学校や社会が抱える課題が複雑化するなか、社会全体で子どもたちの成長を支えるため「社会に開かれた教育課程」や「地域との協働的な学びの機会」が重視されるようになってきました。地域の多様な資源を学びに活用することは、子どもたちのコミュニケーション力や課題発見力・課題解決力を育む上でも非常に有効です。一方で、「学校には企業や地域とのネットワークが少ない」「コロナの影響もあって生徒の活動が学内に偏りがち」という声もよく聞かれるようになりました。こうした学校のお悩みを解決しながら、同時に企業や地域が抱える課題を解決しようと宮崎県で動き出した産官学連携プロジェクトが「MIYAZAKI SDGs ACTION 2020」です。今回の記事では2021年3月に開催されたプレゼンテーションイベントの様子をレポートします。また、ホワイトペーパー(お役立ち資料)では、イベント開催までの道のりを関係者インタビューを交えてお届けします。
2020年、宮崎で誕生した産官学連携プロジェクト
「MIYAZAKI SDGs ACTION」
宮崎県内の高校生、大学生、社会人が力を合わせてアウトプットを制作
プロジェクトの概要やプレゼンテーションの動画は、公式Webサイトからご覧いただけます。
チーム構成(一部)
No. | 高等学校 | 大学 | 企業 | 発表テーマ |
---|---|---|---|---|
01 | 五ヶ瀬 中等教育学校 |
宮崎大学 | (株)杉本商店 | 居たい!来たい!宮崎! |
02 | 宮崎学園 高等学校 |
宮崎大学 | TNA ソリューションデザイン(株) | 日本の現状を知り、ジェンダー平等の実現に向けて… |
03 | 小林高等学校 | 南九州大学 | 特定非営利活動法人 宮崎文化本舗 |
ブレンド・シティ計画 |
04 | 都城西高等学校 | 宮崎大学 | (株)川上木材 | 木育×デザインシンキングで心地よい場を生み出す |
05 | 宮崎日本大学 高等学校 |
宮崎大学・ 南九州短期大学 |
(株)ホンダロック | ゴミ拾い活動のバトンをつなぐ(そして、つながる) |
年代の異なる相手との協働を通して得られた気づきとは?
年代や立場、知識や経験の異なる三者による議論では、多様な視点がもたらされたほか、それぞれの役割が自然と生まれていきました。高校生は豊かなアイデアとSNSを用いた情報発信力を駆使し、人文系や環境関連学部に所属する大学生は日頃の学びの成果を発揮、そして企業(社会人)は、実務経験で培った専門知識と調整力で課題に向き合いました。参加者の感想からは、この活動を通してそこにさまざまなつながりが生まれたことがわかります。
高校生の感想
- 企業の社会人や大学生と一緒に探究して、「大人ってかっこいい!こんな大人になりたい」と思った。
- 私たちの意見を踏まえて「実現するには何が必要?」とアドバイスしてくれ、一緒に考えてくれた。
- アイデアを出した時は、まず目標を決めてそれに沿って企画を出していくといいということを教えてくれた。
- 名前だけ知っていた企業が、宮崎に対してどんな仕事を提供しているのか、社会にどう貢献しているのかという視点でみられるようになった。地元の企業をよく考える機会になった。
- 自分たちの住む町の良さである、自然、食べ物、人のつながりの深さなどに気づいた。
- SDGsは、自分たちが日ごろ学んでいることの延長線上にあるものだということに気づいた。
- SDGsは人類に立ちふさがる課題ではなく、人のために何かアクションを起こす人がいて、いろいろな年代で課題解決に取り組んでいる人が身近にいるんだということに気づいた。
大学生の感想
- 高校生、社会人、大学生とは、それぞれ見えているものが違い、共感を覚えることもあれば、違いに気づかされる場面もあり刺激になった。
- 高校生や私たちが夢みたいなことを語っても、社会人は受けとめてくれて、そのうえでどうしたら実現できるのか、具体的な解決策を一緒に考えてくれる。尊敬している。
- 地元・宮崎に、素晴らしい企業がたくさんあることに気づいた。
社会人の感想
- 高校生がSDGsの考え方を理解していることが素晴らしいと思った。自分たちが学生だった頃は、自分のことしか考えなかったが、今若い世代が地域のことや地域の将来のことまで一生懸命考えていることに感銘を受けた。
- 大学生のアカデミックな知識、実戦経験、地域とのつながりの深さ、高校生ならではの視点、宣伝力、想像力、情熱などに圧倒された。
- 私たちの専門知識や社会人的視点が刺激となって、ますます高校生・大学生のアイデアが創発されたことが喜びだと感じた。
- 宮崎の地域経済活性化はもちろん、社員の愛社精神も高められた。
聞き手
どうして、このプロジェクトを立ち上げたのですか?
執行
宮崎支店は県内の高校、大学、企業、自治体を幅広く担当しています。日頃、高校からは「探究学習が校内に限定され、同じ価値観の答えしか見いだせない。生徒には多様な人とかかわり合って議論する場が必要」というお悩みをお聞きしていました。また、企業とは地域経済活性化について議論を重ねる機会を多く持っていましたが、その中で「CSRの次の一手を探している/人材不足」といったお声が聞かれました。これらの課題を相乗的に解決するために自分たちが橋渡し役となって、高校×大学×企業が協働して宮崎の未来に向けた課題を発見しアクションプランを策定する、という企画が生まれました。
聞き手
どうしてSDGsをテーマにしたのですか?
執行
SDGsは世界共通の指標だからです。さらには、グローバルからローカルに課題を落とし込むことで高校生の視野を“外から内、内から外”へ広げるきっかけになればと考えたからです。私がインドへ赴任していたときに、現地の高校でSDGsをテーマにインドと日本の高校生をディスカッションさせたところ、異なる視点を混ぜ合わせることで一つの課題に対してさまざまな意見が生まれることを体感しました。このようにして“混ぜ合わせることで起きる化学反応”を確信した私は、地元総合広告代理店の協力を得て各方面への企画提案に乗り出しました。
インタビューのつづきは、ホワイトペーパー(お役立ち資料)からご覧いただけます。
聞き手
どうしてこのイベントに生徒を参加させようと思ったのですか?
松ケ野先生
本校は探究1年目ですが、生徒が学外に出る機会が少ないことが悩みです。調査もインターネットや書籍、教員からの情報に偏りがちで、同世代間の議論に終始しています。何かしら外と交わる機会をつくってあげたいと常々考えていたところ、折よくこの企画の提案を受け、すぐに参加を決めました。
聞き手
このイベントに参加したことで、生徒はどのように成長しましたか?
松ケ野先生
生徒の成長を顕著に感じたのは、大学生・社会人とのグループワークの過程においてです。「自分の意見を述べてもいい。むしろ積極的に伝えていかないといけない」という心境の変化が見られました。意見を述べるためには準備が必要です。次のミーティングまでに何を準備すべきかと考える取り組み姿勢の変化、自発的で積極的な参加姿勢に変化していったことに、生徒の成長を感じました。また、これまでは自分の意見を押し通す傾向のあった生徒たちが、周囲に目を向け、他者の意見を受け入れ、それを踏まえて発言することが少しずつできるようになっていきました。この点も、本活動を通じて得られた生徒の成長であると思います。
インタビューのつづきは、ホワイトペーパー(お役立ち資料)からご覧いただけます。
まとめ
学びを社会に開くためには、学校と地域が組織的・継続的に連携・協働することが重要と言われています。自分の学校だけで解決しようとするのではなく、コンソーシアムなどの「横」のネットワークを活用して進めることで地域とのつながりは一層強固なものになるでしょう。また、企業や大学との継続的なパートナーシップを構築するためには、学びへの支援・協力という「一方向の関係」ではなく、お互いの課題解決につながる「双方向の関係」を築くことが極めて重要です。地域で企業、大学、自治体とつながりの深いコーディネーター的存在を見つけ、そこからお互いの抱える課題や、共に創りたい地域の未来を共有することから始めてみてはいかがでしょうか。
【動画】MIYAZAKI SDGs ACTION 2020
~行動の10年 私たちにできること~
準備段階から当日のプレゼンテーションまで、各チームの取り組みの様子を動画でご覧いただけます。宮崎の高校生・大学生・社会人が協働して、どのように地域課題を探究したのか?ぜひこちらもご覧ください。