集中しない形での訪問を促すことは、観光地の持続可能性において必要です。感染症対策という観光産業にとって危機的な状況下で観光業や飲食店、地域の交通機関の縮小が進んだ結果、地域の受け入れ=「おもてなし」自体が難しい状況になっています。人手不足を背景として、日中の営業時間を短縮や、地域の大きなイベントを中止もしくは予約制による人数制限や有料化などをせざるを得ない状況も発生しています。そのため観光地の住民が観光客をよろこんで受け入れるといった雰囲気づくりが難しくなってきているケースもあります。
こうした状況を打開するためにも、交付金などを活用しながら、データやITを活用=観光DXを推進し、観光客の満足度の向上とそれに不随する関係人口の増加などにより地域の魅力を伝え、経済の活性化させることの重要性がますます高まると考えます。観光DXの事例
沖縄市観光MaaS システム構築運用業務
米軍基地が多く立地していることから国際色豊かな独自の文化を持つ街「沖縄市」。
「東南植物楽園」や「沖縄こどもの国」、「沖縄アリーナ」など、県内有数の観光施設を有し、グルメ、音楽といった夜の観光コンテンツも充実。沖縄最大級の夏祭り「全島エイサーまつり」や「国際カーニバル」など大規模なイベントも数多く開催し、プロ野球チーム「広島東洋カープ」の春季キャンプ等、多くのスポーツ選手がキャンプや合宿で訪れるなど、沖縄市には他地域にはない特徴的な地域資源があります。
そんな沖縄市の強みである地域資源の磨き上げを通じた、誘客促進、観光客の満足度向上、持続可能なまちづくりに向けた、沖縄市の観光MaaS システム構築事業をご紹介します。
課題
「観光消費額」「観光客の満足度」「市民の理解度」を高める
- 官民連携による滞在型観光の推進
- 沖縄市内の周遊促進
- イベント情報の発信による誘客促進
- 観光関連データを活用したコンテンツ造成
- 観光関連データの観光事業者・市民への開示
事業目的
『観光ポータルサイト「コザウェブ」を起点とした地域回遊の促進』
旅ナカ商品の販売システム構築と全国型観光MaaSアプリや顧客予約管理システムを構築、活用し、情報発信・販売・回遊を促進する。
事業詳細
01観光MaaSシステム、旅ナカ商品販売システムの構築
- マルチモーダルルート検索・ナビ機能
- アンケート機能(観光ポータルサイト「コザウェブ」上の「コザのまちファン宣言コーナー」等を活用し、利用者アンケートを常設、「市内滞在中の観光客満足度」に関するデータ収集を実施。)
- 多言語対応
02観光MaaS システムのログ収集・分析機能、プロモーション
- ログ収集・分析機能(地域共創基盤)
- 観光ポータルサイト「 コザウェブ 」、旅ナカ商品の販売システム、全国型観光アプリや顧客予約管理システムのデータを収集し、来訪者の旅マエ~旅ナカの動向を可視化し地域資源の磨き上げへの示唆を継続的に取得できる仕組みを構築。 データの収集、分析を行い、関係者とデータの的確な把握、協議、施策の検討。
- 観光MaaS システムの利用促進に向けたプロモーション
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03顧客予約管理システム
- PMS (クラウド型 ホテル・旅館向け基幹業務システム)
- 導入時の初期投資を削減、業務の効率化、セキュリティ強化
- JTB データコネクト HUB
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- 非接触チェックインシステム(MujInn)
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