AI(人工知能)やIoTなどの技術革新によって産業構造が急激に変化するなか、「Society5.0」時代を生きる子どもたちを育てるための教育環境にも大きな変化が起きています。情報活用能力育成に向けた小学校のプログラミング教育の必修化や、GIGAスクール構想によるICT端末の整備もその一つ。今回はこうした背景のもと、ICTを活用した学びが加速する学校現場の一例として、修学旅行にロボットやAIを取り入れた学校の実践事例をご紹介します。
修学旅行に今年はじめてロボットを導入
川崎市立藤崎小学校では毎年6年生を対象として日光への修学旅行を実施しています。
その修学旅行の学習活動に、今回はじめて「ロボホン」を導入しました。
ロボホンを使った修学旅行の主なメリット
- 修学旅行や旅行先に対する興味・関心を引き出すことができる
- 旅行先の歴史、文化、自然についてより深く学ぶことができる
- 積極的な参加態度や自律的な学びの姿勢がみられる
- 協働学習を通して創造的な思考力や表現力が自然と身につく
- 楽しみながらICT端末に親しむことができる
- AIについて理解し、AIとの共生社会をイメージできる
活動の全体概要ロボホンを活用した修学旅行
01旅マエ
事前学習
学び
ロボットについて学ぼう!
JTBオリジナル教材を用いて、ロボットが動く仕組みやAIについて学習します。
ロボホンのセリフを作成しよう!
グループで協力して、場所やセリフを考え、オリジナルの観光案内を作ります。
02旅ナカ
班別自主研修
共有
ロボホンと旅しよう!
ロボホンの説明を聞いて、歴史や文化を楽しく学びながら旅をします。
作ったセリフを聞いてみよう!
作ったセリフを現地でロボホンが話します。他のグループが考えたセリフも聞くことができます。
03旅アト
事後学習
発信
写真やログデータを活用しよう!
成果発表に写真や行動ログを活用し発信することで、自分の学びを振り返り、次の学びに生かす力を育みます。
Point! 現地で撮影した写真や行動ログは、後日データで提供します。
事前学習
先生
事前学習では、総合的な学習の時間の1コマを使って「AI」と聞いて思いつく身近なものを児童に考えさせたり、これからの社会で求められるITの知識やAIとの共生に関する授業を行いました。また、1人1台配布されたICT端末を使って「ロボホンの使い方事前学習動画」を視聴したうえで、修学旅行で訪問する日光東照宮でロボホンに発話させたい「オリジナル観光案内」をグループごとに考えました。
子どもたちが作成した日光東照宮のオリジナル観光案内
観光地名 | シナリオ |
---|---|
二ノ鳥居 | 日光東照宮、陽明門への石段の下に立つのが、ここ、二ノ鳥居だよ。別名、唐銅鳥居と言います。 |
輪蔵 | ここは、日光東照宮輪蔵だよ。輪蔵の前面には、輪蔵を発明した中国人親子の木像が置かれているんだよ。その像の子どもたちが笑っている姿から、何と別名で呼ばれているんだろう。 |
奥社 | おつかれさまー。今何段石段を上ったかな?ここからが奥社だよ。黒漆塗りの拝殿の後ろに、徳川家康が眠る唐銅製のお墓があるよ。自分の祖先のお墓と比べてみよう。そこには、叶え杉という大きな杉があり、穴に向かって願い事を言うと叶うと言われているよ。願い事をしてみよう。 |
眠り猫 | ここは、東廻廊潜門の眠り猫だよ。数ある東照宮の彫刻の中で作者がわかっているのは眠り猫だけなんだ。眠り猫の裏側も眠り猫なのかな。彫刻の裏側には、どんなデザインがされているんだろう。 |
陽明門 | ここは、陽明門だよ。いつまで見ていても飽きないところから日暮らしの門とも呼ばれているんだ。グリという渦巻文様の12本の円柱で支えられているんだ。ん?なんかおかしい所があるぞ。どこだ?どこだ? |
陽明門 | ここは陽明門の前だよ。みんなで写真を撮ろう。はい、キュンです。はい、チーズ! |
五重塔 | ここは五重塔だよ。一ノ鳥居をくぐった左手にあるね。高さ約36mの赤塗りの塔だよ。ここは一度落雷によって消失しているんだ。それを再び今の姿で再建したんだよ。東京スカイツリーにも応用された地震に強い造りになっているんだ。 |
修学旅行
先生
自分たちが作成したシナリオ以外にあらかじめプログラミングされた情報もあり、熱心に聞こうとする姿勢が見られました。旅行中、児童はロボホンをとてもかわいがりながら大切に扱っていました。何よりも児童が、ロボホンと一緒に旅することを楽しんでいる様子だったのがうれしかったですね。「私にも触らせて!」と、ロボホンを持つ班長のもとにメンバーが自然と集まり、ロボホンに覚えさせたオリジナル観光案内がどのように発話されるのかと聞き入る様子も見られました。
修学旅行から帰った後は、現地で気づいたことや見つけたことなどをロボホンで撮影して記録し、事後学習へとつなげていったそうです。
ロボホンを導入した理由
先生
今回初めて修学旅行にロボホンを導入したのは、児童の興味や関心をひきつけられると思った点が最大の理由です。また、各グループに1台ずつ用意されるロボホンはグループ活動にも適しており、新型コロナウイルス対策にも有効だと考えたことも理由の一つです。
導入の背景には、子どもたちの学習意欲を喚起したいという目的と合わせて、コロナ禍において安心安全な修学旅行を実現したいという目的があったそうです。人気の見学スポットでガイドさんが行う説明はどうしても密集状態になりがちなだけでなく、後方の子どもたちに声が届きにくいという課題があります。ガイドさんに代わって各グループのロボホンが説明をすることで、感染防止に配慮しながら全員にしっかりと情報を届けることができます。加えて、子どもたちの位置情報や行動履歴を細かく把握できる点も感染防止に効果的と言えます。
活動をふりかえって
先生
ロボホンのおかげで児童は修学旅行に主体的に参加しICTにも親しめたと思います。事前学習・修学旅行・事後学習に取り組もうとする意欲が高まり、より深く学べたのではないでしょうか。せっかくの機会なので今後は事前学習でもロボホンを使いながら児童と一緒にじっくり取り組めたらと思います。
オリジナル観光案内を考える際に子どもたちは、どのような情報をどのような言葉で表現すると仲間に伝わりやすく楽しく感じてくれるかということを考えながら作成したそうです。このようにして創造的な「思考力」や「表現力」が自然と身につくことも、親しみやすいICTツールを導入した効果と言えるでしょう。
まとめ
今の子どもたちが生きていく「Society5.0」は、あらゆる産業において人間がAIやロボットと共生する社会です。そうした社会の担い手を育むため、文部科学省は情報活用能力を学習の基盤となる資質・能力と位置付け、ICTを活用した教育を推進しています。全国の学校現場から報告される様々なICT活用事例や、日頃私たちが修学旅行等で接する子どもたちを見ていると、急激な社会変化の中にありながら大人が思う以上にその変化を柔軟に受け入れているようにも見えます。そんな子どもたちの可能性を掘り起こしていくためには、私たち大人がこれまで以上に柔軟な姿勢でICTと向き合っていく必要があるのではないでしょうか。
ロボホンを使ったICT教育プログラムの一例
「ロボ旅@教育旅行」
「ロボホン」を活用した教育旅行体験型プログラム。旅マエから旅アトまで一貫したプログラムで子どもたちの主体的な学びを実現するほか、旅ナカでの安全管理機能も充実。サービス提供地域は京都、日光(2021年7月時点)。