学校・教育機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 3万人の高校生を合格に導いた総合型選抜のプロに聞く! 変容する大学入試・社会構造に 探究的な学びが効果的な理由

2021.10.11
国内プログラム
学校運営支援
課題発見・解決力育成
中学・高校向け

2022年度より高等学校でも新学習指導要領が実施され、各学校で探究的な学びの充実が一層求められるようになります。さらに、大学入試がどう変革していくのかも目が離せません。大学や社会の変化と学校現場で求められる取り組みなどについて、日本アクティブラーニング協会理事の青木唯有氏とJTB教育事業ソリューションセンター長の中野憲が対談を行いました。

青木 唯有 (あおき ゆう) 氏

青木 唯有 (あおき ゆう) 氏

日本アクティブラーニング協会理事

民間教育機関で20年以上にわたり総合型選抜(旧AO入試)を始めとする特別入試に特化した指導に携わり、早慶・国公立等、延べ3万人以上の合格指導実績を持つ。「非認知スキル」に関する東京大学との共同研究プロジェクトに参画。現在は日本アクティブラーニング協会理事・人財開発教育プロデューサーとして、企業・教育機関の研修プログラムの企画、開発を行っている。著書に『親が偏差値思考をやめれば、不思議なほどわが子は伸びる AI時代を生きるための「非認知スキル」』がある。

中野 憲 (なかの けん)

中野 憲 (なかの けん)

株式会社JTB 教育事業ソリューションセンター長

国際理解教育・留学の専門企業を経て、株式会社ジェイティービー(現JTB)へ。国際交流推進室長、国際交流センター長を歴任後、現職。教育全般の高度化を目指し、商品プログラムやスキーム開発に従事。

アドミッション・ポリシーを反映し多様化する各大学の個別選抜

中野
2021年は、大学入試の分水嶺といわれています。現在は、探究学習の導入をはじめとして、次世代教育全般に大きな変化があるタイミングであると考えています。なかでも、青木さんがご専門としてきた大学入試の総合型選抜は今後どのような展開と広がりを見せるのか注目ですよね。
青木
私自身はこれまで民間の教育機関で、AO推薦入試の指導に携わってきました。既に私立大学においては、総合型選抜のような入試での入学者は半数程度となっています。国公立大学でも、筑波大学ではすでに4割近くがこうした入試での入学者となっており、東北大学でも3割まで枠を広げる方針を表明しています。
中野
総合型選抜のような入試の定員枠を積極的に広げていく大学と、なかなかこの変化に対応できない大学との二極化が進む可能性もあるのではないかと思っています。文部科学省が主導する全大学に影響を及ぼす大学入試改革の見直しがなされたことで、各大学によるバラツキが出てきそうです。
青木
たしかに、大学入学共通テストでの英語の民間試験導入や記述式試験といった方法は頓挫しました。しかし、英語4技能化や記述式が求められる意義や新たな学力観など本質的な狙いに変更があったわけではありません。大学改革の「手法」は見直されましたが、その狙いは各大学の入試で残り続けます。つまり、創意工夫を凝らして、求められる学生を入学させる仕組みが必要とされているのです。大学には、ある種の自立が求められている状況だといえます。
中野
アドミッション・ポリシーによって、入試の内容・形式も個々の大学で変わるということですね。偏差値という一つの指標で行われてきた大学入試が、求める人材像により多様化していく。何種類もの入試の中から、受験生は自分の特徴にマッチするものを選び取ることになりそうです。
青木
おっしゃる通りです。わずか定員150名程度の秋田の国際教養大学は、世界から入学希望者が殺到し、倍率は50倍程となっています。受験生が集まる要因の一つとして、十何種類の選抜方法が用意されており、入口が入念に練られているということが挙げられます。今後は各大学が運営方針の中で工夫し、入試がより多様化していくことになるでしょう。

予測不可能な社会へと変化し、キャリアは複線化する

中野
どういった社会的背景から大学入試の変化が求められているのでしょうか。
青木
新型コロナウイルスの世界的な蔓延は、予測不可能な時代を象徴する大きな出来事となりました。コロナ禍で、これからどうしたらよいのか誰も正解を持っていません。こうした誰も経験をしたことのない社会では、知識の量だけでは課題を解決できず、個々に内在されている発想や感性を発揮していくことが求められます。そして、大学は社会との接合点です。子どもたちを予測不可能な社会に送り出す上で、非常に大きな役割を期待されているのです。
中野
これまで大人が歩んできた社会とはガラリと変わっていくといえそうですね。コロナ禍になり、そもそも大学に入る意味があるかも問われ始めているように思います。アメリカでも、キャンパスに通えなくなったことで多くの学生が訴訟を起こしていますよね。
青木
はい、そこでは選抜のあり方が一つの鍵となるのではないかと思っています。私がAO推薦の指導をしていた際、生徒たちは受験をすごく楽しんでいました。これまでの成長の記録を振り返りながら、将来の道筋を見つけていくことに夢中になっていたのです。なかには、「ずっと考えていたい!」という子もいるほどでした。一方で、一般入試の生徒たちは一刻も早く受験を終えて解放されたいと思っていますよね。私はここに大きな違いを感じていました。誤解を恐れずにいうと、総合型選抜などの入試で自分と向き合うことは一つのエンターテインメントになりうるのではないでしょうか。これは理想論かもしれませんが、よい意味で受験が目的になるとも思うのです。
中野
おもしろいですね。「自分とは何か」「自分をどう発信していくか」ということに関心の高いZ世代※の特有性もあるかもしれません。本来であれば、世代の特性をつかんで教育や指導も変わっていく必要があるのですよね。さらに、これからは子どもたちが歩んでいくキャリアも大きく変わっていきますよね。

Z世代:1990年代後半から2000年代前半生まれの世代。生まれたときから身の回りにICTがあることから「デジタルネイティブ世代」と呼ばれ、一般的にダイバーシティや自分らしさを重視する傾向が強いともいわれる

青木
はい。よくいわれることですが、今後は偏差値の高い学校にいき大企業に入るといった単一線のキャリアに乗ったら安泰とはならないでしょう。一つの会社に自分の一生を捧げていくよりは、ジョブチェンジを繰り返しながら多様なキャリアステージで自分を試していくようになると思います。
中野
そうした流動性の高い社会になると、よくいわれている「2:6:2の法則」も変わっていくような気がします。これは、組織の中で優秀な上位2割の人材がいて、平均的な中位の人材が6割、下位のグループが2割となるという理論ですね。キャリアが複線化することで、組織の構成要素も変化していくのでしょうか。
青木
単一線キャリアでは、「2:6:2の法則」があったかもしれませんが、今後はたった一つの指標で人材を測定しえなくなるので組織内も変化する可能性はありそうです。これからの社会では、多様な種類の人材が多様な育ちをしていくことが求められるようになります。それに伴い、高校も大学も色々な生徒・学生の独自性を大事にしながら育てていくことが求められるといえるでしょう。
中野
キャリアに関連した話で、日本の雇用がメンバーシップ型からジョブ型※へと進むといった議論がなされています。しかし、日本では専門性を発揮するジョブ型の雇用を適用できる土壌がまだまだ整っていないようにも思うのです。一人ひとりが、何に関心を持って、何が好きで、何をやりたいかということを突き詰められ、かつ、企業がその人材に合わせて最適化を図ろうとした時にジョブ型が機能すると思います。現状は、「自分」に目を向ける機会が乏しいように思います。

メンバーシップ型:企業が人材を一括採用して各人に仕事を割り当てる汎用性重視型の雇用形態/ジョブ型:企業が必要な仕事に対して必要な人材を採用する専門性重視型の雇用形態

青木
はい、アイデンティティを形成する機会は従来の学校教育ではサブ的な位置付けでしたよね。これまでの企業は、高学歴層の学生を一括採用し、ジョブローテーションでマルチな人材に育てていこうとしていました。しかし、この育成方法は時間がかかります。現代社会では、その時差に耐えられません。ジョブ型の雇用形態になると、入社前から自分が一体何者であって、何に夢中になれるのかを明確にすることが求められます。そこにつながるのが、中学・高校段階での探究的な学びだと私は考えています。

右脳と左脳を高めることで「非認知スキル」が伸びる

中野
「メンバーシップ型からジョブ型へ」「一般入試から総合型選抜へ」あるいは「教科学習から探究学習へ」など、二項対立にもなりえる大きな変化が、教育界のみならず社会全体に起きていると感じます。とはいえ、一気に舵を切ろうとすることは現実問題として難しいでしょう。例えば、急激にジョブ型へシフトするようなことがあれば、若者の失業率が上昇したり殺伐とした社会の空気となったりするのではないかという懸念があります。
青木
二項対立で捉えると、そうなってしまいますよね。二項対立をつなぐキーワードが、「非認知スキル」ではないかと考えています。「この道筋だから間違っていた」とか、「正解はこちらだった」となると希望がありませんし、本質的でもありません。非認知スキルは、その人の個性やポテンシャル、可能性です。その視点に立つと、人間はそれぞれが異なる存在だということが見えてくると思います。それぞれの得意領域があり、それを生かせるような制度や社会が用意されていけば二項対立とはなりません。
中野
「どちらの道が正解」という極端な見方にならないためにも、今後は非認知スキルという領域のリテラシーが重要になりますね。子どもたちだけでなく、我々大人も非認知スキルの概念を意識していく必要がありそうです。ところで、非認知スキルをわかりやすく表現するとどういった定義ができるのでしょうか。
青木
非認知スキルは、ペーパーテストやIQ試験などでは測ることのできない、想像力や好奇心、コミュニケーション能力など個性や性格までを含んだ資質のことです。例えば、円周率3.14・・・は永遠に続く数字でしかありませんよね。その数字を音階にしてみると、素敵な音楽になることがわかっています。異なる要素を結びつけるこの新結合的な発想こそ、非認知スキルのなせる技です。
中野
非認知スキルや探究学習と一般的な教科学習は、右脳と左脳の関係性のイメージに近いと感じました。一般的に右脳が担うのは、アート的感覚や直感など。一方の左脳は、ロジックや言語を司るといわれています。左脳的な力の育成に偏重してきた教育に、右脳的な要素を加えていくことが重要なのではないかと感じました。実際に、社会に出ると右脳と左脳のバランスがよい人がハイパフォーマーだとされます。右脳と左脳の力を両方高めていくには、どのような学びの機会が必要なのでしょうか。
青木
私たちが作っている「円盤型教材」(詳細は記事末のダウンロード資料に掲載)は、まさに右脳と左脳を育てる教材となっています。こちらの教材は、多くの学校で探究活動に導入いただいています。想定外の問いに即興で解答する中で右脳的な直感を養い、言語化するという左脳的な力を育んでいきます。右脳がエンジンとなるこのトレーニングを続けていくことで、非認知スキルを育てていくことができます。
中野
私も何度も円盤型問題に取り組みましたが、問題に挑むと毎回ドッと疲れるんです。これはいつも使っていない脳の領域を使っているからなのでしょうね。SDGs的な社会課題に、自身なりの知識と哲学を総動員して挑むような感覚になります。
青木
そうですね。総合型選抜に向けての学びが、この円盤型問題への取り組みに近いのです。総合型選抜では、自分の行動や経験を記録するポートフォリオを作成します。これに取り組む中で、今まで意識したことがなかった自分の内面に出会っていきます。しかも、それを誰にでもわかるように言語化する。いわゆる哲学的に物事を深めていくプロセスだともいえるでしょう。

自分を掘り下げ、社会へ課題意識を向ける探究学習

中野
「探究学習とは何か」が話題となる時、自分を掘り下げるという側面と社会に課題を持つという側面が挙げられます。その上で、「自分と社会どちらの掘り下げが先か」や「どう課題を見つけるか」といった目先の手法論だけが議論されがちです。しかし、私はそこに違和感を抱いています。
青木
そうですね、本来自分と社会を切り離すことは日常生活ではありえません。「社会の中に自分がいる」、あるいは「自分が社会を見る」という関係性ですから、両者は不可分です。探究学習は、この点がこれまでの学びと大きく異なります。自身のビジョンと実社会の解決すべきことを一体的に捉えていくことが、探究学習の狙いです。自分独自の社会や課題の見方、あるいは、今までは課題とされてこなかった部分を含めて課題を見出していくことが探究です。自分を深めるということは、社会の見方を深めることと本質的には同じなのです。
中野
探究学習の中では、例えば「感動」といった心の動きもポイントになると思います。多くの生徒たちが、感動を自身を掘り下げるきっかけにし、アウトプットの質を高める機会にしています。感動が探究に与える影響について、青木さんはどう捉えていらっしゃいますか。
青木
まさに感動は探究の原動力になりますよね。しかも、感動したことは忘れません。これまでの学校教育の中でも、修学旅行など体験型の学習はまさにこの感動を生む学びであったと思います。また、私たちはシアターラーニングという演劇を活用した「体感型ワーク」を提供しています。探究活動を進める上で、アートを真ん中に置き、協働的に学ぶと、メンターとメンティーが交互に入れ替わり、その度に異なる感動が味わえる効果があると考えています。
中野
ピア・ティーチング(学習者同士の教え合い)の効果は非常に大きいですよね。私たちも生徒が協働的に学び、右脳と左脳をフル回転する修学旅行や研修の機会を是非ご提供していきたいと思いました。一方で、探究学習とこれまでの教科学習をどう橋渡しすればよいか悩んでいる先生のお声を耳にします。探究を深めていくツールとして基礎的な知識・技能といった部分も必要だと思うのですが、同時に学びを進めていくにはどうしたらよいのでしょう。
青木
結果ではなくプロセスを重視すると、教科指導と探究や行事は対立するものではないと気づくはずです。どう自分で工夫して学んでいったのか、友達同士の交流の中でどのように得意を伸ばしていったのか、あるいは苦手を克服していったのかなど、こうしたプロセスの中で非認知スキルも培われます。そして、このプロセスに目を向けていくためには先生の存在が不可欠だと考えています。

先生の役割はプロデューサーとメンターへ

中野
現在は、授業で講義と板書をする仕事から、先生方の役割が転換していくといわれています。転換後の役割の一つが、生徒たちの学びのプロセスを観察し、育むことなのですね。
青木
そうですね。先生方は、これまでもそうしたメンターの役割を担ってきましたので、拡大するイメージかもしれません。ポートフォリオをまとめていく取り組みの中では、自分についてとことん考え、時に矛盾に出会う時もあります。それをサポートするには、伴走し、とにかく見守ることが大事です。私がAO推薦入試の指導で何をやっていたかというと、見守る、声をかける、そして、生徒に答えを求められてもそれに対してよい具合で突き放す、でも、見守るという連続でした。
中野
今後は、先生方にメンターとしての質を高めていくような研修も一層必要になるかもしれませんね。他にも、先生方の役割として重要になることはありますか。
青木
プロデューサー的な役割も求められていると感じています。探究学習に熱心な先生方とお話していると、目前の仕事ももちろん懸命に取り組んでいらっしゃるのですが、それだけでなく学びのデザインをするプロデューサーの視点も持っていると感じます。具体的には、教科指導と修学旅行などの学校行事を総合的に接続させるカリキュラムマネジメントをし、うまく学校外部の力を活用していますよね。
中野
現在は、学校教育へ大きな影響をもたらすパラダイムシフトのタイミングですよね。その中で、先生方が全てのご負担を負うのは無理があるのではないかとも思います。外部の力を上手に活用して、開かれた教育課程を実現することがポイントとなるのでしょうね。今後、先生方がメンターとプロデューサーという新たな役割へシフトしていくにはどうしたらよいのでしょう。
青木
探究学習に舵を切った先生と対談をさせていただいた時、「生徒にとことん向き合ってポートフォリオを作ることは、とても大変ですが、自分が教師になった原点を思い出します」とおっしゃっていました。つまり、役割を大きく転換するというよりは、「先生になろう」と思っていた時の気持ちに立ち返るということなのだと思います。
中野
そうですね、生徒の成長をサポートしたいというのが、先生方の本来の思いですもんね。今回お話させていただいて、生徒たちに感動を生む探究活動を設計するという意味で、学校外から私たちが果たせる役割も大きいと感じました。本日はありがとうございました。

ホワイトペーパー(お役立ち資料)「円盤型教材」を活用した探究活動実践事例 ~山脇学園中学・高等学校~

記事ではお伝えしきれなかった「円盤型教材」の内容や、この教材を活用して探究学習を実践している学校の事例をレポートにまとめました。レポートでは「円盤型教材」の問題サンプルや、学校の具体的な取り組み内容、取り組みの成果がご覧いただけるほか、青木唯有氏が保護者の不安や疑問に答えるコーナーもご用意しました。探究活動のヒントが詰まったこの一冊を、御校の探究指導に是非お役立てください。

INDEX

  1. はじめに
  2. 東京大学入試問題も非認知スキルを問う出題に
  3. 自分を掘り下げ、社会へ向き合う「円盤型教材」
  4. 円盤型教材を活用した探究活動実践事例 ~山脇学園中学校・高等学校~
  5. 新たな教育・入試に向けた保護者からのお悩みQ&A

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