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自治体・行政機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 観光DXで持続可能な「日光」を目指して。アフターコロナ時代の新しい旅のかたちを模索するDMO日光の取り組み

2023.03.22
地域マネジメント
ICT活用
誘客促進
戦略策定

新型コロナウイルスの影響によって大きな打撃を受けた観光産業。ようやく渡航制限が解除され、国内外ともに観光需要が高まりつつあります。そのような中、改めて注目を集めているのが、デジタル技術を活用して業務を効率化し、収集したデータを観光施策に活かす「観光DX」です。

日本だけでなく、世界各国から多くの人々が訪れる日光の観光振興に取り組むDMO日光もまた、データを蓄積して分析するためのプラットフォーム「地域共創基盤」を導入し、地域と連携しながら観光DXを進めています。日光市が抱える課題、データの活用法や今後の展開など、DMO日光のさまざまな取り組みについて、事務局長の田中宏充氏にお話を伺いました。

お話を伺った方

一般社団法人 DMO日光 事務局長田中 宏充氏

平成31年日光市観光経済部長就任、旧DMO体制の見直しを行い、令和2年4月にDMO日光事務局長就任。インバウンド誘客を中心に事業を推進。日光市誘客戦略策定に携わる。

日光市の大きな課題は宿泊率と観光消費額の低さ

――2020年4月に日光市からの出向というかたちでDMO日光に配属されたそうですが、主にデジタル化に向けての業務を担われていたのですか?

田中氏

そもそもDMOには、観光調査の分析や観光コンテンツの開発などを担う役割があります。インバウンド誘致にも取り組む予定でしたが、コロナ禍で難しかったため、以前から少しずつ始めていた「観光DX」を進めることになりました。

最初は携帯電話の位置情報を活用したデータの収集を検討していたのですが、必要なデータをすべて揃えるとなると、かなりの金額になってしまうので思うように進んでいなかったんです。補助金でまかなっていたこともあり、コストがかかりすぎることが大きな課題でした。

改めてコストをかけずにどのようなかたちで情報収集するのかを考えたときに、JTB宇都宮支店から提案された「地域共創基盤」であれば低額で済むということでしたので、実証事業的に始めてみることにしたんです。

――「観光DX」で解決したいと考えていたのはどのような課題ですか?

田中氏

2022年に「日光市誘客戦略」というものを作ったのですが、その際、専門家を交えた議論であがった日光市の課題は、宿泊客率・観光消費額の低さ、繁忙期と閑散期の差、2次交通の利用率の低下などでした。日光市は日帰り客がとても多く、2019年は入込客数が1200万人以上にも関わらず、宿泊客数が300万人で、30%にも満たなかったんです。宿泊客の取りこぼしが多い上に、飲食・物産の消費額も全国平均に比べて低い。どこの観光地もそうですが、通年で賑わっているところはあまりなく、日光も夏や秋、休日は賑わっていますが、冬季の平日への誘客が長年の課題でした。2次交通ついては、平成18年に5つの市町村が合併して栃木県の4分の1の都市になり、山地の割合も多かったため、整備もなかなか難しいところではあります。近年の状況を見ると、コロナ禍で電車を利用している方がマイカーで来られることが多くなってきてはいますが、まだまだ2次交通の利用が少ないのが現状です。

参考:「日光市誘客戦略」(2022年3月)

――課題解決のためにまずは何からスタートしたのか教えてください。

田中氏

「日光市観光客動向調査」という、日光市が行っていた調査をDMO日光で引き継いでいたこともあり、まずは国内を対象にしたアンケート調査を行いました。どのぐらいの方が日光を知っているのか、来てみたいと思っているのか、宿泊を希望しているのかについてなど、調査項目はさまざまです。

もともと日光市のホームページでは、宿泊者数や入込客数を取りまとめて公開していたので、そのデータを「地域共創基盤」に入れて情報を一元的に管理し、必要な情報を改めてDMO日光のホームページでも公開しました。今後の課題としては、旅館やホテルの宿泊状況のデータも入れ込めたらと思っています。日光市の旅館・ホテルを回って取り組みについてお話させていただいたのですが、個人情報が多いデータなので抵抗を感じる事業者も多く、現在はまだ上手く連携はできていません。

ただ、将来的に宿泊状況なども含めてさまざまなデータが集まれば、入込客数が少ない時期を目掛けて誘客ができるので、無闇に宣伝する必要がなく、費用対効果は高くなります。日光市がどういう状況か瞬時に分かることが重要なのかなと。国や自治体からの支援を受けるためには、お金を有効に使えるかが判断基準になります。データを示すと説明もしやすく理解も早いので、提案の際には役立っています。

地域共創基盤のデータ管理画面
データマネジメントプラットフォーム「地域共創基盤®」でデータ閲覧できる。

旅館やホテル、事業者との連携が課題解決のカギ

――旅館やホテル、事業者の方々と連携するための施策はあるのでしょうか?

田中氏

データ収集・分析について説明会を開催するなど、理解を深めていただけたる取り組みを行っていけたらと思っています。宿泊客数で言えば、各旅館組合の中で大きなところのデータをいくつか収集できれば、ほぼそのデータで分析できると思うるので、まずは一部からでも理解していただけたらいいですよね。

現在、DMOは観光協会と二重組織になっているので会員はいないのですが、定期ミーティングには各地域からの代表の方に出ていただいています。2023年度の4月からDMOと観光協会が統合されるので、各地域から役員というかたちで観光事業者にも参画していただけるようになるので、小まめに理事会を開催させていただく予定です。日光は広いので観光地が5つくらいあり、お客様も違えば考え方も違います。一元的にデータを取っても、データに基づいた施策は地域によっても違ってくるので、地域ごとの部会を開催して検討いただくなど、丁寧に進めていくことが望ましいと思います。

――これまでのデータ収集・分析が誘客につながっているという実感はありますか?

田中氏

動向調査を見てみると、以前よりも宿泊単価が上がってきているのは感じました。現在はまだ200件程度のデータなので、データ収集の量を全体的に上げていければなと。毎年データを蓄積することで、見える化がさらに広がっていくと思います。

――地域共創基盤を導入したメリットを教えてください。

田中氏

これまでアンケートは、日光市だったら日光市、観光協会であれば観光協会でしか所有していなかったのですが、今回はすべて集めて一元化しました。まずはすべてのデータが連携している団体と共有できるというメリットがあると思います。あとはデータをどう活用していくか。動向調査などは、ホームページなどで公開していますし、公開していないデータも観光協会では見られるようになっています。

これまでは、なんでもかんでも駅頭で誘客プロモーションをやればよいと思っていたというか、肌感でやっている事業がすごく多かったんです。今後は数字に基づいて、誘客活動ができることも良かった点かなと。アンケートの取り方も、以前は紙ベースでしたが、今はデジタルアンケートですべて手軽にできます。小田原市ではアンケートにご協力いただいた方に観光物産品を差し上げるという取り組みをされていたので、日光でも行っていきたいです。デジタルだと合間に回答していただけるし、稼働する人数も減らせる。うまく活用していけたらと思っています。

デジタルアンケートのQRコード。アンケート用紙の印刷の必要もなく手軽にできる

――今後の展開について教えてください。

田中氏

2022年度末までには、経年で取ってきたアンケートで日光市での満足度を調査していきたいと考えています。相互満足度の中で、何がプラスになったのかというデータが溜まってくると、属性ごとの目的が数字で見えるようになるので、今後は満足度調査を加えた上で展開をする予定です。また、入り込み客数データも、年度が積み重なって蓄積していくことによって、伸びているエリアや集客率、訪れる方の傾向など、細かく掘り下げて見える化できるかなと。

インバウンドに関しては、これまでコロナの影響で外国人のアンケート調査ができておりませんでしたので、今後外国人アンケートの実施について観光協会に引き継ぐ予定です。また、今後はより多くの方に地域共創基盤の情報を活用していただくために、ライセンスの発行がしやすく、専門的な知識のない方でも扱えるBIツール「Tableau」の活用を考えています。

持続可能な観光地を目指して経済の活性化を図るためには、周遊性や消費欲の喚起、滞在時間の延長が必要になってきます。誘客戦略を確実に進めていくためには、観光DXへの取り組みは必要で、数字で表すことが非常に重要だと思っています。

今後導入される「Tableau」の画面
今後導入される「Tableau」の画面

観光マーケットの変化に対応しながら「持続可能な観光都市」を目指す

――2023年度からは統合されて観光協会がDMOとしての機能も担う体制に変わるとのことですが、どう変化するのでしょうか?

田中氏

体制が変わるにあたり、データ分析やマーケティング戦略に長けている方を改めて雇用する予定です。その方の指揮のもと、改めて観光DXに関するチームを再構築していきます。日光市からの予算を活用できるようになっていくので、今よりも確実な体制が築けるのかなと思います。

――宿泊傾向、消費傾向を把握した上で誘客につなげるには情報を一元化し、戦略的な観光マーケティングを行わないといけないですよね。

田中氏

国内誘客をメインで進めていた観光協会が主体の体制に変わることで、鉄道・バスなどのお得なきっぷや、観光コンテンツのチケットが買えるサービス「日光MaaS」のデータを合わせた実証実験もできるのではないかと思っています。「日光MaaS」を使うと拝観料が安くなったり、施設の入場料が安くなったりというシステムを考えられるので、2泊、3泊するとさらに安くなるといったかたちで連動していきたいですね。

渋滞対策は日光市の課題の一つです。「日光MaaS」を使って電車で来ていただき、周遊にレンタカーを利用いただくなど、チケットレスの機能も含めて活用していくメリットはあると思います。車が多いと目的地までまっすぐ行って、目的地からすぐまっすぐ帰ってしまうので、どうしてもその間の地域が潤わない。できれば歩いて周っていただいて、買い物をしたり食べ物を買って食べたりしていただくのが理想です。観光協会が主体になることで、新たな観光が日光で生まれることを期待しています。

――日光の魅力について教えてください。また、どのようにPRすれば誘客につながっていくのでしょうか?

田中氏

世界遺産の社寺や、日光国立公園、温泉などがあり、観光地としては間違いなく一番だと思っています。関東出身の方は修学旅行などでほとんどの方が日光に来ていると思うので、さらに違った切り口で日光の魅力を見せていくかが鍵になると思います。そのためにもデータは重要なので、今一度「観光DX」に焦点を当ることで新たな道が見えてくるのかなと。我々はずっと日光市の中側からしか見られていないので、外側から見た日光については、数字が教えてくれるのかなと思っています。

――そのためには職員の方や連携した団体の方々など、多くの方がデータを活用できるようになるといいですね。

田中氏

教育の面では、一昨年から人材研修にも力を入れています。eラーニングを使ったデジタルマーケティングについての研修や、JTB宇都宮支店にご協力いただいたGoogleアナリティクスの研修なども大きな反響がありました。日光市の職員や観光協会の職員が知識を身に付けられるよう、今後も続けていきたいと思っています

――今後は、インバウンドや富裕層などもターゲットとしていくのでしょうか?

田中氏

ザ・リッツ・カールトン日光ができたこともあり、富裕層の方にも多く来ていただけるようにしたいです。日光市内の旅館やホテルとともに、高付加価値事業にも取り組み、宿泊単価を上げることも目指しています。若年層に関しては、「体験」がキーワードになると思いますので、事業者と連携し、自治体側からの支援もいただきながら進めていきたいですね。インバウンドを進めるためには、外国人観光客の動向もきちんと調査する必要があると思います。今は、携帯電話を持っている一部の方のデータしかないので、今後外国人観光客のデータも増やしていけたらいいですね。その一部の方は那須から入って来ることが多いので、広域観光との連携もできるかなと。

――観光消費額を増やすためには、名産品を作ることも必要ですよね。

田中氏

令和4年の9月から、日光を盛り上げるために「CHOCOTTO NIKKOプロジェクト」を開催しています。多くの事業者に参画していただき、日光をPRする新しいチョコレートの商品を作っていただきました。また、日光の自然と文化、食を合わせて楽しむサステナブルツーリズムの開発も進めています。これまで日光の名産品には、そばやとちぎ和牛などがありましたが、さらに食の面で日光の魅力を追求できればと思っています。

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――最後に、観光DXを推進したいと考えているDMO・自治体の方へのメッセージをお願いします。

田中氏

DMO日光の取り組みも、まだ始まったばかりではありますが、これからの時代、データを収集・分析して新たな旅の形を模索することはとても重要だと思います。我々もそうですが、補助金で業務資金をまかなっている団体は、すぐに目立った効果が得られるかと言ったらそうではないんですよね。費用面については、「地域共創基盤」のようなプラットフォームを活用すれば思ったよりもコストはかかりません。ただ、人材の問題も含めた人件費については整理が必要かとは思います。現在、DMO日光は3人という少ない人数でやっているのですが、費用と人材をある程度確保できるのであれば、すぐにでも取り組むべきだと思います。


まとめ ~観光DXによって地域独自の旅のスタイルを創出できる~

コロナ禍により、さまざまな分野においてデジタル化が急速に進み、観光業界にも変革が求められています。「観光DX」に取り組みたいと考えていても、人材不足や予算不足、専門的な知識を持つ人がいないといったさまざまな課題が押し寄せ、具体的にどう進めていいのかわからない方も多いのではないでしょうか。今回ご紹介したDMO日光もまた、「観光DX」を進めている途中です。デジタル技術の活用によって業務効率化や訪れる方々の利便性向上など、さまざまなメリットが得られる他、地域独自の旅のスタイルを創出することも可能です。DMO日光の事例が、観光DXを推進したいと考えている自治体やDMOの皆さまの参考になれば幸いです。


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