日本国内には森林、火山、川、湖、海などの自然資源が豊富に存在し、訪日インバウンド市場の中でも大きな規模を持つアドベンチャーツーリズムは、交流人口の拡大と地域経済の循環に有効な手法として注目されています。経済活性化を図りたい地域にとっても非常に魅力的であり、地域の価値を「体験」として引き出す取り組みを進める自治体が増えています。本記事では、アドベンチャーツーリズムの概要と地域にもたらす効果について解説します。

アドベンチャーツーリズムとは?
世界最大のアドベンチャーツーリズム関連機関である「Adventure Travel Trade Association(ATTA)」によれば、アドベンチャーツーリズム(AT)とは、「『アクティビティ』、『自然』、『異文化体験』の3つの要素のうち2つ以上で構成される旅行形態」と定義されています。自然をテーマにした観光としては「エコツーリズム」や「グリーンツーリズム」が知られていますが、アドベンチャーツーリズムにはアクティビティや異文化体験が組み込まれ、「学び」よりも「楽しみ」を重視したレジャー性の高さが特徴です。
日本でATが発展している地域としては、40メートルの天然スライダーや滝つぼへのターザンジャンプを体験できる滑床渓谷(愛媛県)や、ハイキング、ウミガメウォッチング、ダイビング、カヤック、キャニオニングなど、多様なアクティビティが体験できる屋久島(鹿児島県)などがあります。
前述のATTAは、ATを嗜好する旅行者、いわゆる「アドベンチャー・トラベラー」が旅行を通じて求める体験価値として、以下の5つのキーワードを示しています。
01The Novel and Unique
ほかの場所で味わえない、その場所ならではの体験であると感じることができるか?
02Transformation
自己が成長・変化していくと感じることができるか?
03Challenge
身体的・心理的にさまざまな意味合いでの挑戦ができるか?
04Wellness
旅行前より心身ともに健康になったと感じられるか?
05Impact
文化や自然に対する悪影響を最低限に抑えられていると感じられるか?
アドベンチャートラベルの市場規模は成長中
アドベンチャーツーリズムの同義にあたるアドベンチャートラベル※の市場規模は、国際的にも中長期的に高い成長を続けています。
ATTAが公表した市場分析によると、世界のアドベンチャートラベル市場規模は2024年時点で約1兆1,600億米ドルに達しました。
これは、従来の『特定のアウトドア愛好家向け市場』から、『より幅広い旅行者層が参加する体験志向型市場』へと拡大していることを示しています。
ATTAは近年、アドベンチャートラベルを『身体的活動の有無』に限定せず、自然や文化との深い関わりを求める姿勢“Open to Adventure”を持つ旅行者全体として捉えており、この定義の拡張が市場規模拡大の背景にあると指摘しています。ハイキングやサイクリングといった従来型アクティビティに加え、地域の食、生活文化、ストーリーに触れる体験も、アドベンチャートラベル市場を構成する重要な要素となっています。
こうした世界的な流れの中で、2023年にはアドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)が北海道で開催されました。これは、日本各地が有する自然・文化資源との親和性は高く、今後、日本におけるアドベンチャートラベルは、地方誘客や高付加価値型観光を支える重要な分野として、さらなる成長が期待されています。
参考:Adventure Travel Market Sizing and the New Adventure Traveler
本記事では、主に市場や観光施策の文脈において「アドベンチャーツーリズム」と「アドベンチャートラベル」をほぼ同義の概念として扱いますが、厳密には用語の定義や視点の違いにより使い分けられる場合があります。詳しくは、以下の記事をご参照ください。https://www.jtbbwt.com/government/trend/detail/id=2749
アドベンチャーツーリズムの魅力とは?
アドベンチャーツーリズムは、旅行者自らがその土地をじっくり歩き、五感を使って地域のストーリーを感じる旅行スタイルです。体験できる場所、体験目的、体験の難易度によってさまざまなタイプに分類されますが、多くのAT旅行商品にはハイキング、トレッキング、サイクリング、ラフティング、カヤッキングなどが盛り込まれています。
出典:「地域の自然体験型観光コンテンツ」/国土交通省 観光庁 観光資源課
ハイキングやラフティングなどのアクティビティは、単なる「アウトドア体験」の枠にとどまらず、自然の豊かさを感じ、そのエリアの生態系や歴史文化を自らが体験するための手段にもなります。
魅力01その土地でしか体験できない本物の体験を楽しめる
アドベンチャーツーリズム(AT)では、地域の自然資源と文化、伝統、歴史等を掛け合わせることで新たな体験価値が生まれます。体験の内容としては、エキサイティングかつスリリングなアクティビティが印象的ですが、旅行慣れした旅行者ほど地域住民との交流体験を求めており、その土地に精通したガイドを伴うツアーに人気が集まりやすい傾向があります。
魅力02内面からの変化や視野の拡大を実現
出会ったことのない景色とともに、新しい自分を発見できることもアドベンチャーツーリズム(AT)の魅力です。サイクリングやウォーキングを含むトレイルツーリングへの参加者は、自分自身の内面からの変化や視野の拡大を求めているので、滞在期間も長くなる傾向があります。さらに、そうした旅行者は個人の体験を大切にするため、SNSなどを情報源に個人で旅行を手配する場合が多く、ひとり旅行者も増加しています。
推進する自治体のメリットは?
新しい旅行形態として、アドベンチャーツーリズム(AT)を推進することは自治体にとっては大きく分けて2つのメリットがあると考えられます。
1つは地方創生です。ATを好む旅行者の関心は地域の特産品や造形物にとどまらず、そこに暮らす人々との交流や暮らしにまで広がっています。ATでは地域ならではのストーリーを観光資源として活かすことができ、地域課題とも密接に関わる古民家・空き家の活用や自然環境保全にも好影響を及ぼします。また、アクティビティにおける各種ギアや、エンタメや食を含む異文化などには消費拡大に貢献する要素が含まれており、経済振興も期待できます。
2つ目は、既存の観光が抱える課題を解決に導く点です。近年の日本におけるツーリズムは一部の地域に外国人旅行者が集中し、自然や文化資源への影響が懸念されています。こうしたツーリズムに一石を投じるのがATです。例えば、ATでは移動においても効率より旅行者自身の力を使うことが重要な要素とされています。また、時間をかけてその土地の自然や歴史文化を体験することに重きが置かれているため、観光客数の「量」の観光から経済・社会的な観点でのサステナブルな効果を目指す「質」の観光へとシフトできます。まさに日本が目指す観光立国の姿と言えるでしょう。
まとめ
アドベンチャートラベル・ワールドサミット(ATWS)2023が北海道で開催されたことは、日本の自然・文化資源を活かしたアドベンチャーツーリズムの可能性を国際的に示す象徴的な出来事となりました。
ATTAが示す『没入型・地域密着型体験』への需要の高まりと、日本各地が有する自然・文化資源との親和性は高く、日本におけるアドベンチャーツーリズムは、地方誘客や高付加価値型観光を支える重要な分野として、さらなる成長が期待されています。
今後、自治体が地方創生を目的として、アドベンチャーツーリズムを推進していくためには、旅行者のニーズを踏まえて自然体験型コンテンツの造成や商品化に取り組むマーケティング視点が求められます。また、どのようにしてコンテンツを共に開発・提供する事業者を育成するのか、自然環境・観光資源の価値を保全していくかも重要な視点となります。
最後に紹介するホワイトペーパー(お役立ち資料)「Tourism1.5 ~ツーリズムフォワード~(Vol.3)」では、スイスと北海道・大雪山のアドベンチャーツーリズムの取り組み事例を記載しています。ぜひ、ご覧いただきお役立てください。
