2025年に万博を控えた大阪では、コロナ以前からDMO(観光地域づくり法人)の大阪観光局が中心となり、インバウンド誘致に本腰を入れてきました。府内外の魅力あるスポットを発信し、大阪から日本全国へと足を延ばしてもらうことを目指した観光マーケティングを進めています。その大阪観光局が注力しているのがデータを活用した観光施策の立案です。旅行者の行動を収集・分析するために「大阪観光局DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)」を構築するなど、地域DXに関する先進的な取り組みで注目されています。ポストコロナを見越した大阪のデジタルマーケティング戦略は、どの地域・自治体にとっても集客の具体策を考える示唆を与えてくれるはずです。以下では、大阪観光局(大阪版DMO)の地域DXの成功事例を参考に、データマーケティングの具体的メリットや方法についてご説明します。
大阪観光局(大阪版DMO)の設立の経緯と現在のミッション
大阪観光局(大阪版DMO)は、大阪府と大阪市、大阪経済界によって設置されたDMO(観光地域づくり法人)であり、2016年に地域連携DMOに認定されて以来、観光庁が定める日本版DMOの基礎的な役割・機能「データに基づいた戦略策定」、「KPI(重要業績指数)・KGI(重要目標達成指数)」等を意識して活動しています。
大阪観光局の令和3年度事業計画で挙げられている重点項目は以下の4つです。
01国内旅行客の誘致強化
国内旅行消費額増に向けての取り組み、マイクロツーリズムへの取り組み、府域内に眠る観光資源の磨き上げ、大阪楽遊パスの販売、民間事業者と連携した施策の強化、他都道府県・観光団体との連携強化、Go To Eat大阪キャンペーン・プレミアム食事券発行事業
02密を回避した観光スタイルの構築
ワーケーション等の推進、デジタル化の推進(アプリやQRコード)、密にならない観光の促進、みどりや花・自然を絡めた観光の推進
03インバウンド回復に向けた環境整備
情報発信、量から質への転換、テーマ型回遊ルート、広域周遊ルートの構築、多言語対応、無料Wi-Fiなどのさらなる整備
04感染防止を徹底した受入れ環境の整備
観光チャットボット運営、キャッシュレス決済の普及促進
その他の重点課題にも「『OSAKA』ブランディング構築のための事業展開」「大阪をハブとするテーマ型回遊ルート構築(広域連携)」など全部で16項目が挙げられていますが、初めに挙げられているのが「データに基づくマーケティングの強化」です。
大阪観光局では「マーケティング戦略室」を中心にデータに基づく戦略的な施策や効果検証、PDCAサイクルの実行に取り組むことで、観光施策立案における属人性の低減と合理的な意思決定を図っています。
データに基づくマーケティングが重要である理由
国内旅行の回復やインバウンド誘致に向けて、多くの観光地では季節や時間帯による繁閑差をならす「集客の平準化」が課題となっています。また、感染症対策のために混雑を避ける観点からも、人気の観光地から穴場スポットへ観光客を誘導する具体的なアイデアが必要です。
施策立案や仮説設定が属人的になっている地域は少なくありませんが、データに基づき旅行者一人ひとりの行動パターンを分析すれば、勘や経験では導き出せない旅行者のニーズ・期待を拾い上げ、より魅力的な周遊ルートの提案や効果的なプロモーションが可能になります。ターゲットとすべき層の行動特性やその背後にあるニーズを理解し、多様なセグメントに切り出して分析することが、効果的な施策立案の一歩となるでしょう。
大阪観光局DMP(=Data Management Platform)によるPDCA
大阪観光局は海外旅行者に対して積極的なプロモーションを行っていましたが、効果検証を行うための仕組みが不十分であったために、ターゲット像が深堀りできていない、個々のプロモーションが単発で終わってしまうなどの課題もありました。
これを解決するために導入したのが、大阪観光局の各観光施策(公式サイトやスマートフォンアプリ、Osaka Free Wi-Fiなど)から取得したデータに台湾・香港・中国などのアジア6000万人の海外旅行者データなどを統合した「大阪観光局DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)」です。
大阪観光局DMPでは観光戦略立案に必要なデータを、インバウンド訪問者数、消費額等から分析し、インバウンドの取り込み状況を見える化。府内の43市町村の強み・弱みを洞察し、分析結果を各市町村に示すとともに、誰に何をどう訴求すればいいかをあぶり出したうえで、観光施策の立案から各コンテンツ造成までを支援する取り組みを始めています。
効果検証の具体例: ナイトカルチャーコンテンツの創出
大阪観光局は【24時間観光都市「大阪」】をコンセプトに、ナイトカルチャーコンテンツの発掘・創出に取り組んでいます。その具体的な施策の立案には、GPSデータ※を活用した「外国人夜間動向調査」の結果が活かされました。
分析対象としたログの期間:2015/8/1~2016/9/30
ログの総数:3,308,477件
大阪府内の訪日外国人の夜間行動を分析した結果、22時を境にほとんどの訪日外国人がホテルなど宿泊施設に戻っていることが明らかに。大阪観光局は「22時以降の時間帯をターゲットにした観光資源が魅力的に見えていないのでは」という仮説を立て、「外国人が安心安全に遊べるお店の情報周知」を目的としたプロモーション施策を実施しました。
具体的には、夜間消費施策として「Osaka Night Out」を実施し、マーケットリサーチをもとにナイトクラブ、飲食、アミューズメント、美容関連等のコンテンツを1つのサイトにまとめて紹介、21時以降に使えるクーポンも発行して夜間消費の伸びを検証するなどの施策を続けています。
実証実験:回遊・分散促進を図った「とんぼり夜市」
道頓堀商店会、株式会社JTBおよび大阪観光局が発起人となって2019年11月に設立された道頓堀ナイトカルチャー創造協議会は、2020年11月に道頓堀ナイトマルシェ「とんぼり夜市」を開催し、ICTの活用で「回遊・分散促進」が、どの程度可能なのか実証実験を行いました。
当実験は人流データの分析によって得られた個人の興味に寄り添う「おすすめ店舗情報」を旅行客がダウンロードしたアプリへPush配信し、来店率にどの程度影響するのかを検証するものです。
結果として、クリック率はアプリへのPush配信・SNS配信ともに一般的水準より高い結果が得られました。ターゲットに合わせたリコメンド配信は、旅行者の回遊促進、夜間の消費の活性化に有効であることがわかりました。
その他のICT活用
大阪観光局の令和3年度事業計画では、ICTを活用してその他の観光インフラも高度化する方針が示されています。
観光チャットボット
大阪観光局の運営する大阪公式観光サイト「OSAKA-INFO」には多言語AIチャットボットが導入されています。標準で日本語を含む5言語、最大18言語に対応可能で、ユーザーが送信した位置情報に基づいて周辺の観光案内を行ったり、Facebook、LINEなどのSNSツールと連携したりすることが可能です。ウィズコロナ、アフターコロナにおけるインバウンドを対象にした非接触型の観光案内ツールとして活躍が期待されています。
デジタル化の促進(アプリやQRコード)
ニューノーマルにおける観光案内・接客では、アプリやQRコードを用いた電子決済も有効です。大阪観光局が2021年3月から販売している電子チケット「大阪楽遊パス(1日券2,000円、2日券2,500円)」はQRコードを提示するだけで、通天閣や大阪くらしの今昔館など約25施設に入場できるというもの。さらに2021年6月からは同チケットを使って大阪府内の飲食店約300店舗で会計の約10%の割引を受けられるサービスもスタートさせました。
まとめ データを基にした戦略・意思決定で観光消費拡大を
大阪観光局の取り組みで特徴的なのは、コンテンツ開発、ターゲット(ペルソナ像)の確立、効果的なクリエイティブ、プロモーションの各工程にデータを取り入れ、効果を検証しながらPDCAサイクルを回している点です。さまざまな観光データを連携することで属人性を低減し、誰でも無駄なく観光施策を立案できる仕組みを構築している点は、観光地の回遊・分散促進と消費拡大のために、どの地域も参考にすべき取り組みと言えます。
データマーケティングに着手するためには、まず情報を集約する基盤を整備することが必要です。観光による地域活性化にテクノロジーを活用する「地域DX(デジタルトランスフォーメーション)」について、さらに詳しく知りたい方は、こちらのダウンロード資料をご覧ください。