新型コロナウイルス感染拡大を機に「ニューノーマル下の多様な勤務形態」の一つとして注目が高まったワーケーション。令和2年7月に観光戦略実行推進会議でも取り上げられたことで、受け入れに向けた環境整備を始めた自治体・地域は多いことでしょう。しかし、環境を整備するにも「企業のニーズがわからない」「財源に不安がある」などの声があるのも実態です。
そこで、JTBは2020年10月28日(水)にユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長 島田 由香氏をお招きし、オンラインセミナー「企業版ふるさと納税を活用したワーケーションの取り組み方」を開催。ワーケーションを推進する企業のニーズと自治体側が整備すべき環境を踏まえ、「企業版ふるさと納税」を活用した財源確保の方法を紹介しました。
ワーケーションに取り組もうとしている自治体・地域の皆さまはもちろん、すでに取り組みを始めている皆さまもぜひ本セミナーレポートをご一読ください。
オンラインセミナー開催概要
- セミナー名
- 企業版ふるさと納税を活用したワーケーションの取り組み方
- 日時
- 2020年10月28日(水)15:00~16:40
プログラム
- 「働き方のこれからのあたりまえ ワーケーション」
- 講師:ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス株式会社 取締役 人事総務本部長 島田 由香 氏
- 「ワーケーションを受け入る自治体のメリット・今後の課題」事例紹介対談
- 福井県高浜町総合政策課 野村 つとむ 氏
- 「企業版ふるさと納税の制度概要について」
- 講師:株式会社カルティブ 企業版ふるさと納税コンサルタント 小坪 拓也 氏
- 「企業版ふるさと納税を活用したワーケーションの可能性について」
- 担当:株式会社JTB 法人事業本部 事業推進部 地域交流事業チーム 中川 信治
第1部働き方のこれからのあたりまえ ワーケーション
第1部では「働き方改革」の先進企業ユニリーバ・ジャパンの島田 由香氏から、企業側のワーケーションの考え方、取り組みについて解説していただきました。
ワーケーションの魅力とは?
ワーク(仕事)とバケーション(休暇)を掛け合わせた造語である「ワーケーション」。国は国立・国定公園、温泉地でのワーケーションを推進しています。その効果として期待されているのは、従業員の創造性・幸福度・集中力の向上の3点です。温泉地や自然豊かな場所でのワーケーションを導入することは、企業にとって従業員の「Wellbeing(継続的幸福=心身ともに健康で社会的によい状態であること)」を向上できるというメリットがあります。
ビジネスへの影響
- ポジティブ感情の上昇による創造性・パフォーマンスの向上
- 地域とのつながりが起こすイノベーション
- サステナビリティ/SDGsにも貢献
Wellbeingの向上を実現するユニリーバ・ジャパンの取り組み
社員やリーダーの「Wellbeing」向上はビジネス成長のカギとなることから、すでに一部の企業では地域とタッグを組んだ「ワーケーション」の開発・実施が進んでいます。ユニリーバ・ジャパンの「地域de WAA」はその先進的な例です。
WAAとは?
「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」とは社員自身が働く場所・時間を自由に選べるユニリーバ・ジャパン独自の働き方です。同社の働き方のビジョンは、「よりいきいきと働き、健康でそれぞれのライフスタイルを継続して楽しみ、豊かな人生を送る」というもの。結果をきちんと出しさえすればいつどこで働いてもいいという原則のもと、2016年より運用されています。
制度の導入以降、社員の68%が「毎日の生活にポジティブな変化があると感じている」、75%が「生産性が上がったと感じている」と答えるなど、主観的Wellbeingの向上に成果が出ています。
ユニリーバ社員が地域の課題解決に挑む「地域de WAA」
そんなWAAの働き方と地域創生を掛け合わせたのが、ユニリーバ・ジャパン独自のワーケーション施策「地域de WAA」です。これは社員が自然豊かな環境で業務を行ったり、地域の方々と関わりあうことで、生産性やWellbeingの向上を図るもの。空いた時間に地域から提示された課題の解決に参画することで、宿泊が割引または無料になります。すでに7つの自治体・エリアがこの取り組みに賛同し、社員の受け入れを行っています。
「地域de WAA」においてユニリーバ・ジャパンが地域に依頼しているもの
- 社員がいつ行っても働くことができるコワーキングスペースの提供
- 社員が取り組める地域課題の提供
- 社員の宿泊代のサポート
自身も夏に2週間のワーケーションを経験した島田氏は、「在宅勤務と同じことを海の目の前でできる、朝晩は温泉にも入れる。そんな環境で働くことは、いつも同じ壁を見て仕事をしているのとは大きな差がある」とワーケーションの良さを実感したといいます。その語りつくせぬ魅力は「ぜひ多くのリーダーに経験してほしい」という受講者の皆様へのメッセージにまとめられました。
以下は島田氏がワーケーション受け入れ地域に求める要素をチェックリスト形式にまとめたものです。地域は「ワークもバケーションも両方しっかり体験できる」環境づくりを進めましょう。
ワーケーション度
□ コワーキングスペースの有無・数
□ 周囲の自然・景色
□ 周囲の飲食店・喫茶店の場所
□ コワーキングスペースまでの移動手段
□ 宿泊先
□ 現地でのアクティビティ
□ 地域の方とのかかわり
□ 地域課題解決へのかかわり
コワーキングスペースの状況
□ 安全チェック・COVID-19対策
□ Wi-Fi
□ 電源
□ 机・椅子・空間のデザイン・広さ
□ コーヒー・備品等
対談福井県高浜町総合政策課 野村つとむ氏との事例紹介対談
「地域 de WAA」の取り組みは、社員のWellbeingを向上させると同時に、地域の枠を超えた人材交流によってイノベーションを創出できる可能性を持っています。
セミナーでは「地域 de WAA」の7地域目として、ユニリーバ社員の受け入れを行っている福井県高浜町総合政策課の野村つとむ氏との事例対談も設けられました。福井県高浜町は、国際環境認証「ブルーフラッグ」をアジアで初めて取得したビーチや、禅(ZEN)を世界に広めた鈴木大拙の恩師ゆかりの地であることなどを活かした観光振興に力を入れています。
対談では、ワーケーションを推進することで得られる、企業と自治体それぞれのメリットが以下のように語られました。
企業のメリット
- 社員のWellbeingの向上で生産性が上がる、イノベーションが生まれる
- 地域の課題解決に関わることが個人の経験になる
- 地域のコワーキングスペースを利用するので会社で設備を持たなくてもいい
自治体のメリット
- 自治体の強み(観光資源・自然)と企業の強み(人材・専門性)を掛け合わせて問題解決に取り組める
- ワーケーションによる関係人口の増加は、地域創生が目指す「移住・定住」の足掛かりになる
- しっかり働ける場所さえあれば地域に仕事を持ち込める
⇒長期滞在が可能になり、災害時のボランティア等も受け入れやすい
今回のタッグはユニリーバ・ジャパン側からのオファーで実現していますが、野村氏はワーケーション誘致に関して当初から戸惑いはなく「地域の資源をいかして観光振興するという意味では、今までの観光の延長線上にある取り組みだった」とオファーを受けた当時を回顧。
対談の最後には、これからワーケーション受け入れに取り組む自治体関係者に向けて「まだ方法が完成してないからこそ、企業と自治体が一緒に取り組むことで生まれるシナジーはたくさんある。地域の人との触れ合いが訪問者の『まだ行きたい』につながることもあるので、まずはやってみることが大事」と激励のメッセージが贈られました。
第2部 前半企業版ふるさと納税の制度概要について
企業のワーケーション利用は今後急拡大するとみられていますが、いざワーケーション受け入れ整備に取り掛かろうとしても、コロナ禍への対応等で財源がひっ迫している地域も多いのが現状です。また、受け入れには環境の整備だけでなくワーケーション推進企業へのアピールについても具体的な指針を持つ必要があります。
第2部の前半では、株式会社カルティブ 企業版ふるさと納税コンサルタント 小坪 拓也 氏によって「企業版ふるさと納税」の制度や背景が解説されました。
ワーケーション施策における企業と自治体の連携
「企業版ふるさと納税」とは、国が認定した地方公共団体の地方創生プロジェクトに対して企業が寄附を行った場合に、寄附額の最大6割を法人関係税から税額控除する仕組みです。平成28年から始まり、正式名称を「地方創生応援税制」といいます。
下の図は自治体が「企業版ふるさと納税」を活用して寄附を募ることによって、ワーケーション推進企業とつながる様子を示したものです。
ワーケーション施策における企業と自治体の連携イメージ
自治体が「ワーケーション施設の改修」「ツアーの企画・設計」などの内容が含まれるプロジェクトを計画し、寄附を募れば、企業からの寄附で財源が確保できるうえ、ワーケーションを推進する企業とつながるきっかけを作ることができます。
以下はワーケーション推進によって双方が得られるメリットの一例です。自治体にとっては企業誘致による経済効果だけでなく、移住定住施策の推進や地域の外の目での魅力発掘など、様々な好影響が期待できます。
自治体のメリット
- 移住定住施策の推進
- 観光系施策の推進
- 企業誘致による経済効果
- ワーケーション利用者との関係づくり
- 地域の外の目で魅力発掘
- IT環境の整備が進む
企業のメリット
- 離職率低下
- 感染症に対するBCP体制の強化
- 社員の仕事の効率化
- 多様な働き方ができる企業としての
- ブランディング・プロモーション
企業版ふるさと納税をワーケーション推進に活用するには?
企業版ふるさと納税は以下のように運用されています。
地域が企業版ふるさと納税を受け入れるための手順
- 地方公共団体が「地方版総合戦略」を策定する……①
- 内閣府の認定を得た「地域再生計画」に対して企業が寄附を行う……②③④
- 企業が国に支払う法人税と企業が所属する自治体に支払う法人住民税・法人事業税から税制控除が受けられる……⑤
通常、企業が自治体に寄附をすると税制上は「損金算入」となり、法人関係税の軽減効果は約3割にとどまりますが、地方創生応援税制での控除が拡充されたことで、軽減効果は最大9割となりました。つまり、地方創生応援税制を使って企業が自治体に1,000万円の寄附をすると、最大900万円の法人関係税が軽減できることになります。
企業版ふるさと納税の活用状況
企業版ふるさと納税は、平成30年度のデータで受け入れ額3,454(百万円)、受け入れ件数1,336件の活用実績があります。国が「企業版ふるさと納税の拡充」に力を入れ始めた現在は、より認定が通りやすくなっており、すでに722(全体40%以上)の自治体が企業版ふるさと納税の受け入れ態勢を整えた状態です。(2020年10月12日時点)
前述の通り、ワーケーション事業に企業版ふるさと納税を充当すれば、財源不足解決と官民連携促進が同時に実現できます。認定の機会は年に3回あるので、ぜひ企業版ふるさと納税を活用したワーケーション受け入れ整備に取り組んでみましょう。
第2部 後半企業版ふるさと納税を活用したワーケーションの可能性について
第2部後半では、民間で唯一企業版ふるさと納税(地方創生応援税制)の決済機能付ポータルサイトを運営するJTBから、法人事業本部 事業推進部 地域交流事業チーム 中川 信治が登壇し、自治体が企業版ふるさと納税をワーケーション施策に活用する有用性について見解を述べました。
ワーケーションが移住・定住のきっかけに
首都圏から地方への「移住定住」は地方創生における重要な課題です。ワーケーション誘致で「交流人口」を増やすことが移住定住の第一歩になります。ワーケーションでの滞在が地域を気に入るきっかけになれば、滞在時間や訪問頻度の増加に寄与し、地域社会との関係性が高まっていくことで、その先の二拠点居住や移住定住が見えてきます。
ワーケーションの経済効果と地域のメリット
移住定住の促進はこれまで少子高齢化による人口減少に歯止めをかけたい地域側の願望という側面が目立っていましたが、新型コロナの流行以降は、密を避けることやテレワークの推進で現実的なシナリオになりつつあります。
国の交付金と企業版ふるさと納税の活用を
ワーケーションの受け入れ整備にかかる費用は今まで全額自治体負担でしたが、現在は国の交付金を利用することで財源を補うことが可能です。さらに、自治体負担分に企業版ふるさと納税を充当することで、より多くの負担を軽減できます。
令和3年度内閣府概算要求にある、国負担3/4の地方創生テレワーク交付金が企業版ふるさと納税の裏側に充当できれば、ますます使い勝手が良くなる可能性もあります。財源確保がワーケーションのボトルネックになっているなら、国の交付金と企業版ふるさと納税で財源を確保しましょう。
まとめ
ワーケーション受け入れ地域がすべきことは?企業のニーズに応えるために企業と地域がワーケーションを推進することには、双方に大きなメリットがあります。ともに課題解決を目指す関係性へ昇華することを目指して、ワーケーションへの取り組みを始めてみませんか?
去る11月17日(火)、JTBは企業担当者向けに今回と同様のセミナーを行い、受講者の方からアンケートを回収しました。「ワーケーション取り組みにあたり、受け入れの地域・自治体に求めることはどのようなことですか?」という質問に対しては、「コワーキングスペースで他企業、他業種の方との情報交換、交流できるようなスペースの整備」「地域の方と交流ができる仕組み」など、本セミナーでは触れられなかった企業のリアルな声も寄せられています。
アンケートの詳しい集計結果は資料ダウンロードでご確認ください。