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学校・教育機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 探究を軸にした学校改革実践事例 ~追手門学院中・高等学校~【前編】探究科を設置し、6年間の独自カリキュラムをデザイン

2021.08.02
学校運営・総合
探究学習
カリキュラム構築支援
中学・高校向け

いよいよ2022年度から新学習指導要領が高校でも本格実施されます。「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」へ変更され、「理数探究」や「日本史探究」など「探究」がつく教科・科目が登場することからもわかる通り、「探究」は改訂の大きなポイントともいえます。現段階で、どのように探究活動を実現すればよいか試行錯誤している学校も少なくありません。

今回は、本質的な探究活動実現へのヒントが詰まった大阪府の追手門学院中・高等学校の事例を2回に渡って紹介します。

【前編】では、探究の狙いと具体的な取り組み内容、そして、生徒たちの変容について、学習推進部部長の阿部宰先生と探究科主任の池谷陽平先生にお話を聞きました。
(2回シリーズ)

池谷先生(左)と阿部先生(右)

学校プロフィール

追手門学院中・高等学校

1947年開校。中学校は特別選抜、特別進学コースを擁する。高校は、特選SS、Ⅰ類、Ⅱ類、スポーツ、表現コミュニケーションコースがあり、2022年から創造コースを新設する。

生徒数
中学校196名、高等学校1,053名(2021年7月現在)
所在地
大阪府茨木市太田東芝町1-1
ホームページ
https://www.otemon-jh.ed.jp/

教育理念から学校の教育活動を具体化する

― 探究活動を軸に据えた学校改革の背景を教えてください。

阿部先生
2019年、本校は目指す教育を体現する校舎を新設しました。新校舎の教室は、間仕切りが襖のように取り払えるようになっています。これはクラス合同や教科横断の授業を展開できるようにすることを狙うものです。学校教育の「当たり前」を超えられる校舎を構想したのです。

当時の本校は、大学進学実績も堅調で地域や保護者からの期待も大きくなっていました。とはいえ、目の前の生徒たちとこれからの社会を考えると、どう考えても大学受験をゴールにしてはいられません。安定した学校運営ができている今こそ、新たな教育へと舵を切ろうと考えました。

― 刷新した学校教育の全体像を教えてください。

池谷先生
“自分のために生きてみんなのためにも生きる”という意味である「独立自彊・社会有為」の教育理念のもと、DP(ディプロマ・ポリシー)とCP(カリキュラム・ポリシー)を言語化しました。

DP
基礎知識として多様な知識、教養を育み、経験や人と何かを「創造」する過程を通じて、正しく自己の「価値観」を形成し、他者とともに倫理ある文化、社会を形成する真のリーダーを育成する。
CP
本質的な問いに対する「内省」を通じて、また他者に共感し、他者と「協働」することで、あらゆる「自分」に気づき、自らの価値観で正しく判断できるようになる生徒の育成。

その後、育成したいコンピテンシー(思いやり、自己理解)とスキル(判断力、思考力、対話力・創造力)を設定。学校の全ての教育活動が、このコンピテンシーとスキルの育成につながるよう設計されます。

学校デジタルパンフレットより

― 学校の教育方針は、どのように決まっていったのですか。

阿部先生
全教員で理想の学校教育について話し合うワークショップを行いました。「何のために学ぶのか」といった本質的な議論を何度も重ねた結果、「進学実績は大切だけれど、そのために教育しているわけではない」ということで目線が合ったんです。そこで、これから社会に出ていく生徒たちにとって大事なのは、「個別型学習」「協働型学習」「プロジェクト型学習(探究学習)」の3つの学び方とその融合であると焦点化されたのです。

3つの学び

個別型学習/基礎的な知識・技能の習得
個々に応じた効果的な学習とICT活用で自ら学びを深め、そこで得た知識や技能、考えを実践的な学びへとつなげます。
協働型学習/教え合い、学び合いで知識を活用
互いの知識や知恵、考え方を交換し、学び合いながら課題解決に取り組むことで、周囲と深い関係を育む力を育てます。
プロジェクト型学習/教科の枠を超えた実践的探究授業
教科の枠にとらわれない実践型の学びで、さまざまな知識を活用しながら思考力や判断力、表現力を身に着けます。

学校HPより

リフレクション学習

学校教育の柱になる教科「探究」を設定

― 御校の教育の中心に据えられた探究活動を、どのように実装させていきましたか。

阿部先生
2020年からは、探究を教科としました。2021年度は専任3名と他教科との兼任3名で探究科のカリキュラムを策定し、その他8人が携わり計14人で授業を行っています。中学1年生から高校3年生まで週2時間実施。教員が探究に集中できる体制を作っているのです。

― 探究の教科目標を教えてください。

池谷先生
本校が育成を掲げている「コンピテンシー」と「スキル」を基に、探究科の「Vision」と「Mission」を作成しました。

Vision
生徒が、自信、レジリエンス(適応する力)を獲得しながら「自己肯定感」を高め、自らの人生をよりよく選択する
Mission
  1. とりあえずやってみる経験から振り返り、自分自身への感度を高め、自分にしか創造できないことに気づく。
  2. チームでデザインする経験から、他者との関係性の中で、社会の中で、自分がやりたいことを発見しようとする。
  3. 自らやりたいことを選択し行動に移す経験から、一歩を踏み出し自己実現しようとする。

探究の授業において特に重視しているのが、生徒の自己肯定感を高めることです。日本全体を見渡しても、私たちが接する生徒たちを見ていても、自己肯定感が低い子どもたちがあまりに多い。自分を尊重できなければ、自身の中から湧き出る興味や課題意識を捉えることができません。つまり、探究活動と自己肯定感の醸成はセットで行うべきなのです。

― 実際に探究をする上で、大事にしていることはどのようなことでしょう。

池谷先生
探究のプロセスの中で、自己を肯定しながら知識やスキルを活用し、自分の人生を設計するための価値観や倫理観を獲得していきます。それを実現するために、5つのマインドセットを提示しています。Design(自分の人生を自ら設計する姿勢)、Reflection(振り返る姿勢)、Inquiry(知ろうとする姿勢)、Vision(未来を考える姿勢)、Empathy(自分だけじゃないと思う姿勢)の頭文字を取って、「DRIVE Mindset(ドライブ マインドセット)」と呼んでいます。

初年次は自身の掘り起こしの期間、体系立てた探究活動を始動

― 具体的な探究活動の内容を教えてください。

池谷先生
中高6年間を見渡した探究活動を作成していますが、本校は高校から入学する生徒が多いので高1からもきちんと力をつけられるカリキュラムとしています。高校1年生では、自分の内面を表現する「アート」を行います。レゴを使って今の自分の感情を表現したり写真や動画で自己表現をしたりします。

ある授業では、「目に見えないものを100個挙げよう」とお題を提示し、その後、「100個の中から自分が好きなものを一つ選び、レゴブロックを使って人に伝えよう」と促します。生徒たちは、「どういう形にするか」「どうしたら他者に伝えられるか」を試行錯誤しながらレゴを組み立てます。完成した後、何を感じ、考えてどういう形にしたかについて発表をします。

― 高校の最初の段階の探究の授業では、課題解決型のプロジェクトは行わないということですよね?

池谷先生
そうです。たしかに、「はじめから課題解決型学習をすればいいじゃないか」という指摘もあります。しかし、生徒たちはこれまでそうした取り組みを経験したことはないんですよね。その状態では、「問いの設定」や「課題の発見」ができず、本質的な探究活動につながりにくいのです。私たちが接している生徒たちも、「課題ってなに? 自分たちに何ができるの?」という子どもたちがほとんどでした。

そんな中で、「社会的な課題の中から問いを設定し解決策を提示しなさい」といった自由度の高い探究を提示されても、生徒たちは困惑します。だから、高校1年生に対しては自分の関心を“掘る作業“を行い、課題を見つけられるようにすることが大事なのです。

― なぜ、「アート」という手法を選んだのでしょうか。

池谷先生
自分の感情や気持ちを言語化することは非常に難しいものです。そうした機会を持ったことのない中高校生であれば、なおのことでしょう。しかし、「今日の感情を写真で表現してみよう」と言語化ではない方法であれば取り組める子が多いのです。言葉にする手前の段階で「アート」を挟むことで、自分の内面への気づきが促され、自身を表現する方法をたくさん獲得することができます。

一方で、知識やロジックが先行してしまいきれいな言葉でまとめようとしてしまう生徒もいます。そうした子はむしろ「アート」にすることが苦手。しかし、最初は手が止まっていても、クラスメイトと対話をする中で、「自分と他者との違い」や「違っているからこそ素晴らしい」ということを実感し、少しずつ自分を掘り下げていくことができるようになります。

― 先生方はどう生徒たちに接するのでしょうか。

池谷先生
生徒の内面から出てきたものであれば、「全て正解」です。私たち教員の役割は、それぞれの生徒からのアウトプットをシンプルに「あなたにしかできない表現だね」と承認していくこと。手が止まってしまった生徒に対しては、一つでもアクションを起こした時に褒めます。褒められることで、自分を表現することの抵抗感が少しずつなくなっていきます。

2クラスを3人の探究科の教員で受けもつようにし、1人が授業をしている時には、もう1人はその姿を見て自身の授業に生かすようにしています。こうすることで、生徒への接し方の目線が合っていくのです。

― 高校の2年生以降は、どのような探究活動に取り組むのでしょうか。

阿部先生
「アントレプレナーシップ」を軸にした探究活動を実施します。「アントレプレナーシップ」は、ビジネスシーンでは新規事業などを立ち上げる起業家の精神と捉えられることが多いです。しかし、もともとの意味は「社会の問題やニーズを察知し、それを自分の力で解決する」姿勢や能力のことを指すもう少し広い概念です。

探究の授業の中で、プロトタイプ開発までやってみる。その「アントレプロジェクト」を実施します。いったん「共感→問題定義→アイデア創出→プロトタイプ」とデザイン思考のサイクルを回す練習をしてから、実践の場として2年生の中盤で探究旅行(※)に出かけます。

探究旅行については【後編】でご紹介します

探究の授業を通じ、目に見えて変化する生徒たち

― 1年生の活動を経た生徒たちには、どのような変化がありましたか。

阿部先生
「ありのままの自分」を出すことに抵抗感があった生徒が、探究を通じて少しずつ変化していきました。クラスメイトや教員が自身の表現を真剣に受け止めてくれることで、自分の気持ちに向き合うようになり、少しずつアウトプットすることへも自信を持っていくことができるのです。実際に「プレゼンテーションなどが苦手でしたが、克服できました!」と語る生徒も現れています。

― 2年生で「アントレプロジェクト」を経験した生徒たちにはどのような変化がありますか。

池谷先生
「アントレプロジェクト」では、例えば、「ストレスを抱えやすい社会」に着目した生徒がいました。自身が下校中の畑や静かな道に癒しを感じているのに対し、多くの人が日々の暮らしの中にストレスを抱いていると気づいたんです。そして、そのストレスの背景には自然の消失があるのではないかと仮説を立てました。そこで、ストレスの解消につながる開発をしようと研究をスタートさせていました。生徒自身の中からこうした気づきが生まれるのは、1年生のうちに自身の掘り起こしを行ってきたからでしょう。

― 生徒たちの探究活動や成長を独自のWebサイト「O-DRIVE」で発信していますよね。その狙いを教えてください。

池谷先生
探究活動の成果は数値化しにくいものです。そのため、生徒たちの成長する姿を見てもらうことが重要なのではないかと考えて、探究活動を発信するメディアを作りました。全国の先生方は日々生徒たちの成長を見守っていらっしゃいます。しかし、その実態はほとんど学校外に出されることはありませんでした。それに対して、私たちはどんどん外にアウトプットしていったほうがよいと考えています。なぜならば、それにより活動や成長を記録に残すことができ、メディアに登場した生徒達の自己肯定感もグンと高まるからです。また、当メディアを全国の先生方の取り組みの参考にもしてほしいと思っています。

「O-DRIVE」公式サイト

(次号につづく)


ホワイトペーパー(お役立ち資料) 【図解】学校事例レポート「カリキュラム・マネジメントと探究活動デザイン ~追手門学院中・高等学校~」

追手門学院中・高等学校の事例をもとに、カリキュラム・マネジメントを進める際のポイントや、総合的な探究の時間の活動内容を具体化するステップについてまとめました。以下よりダウンロードください。


ホワイトペーパー(お役立ち情報) 【図解】学校事例レポート「探究活動デザインと修学旅行改革 ~追手門学院中・高等学校~」

修学旅行を探究活動の中核に位置付け、方面や内容を従来から大幅に刷新した追手門学院中・高等学校。同校の協力を得て、修学旅行改革のポイントと旅行先での活動計画をまとめました。以下よりダウンロードください。

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