JTBと特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム(JPF)が連携し、教育の場を社会支援につなげて、中学生・高校生がリアルに社会課題に挑む体験を提供する新しい試み、『17 Goals Project』をスタートさせました。
2015年に国際サミットで持続可能な世界を実現するために達成すべき開発目標として採択されたSDGsは、17のゴール・169のターゲットで構成され、世界の国々、人々が積極的に取り組むことを求めています。『17 Goals Project』は、こうした活動に携わる日本のNGOと子どもたちを結び、講演会やワークショップなどの教育活動を支援します。
今回、このプロジェクトの趣旨に賛同し、活動にも積極的にご協力いただいているJPF顧問の村尾信尚氏を迎え、JTB 代表取締役 社長執行役員 山北 栄二郎 と共に、プロジェクトの意義、さらに子どもたちの未来に向けての思いについて語り合いました。
※特定非営利活動法人ジャパン・プラットフォーム(JPF)とは
世界各地における自然災害による被災者、紛争による難民のための緊急人道支援を実施している40以上の加盟NGOと、経済界、政府が対等なパートナーシップのもとに協働する連合体(コンソーシアム)。2000年の発足以来、50以上の国・地域において人道支援活動を展開し、国内外の自然災害による被災者、紛争による難民・国内避難民に、迅速かつ効果的に日本からの支援を届けている。
SDGsを教育テーマにした、リアルな学びの場を提供する。
――いよいよJTBとJPFが連携して取り組む『17 Goals Project』がスタートしました。村尾様はJPFの顧問を務めていらっしゃいますが、まずご自身のJPFとの関わりについてお教えいただけますか。
村尾 信尚(以下、村尾)もう20年ほど前になりますが、私は大蔵省(現財務省)の主計局で、外務省と通産省(現経済産業省)の予算を担当していました。当時、ODA(政府開発援助)の予算は1兆円近くあったのですが、縦割り行政で有機的にお金がうまく使われていないという現状がありました。日本の納税者の税金をお預かりしているのだから、顔が見える援助はできないかと思っていたときに、ある報道でイラクのクルド自治区で活動をしている日本の若者たちが、お金がなくて困っていることを知りました。それで志のあるNGOと経済界、さらに社会貢献に前向きな企業も巻き込んで何か仕組みはできないかと考えました。私が黒子になって、NGO、外務省、日本経済団体連合会の仲間を集め、ひとつのプラットフォームに乗って政府の開発援助を効率的にやろう、顔の見える援助をしようと立ち上げたのがJPFです。
山北 栄二郎(以下、山北) JPFは国内外における自然災害や紛争に対し、迅速で効果的な緊急人道支援を行うためのプラットフォームとして、長年その役割を果たされています。JTBはその活動に共感し、昨年度より賛助企業の仲間入りをさせていただきました。こうしたご縁もあり、『17 Goals Project』を共同で運営することとなりました。
――『17 Goals Project』とは、具体的にどのようなものなのでしょう。
山北 『17 Goals Project』は、中学生、高校生とNGOをつなぎ、“リアル”な社会課題解決の場を提供します。具体的には、JTBの担当者が、探究学習に社会課題の解決を取り入れたい学校に対して、学校の課題や興味あるテーマに合わせてJPFにNGOをマッチングしていただき、講義や講演会、ワークショップなどのサポートを行います。きっかけはと言いますと、我々の会社も108年目になるのですが、教育関係者の皆さまとも関わりを深くしてまいりました。学校の先生方から、将来を担う子どもたちにとっては、SDGsはとても重要なテーマだが、これをどうにか体験を通し学べないだろうかと、ご相談を頂きました。
現在、世界的な行動指針として示されているSDGsは、教育界においても考えさせるべき学習テーマとして注目されていますが、教室の中や教科書上の学びでは、どうしてもその問題の大きさ、深刻さが伝えきれず、現実感の欠如という大きな課題を抱えていらっしゃった。そこで私どもがJPFとのつなぎ役になり、リアリティーのある学びの場を提供し、学校の課題解決と社会課題の双方の解決を目指すことを目的としたのがこのプロジェクトです。
村尾 今回『17 Goals Project』のお話をうかがったとき、以前、国連難民高等弁務官としてご活躍されていた緒方 貞子氏がJPFのことを知って「パブリックとプライベートが一緒になってプロジェクトをやるべきだ」とおっしゃった言葉が私の中でダブリましてね。民間企業とNGO、それに私の志が一致すればスクラムが組めるな、というのが今回、一緒にやらせていただくことになった理由でもあります。
未来を担う子どもたちに、世界を知り深く考える学習環境を。
――本プロジェクトの意義について、どのようにお考えでしょうか。
山北 JTBの法人事業では、産・官・学と3つのマーケットに広く接点を持っています。とくに教育については、全国の学校に担当者がおり、先生方とも非常に近い関係性があります。これからの世の中にとってヒューマンリソースの充実は非常に重要なことですから、このような全国的なネットワークを活かし、教育界をサポートしていきたいと強く思っています。
また、ツーリズムは平和産業です。世界が平和でないと成り立たない商売なのです。これからの教育も、やはり平和を大切にしてほしいのです。平和の前提は、人と人とが理解しあうこと。お互いが交流しないと、理解は生まれません。今は新型コロナウィルスの感染対策として、どうしても接触ができず交流ができない状態になっています。そのためオンラインなどを活用していますが、やはり究極的には対面で、リアルに五感を通して人と人が感じあう。ここがないと本当の、平和をベースとする人間理解ができないように思います。
村尾 おっしゃるとおりです。そういう意味では非常にJTBさんと私は共通の土台があるような気がします。今の日本の子どもたちは、これまで以上に様々な課題に直面することになるでしょう。少子高齢化、巨額の財政赤字、地球の気候変動、こういう現状の元でこれからの未来を背負っていかなければならない。
若い人たちへの伝言という意味で、子どもたちに今、私たちの社会が抱えている問題点や、これからの日本を良くしていくためにどうしたらいいかということをしっかりと伝えないと、大変なことになると思っているんです。ですから学校や教育関係者とつながりのあるJTBさんと共に、いろいろなことを子どもたちに伝えていきたい、深く考え、深く議論する体験を積ませたい。JTBさんの知見、ノウハウ、資源を活かしながら、タイアップできればと思っています。
――グローバルな視点から考える、これからの教育はどのようにあるべきだとお考えですか。
山北 深く考える教育というのは、まさしくJTBが力を入れている「探究学習」につながっていきます。私はヨーロッパに11年ほど駐在し、子どもたちも現地で教育を受けたのですが、たとえば1学期は第二次世界大戦を学びましょうとか、ひとつのテーマを掘り下げて、戦場に足を運んで五感で感じたり、戦争の意味を深く考えたりする時間があるのですね。日本の教育も、柔軟なカリキュラムを設定することで、いろいろな課題を自分たちで深く学ぶ機会を多くして議論しながら考える、そうした学習の機会は、ぜひ増やしていってほしいと思います。
村尾 私も20代後半のときにニューヨークに3年間いましたけれど、やはり外から日本を見ないと、日本のことはわからない。世界の人口を100人とすると、日本人は約1.7人しかいません。本当に小さな島で、その世界に閉じこもっていていいのかと……。違った言語、違った文化、違った宗教、とにかくミックスしないとだめです。今の子どもたちはこれからどんどんと世界に出て、いろいろな体験をすることは、本当に必要です。
山北 若い世代に、海外を体験してもらうということは我々も力を入れていきたいと思っています。海外を知ると、違いばかりが見えてくるのですが、実は同じこともたくさんあって、その中で違いがこうなんだと理解する。世界の中で自分の立ち位置がどこにあるかを知ることが、非常に大事だと思うのです。
また、『17 Goals Project』を通じてSDGsを学ぶことの良いところのひとつは、世界という共通言語でこの問題を語れることがあります。将来、次の世代を担う子どもたちには、世界目線で語り合える力をつけることがとても大切だと思うのです。その語る力をつけるためにも、やはり自分で考えることです。そして世界中の子どもたちが今、同じテーマを考えはじめていますので、SDGsを通じてクロスボーダーで積極的に世界の仲間たちとコミュニケーションを取ってくれたら嬉しいですね。
村尾 日本の教育は、もう少し見直さなければならない。外部からの人間が入って、活力を起こすことが大事です。このプロジェクトもそのひとつだと思います。
――最後に、本プロジェクトを通じて、子どもたちや社会にどのような思いを伝えていきたいかをお聞かせください。
村尾 SDGsは、17のプロジェクトのゴールの背後にあるスピリット、私は精神が重要だと思っています。政府も市民も企業もNGOもみんなで関わっていこう、全員参加でやろうということです。持続可能な社会、それは自分だけの世界が良いというのではなくて、次の世界、その次の世界に続くような、そういう持続可能な考え方からできているということ。子どもたちには、君たち自身の社会なのだから、誰一人取り残さない、みんなで関わっていく、君たち一人ひとりができることを考えていこうと伝えたいですね。
山北 未来を担う子どもたちには、世界共通のテーマであるSDGsについて、ぜひ真剣に考える機会を持ってほしいですね。自分たちの未来を考えるということは、次の人たちにつないでいくということ。そのために何が必要なのか、それぞれの立場で一人ひとりがしっかりと考えてほしいと思います。また、SDGsの考え方は、教育に限定されるものではありません。このプロジェクトを教育関係者はもとより幅広くいろいろな企業の方々にも知っていただきたいです。そして、社会全体としてSDGsへの積極的な取り組みを広げていきたいと考えています。
――本日は、ありがとうございました。