1990年代のバブル崩壊以降、日本全国で地域間格差が広がり続け、交流人口・定住人口に対する課題が挙げられていました。さらに少子高齢化などの状況も重なり、公共施設・空き家・古民家・廃校といった遊休施設の存在が全国的に大きな問題になっています。
ワーケーションやインバウンド誘致など、地方自治体が主体となり施設の整備・利活用への注目が高まる一方、その手法や整備内容は、それぞれの地域の状況によって異なるため、進みづらい状況もあるようです。そこで、地方自治体における観光客誘致のための場所づくりについて、事例を取り上げながら、整備の過程やポイント、変化の様子を伝えていきます。
INDEX
多様な目的に対応する地域の施設
2020年から続く新型コロナウイルスの影響により、人の動きは制限され、観光客誘致が難しくなっています。一方、リモートワークの浸透により、サテライトオフィスやワーケーションオフィスの設置を積極的に進める地方自治体も出てきています。また、既存施設を改修し、オフィスの機能を追加する動きに加え、社会の高齢化に伴い、さまざまな施設へのユニバーサルデザイン・バリアフリー対応も求められています。こうした社会の変化に伴い、地域の施設の利活用が進む中で、民間企業の知見やネットワークを取り入れながら、再生に取り組む事例が増えています。
地方自治体と企業を繋ぐ、民間事業者の存在
遊休施設の利活用に向けての施設整備には、「施設が継続的に利用される」という視点が重要です。そのためにはハード面の整備だけではなく、「誰に・どう使ってもらうか」というソフト面での整備も重要になってきます。利用者や運営(管理)会社とのつながりも考えておかなくてはなりません。 今後は、地方自治体の遊休施設を一括して管理開発しながら、さまざまな企業や事業者の条件に沿った施設の選定・提案・整備を行う、ハブとなる事業者の存在が重要になってきます。施設整備後に運営事業者をマッチングさせる動きや場所を求めている企業の要望に合わせて、ハードを整備していくことも必要になってくるでしょう。
施設整備におけるポイント
施設の改修を進めるにあたり、ハードの整備に目がいきがちですが、ソフト面の整備がとても重要になってきます。 コロナ禍によって、施設は従来備えている役割だけではなく、多様化・変化が求められています。例えば、オフィスは多様な働き方に合わせて機能の見直しがなされ、宿泊施設は泊まるだけではない役割が求められています。そのため、ハード整備は最初にフルスペックで作らないことがポイント。 多くの要望を盛り込むと、施設への投資が過大になってしまうため、運用後の施設管理コストを踏まえ、シビアに検証しておくことが重要です。 まずは、必要最小限で改修を行い、潮流に合わせて追加変更をしながら、変化し続けていくことで無駄もなくなっていきます。あくまでも、ハードはソフトを補完するためのものであることは忘れてはなりません。
資金、建物の現状把握を忘れずに
施設の改修にあたり、頻繁に挙がる課題として“資金の問題”があります。建物を一部リニューアルする方法だけでなく、一度解体して再生する方法もあり、いずれの場合も多大な費用がかかります。国の補助金、地域の金融機関や企業のサポートなども検討しておく必要があります。最近は『ふるさと納税』を活用するケースもあり、全国各地から賛同者・協力者を募ることで、大きなつながりを生み出しています。 そして忘れてはならないことが、ハードそのものの現状把握。建物によっては、築年数が経過している場合もあるため、耐震性や有害な建材等の調査を初期の段階で行っておくことが重要です。耐震補強やアスベスト除去などが必要な場合は、費用面、スケジュール面で、大きな課題となることがあります。JTBグループで不動産・設計事業を手掛けるJTB アセットマネジメントでは建物の劣化診断・調査を実施しています。
面的再生を意識し、地域と外部が一緒に取り組む
施設整備においては、一過性の取り組みではなく、事業性を考えて、中長期的な視点でプロジェクトを進行していくことで、持続可能な地域づくりにもつながっていきます。 その際、施設単体ではなく、面的(地域)再生を意識することがとても大切です。 1つの施設だけを整備・改修するのではなく、地域の事業者や住民を巻きこみ、エリア全体で再生を考える。まち(町、街)全体で、知恵を集結し協力することで、魅力が更に増していく。そして、みんなで発信していくことで、より大きな広がりを見せ、集客力が高まっていくのです。 そのためには、チームを結成し、先導者を筆頭に組織的に動いていくことで、プロジェクトがスムーズに進行していくでしょう。必要に応じて外部の民間企業が参画し、新たな視点やノウハウを取り入れ、地域の事業者及び住民と一緒に快適に過ごせるまちづくりをしていくことが再生への近道になります。 地域のことは、そこに住んでいる人たちが一番よく分かっています。そこに外部の視点が入ることで、既存のものが磨き上げられると共に、地域の新たな魅力が創出されるきっかけになるのです。
利用者が求める施設と整備のポイント
ここからは、JTBアセットマネジメントが手掛けてきた事例を元に、地方自治体の施設整備・活用の様子を具体的にお伝えしていきます。
事例01ワーケーション支援事業
本事例は、A県のワーケーション支援事業推進のため、JTBの地元支店が窓口となり、JTBアセットマネジメントがワーケーションを行うための施設整備・開発を行いました。自治体との協議のうえ、民間企業が保有する宿泊施設をワーケーション向けに整備・改修することを提案・実施しました。 JTBアセットマネジメントは、これまで、さまざまなオフィスの設計にも携わってきたことから、培ってきた知見を活かし、施主指定のデザイン事務所と連携して、宿泊施設の整備・改修が進められました。
ワーケーションイメージ画像(写真は本事例とは異なります)
Before
After
メインは、宿泊施設のラウンジをワーケーションプレイスに改修すること。電源やネットワークの整備、セキュリティ対策など、働きやすいワーカー目線の環境を取り入れつつ、宿泊施設の趣・バケーションを感じる、居心地の良い空間づくりが行われました。ワーケーションへの対応においては、ワークプレイスとしての機能は備えつつ、宿泊施設としての機能を損なわない双方のバランスを保ちながら居心地の良さを追求していくことが重要です。時には、すでにある空間を活かし、オフィスとしての便利さは最低限担保しつつ、リラックス要素を重視した設計をする場合もあります。
本事例においては、ソフト面の整備も意識し、日々の施設管理・運営に対して新たな人材が必要にならないようなハード設計を実施しました。
事例02宿泊施設をバリアフリー化
2つめの事例は、B県のバリアフリー化促進事業により、宿泊施設のバリアフリー化を支援しました。施設のバリアフリー化に必要な改修工事(整備)に関して、JTBアセットマネジメントが専門相談員(アドバイザー)として施設整備をサポートした事例です。
具体的には、経路と客室、共用部(トイレ、浴室など)のバリアフリー化を提案し、車椅子使用者でも宿泊可能な施設への改修、バリアフリー化基準の順守を目指して改修が行われました。
本事例において、バリアフリーの機能を重視しすぎると福祉施設のような雰囲気になってしまい、宿泊施設としての魅力が損なわれてしまいます。そのため、バリアフリー・宿泊施設の双方の視点が必要になります。JTBアセットマネジメントでは、宿泊施設整備(設計)の経験と、バリアフリー化アドバイザーとしての知見を活かした提案を行いました。
このようなバリアフリー化した施設は、ホームページやPR媒体などに、写真などを掲載し積極的に発信していくことで、利用促進に繋げることができます。
JTBだからできる、多様なサポート
そのほかにも、JTBグループでは、観光マーケットの調査・分析を行い、地域における施設の運営方針の策定サポートも行っています。
自治体が運営する宿泊施設において、ハードに関する整備(設計や工事)を実施する前に、取り巻く環境の再認識や既存施設のソフト・ハード両面の課題整理などを行い、整備基本計画を策定。そのうえで既存施設のリニューアル・客室の増築などの提案を行っています。
整備においては、これから先に求められる施設の在り方を定め、その目標達成に必要となる機能を整理し、ハード整備に偏ることが無いように、ソフト(運営)面と並行して整備の方針を定める必要があります。ソフト面の裏付けとなる観光調査・分析から、運営コンサル・販促計画の策定、そしてハード面の提案・改修まで、JTBグループだからこそできるサポートのかたちです。
施設整備と観光客誘致によって変わる未来
施設整備・再生を行うことで、生まれた影響について紹介していきます。
バリアフリー化工事を行った宿泊施設の利用者からは、以下のような声が届いています。
- 宿が大変綺麗で心地よく快適に過ごせた
- 改装されたとても綺麗なお部屋で気持ち良く過ごせた
- 民宿でも部屋内にトイレがある部屋は貴重
ワーケーションやサテライトオフィスの設置、バリアフリー化によって生まれ変わった施設の存在によって、周辺の地域住民や企業は問題意識へポジティブに取り組むようになり、コミュニケーションの活性化にもつながっているようです。
まとめ
今回は、地域の施設整備についてお届けしました。公共施設・空き家・古民家・廃校といった遊休施設の存在が全国的に大きな問題になっている中、ワーケーションやインバウンド誘致など、施設の整備・利活用への注目が高まっています。
地方自治体によって抱えている課題や悩みは異なり、千差万別です。施設整備には、地域や住民の皆様の声に耳を傾け、課題の本質を引き出すことが最も大切です。なによりも、地域に住んでいる人たちが快適に暮らせる環境作りを目指し、一過性ではなく、中長期的な視野で設計デザインをし、持続可能なまちづくりにつなげていくことが重要であり、そのことが、交流人口・関係人口の拡大につながっていくのです。
今後も、「空き家、古民家、廃校」などの遊休資産の利活用の課題は増えていくと思われます。JTBグループは、限りある資源を蘇らせ、新たな息吹を吹き込む“心を満たす空間ソリューション”(ハード整備事業)を通して、マーケティングから設計・施工、運営、プロモーションまでワンストップサービスの提供を目指していきます。そして、全国のハード整備で課題を抱えている地域の皆様に寄り添いながら、「住んで良し、訪れて良し、働いて良し」の住民・観光客・企業3者の心を満たすまちづくりに取り組んでいきます。この機会に皆さまの地域でも、遊休施設の利活用について検討してみてはいかがでしょうか。