近年、さまざまなデジタルツールやサービスを利用できる環境が整いつつあり、観光地におけるDXの重要性が叫ばれています。観光DXとは、デジタル技術を活用し、より魅力的な観光コンテンツを創出するための取り組みのこと。旅行者のデータを収集することで細やかなニーズを汲み取り、マーケティングに活用できることもメリットのひとつ。DX推進という言葉のみが先行しがちですが、具体的なデータ活用の意味を考えながら推進することが重要です。
そこで今回は、「誰のため、何のためにデータを集めて活用するのか?」という原点に立ち返り、ゼロからのスタートでDX推進に取り組む四国ツーリズム創造機構様の実例をご紹介します。ステークホルダーが多岐に渡る広域連携DMOとして、四国エリアの周遊を促進する中でどのようにデータ活用を進めようとしているのか? 現場の声を聞きました。
団体紹介
- 団体名
- 一般社団法人 四国ツーリズム創造機構
- 企業サイト
- 所在地
- 香川県高松市サンポート2-1 タワー棟3階
- 役職員
- 13人
プロフィール
全員がボトムアップして、データを身近に活用できる文化に
今回お話をお伺いするのは、酒造メーカーでPOSデータを用いた効果検証、インバウンドに特化した旅行会社でのマーケティングや海外向けプロモーションという、前職、前々職の経験を生かし、現在は四国ツーリズム創造機構にてインバウンド向けデジタルマーケティングに従事している清水啓司氏。観光庁の「広域周遊観光促進のための専門家派遣事業」にも専門人材として登録されています。DMP構築やデータを活用した四国への誘客施策に関するお話のほか、今後の展開についても教えていただきました。
――どのようなチーム体制でDX推進に取り組まれているのでしょうか?
- 清水氏
- 四国ツーリズム創造機構は、マーケティングとブランディングという2つのチームがあり、私はブランディングチームに所属しています。メンバーは、事務の方が1名とDXを進める4名の合計5名。事業推進本部長がDXに課題感を持っているので、試行錯誤しやすい環境にあります。
――最初にどんなことに取り組まれたのでしょうか?
- 清水氏
- 2020年12月の入社後にまず行ったのが、広域連携DMOとして求められているデジタルマーケティングの検討です。
- そもそもDXという言葉だけが先行していて、収集したデータを上手く使えているのかと言えば使えていない。官公庁で保有されているオープンデータだけでなく、Googleアナリティクスで見られるホームページの閲覧状況や、私たちが運営する「しこくるり」というアプリで収集したオウンドメディアのデータなど、さまざまなデータはあるのに、分析して全員が活用できていない状況が問題じゃないかなと感じました。無料のデータはたくさんあるのに有効活用できていない。また、デジタル分野に長けた人だけがデータを活用するのではなく、全員がボトムアップして、データを誰でも身近に活用できる文化を持つ組織がデジタルマーケティングを実施する上で必要だと考えました。
- 広域連携DMOとして、「四国ツーリズム創造機構ができることは何か?」というミッションを達成するためには、四国内DMOや自治体、観光協会、観光事業者全体でマーケティングデータを共有し、共通言語として議論ができるようになれたらと。その環境を作るためは、独自のデータマネージメントプラットフォーム(DMP)の構築が必要だという考えに行き着きました。
――DMP構築にあたり、まずされたことを教えてください。
- 清水氏
- まず、DMO推進機構代表理事の大社(充)先生が開催された、京都大学の、「デスティネーションマネジメントEssence ~DMO・観光政策幹部が知っておくべき理論と実践~」コースを受講しました。
コース内で、松原(明)先生の「地域マネジメントにおけるアドボカシー活動」という講義があり、そこで広域連携DMOは、全てを実施するプレイヤーになるのではなく、方向性を示しながらステークホルダーの方々と同じ方向を向いて事業を実施していく仕組みを作る「相互性」が重要だと学びました。その仕組み作りのきっかけになればと思い、DMP事業を進めています。
それから、JTB様をはじめとする民間のデータサービス提供企業や四国4県庁および四国内全DMOのほか、広島県観光連盟や京都市観光連盟などの四国外のDMOなど、多方面の事業者様とヒアリングとブレストを繰り返しました。その結果、大規模で高度なDMPを構築しても、使える人材が限られてしまい、組織全体に行き渡りにくいという問題点が見えてきました。
――あらゆるデータを蓄積しても、活用できないと意味がないですよね。どのようなデータを投入してDMPを構築される予定なのでしょうか?
- 清水氏
- 「何のためにDMPを構築するのか?」といえば、「データ文化の醸成」のためです。Tableauを用いて、まずは観光入込客数や宿泊者数、訪日外国人消費動向調査といった多くの人が目にできるオープンデータと、「しこくるり」のユーザーデータ、ホームページなどの閲覧データなど、当機構がすでに保有している独自のデータを公開しようと思っています。
- 今年度に関しては、当機構のホームページ内に四国のデータページを作り、IDとパスワードを付与する形で四国四県庁の方や四国内DMOの方などに公開予定です。
――完成までにどのくらいの期間を想定しているのでしょうか?
- 清水氏
- プロポ-ザルを実施し、一緒に伴走してくれる受託事業者が東京のIT企業様に決まったのが2022年の8月です。全て東京のIT企業様にやってもらうのではなくて、我々も学習しながら一緒に作っていきたいと思っているので、少し時間はかかるかなと考えています。
- まずは当機構で毎年実施している調査事業の見える化から始めているのですが、年度毎に設問数が違うので経年で見せたいけれど難しいなどの課題にぶつかっています。課題を一つひとつ解決するために、「ああしていこう、こうしていこう」と議論をしながら進めている最中です。
無料データで限界まで考えて、必要であれば有料データを使う
――DMPに蓄積されたデータをどのように活用していく予定なのでしょうか?
- 清水氏
- 広域連携DMOとして「四国周遊」での誘客施策が求められているので、周遊を意識してデータを見ていきたいと思っています。中でも「しこくるり」のユーザーデータは一番の目玉かなと。「しこくるり」の特徴の一つに、ポイントをご購入いただき、観光地・飲食店・体験などにご利用いただけるサービスがありますが、ユーザーがポイントをどこで利用したかを可視化したいと思っています。可視化する上でも、地図に落とし込むなど、わかりやすく見られるようにしてきたいです。
- 当機構のDMP事業は、ローコストで必要なデータを可視化しPDCAサイクルをいかに早く回していくか、ということを考えています。たくさんの企業や自治体、DMOなどにヒアリングしたことで、世の中には多くの良い有料データがあることはわかったのですが、宝の持ち腐れになるはもったいないので、まずは無料データで限界まで考えて、必要であれば有料データを検討するという流れが理想だと思いました。
――これからのビジョンやゴールについても教えていただけますでしょうか。
- 清水氏
- 四国遍路におけるインバウンドの周遊実態を明らかにしたいです。四国でインバウンドの周遊といえば、やはり遍路です。民間企業と協議して外国人遍路のデータをDMPにストックできる仕組みができればと思っています。
- さらに今期は「しこくるり」を多言語化(英語、繁体字、簡体字、韓国語)してインバウンド対応ができればと考えています。Webアプリでデジタルパス部分を実装予定です。
――ちなみにインバウンドはどちらの国をターゲットにされているのでしょうか?
- 清水氏
- 東アジアと欧米です。リピーターの多いアジアに対しては各県でも誘客施策を実施されていますが、欧米に関しては訪日回数が少ない中でいかに四国に誘客するかを考えた時、広く「四国」で訴求することがステークホルダーの皆様から求められています。また、2021年版「ロンリープラネット」のベストトラベル6位に「四国」が選出されたことは、欧米市場への認知度向上につながると考えています。今年度に関しては台湾とイギリスの2市場でペルソナを設定する調査事業を実施します。
インバウンド回復に向け、訪日外国人向けの動画を作成
「THE FACES OF SHIKOKU」3minutes English ver.
データは嘘をつけない。具体的に言語化できるのがデータの良いところ
――各県それぞれの取り組みがあり、必要なデータもさまざまかと思うのですが、各県からの意見はどうまとめていかれるのでしょうか?
- 清水氏
- 各県によって、課題がそれぞれ違うのでまずは、当機構で集約したデータをもとにコミュニケーションツールとして使っていただきたいと思っています。データをもとにどのような誘客施策が効果的か議論できれば、という思いがあります。
- 私たちが期待されているところはやはり周遊で、香川県であれば高松空港からどのように周遊しているか、高知県であれば、どこからどのような手段で高知に来ているのかといった周遊データが見たいというご意見が多いです。高知県は大阪観光局と連携協定を結んでいるので、関西国際空港から入ってくる方も意識されています。周遊に加え、インバウンドの四国への in out の実態把握に関しても期待されていると思うので、力を入れたいと思っています。
- DMP事業に関しては、当機構内で完結する単年度事業でなく、継続した仕組みづくりに重きをおいています。その考えのもと、ステークホルダーの方々と機構内メンバーがDMPを通し、データでのコミュニケーションが生まれ、四国内でのデータ文化が今より浸透するきっかけになればと思っています。それがEBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。 証拠に基づく政策立案)にもつながると思っています。
――DX化を推進するにあたり、DMP構築などを進めたいと考えているDMOや自治体の方へのアドバイスをお願いします。
- 清水氏
- 当機構のDMP自体が今年度事業でまだ完成していない中、アドバイスはおこがましいですが、DMO独自でデスティネーションに合ったDMPは何かを徹底的に調べるというスタイルが良いかと思います。たくさんの民間企業やDMOにヒアリングさせていただき、また、観光庁の専門人材制度を活用して第三者に頼ることもありました。京都大学の講座を受けていたときにも「データで迷っているのですが」と皆様からご意見を聞きました。色々な方向にアンテナを広げてDMOだけでなく、デジタルマーケティング施策を検討することは、手間がかかるようで、結果的に最適なデジタルマーケティング施策になるのではないかなと私は思っています。
――改めて、観光DXの必要性とご自身で進められてみての面白さを教えてください。
- 清水氏
- 例えば、旅行に行ってご当地ラーメンを食べたいと思ったら、10年ぐらい前までは有名なグルメサイトを検索したり、コンビニにある地元誌で調べたりしていたと思います。でも最近は、Google Mapでラーメンを調べて、星や評価数、コメントを見て行ってみようかなと決める人も多いかと、これが身近なDXなのかなと。Googleトラベルもどんどん使いやすくなっているので、置いていかれないように食らいついていかないといけないなと思います。観光DXは必要性というか、今後対応しないと生き残れないのではないかというくらい不可欠なものだと感じています。
- データマーケティングは面白いです。具体的に言語化できるのがデータのいいところだと思います。そして嘘がつけない。時間はかかりますが、四国の誘客施策に関して数値的に示すための仕組み作りをさせていただいている。とてもやりがいを感じます。
四国ツーリズム創造機構様がJTBに期待すること
――これまでJTBには、イベントやキャンペーンなど、アウトプットの運営をおまかせいただいていますが、今後、期待されていることはありますか?
- 清水氏
- まずは、今年『日本の旬 四国』を開催いただき、ありがとうございました。
- また、9月30日からは、羽田空港で 横浜支店様に 四国霊場会のお砂踏みイベントを実施いただいたこと感謝申し上げます。
- JTB様はインバウンドに関してもGMT(JTBグローバルマーケティング&トラベル)様が事業でされているので、まずは四国への誘客にご尽力いただきたいと思っています。日本はもちろん、海外にも拠点が多いのも強みです。今はアドベンチャートラベルやお遍路をフックにした誘客に力を入れているのですが、そういった商品を海外のシーンに届けられるのは、JTBグループだからこそだと思います。
- 細かい話ですが、JTB様が運営されている大阪のアンテナショップ「Pivot BASE」はタビナカでインバウンドと接点を作るという点で興味があります。例えば、デスティネーションを探しに「Pivot BASE」に訪問したFITが、多言語化された「しこくるり」Webアプリに遷移するQRのPOPを読み込んで、大阪から四国に来訪される動線づくりなどできれば面白いと思います。個人的にはJTB様がされているメタバースの活用にも興味があるので、一緒にどんどん新しいことをしていきたいです。
まとめ
DX推進は、それぞれの業界で生き残っていくためには、もはや必要不可欠です。さらに、DXを持続していけるかが大きなカギとなっています。「データを使える人材のボトムアップからスタートした」という清水氏の考えは、まさに持続可能なDX推進のあり方だと感じました。JTBでは地域のDX推進に関する課題解決のための豊富なソリューションをご提供しています。ぜひ一度ご相談ください。