近年、CMやSNSで頻繁に取り上げられ、利用者が増加した「ふるさと納税」。多くの自治体が、特産物を返礼品とすることで地域のPRをしたり、地元産業の活性化につなげようと活動しています。
では、2016年から開始された「企業版ふるさと納税」はご存知でしょうか?こちらは、地方公共団体が行う地方創生プロジェクトに対し、企業からの寄付を募ることができるという制度です。
雇用の創出や、移住・定住の促進、結婚・出産・子育ての支援、まちづくり等、地方創生を推進する幅広い分野のプロジェクトが対象となる「企業版ふるさと納税」。その概要から、実際に企業から寄付を募り、目標を達成したプロジェクトの事例までご紹介していきます。
INDEX
- 企業の力を活かして、地域の課題解決の先へ
- 地方自治体と企業、双方の新しい価値を創出
- 事例1 岡山県瀬戸内市「山鳥毛(さんちょうもう)里帰りプロジェクト」
- 事例2 岐阜県飛騨市「飛騨神岡宇宙最先端科学パーク構想」
- まとめ
企業の力を活かして、地域の課題解決の先へ
人口の減少や、観光資源の発掘・維持、環境保護問題など、地域の抱える課題は年々深刻化しており、自治体の財源だけでは解決することが難しいものも多くあります。
そこで、注目を集めたのが「企業版ふるさと納税」。豊富なノウハウや人材など、企業のもつ力を地方自治体のプロジェクトに活かし、課題解決に向けて取り組むきっかけづくりを担います。
これまで出会うことのなかった地域と企業が新たにつながることで、地域の課題解決にとどまらず、双方の発展に結びつくことも期待されています。
地方自治体と企業、双方の新しい価値を創出
「企業版ふるさと納税」が個人版と大きく異なる点は、「自治体から企業側に返礼品を贈るなど、経済的な利益を発生させてはならない」というルールがあること。
しかし、企業にとってもさまざまなメリットがあります。例えば、地方公共団体の地方創生プロジェクトに対して寄付を行った場合、寄付額の約6割が法人関係税から税額控除されるという仕組み。令和2年度の大幅な税制改正によって企業の関心がより高まり、寄付金額は前年比約3.3倍、寄付件数は約1.7倍にのぼりました。
さらに、地方のプロジェクトに賛同することで、企業の人材育成や、SDGs達成に向けた取組みの推進、地域資源を活用した新事業の展開などにつながることも、企業にとっての大きな付加価値。志ある多くの企業が、この制度の活用を始めています。
実際に「企業版ふるさと納税」を活用して寄付を募り、地方自治体と企業、双方に新しい価値を創出したプロジェクトの中から、「地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)に係る大臣表彰」を受賞した2つの事例をご紹介します。
01 岡山県瀬戸内市の事例 山鳥毛(さんちょうもう)里帰りプロジェクト
「企業版ふるさと納税」と、ファンディング(資金調達)の実績として史上最大規模の寄付を集めたことで注目されたのが、岡山県瀬戸内市の「山鳥毛(さんちょうもう)里帰りプロジェクト」です。
国宝の備前刀「山鳥毛」が、故郷・瀬戸内市へ
過去、刀剣の生産地として名を馳せた瀬戸内市(旧長船町)は、日本刀の歴史を受け継ぐべく、1983年に日本刀を専門展示する施設「備前長船刀剣博物館」を設立。2018年1月、同市に、国宝である備前刀「山鳥毛(さんちょうもう)」を譲渡したいという所有者からの申し出がありました。
その作風から、瀬戸内市で作られたとされる「山鳥毛」を博物館に迎えることは、刀剣文化の継承、観光資源としての活用など、大きな効果をもたらすことが期待されました。しかし、算出された刀の譲渡価格(資産価値)は5億円。市は、市民の税金を充てるのではなく、刀剣を愛する方々から広く寄付を募りたいと考え、その方法を模索しました。
そして2018年5月から、「企業版ふるさと納税」や「(個人版)ふるさと納税を基本としたクラウドファンディング」など、複数の手法を組み合わせて資金調達を開始しました。
自治体と企業のアイデアでプロジェクトを盛り上げる
ファンディングの目標金額は、刀の譲渡価格に加え、展示に必要となる施設の整備費用も加えた5億1309万円。市長が直接企業回りをして寄付を募った効果もあり、開始から3カ月で寄付総額は2億5000万円に上りましたが、半年が経過する頃、寄付金額の伸びが一時低迷しました。
しかし、市の関係者はめげることなく、「寄付者に山鳥毛の共同オーナーに」という案の採用や、「山鳥毛が市に里帰りしたら何をする?」というテーマのアイデアコンテスト、前所有者の厚意のもと山鳥毛を借用した「1週間限りの一時里帰り展」の開催など、あらゆる手段を用いて活動。博物館に寄付企業名を展示するなど、企業向けの企画も行いました。
さらに、企業側からの申し出により、山鳥毛の画と「山鳥毛が未来を照らす瀬戸内市」「ふるさと納税にご協力ください」という文章をラッピングしたトラックを走行させるPR企画も実現。市内外問わず多くの人の関心を集めました。
自治体と企業が一緒にプロジェクトを盛り上げた結果、目標を大きく上回る8億8000万円超の寄付金額を達成。そして山鳥毛は、瀬戸内市に里帰りを果たしたのです。
その後、支援企業から寄せられたのは「プロモーション効果があった」「社員に名誉感が生まれた」という声。またこのプロジェクトに協力したいという参加意識が醸成され、自治体と企業の深いつながりをつくることも実現しました。
02 岐阜県飛騨市の事例 飛騨神岡宇宙最先端科学パーク構想
世界最先端の研究を行ういくつもの施設がある岐阜県飛騨市。ここで行われている宇宙物理学研究を見て学べる施設「ひだ宇宙科学館 カミオカラボ」を設立し、交流人口を増やすことを目指して、「飛騨神岡宇宙最先端科学パーク構想」というプロジェクトを開始しました。
宇宙物理学研究を体感できる「ひだ宇宙科学館 カミオカラボ」の設立
飛騨市は、2015年にノーベル物理学賞を受賞した二人の物理学者、小柴昌俊博士と梶田隆章博士にゆかりのあるまち。両博士がニュートリノという素粒子の研究を進める際に使用した研究装置「カミオカンデ(昭和58年完成)」、及び「スーパーカミオカンデ(平成8年から稼働)」があることでも知られています。
ノーベル物理学賞受賞のニュースが流れた際、研究に関心を持った人々から、施設の見学を希望する声が多く寄せられました。しかし、研究施設に一般の見学希望者を迎え入れるのは難しく、受け入れを断念。
そこで、市内の宇宙物理学研究をわかりやすく紹介する科学館の設立を発案し、「企業版ふるさと納税」を活用した資金調達に乗り出しました。
このプロジェクトを進めるにあたり、都竹淳也市長は率先して行動。企業や大学へ出向き、説明も自ら行ったことで、飛騨市と関わりのある企業が続々と参画したほか、東京大学宇宙線研究所と東北大学も施設の監修として加わりました。
最終的には17の企業から賛同を得ることができ、寄付金の総額は1億4860万円に。市長が主体となって職員とともに動き、官民学による一体的な取組みを行ったことで、プロジェクトは成功を収めることができました。
最新技術や観光資源と組み合わせ、さらなる交流人口の増加へ
カミオカラボは、「道の駅に併設すれば、市外・県外から立ち寄った方も、ふらっと見学できるのではないか」と考えられ、「道の駅 宙ドーム・神岡(スカイドーム神岡)」に建てられました。無料で宇宙物理学研究を疑似体験できる施設として好評を博し、開館初年度は13万人の来館者を達成。
現在はコロナ禍で来館が叶わない方に向け、仮想空間上に設けた「バーチャルカミオカラボ」や、オンライン会議システムを使った団体向けのオンラインガイドツアーなどの新しい試みも始めています。
さらに今後に向け、室町から戦国時代の武将・江馬氏の館跡にある江馬氏館跡公園や、旧神岡鉄道のレールをマウンテンバイクで走る「レールマウンテンバイク Gattan go!!」など、市のほかの観光資源と組み合わせた取組みも計画。飛騨市の交流人口増加に向けた活動は、この先も続いていきます。
まとめ
「企業版ふるさと納税サイト ふるコネ」では、今回ご紹介した事例のほか、環境保全や地域活性化などをテーマにしたさまざまなプロジェクトを掲載しています。企業からの寄付を募り、地域の抱える課題を解決。そしてその先に、自治体と企業、双方の新しい価値を創出した活動がいくつも生まれています。「企業版ふるさと納税」を通じて生まれる企業とのつながりは、まちの未来を拓いていく可能性に満ちています。