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自治体・行政機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 日本一のりんごの街・青森県弘前市が官民連携で取り組む、本物の体験ができる「援農ボランティアツアー」

2024.01.25
地域マーケティング
誘客促進
認知拡大・流通促進
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青森県弘前市は、日本一の生産量を誇るりんごの街。全国の2割以上を生産する弘前市にとって、りんごは重要な基幹産業のひとつです。そのりんご産業において、高齢化、人口減少による後継者の確保とあわせて、農繁期における人手不足が課題となっています。中でも小規模農家の数は年々減少しており、持続可能な産地の形成が急務です。

そこで今回、弘前市とアサヒビール、ニッカウヰスキー、JTBの官民が連携して、りんご農家の援農を目的とする「ひろさき援農プロジェクト」を発足し、援農ボランティアツアーを企画・実施。プロジェクトが立ち上がった経緯と実施後の効果、今後の展開などについて、櫻田宏弘前市長にお話を伺いました。

取材に応じてくださった方

弘前市長櫻田 宏

1959年青森県弘前市生まれ。弘前大学を卒業後、1983年に弘前市役所に入庁。観光振興部長などを経て2018年に弘前市長就任。2022年に再選し2期目を務める。

9割が小規模農家の弘前市で担い手と労働者を確保するには

――まずは弘前市のりんご農家が抱えている課題について教えてください。

櫻田市長
弘前市には多くのりんご農家がおりますが、そのほとんどが家族経営の小規模農家で、法人化しているのは1%程度です。高齢化による後継者不足によって、平成22年に約6,500あった経営体が、令和2年には約4,700となり、約10年で2,000近く減少していました。また、りんご農家にアンケートを取ったところ、補助労働力となる作業員が、「今は足りているけれども将来はいなくなる」と答えた方が46%、「すでに足りていない」という方が30%で、約8割の農家が人手不足という状況でした。国としては大規模経営に移行していこうという方針でしたが、9割以上が個人経営の弘前市ではそれは難しいですよね。ならば、小規模農家の方々にいかに継続していただくか、もしくは離農する方のりんご園をどう継承していくかが大きな課題でした。

――課題解決のために、どのような施策を実施されてきたのでしょうか?

櫻田市長
りんご農家だけでなく、就農する方自体が減少傾向にあったため、平成24年度から国がスタートさせた新規就農者対策とともに、弘前市も新規就農者対策を実施してきました。私が市長になった平成30年度から、農作業の効率化・省力化を図るための農業機械の購入の補助や、平坦な場所にりんごの荷捌き場を整備する場合の補助などの支援に取り組んでいます。弘前市独自の農業就労対策としては、生産者自らが指導者になる農業里親制度や市役所への無料職業紹介所の開設。1日単位から農業でアルバイトできるアプリ「daywork」の導入や、りんご産業に限って、弘前市職員の兼業を許可する取り組みをはじめました。

――りんご産業に興味がある方への間口を広げたことでどのような効果がありましたか?

櫻田市長
農業バイトアプリ「daywork」は多くの学生さんが使ってくれて、学生アルバイトがかなり増えました。また、兼業してアルバイトに行った職員の中には、りんごの産地に住みながら、どのように生産されているか知らない職員も多かったので、名産を知る上で有意義な時間を過ごせたようです。そして、令和2年度からは青森県産のりんごを原材料とするシードルを製造するニッカウヰスキーの社員の方がボランティアで援農してくださっていて、昨年からはアサヒビールの方も来てくださっています。りんごの生産に携わることで自分たちの仕事にも反映できるという声があり、受け入れる農家さんからは、労働力としての感謝だけではなく、自分たちのりんごを商品として販売している方々と話ができることがとても嬉しくやりがいを感じるといった声も聞こえています。

それぞれの強みを持った企業との協働で不可能が可能に

ボランティアツアーの運営が評価され、JTB、ニッカウヰスキー、アサヒビールの3社が「ひろさき援農サポーター」に認定された。

――官民連携で実施することについて、どのようなメリットを感じていらっしゃいますか?

櫻田市長
まずは発信力がまったく違います。ニッカウヰスキー、アサヒビール、JTB、それぞれのネットワークに広げてくださったおかげで、すぐに定員に達することができました。300人も募集すると聞いて、最初は無謀だと思ったのですが、想像以上に反応が良く驚きました。
今回の援農ボランティアツアーは市役所の観光部門ではなく、JTBの力を借りながら農業部門の方で取り組んでいます。弘前市としては農業と観光をうまく連携したかたちで進めていきたいので、JTBが持っている企業としての力が合わさったことで、大きく一歩を踏み出したという感じがしています。現在、市役所でよく使われている言葉は「協働」です。市民との協働はもちろん、企業や他の自治体と協働して取り組むことよって、これまでできなかったことが実現できるようになると確信しています。

――援農ボランティアツアーを実施してみてどのようなことを感じられましたか?

櫻田市長
これまで観光部門では、「体験プログラム」を旅行商品に盛り込んで販売したことはありましたが、その場合は入口程度の体験でした。今回はその先というか、朝8時から午後5時まで拘束されて、しっかりと働いていただく体験です。しかも現地集合、現地解散で、宿泊の際は原則自己負担です。観光の視点で見たときに、商品にならない上にニーズはないと思っていたのですが、これまでのボランティアの方々の感想や、自分でもいだりんごを喜んで持って帰られる姿などを見ていると、「本物に触れる」という意味での新しい切り口かもしれないと思えました。
地元の農家さんも、「ここまでして来てくれる人たちがいるのか」と驚きながらも、自分たちの仕事に自信と誇りが芽生えたようです。これからの地域作りには、自分たちの住む町や仕事に自信と誇りが持てるかどうかが大切になってきます。今回のツアーでは、両者ともに新たな気づきや発見を得られたのではないかと思います。

――実際にはどのような作業を行うのですか?

櫻田市長
参加いただいたみなさんには、旬のりんごをひたすら収穫していただきました。また、私も家族のりんご園に手伝いに行く時もありますが、収穫のときに全員がりんごをもいでいるかというとそうではありません。もいだりんごを入れたカゴを集めて選果台のところに運ぶ、選果台で選果している人のカゴが空になったら交換する、脚立に登ってりんごをもいでいる人のカゴがいっぱいになったら下からカゴを持ってくるなど、まわりにいて補助してくださるだけで、本当に作業がはかどるんです。実際に農家の方々がどういう動きをしているかを見ながら一緒になって作業することは、旅行向けに作られたわけではない本物の体験です。りんご産業にどっぷり浸かっていただく体験ができるのが、新たな旅行のニーズになってくるのかなと感じました。

働いてもらうことが旅行商品になるとは思わなかった

――今後、JTBと連携してやってみたいことはありますか?

櫻田市長
たくさんあります。まずは、歴史的建造物を宿泊施設や飲食施設にしていく取り組みです。現在、弘前市と、青森銀行とみちのく銀行が経営統合して発足したプロクレアホールディングス、弘前商工会議所の3者で協定を結び、歴史的建造物を生かした観光振興を進める取り組みが始まったところです。例えば、弘前公園の向かい側に藤田記念庭園という洋館と和館と庭園がある場所があるのですが、そこを宿泊施設として貸し出せないかなと。その他にも、陸軍将校の研修や社交の場だった弘前偕行社などの建物も、宿泊も含めて上手く活用できればなと考えています。
それから、りんごの剪定技術を用いて行われている桜の剪定技術についても新たな旅行ニーズになるのではと思っています。一般的にソメイヨシノの寿命は50年から60年と言われていますが、弘前には明治15年に植えられて現在140年を超えるものを筆頭に、樹齢100年超えの木が400本以上あるんです。桜が元気がなくて困っている自治体の方も、多く視察に訪れています。私たちの技術に興味を持った方たちに訪れていただいて体験していただく。新たな旅行ニーズを掘り起こして、ぜひJTBと一緒に弘前を盛り上げていきたいと思っています。

弘前のりんごが先駆者となって持続可能な産業を目指す

――弘前市では、少子高齢化による労働力不足や人流を生むための新たな旅行ニーズの創造など、課題の解決に向けてさまざまな取り組みをされていますが、同じような課題を抱える自治体の方に向けてメッセージをお願いします。

櫻田市長
パイオニアとして先進事例に取り組む場合、「頑張ったね」だけで終わるのではなく、何かしらの結果を出さないといけないと思うんです。「成功させる」という気概を持ってやれるかどうか。失敗した人たちの情報を集めながら、同じ轍を踏まないようにしながらもとにかく突っ走る。自分の人生の中で「こんなことに関わったよ」「こんなことを達成できたよ」と言える人生を送って欲しい。周りの目が厳しく怖かったけれど、10年、20年経って成果が還ってくる。それが自治体の職員として働いた自分へのご褒美のようなものなのかなと。
市民のためになるならば、困難なことにも立ち向かって乗り越えていく。一つ成功させられれば次の成功につながっていくと思うので、まずは失敗を恐れずにやってみて欲しいですね。

――「援農ボランティアツアー」の今後の展望を教えてください。


櫻田市長
参加者からの声をいかに生かしていくかが今後の課題だと思っています。JTBの経験もお伺いしながら、ベストなかたちを模索していきたいです。作業が終わったあと、農家の方々は家のお風呂でなく、近くの温泉に行く方が多いんですよ。それも行程に加えて、そのあとに一杯やるというのもいいですよね。
さらには、地元の学生たちが参加できるようなツアーも企画していきたいです。せっかくりんごの産地で学んでいるのだから、4年間のうちに一度でもいいから体験をしていただきたいなと。将来、それぞれの地域で働くとしても、りんごの産地で過ごしたことを思い出として残してもらえたら嬉しいですよね。もしかしたら、農業をやってみようかと思う人もいるかもしれませんし。もともと農家に生まれた人も、素晴らしい仕事であることに気づいて後を継ぐという流れなども生まれてくるのではないかなと思っています。
そして、弘前市は2023年に「SDGs未来都市」に青森県で初めて選定されました。持続可能なりんご産業への取り組みに関する職員の手作りのプログラムが評価していただけました。りんご産業だけでなく、みかん、なし、もも、ぶどうなど、さまざまな産業が高齢化による担い手不足という問題を抱えています。弘前のりんごが先駆者となり、持続可能な産業のモデルケースになっていければと思っています。

まとめ

りんご産業だけではなく、少子高齢化による後継者、労働者不足は社会的な課題となっています。弘前市では、地域を支える産業を観光資源として見直し、農業と観光を組み合わせた「援農ボランティアツアー」を官民連携で行い、実際に体験してもらうことで人流を生み出しました。地域と企業、それぞれの強みを生かして協働することが、これからの地域活性化のカギとなっていくのではないでしょうか。今回の弘前市の事例が、同じような課題を抱える自治体の皆さまの参考になれば幸いです。

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