観光スポットの認知度アップや回遊率の向上、域内消費の促進などを実現するには、客観的なデータや緻密な仮説を基にした全体戦略が重要です。JTBは「大学生観光まちづくりコンテスト(通称「GAKU-MACHI」)」の事務局業務を担い、全国の大学生から地域資源を発掘・活用した地域を活性化させる企画を募っています。柔軟な発想で生み出されたアイデアは、持続可能なまちづくりのヒントになるだけでなく、大学生と地域の交流が思わぬ相乗効果を創出することもあります。
本記事では、これまで「大学生観光まちづくりコンテスト」に参画した自治体・団体に、エントリーしたきっかけや事業を通して得られた気づき、まちづくりへの効果を取材しました。ぜひ、地域課題の解決にこの取り組みを活用されてはいかがでしょうか。
大学生観光まちづくりコンテスト、通称「GAKU-MACHI」とは?
「大学生観光まちづくりコンテスト」通称「GAKU-MACHI(がくまち)」は、大学生のチームが対象地域と指定テーマに沿って地域を活性化させる企画を立案し、その内容を競うコンテストです。
参加条件は、国内の大学に在学する大学生・大学院生(2~9名)で構成される『チーム』であること、指導教職員(1名)がいることの2点です。審査は「書類審査」と「本選審査」の2段階で行い、事務局による「書類審査」を通過したプランのみ本選に進み、ステージで10分間のプレゼンテーションを行います。(2020年度はプレゼンテーション動画による審査)
審査項目は「新規性・創造性」「効果」「実現可能性」「論理的構成」の4つで、総合点で各賞を決定します。魅力的なプランやアイデアは、JTBグループや自治体および地域企業等が、商品化やプロジェクト化を検討し、地域活性化の具体策としてまちづくりに活かされます。
2021年度は「北陸ならではの資源を活かした広域周遊型の『持続可能な観光まちづくり』」「ニューノーマル時代に対応する観光まちづくり」の2つテーマに、具体的なプランの募集がスタートしました(※出場チームのエントリーは締め切りました)。一体どんなアイデアが集まるのか、今年も地域の高い期待を背負ってプロジェクトが進行しています。
大学生のプランが出来上がるまで
コンテストで募集するのは単なるツアー企画ではなく、地域資源を発掘・活用し、観光を通じて地域を活性化させる企画です。
プラン作成に当たっては、メンバー間での打ち合わせのほか、実際に対象地域に出向き、住民や自治体職員、企業等の協力のもとアンケート調査やヒアリングを行います。コロナ禍においては、感染症拡大防止の観点から現地でのフィールドワークを必須とせず、打ち合わせにもWEB会議等の活用を推奨していますが、近年はインスタグラム等のSNSを用いて調査を行う学生チームが現れるなど、調査方法にも学生ならではの工夫が見られています。
コンテストをご活用いただいた自治体・団体の声
2011年から続くこのイベントは、参加地域・団体にさまざまなインパクトをもたらしてきました。実用化・商品化に向けて実証実験が進んでいるプランや、継続的なプロジェクトとなって学生が世代交代をしながら参画している事業も生まれています。
ここからは、過去の参加自治体・団体に行った取材から、エントリーのきっかけ、印象に残っている企画、まちづくりへの影響などを紹介します。
01 事例 北陸ステージ
- 北陸経済連合会 観光担当 副部長 高田 香里 氏
参加年度と募集テーマ
- 2018年度
- 北陸の文化振興を促す「観光まちづくり」
- 2019年度
- 北陸ならではの資源を活かした広域周遊型の「観光まちづくり」
- 2021年度
- 北陸ならではの資源を活かした広域周遊型の「持続可能な観光まちづくり」
大学生観光まちづくりコンテストに期待すること
初めてエントリーしたのは北陸新幹線が開通して間もないころで、北陸三県(富山・石川・福井)で観光を活性化しようという機運が高まっていた時期でした。北陸新幹線は、2023年度末までの金沢・敦賀(福井)間の開業、さらに2030年頃の大阪までの全線開業を目指しています。関西までつながれば、北陸はますます魅力的な観光エリアになります。これまでは石川、富山、福井を周ってもらうことをメインテーマにしていましたが、今年はオーバーツーリズムの懸念と向き合い「北陸の自然や産業や人も大事にしたい」という思いで「持続可能」という観点もテーマに加えました。
毎年、大学生の企画から驚きや発見をもらっていますが、今年も柔軟な発想で、「コロナが収束したら旅行に行きたい!」とウズウズしている人に響くアイデアを考えてくれたら嬉しいです。北陸のブランディングにつながる戦略的なアイデアに期待したいですね。
コンテストに参加して得られた気づき
2019年度に観光庁長官賞(大賞)を受賞した『夕暮れおしゃべり酒場認定店制度(中京大学国際英語学部)』は、バーや居酒屋のハッピーアワーを利用し、若い女性に北陸の日本酒とそれに合うおつまみや和菓子を楽しんでもらう取り組みでした。「日本酒を世界に向けてPRしたい」という学生さんの気持ちと、飲食店のまだ混雑していない時間、場所、食といった地域の資源が調和した見事な内容で、コンテスト発の企画としては初となる実証実験も行いました。
実証実験では地元のバーにご協力いただいたのですが、ご亭主が大学生の来訪を大変喜んでくださったのが印象的です。ご協力いただいた酒蔵さんや和菓子屋さんとの縁が別のビジネスにもつながり、人と人との交流は学生さんの学びだけでなく地域経済にとっても重要であることを改めて実感しました。
実際の企画書はこちら: 大学生観光まちづくりコンテスト公式サイト
大学生観光まちづくりコンテスト2019北陸ステージ 観光庁長官賞(大賞)受賞
『夕暮れおしゃべり酒場認定店制度』(中京大学国際英語学部)
観光まちづくりに課題を抱える自治体にメッセージをお願いします。
地域の“外”に住む人、それも大学生という若い世代からアイデアをいただく機会はとても貴重です。地元にいると「北陸の魅力はこれ」という考えが凝り固まってくるので、大学生の型にはまらない発想は非常にありがたいですね。大賞アイデア以外にも、雨が多い北陸の天候をポジティブに転換し、レンタル傘で観光地をつなぐ周遊促進策や、「コケ」を観光資源として磨き上げる企画など、興味深いアイデアがたくさん集まりました。
コンテストには、観光人財の発掘・育成や地域活性化といったねらいももちろんありますが、地域の関係人口を増やすという意味合いでも参加する意義を感じています。学生さんが卒業後にどんな進路を選んだとしても、いつかまた北陸に遊びに来てくれたら嬉しいですね。フィールドワークで地域の魅力に触れてもらい、「北陸いいよ!」と周りに話してもらえたら、それだけでも北陸観光の力になると信じています。
観光やまちづくりで悩んでいる自治体の方には、ぜひ一度エントリーをおすすめしたいです。
02 事例 多摩川ステージ
- 公益財団法人 河川財団 理事長 関 克己 氏
(元)関東地方整備局 京浜河川事務所 管理課長 黒沼 尚史 氏
参加年度と募集テーマ
- 2017年度
- かわまちづくりを意識した「観光まちづくり」
- 2018年度
- 多摩川の資源を活かした「観光まちづくり」
環境保全・防災を身近に考えてもらうために
当時京浜河川事務所では、廃棄物である堤防除草効率化のため、地域の資源として活用するアイデアを求めていました。河川財団は長年、堤防における植生管理の研究を行っており、堤防植生管理手法の共同研究を行っていた関係から、京浜河川事務所から河川財団へコンテストの活用を相談してエントリーが実現しました。
川の安全は防災と直結しており、堤防点検を効率的に行うためには除草などのメンテナンスが不可欠ですが、地域の方が除草の必要性や、刈り草の処分について知る機会はほとんどありません。そのため、コスト削減や資源の活用を実現しながら、環境保全や防災をより身近に考えられるようなきっかけとして、これから社会人になる大学生に河川を知ってもらい、考えてもらう良い機会だと考えました。
表彰アイデアの評価ポイントと関連プロジェクトの動き
2017年に「ミズベリング賞」として表彰した『多摩川循環型デルタシステム』は、堤防刈草ペレット(固形燃料)活用を中心に、教育、地域振興、環境問題をリンクさせた地域資源の活用プランです。市民(小中学生)が多摩川河川敷の草刈りを行い、ペレット製造会社がその雑草を燃料に加工、そして生まれたペレットを川崎市のイノベーション拠点「キングスカイフロント」で活用することで、多摩川沿いの観光の向上とエネルギーの地産地消を目指すアイデアでした。
実際の企画書はこちら:大学生観光まちづくりコンテスト公式サイト
大学生観光まちづくりコンテスト2017多摩川ステージ ミズベリング賞
『多摩川循環型デルタシステム』(Seventy-Nine:東京国際大学)
この企画の素晴らしいところは、堤防の刈草が地域を循環する資源やエネルギーの循環として実現性のあるシステムとして組み立てられている点です。住民、企業、団体が分担して資源を活用する方法が練られていたので驚きましたね。「キングスカイフロント」に循環型、持続可能性というキーワードを関連付けることで、過去の工業地帯のマイナスイメージを未来都市のようなポジティブに変換した点も評価のポイントです。ここから生まれた地域資源の活用プランは、多摩川交流センターを拠点に、産学官連携プロジェクト(COC)として今も研究が続けられています。
ほかの提案には、多摩川沿いの生えすぎた樹木を薪ストーブの燃料として活用するプランなどがありました。学生の協力のもと、実際に薪ストーブでピザを焼くイベントを開催したところ2000人ほどの集客があったと聞いています。その後も、河川の利用マナー向上をPRする「水辺で乾杯」というイベントに大学生が顔を出してくれるなど、さまざまな取り組みに波及しました。
防災・環境保全の大切さを知る社会人としての活躍に期待
コンテストに関わる中で強く印象に残っているのは、学生チームが実際に自ら現地調査を行い、多摩川沿いエリアの課題を細かく分析していたことです。環境や美観を守る意義というのは言葉だけではなかなか伝わらないので、これから社会を作っていく立場の大学生が夏休みの大半の時間を割き、五感を使って水辺の課題と向き合ってくれたという事実に期待が膨らみます。
また、実地調査を経て生み出された企画の数々が、SDGsや持続可能性の視点を取り入れた「時代の先駆け」とも言えるアイデアで、大学生の熱意とチームワークがあってこそ生み出せるものだと思います。このコンテストで水辺の環境保全や資源活用の大切さに触れた大学生が、社会の一員として新しい時代を作ってくれることを楽しみにしています。
03 事例 茨城ステージ
- 茨城県庁東京渉外局PR・誘致チーム 梶山 秀樹 氏
参加年度と募集テーマ
- 2018年度
- 魅力度最下位脱出に向けた「観光まちづくり」
- 2019年度
- 茨城の宿泊観光促進に向けた「観光まちづくり」
茨城の体験・周遊型観光促進に向けた「観光まちづくり」
練り上げられたプランは、いつ見返しても『魅力的』
茨城県では、2017年より『若者目線を活用した観光資源発掘事業』を通じて、県内の高校生・大学生から観光街づくりに関するさまざまなアイデアを募ってきました。2018年、2019年はその取り組みを『大学生観光まちづくりコンテスト』へのエントリーにシフトさせ、より個性に富んだ、新しい視点でのアイデアを得ることができました。
茨城県を含む北関東は都心からのアクセスも良く、本当は魅力にあふれているエリアですが、住民や観光客に観光地としての魅力が伝わっていないことが長年の課題でした。日帰りで訪問できる距離だからこそ「長くとどまってもらえない」「観光地の周遊に至らない」など悩みも多く、集客も「水戸の梅まつり」など単発のイベントに頼りがち…。地域の資源を活用し、閑散期を盛り上げる具体的なアイデアが見つかれば、とエントリーを決めました。
圧巻の企画に感動した1年目、高い期待を上回る2年目
大学生から意見を募るということで、審査の前まではキャッチーでわかりやすい企画が来ることを予想していましたが、実際はターゲットの潜在ニーズをくすぐるような戦略的なプランが多かったのが意外でした。どの企画も地域の魅力のうち何に着目するのかをしっかり検討したうえで細部が練られており、100チームの応募から書類審査で10件に絞るのが大変でしたね。
2018年の観光庁長官賞に輝いたのは、弘道館、偕楽園といった史跡をめぐり、水戸の歴史と「一張一弛(いっちょういっし)」の思想を追体験する『水戸で楽しむ大人の修学旅行』です。水戸に根付く価値観や伝統工芸品の提灯など、地域が大切にしてきた資源を誘客のフックとしてうまく活用した点が我々自治体職員の心に刺さりました。年間を通して開催できるプランなら、季節による誘客力の差を埋めることもできます。「他県で学ぶ大学生が限られた時間でここまでのプランを考えてくるとは…」と一同衝撃を受けました。
実際の企画書はこちら: 大学生観光まちづくりコンテスト公式サイト
大学生観光まちづくりコンテスト2018茨城ステージ 観光庁長官賞
『水戸で楽しむ大人のための修学旅行』(まとり:千葉大学)
2019年は、日本夜景遺産の筑波山山頂に宿泊する『Tree Tech a Night!ツレテカナイト!』が大賞に選ばれましたが、他の企画も非常に骨太で、それぞれのチームが1年目の受賞プランを研究し、工夫を重ねたことが資料からひしひしと伝わってきました。大賞アイデアは首都圏の子連れ家族のニーズとつくばの魅力を上手にすり合わせた企画で、今見返しても非常に魅力的です。中にはすでに施設や事業者の承認を得ているコンテンツもあり、実現可能性という面でも文句の付けどころがありませんでした。
実際の企画書はこちら: 大学生観光まちづくりコンテスト公式サイト
大学生観光まちづくりコンテスト2019茨城ステージ 観光庁長官賞
『Tree Tech a Night!!!』(明治大学 木寺ゼミナール)
学生の発想とチームワークが職員の刺激にも、まちづくりの楽しさを再発見
水戸市では2018年の観光庁長官賞アイデアをもとに、ペンライトやスマホのライト機能を提灯に見立て、80名の参加者が千波湖沿いを歩くイベントも開催されました。イベントの一環で黄門様の像をピンクにライトアップしたのですが、これがSNSで話題になったのがいい思い出です。
学生たちのプレゼンテーションの後、意見交換会で学生たちと交流できることもこのコンテストの魅力です。高い志を持っている職員の刺激になればと、プレゼンテーションにはあえて若手職員を連れて行きました。普段の職場でアイデアを出そうとすると、煮詰まってしまったり、考える前から「難しい」とあきらめてしまったりしがちですが、型にはまらない学生さんの意見や、勢いのようなものを肌で感じることは職員のモチベーションにもなりますね。コンテストの後、私もまちづくりの楽しさや、チームで役割分担をすることの大切さなど、初心を思い出しました。
このコンテストでは、大学生が地域課題を多角的に分析し、柔軟な発想で生み出すさまざまなアイデアと出会えます。当時のプレゼン資料は今見返しても、イベント企画やコンテンツ開発に使えそうなものばかりです。コロナ禍を経た今だからこそ世間に発信したい茨城の魅力もあるので、これからの観光施策のヒントとして過去2回のコンテストで得たアイデアを活用したいと思います。
まとめ
大学生のアイデアが地域の力に!
大学生観光まちづくりコンテストは、年に一度の開催ながら多くの自治体・団体様にご参加いただき、交流人口の創出や各種施策の立案に貢献しています。大学生ならではの視点でのアイデアだけではなく、大学生と交流したり、本コンテストをきっかけに地域の人々が協力し合ったりと、人と人との絆も生み出します。地域住民や自治体職員以外の視点を持続可能なまちづくりに取り入れるために、「大学生観光まちづくりコンテスト」を活用されてみてはいかがでしょうか。大学生観光まちづくりコンテストについて、さら詳しく知りたい方へ、2020年度の報告書を用意しました。ぜひ、ご覧ください。