国内の人口は、2000年代後半から減少傾向です。これは、出生率の低下が主な要因であり、首都圏であっても少子高齢化が進んでいます。地域では、急激な人口減少と少子高齢化により、多くの市町村が存続の危機に瀕しているのです。
記事では、このような環境下でどうやって地域創生に取り組めばよいのか基本的な知識を解説し、自治体における地域創生の取り組みを紹介します。
地域創生とは
2014年に第二次安倍内閣は、地域創生として地域活性化の政策を打ち出しました。「まち・ひと・しごと創生法」が地域創生の根拠であり、この法律を基に、地域の人口減少に歯止めを欠けることを目指しています。
地域経済圏の産業を成長させる直接的な政策を施し、安定した雇用を維持させることが重要です。雇用が安定すれば、地域の消費を促し、地域経済の強化や安定化につながります。地産地消を促せることができれば、地域経済はさらに強固なものになるはずです。
地域創生が必要な背景
地域創生が必要となった背景には、少子高齢化と急速に進む地域の人口減少があります。2020年の出生率は1.33※1です。5年連続で前年を下回っており、出生率の統計を取り始めてから最も低くなりました。
都市や街は、一定の人口がなければ、日々の暮らしをおくることが難しくなります。人口が少なければ、銀行やスーパーマーケットなどの各種サービスの撤退が早まります。人口が少なければ採算がとれなくなり、企業や商店が撤退することは当然です。地域の市区町村を維持するためには、人口減少が定着することを防がなければなりません。
日本創成会議が発表しているデータでは、2040年までに896の市町村が消滅する可能性があるとされています。これは、2010年の国勢調査に基づいた試算であり、2040年時点での20歳から39歳の女性人口が半減する自治体を「消滅可能性都市」※2としたデータです。
2:日本創成会議 全国市区町村別「20~39歳女性」の将来推計人口
地域創生の基本的な目標
地域創生を達成しなければ、多くの自治体が消滅するかもしれません。ここでは、地域創生の基本的な目標を解説します。
01地域に仕事をつくる
地域に仕事がなければ、首都圏などの主要都市に人口が集中します。首都圏に人口が集中しているのは、地域での雇用がなくなっている証拠です。首都圏に若い人が集中しないように、地域で働ける環境を整備しなければなりません。地域に仕事を作ることが大きな目標です。
「まち・ひと・しごと創生法」では、地域経済を担っている企業の支援だけでなく、雇用を生み出す地域のイノベーションを推進しています。観光地づくりの一環として、地域の歴史や街並みを活かした地域活性化が重要です。その地域ならでは産業を復活させたり、事業承継を進めたりすることも、地域に仕事をつくる方法です。
02地域への人の流れをつくる
地域の人口を増やすためには、首都圏などの大都市への転入の流れを反対方向の地域へと向けなければなりません。地域への人の流れを作ることも重要な目標です。働き方改革によるテレワークの影響で、地域へ移住する現役世代が増えています。
しかし、利便性や人間関係が障壁となって移住を決断できない人が少なくありません。政府としては、政府機関の地域移転や企業の地域拠点強化、サテライトオフィスの推進などを通して、地域への流れを生み出そうとしています。
03結婚・出産・子育ての希望を叶える
前述しましたが、人口の流出とともに出生率の低下も大きな問題です。出生率が低下している原因として、若い世代が将来への不安を抱いていることが挙げられます。経済的不安や出産の不安、子育てへの不安などを取り除ける支援が必要です。
政府は、経済的安定を図る目的として、「正社員実現加速プロジェクト」を推進しています。「子育て世代包括支援センター」の整備により、妊娠出産の切れ目がない支援も目指しています。肝心なのは、子育て世代の不安を取り除くことであり、核家族化の中では、行政の役割が重要です。
04時代に合った地域づくり
利便性は主要な都市だけではなく、地域にも求められています。地域であっても、自分の将来を安心して暮らせる環境がなければ、都市部に戻ることになるかもしれません。
時代に合った、利便性が良い暮らしをできるようにしなければなりませんが、そのハードルは地域にとって高いハードルです。老朽化したインフラの維持や学校の再開、空き家対策などが求められています。
地域創生のための主な取り組み
地域創生のためには、地域の事情に適した取り組みが肝心です。ここでは、国や地域自治体が取り組んでいる施策を解説します。
Uターン起業
政府や自治体は、地域で起業する起業家を支援しています。地域で起業したり、移住したりする人などを対象に補助金を交付しています。
地域で起業することを目的とした移住には、最大300万円が交付されるものもあります。Uターンして起業する個人にとっては、企業のための資金を得られるため起業がしやすく、地域にとっては、新たな財源確保や雇用確保、産業の発展が期待できます。
海外プロモーション
外国人観光客が日本を訪れるインバウンドは、地域創生にも大きな恩恵をもたらせてくれていました。2020年からの新型コロナウイルス感染症の世界的パンデミックにより、外国人観光客が激減しています。そのような環境下だからこそ、地域自治体は地域をアピールする海外プロモーションを、さらに進化・発展させなければなりません。
SNSや動画などオンライン手法を活用すれば、継続的に外国人観光客に地域の魅力をアピールできます。海外向けECサイトを構築すれば、地域の特産品の販売ルートの強化が可能です。デジタルツールを活かした海外プロモーションは、地域創生の取り組みの1つになります。
サテライトオフィス開設
本社機能などの拠点を首都圏に置いたままで、地域にサテライトオフィスを開設する企業が増えています。政策としては、「ふるさとテレワーク」を創設しています。地域でサテライトオフィスを開設する企業に、補助金を交付する制度です。
この制度は首都圏の企業が、地域へ進出するきっかけづくりとなっています。さらに、地域の優秀な人財を雇用できるチャンスも得られるため、すでに地域進出している企業も少なくありません。勤務地の選択肢が広がれば、社員の離職率を下げる効果も期待できます。
自治体SDGs
SDGsは「誰一人として取り残さない」世界の実現につなげるために、国連本部で採択された17の目標です。地域創生による持続可能な自治体へと変貌させることはSDGs達成にも寄与します。
すでに多くの自治体でSDGsの目標達成を取り入れた取り組みが始まっています。環境問題に関心のある人は、SDGsに対して積極的に取り組んでいる自治体に魅力を感じるのではないでしょうか。
地域創生を自治体で取り入れるメリット
各自治体は、地域創生を取り入れることで大きなメリットを得られます。ここでは、代表的なメリットを3つ紹介します。
メリット01地元民からの支援が受けられる
自治体の取り組みにもよりますが、地域創生は地元民からの支援を受けられるケースが多くあります。自治体が、国の施策だけでなく独自の支援制度を創設することで、地域創生の賛同者から支援を受けられる場合や、協力が得られることがあります。
具体的には、税を一定期間免除する制度設計や補助金や助成金を支給することなどです。地域が活性化すれば、地元民からのさらなる支援を受けられる可能性もあります。地域創生に真剣に取り組めば、持続可能な自治体へと成長する可能性が高まります。
メリット02共創パートナーを集めやすい
SDGsや地域創生の概念は、国政や地域行政、企業に浸透しています。ESGに取り組む企業も増えてきているため、地域創生のパートナーとなる可能性も少なくありません。ESGとは、環境・社会・ガバナンスの頭文字であり、企業の長期的成長に重要な観点です。
このような企業には、環境問題を重視している投資家から、大きな投資を受けやすくなります。自治体の地域創生とSDGsへの取り組みと、ESGに積極的な企業をマッチングできれば、共創パートナーを集めやすい土壌ができます。
メリット03子育て世代の移住者が増加する
自治体が、地域創生に積極的に取り組むことで、子育て世代の移住者が増加します。そのためには、子育て世代が魅力を感じるような、自治体独自の制度設計が重要です。国が進める地域創生に加えて、子育て世代が移住するメリットを設計することが重要です。
どの自治体でも行っている制度を設けても、子育て世代は魅力を感じにくいかもしれません。地域の特色を活かしながら、安心して子育てできる環境を提供できるような独自の制度が必要です。
まとめ
地域創生は、自治体が生き残るために必要な政策です。地域創生が達成できない自治体は、消滅する可能性もあります。人口減少が止まらないまま、地域創生を成し遂げることは不可能といっても過言ではありません。
地域の課題解決のためには、従来型の発想にとらわれず英知を結集し、あらゆる効果的な手段を複合的に総動員する必要があります。地域からの人口流出を止め、首都圏から人の流れを作りださなければ、人口を増加させるのは難しいでしょう。また、仕事をつくり、雇用を生み出す施策や出生率を向上させる政策も求められます。
JTBのホワイトペーパーでは、地域創生に関する地域交流事業の取り組み事例などを紹介しています。地域創生でお困りの方は、ぜひご一読ください。