IoT、ロボティクス、人工知能(AI)、ビッグデータといった先端技術の進化により、非連続の変化が予想される「Society 5.0」時代。そこで活躍できる人材を育てるために、学校では様々な教育活動が取り入れられています。一方で、それらを通して生徒の資質・能力がどれだけ伸びたかを測る良い方法がない・・・という声を耳にすることが増えてきました。今回はそんな先生方のお悩みの解決法を一緒に考えていきます。
変化が著しい時代。知識・技能だけでは生き残れない?!
「2030年には、理論的に日本の49%の仕事がAIやロボットに置き換え可能となる※1」、「一つのスキルが価値を生み出す期間は、40年から4.2年に縮まる※2」といわれるように、“知識・技能の陳腐化スピード”が、AIの台頭によって急速化すると言われています。そうした急速かつ予測できない変化に対応できる人材を育成するため、文部科学省は「学力の三要素※3」をバランスよく涵養する重要性を強調しています。人間がAIと共存していくのが当たり前な時代においては、知識・技能の育成だけでは不十分なのです。
- 1 野村総研・オックスフォード大学
- 2 the U.S. Bureau of Labor Statistics
- 3 「知識・技能」、「思考力・判断力・表現力等」、「学びに向かう力・人間性等」
注目度急上昇!新しい時代が求める「コンピテンシー」とは
これからの社会で求められる三要素のうち、「思考力・判断力・表現力等」および「学びに向かう力・人間性等」の二つの要素は、一般的に「コンピテンシー※4」と呼ばれます。コンピテンシーには、他にも主体性、創造性、共感・傾聴力、柔軟性、疑う力、等が含まれ、これらは学力やスキル(「知識・技能」)を水面下で支える役割を果たしています。
- 4 日本語では「行動特性」と訳されます
「これからの社会では、(AIにはかなわない)知識量や記憶力に優れた人間よりも、相手に共感し、相手の望むサービスを提供できるような人間が必要とされる。Society5.0時代に向けてコンピテンシーが注目されるのは、そうした背景がある」と、説く専門家もいます。 学力・スキルと合わせて、コンピテンシーを兼ね備えた人間こそが、AIと人間が共存するこれからの社会で活躍できる存在と言えるでしょう。
コンピテンシーを伸ばすカギは、正しく「測る」こと
コンピテンシーに近い概念として、人間が生来持つ「気質」があります。コンピテンシーと気質の二つを合わせて「非認知能力」とも呼ばれますが、コンピテンシーは気質とは異なり、教育活動等によって「伸ばすことのできる」力です。
一般的にコンピテンシーと学力・スキルは「相互伸長の関係」にあると言われています。ただし、それを実現するには、教科の点数だけでなく、その教科と関係するコンピテンシーの伸びを正しく測定し、それに基づいたサポートを先生が提供する必要があります。例えば、探究活動による生徒一人ひとりのコンピテンシーの変化をデータ化できたとしたらどうでしょうか?そのデータは今後のカリキュラムや個別指導計画を立てる際の貴重な情報となるばかりでなく、生徒本人へのフィードバックにも活用できる有効な資料になるはずです。
コンピテンシーはどうすれば測れるのか?
では、定期考査などのペーパーテストで測ることの難しいコンピテンシーはどのようにすれば測れるのでしょうか。コンピテンシーや気質は文字通り「“非認知”能力」なので、生徒自身の自己評価が難しい力です。そこで、例えばアメリカでは「メタ認知※5」を助ける目的で、中高生の頃から徹底して「360度評価」による相互評価を繰り返し行います。つまりコンピテンシーを測定する方法の一つとして、360度評価、フィードバック、相互評価等、“周りの力”を借りることが挙げられます。先生方や仲間からのポジティブな評価を生徒自身が認知することで、自己肯定感が高まるという効果も期待できます。
一方、生徒同士で相互評価を行う場合、人によって評価傾向にバラつきが出るという問題を解決しないといけません。これについても最近ではAIが評価データを補正してくれる測定ツールも開発されていますので、それらを活用するのも効果的です。
- 5 自分の思考や行動を客観的に把握し認識すること
コンピテンシーが測れると、様々なことが可能に!
このように生徒の資質・能力を可視化して評価できると、学校運営において、どんなことが可能になるのでしょうか。一例をご紹介します。
- 学校独自のキーコンピテンシーの成長可視化
- 教育活動の改善をエビデンス・ベースで実施
- 中高一貫教育の教育効果を可視化
- 女子校/男子校の特性を明らかにする
- 総合的な探究の授業の評価と効果検証
- SDGs、PBL、CLIL※6の効果検証
- 選抜型入試対策
- 成績予測 等
- 6 Content and Language Integrated Learning(内容言語統治型学習)
生徒一人ひとりの指導法改善、ルーブリック開発等はもちろん、新たな教育プログラムの取り組みの成果を対外的に広報する際に活用したり、スクール・ポリシーの策定やスクール・ミッションの再定義等に活用したりする学校も現れています。すでに取り組みはじめた学校からは、エビデンス・ベースで指導改善やプログラム改善につなげるといった報告も上がってきています。
まとめ
生徒の資質・能力を伸ばすには、先生方がそれらを多角的な視点から把握し、それを伸ばすために必要な行事やカリキュラムをデザインし続けていくことが重要です。どれだけ世の中のデジタル化が進んでも、“デジタル教育”ではまかなえない部分を、先生方は担っています。そのような先生方が、「次にどんな一手を打つべきか」を的確に判断するためにも、生徒の資質・能力の全体像を客観的な指標を用いてデータ化することが、今後ますます重要になってくるのではないでしょうか。
(セミナー動画) 生徒の非認知能力を可視化・評価する『AiGROW』活用セミナー
現在、学校ではさまざまな教育活動が取り入れられています。そのような中、生徒の資質・能力がどれだけ伸びたかを測る良い方法がない…とお考えの教育関係者も多いのではないでしょうか?そこで今回、気質・コンピテンシーを可視化することの有用性とその具体的な方法について、「Ai Grow」を展開するIGS株式会社の矢部一成氏に講演頂きました。(所要時間:約35分)
本講演は、2020年12月19日に「生徒の資質・能力を育むカリキュラム・マネジメントとは?」をテーマに開催された『学校ソリューションセミナー』(JTB主催)の一部です。