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学校・教育機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 コロナ禍における留学事情【高校版】 ~留学プログラムを再開した学校が取った対策とは?~

2022.03.23
海外プログラム
学校運営・総合
グローバル教育
中学・高校向け

2022年3月現在、新型コロナウイルス感染拡大の影響はいまだ続くものの、カナダ、アメリカ、イギリスなど、ワクチン接種完了やPCR検査の陰性証明提示など一定の条件を満たせば、現地到着後の隔離といった行動制限なく留学できる国が少しずつ増えてきました。ようやく“出口”が見え始めた今、留学再開を検討する学校も徐々に増えてきています。しかし実施にあたっては、「いつから生徒を送りだせるのか」「送りだす際に学校は何をすべきか」など、悩ましい問題が山積です。そこで今回は、一昨年来のコロナ禍においても長期留学プログラムを実施した2校に、それぞれの留学プログラムの特徴と、様々なハードルをどのように乗り越えてきたのかをうかがいました。

長期留学プログラム

生徒のグローバルな未来を育む、学校独自の長期留学プログラム

長期海外留学を学びの柱として、“英語で考えて、英語で伝える力”などを育成する、橘学苑高等学校と三田国際学園高等学校。まずは、両校の長期留学プログラムの特徴をご紹介します。

長期留学プログラム実施校の先生に聞きました

橘学苑高等学校

国際コース担当 近藤 彩子 先生

本校は2004年から国際コースを設置しており、設置当初からニュージーランド(NZ)を留学先として11ヵ月の長期留学を行ってきました。NZの南島、クライストチャーチを中心とした現地校と提携しています。ホームステイは生徒1人につき1家庭、現地校は1校につき1~3名が通学する形式を基本としています。国際コースの生徒は高校1年次の1月から2年次の11月末までNZへ留学します。留学先での学習を33単位とし、本校にて包括的単位履修という形で単位認定を行うことで、3年次には他生徒と同様に3年生に進級します。長期留学の利点は、英語力の向上に限らず、他者と関わり自身と向き合うことでつく“生きる力”です。NZでは、自分の力で困難を乗り越える行動力と主体性を身につける時間が十分にあります。本校の留学プログラムは、「社会に貢献する人財の育成」「平和で持続可能な世界を創造する力の育成」「自立し他者と共生することを意識する」の3点をコース目標とし、留学のサポートを行っています。

近藤 彩子 先生
コース
国際コース、文理コース、デザイン美術コース
所在地
神奈川県横浜市鶴見区獅子ヶ谷1-10-35
ホームページ
https://www.tachibana.ac.jp/

三田国際学園高等学校

教頭・インターナショナル指導部部長(英語科)
JAOS公認 留学カウンセラー、RCA 海外留学アドバイザー
楢島 知哉 先生

本校の長期留学プログラムは、希望者を対象に、高校1年の8月から高校2年の6月まで、アメリカ、カナダ、イギリス(2021年度より)の選択制で実施しています。現地提携校が認めた単位を本校の単位に振り替えることで、帰国後はそのまま2年生に進級します。帰国後の生徒には教科学習サポートを集中的に行うため、帰国時期を揃える意味もあって以前のNZからイギリスへ留学先を変更しました。また、本校では、海外大学への進学者が増加しており、留学した生徒がトロント大学、UBCやカリフォルニア大学バークレー校へ合格、または進学した実績もあります。長期留学プログラムは生徒にとって、国内大学(国際教養系や外国語系など)のみならず、グローバルな大学に進学する動機付けになっているようです。

楢島 知哉 先生
コース
2022年度よりコース再編・新設。
インターナショナルコース、インターナショナルサイエンスコース、メディカルサイエンステクノロジーコース
所在地
東京都世田谷区用賀2-16-1
ホームページ
https://www.mita-is.ed.jp/

コロナ禍での長期留学プログラムを、いかにして実現したか

このように特色ある長期留学プログラムを実施する両校も、2020年2月以降のコロナ禍により、様々な変更対応を余儀なくされました。そうした中でも、渡航時期を延期したり、渡航先を変更するなどの対策をとり、中止をせずに留学の継続実施に至っています。その裏にはどのような思いや判断があったのか、またどのようにして生徒を海外に送りだしたのかを、近藤先生、楢島先生にお聞きしました。

Q.感染が世界に広がった当時、海外滞在中の生徒にはどのように対応しましたか?

楢島先生

本校では2020年2月時点で、アメリカ、カナダに滞在中の生徒がいました。アメリカが5月、カナダが6月の帰国予定。そこで3月に、保護者向けの緊急説明会をオンラインで開催し、「できるだけ早く帰国/情勢を見て決める/留学を継続する」という3つの選択肢を提示しました。生徒も保護者も留学への思いがあって本校へ入学していますし、一律での中止・帰国という判断は避け、「学校として情報収集を行い、安全面の考慮は最大限行うが、留学先に残る場合は一定のリスクがあることも覚悟して選んでほしい」と伝えました。結果、すぐに帰国したいという生徒は早急に帰国便を手配し、様子を見て考えたいといった生徒も、約2週間後には帰国しました。留学期間終了の5月、6月まで残った生徒もいました。最終的には全員何事もなく帰国できたので本当に安心しました。留学先に残った生徒の保護者からは、「親としてはすぐに帰国させたかったが、子どもは『留学をやり遂げたい』と言い、子どもの人生だから本人の意思を尊重するしかないと親子で話し合った末、最後までやり抜くという決断をしました。その意味で、親子関係においても少し成長できたかもしれない」という言葉をいただきました。

留学プログラムの様子
(写真提供:三田国際学園高等学校)

Q.感染が拡大する中、長期留学プログラムをどのようにして実施したのですか?

近藤先生
本校の国際コースでは従来、高校1年の1月に全員がNZに渡航していますが、感染拡大の影響で1月の渡航は諦めざるを得ず、高校2年の8月に当時入国可能だったカナダへ行き先を変更して渡航させました。生徒は留学したい一心で本校に入学していますし、保護者からも「なんとか留学機会を」との希望があり、「学びを止めるのはよそう」という学校としての判断で、カナダへシフトチェンジした次第です。なお行き先が決定したのは、渡航の約4カ月前。生徒・保護者には、説明会から約1週間で留学参加・不参加の結論を出してもらいました。激動のスケジュールではありましたが、できる限りの回数で保護者会をオンライン開催し、頻繁に連絡を取り合いながら出国に必要な書類準備などを進めてもらいました。
なお本校は“全員留学”が基本のため、やむを得ず不参加を選択した生徒のために、新たなカリキュラムが必要でした。留学準備と並行して、日本に残る生徒のためのカリキュラムを急ピッチで作成し、県にも報告しました。新カリキュラムは英語ネイティブの教員に授業に入ってもらう機会を増やし、生徒たちが英語に触れる機会が減らないよう工夫しました。
楢島先生

まず大前提として、長期留学を中止するという選択肢は作りませんでした。とはいえ「従来通り、高校1年の8月に出発することは難しいかもしれない」と思いながら準備を進めていたことは事実です。かなりギリギリのタイミングまで情勢を見つつ待ちましたが、実際にはやはり8月出発は叶いませんでした。それをオンライン説明会で生徒に伝えなければならず、泣き出す生徒が画面越しに見えて、悲痛な空気だったことを思い出します。その説明会では、「留学先の国が受け入れを再開したらすぐ渡航する/時期をずらして1月に渡航する」という2つの選択肢を提示。実際、生徒の希望は「1日でも早く行きたい」「1年間、しっかり学びたいので冬出発がいい」という2つに分かれました。

“冬に渡航する組”の生徒は留学先で夏を過ごすので、サマースクール(現地の語学学校)に通えるよう手配。一方、“早く渡航する組(帰国は6月)”の生徒がサマースクールに通えないのは不公平感を生むので、帰国のタイミングについても「予定通り6月に帰国するか/8月末のサマースクールを体験してから帰国するか」と、オプションの選択肢を与えました。すべて一律にせず、細かな選択肢を提示するので各方面との調整が大変ではありますが、旅行会社の力も借りながら、生徒一人ひとりの気持ちを無碍にしないことを一番に考えて対応しました。また、NZに留学を希望していた生徒たちは残念ながら最後まで国境が開かなかったので、目的地をNZからカナダに変更することを提案し、結果として彼らは全員カナダで留学をすることができました。

留学プログラムの様子
(写真提供:三田国際学園高等学校)

Q.渡航できるようになるまでの間、どのように生徒のモチベーションを保ちましたか?

近藤先生
「1月にはNZに行くはずだったのに」という生徒の気持ちを汲み、渡航先・時期が手探りだった1~3月の期間、「とりあえずNZの学校の授業を受けてみよう!」と、教室をオンラインでつないで、英会話レッスンや現地提携校で日本語を学んでいる生徒と交流するなどして、モチベーションを維持しました。実際に、現地提携校の生徒とオンラインで交流した生徒たちは、「もっとやってほしい!」と。すぐに生徒同士で、楽しそうにSNSのアカウント交換を行っていました。これまで築いてきたNZの提携校との信頼関係と、間に入ってくれた旅行会社・留学エージェントのおかげもあってそうした試みができました。生徒にとっては「すぐに渡航できない。留学できない」というショックは大きかったものの、「やろうと思えば世界は近い!」という気づきが得られ、私たち教員もオンラインでできることの幅広さ・可能性をあらためて実感できた試みでした。

Q.最新の渡航情報や現地感染情報の収集はどのように行いましたか?

楢島先生
現地情報については、日本国内のメディアだけでは偏りがあると感じているため、現地メディアや公的機関のリサーチ結果なども併せて確認していました。また最近、本校のインターナショナル指導部の教員(10名弱)全員で、「RCA海外留学アドバイザー」という資格を取得しました。これは留学のみならず、海外大学進学なども含めた指導をしていきたいと思ったためです。大学の留学課・国際課のスタッフや、留学エージェントの方などが多く取得しているもので、学校教員の資格取得者はあまり多くないようです。しかしその資格を取得することにより、留学セミナーへの参加機会をはじめ、様々な情報がニュースレターとして送られてきますし、資格取得者によるコミュニティもあり、そこでしか得られない情報がキャッチアップできるので、一つの情報収集手段として活用しています。

Q.生徒を海外に渡航させたときの対応について詳しく教えてください。

近藤先生

当時まだ日本では高校生のワクチン接種は始まっていなかったので、ワクチンは全員、カナダに行ってから受けるようにしました。また、PCR検査は陰性証明取得時、現地空港到着時、現地隔離期間中の合計3回受けました。現地医療体制の確認や海外で感染した際のシミュレーションなどは、現地の流れでやっていくしかないと思っていたので、旅行会社・留学エージェントや現地の留学アドバイザーと連携しました。検査結果や現地情報の収集はそうした方々にお任せし、私たち教員はオンラインを通じて生徒の体調管理、現地の学校生活ですべきことができているか、メンタル面でのサポートなどの指導に注力させてもらいました。現地でしかできないこと、こちらでしかできないこと、それぞれ役割分担をして生徒をサポートしました。
また、現地空港に到着してから2週間、生徒はホテルの個室で隔離期間を過ごす必要があったので、その間生徒が孤独を感じないよう、毎日「オンラインホームルーム」を行い、ケアしました。出国前から各ご家庭の協力もあって、ありがたいことに全員陰性だったので、隔離期間終了後はすぐにホームステイを始められたので安心しました。

オンラインホームルーム
(写真提供:橘学苑高等学校)

Q.コロナ禍のなか、海外に生徒を送り出すことに不安や迷いはありませんでしたか?

楢島先生
私個人としては、帰国・渡航の判断が、一番気が重いですね。生徒の命を守ることは大前提として、私の中の最上位目標は「生徒の思いを最後まで叶える、ふみにじらない」ということ。かといって、最後まで留学をやり遂げたいといった生徒がもしも現地で罹患したら…と考えると、自分の判断が本当に正しいのかと、いまだに自問自答です。しかし学校としても高校3年間のコアな部分に長期海外留学プログラムを掲げ、学校全体で「留学の持つ意味、価値」を理解してくれているので、長期留学プログラムを実施できていると思います。
近藤先生

正直に言うと、はじめの渡航制限の時、いったん中止を提案しました。まずは留学中の生徒を無事に帰国させようと。しかし一方で“長期”留学のため、すぐに帰国させる判断は軽々にできない、学校としても入学時に生徒・保護者に中止の可能性を提示していない…といった理由から、現地情報を得られるならば実施しよう、という判断に至りました。いまだに「本当に行かせていいのか」といった迷いもありますが、生徒の卒業後の長い人生を考えた時、“コロナ禍でも挑戦し、自分にできることをやってきた”という力になればと思っています。それこそが、長期留学プログラムを実施する根底にある目標に叶うのではと思います。

留学プログラムの様子
(写真提供:橘学苑高等学校)

Q.海外に渡航した生徒からはどのような声が届いていますか?

楢島先生

本校では定期的に、カナダやアメリカにいる生徒に自らの成長実感に関するアンケートをとっています。そこで多く見られる言葉は、やはり「自立」です。「日本にいる時は考えもしなかったが、『自らが動かなければ何も変わらない』ということに気づいた」という声が圧倒的に多いです。また、自立と共に長期海外留学で培われているのが、グリットやレジリエンスといった非認知能力。これは長期の海外留学だからこそ伸ばせる力だと思いますし、実際、留学中から生徒の非認知能力の伸びを感じています。

留学プログラムの様子
(写真提供:三田国際学園高等学校)

まとめ

橘学苑高等学校の近藤先生と、三田国際高等学校の楢島先生にうかがったお話から、コロナ禍において長期留学プログラムを実施し、生徒を安全に海外に送りだすためには、以下のようなポイントがあることがわかりました。

  • 保護者とこまめにコミュニケーションを取りながら、安全を確保しつつ、生徒の思いを叶える方法を粘り強く検討する
  • 長期留学プログラムが生徒に与える効果について日頃から学校内で議論を重ね、その意義や価値を共有しておく
  • 学校内の協力体制づくりに加えて、現地提携校をはじめとした学校外ネットワークの構築も進めておく
  • 最新の渡航情報や現地感染状況の収集は、旅行会社などを積極的に活用し、学校は生徒のケアに注力する

―など

こうしたポイントも、長期留学プログラム実施・再開時のヒントにしてみてください。


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留学プログラムの中止、ワクチンの普及による留学再開の動き、新たな変異株の流行と、めまぐるしく状況が変化する昨今。重要になってくるのが「情報収集」と「危機管理」です。 とりわけ高校留学は生徒が未成年であるため、学校が保護者とこまめに連携を取りながら参加判断をする必要があります。また、海外ではこれまで以上に精神的不安やストレスを抱えやすいため、現地サポート体制が非常に重要だとも言えます。
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