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学校・教育機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 日米両国の教員が体験を通して実感!地域との協働的な学びが生徒にとって重要な理由とは?

2022.10.03
国内プログラム
学校運営・総合
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カリキュラム構築支援

「日米教育委員会(フルブライト・ジャパン)」は、2009年から「日米教員交流プログラム」として日米の教員が相互の国に行き来し、交流する事業を続けてきました。2022年はJTBと共同で、日米両国の小・中・高校の教員が、静岡県内で持続可能な地域づくりに取り組む企業、団体、学校を訪問する「日米教員交流プログラム 三島・浜松視察ツアー」を実施しました。 本記事では、そのプログラムの内容を紹介するとともに、事務局の日米教育委員会・生形潤さん、企画・運営委員として関わった広島女学院大学の中島義和先生、さらには参加した多くの先生方の学びの声を紹介します。

地域と学校の協働的な学びの実践事例を、日米の教員が体験的に学び合う2日間

日米の教員たちが出会い、体験的に学び、その経験を自校に持ち帰って教育実践につなげていく――。そんな先進的な「日米教員交流プログラム」が10年以上前から続けられていることをご存知でしょうか。

「日米教員交流プログラム」は、「日米教育委員会(Fulbright Japan /フルブライト・ジャパン)」が主催し、持続可能な開発のための教育(Education for Sustainable Development: ESD)および情報通信技術(Information and Communication Technology: ICT)を活用した教育をテーマとして、日米の両教員が学び合うプログラムです。2009年から2019年まで毎年開催されました。2020年・2021年はコロナ禍の影響で中止となり、今年は3年ぶりの開催となりました。

今回は、日米教育委員会が運営する日米間フルブライト交流事業70周年記念の一環として実施され、参加する教員は過去のプログラム参加者から選抜。小・中・高・特別支援学校で、多様な教科を教える米国と日本の教員10名ずつが、静岡県の三島・浜松エリアを訪問し、学校と地域との協働実践事例を視察しました。日米教育委員会で「日米教員交流プログラム」を手がけた生形潤さんは今回の開催の趣旨をこう語ります。

日米教育委員会 生形 潤さん
日米教育委員会 生形 潤さん

人と人との出会いには大きな意義があります。人と人とのつながりが生まれることで、社会に影響を与えるアクションにつながっていくのだと考えています。本プログラムに参加する先生方は素晴らしい実践を重ねてきた方々です。個人のスキルに閉じるのではなく、日米の先生方で交流することでその力を広げていってほしいと願っています。

また、今回は『過去に参加したプログラムからどういった教育活動が生まれたか』を紹介するなど、同窓会の意味合いも持った内容でした。例えば、2012年に参加したある日米の先生方は、生徒たちが協働して学び合うプロジェクトを実現させたことを伝えてくれました。今回のプログラムでも、先生方が体験的に学んだことを各校に持ち帰り、児童・生徒やコミュニティに広げていただくことを期待しています。

ご自身も「日米教員交流プログラム」の参加者であり、今回は企画・運営委員として携わった広島女学院大学(プログラム参加当時は中学校教員)の中島義和先生は、本プログラムで学校と地域が協働する実践事例に触れる意義をこう語ります。

広島女学院大学 中島義和先生
広島女学院大学 中島義和先生

10年以上にわたり『日米教員交流プログラム』では、ESD(SDGs)をテーマに据えてきました。ESDは今、世界共通の大きな目標です。2030年までに17項目をどう達成していくか。大人の意識ももちろん大切ですが、その重要な担い手になっていくのは子どもたちです。そして、17項目の問題がどこに横たわっているのかというと私たちが住んでいる地域なのです。

『Think globally, act locally.』という言葉があるように、自分の足元である地域から、できることをだんだん広げていく姿勢が欠かせません。今回のプログラムは、先生方が体験的にそうしたことを学べる貴重な機会になるはずです

2日間の体験プログラムは下記の【図】の通りです。ツアーの後には、得た知見をどう児童・生徒へ還元していくかを企画・検討していきます。

【図】「日米教員交流プログラム 三島・浜松視察ツアー」全体像

 
日時 場所 アクティビティ
8月3日 三島 源兵衛川でNPO法人グラウンドワーク三島の解説のもと、環境教育活動体験
    歴史や地域伝統食材を踏まえ、日本ならではのうま味を味わうべく出汁を体験。さらに、出汁を使ったランチを食す
  浜松 浜松の地場産業である注染浴衣の着用体験
8月4日   浜松学芸高校を訪問し、生徒たちと交流する中で地域探究活動の内容に触れ、そのカリキュラム構築の説明を受ける
    注染浴衣を制作する二橋染工場で染色体験
    天竜浜名湖鉄道乗車、浜松学芸高校と天竜浜名湖鉄道がコラボレーションして開発したおにぎり弁当を試食

【三島】地域を流れる川での自然体験学習 日米教員はその意義をどう捉えたか?

ツアー初日のスタートは、三島市を流れる源兵衛川で環境教育活動体験をしました。ここではNPO法人グラウンドワーク三島の解説のもと、日米の先生方が実際に川に入り、美しい水にしか生息しないゲンジボタルや白い小さな花を咲かせる藻であるミシマバイカモなどについて学びました。

三島市は昭和30年代頃まで富士山からの豊かな涌き水を湛え、美しい水辺と自然環境を誇っていました。しかし、上流地域の開発や放置森林の増加によって水質環境が悪化し、源兵衛川は一時ドブ川と化しました。グラウンドワーク三島は、「水の都・三島」の原風景を再生しようと長年環境整備に尽力してきました。

そして、地域を担う次世代にも、川を身近に感じてほしいという思いから、学校と協働し、子どもたちに川体験の機会を提供しています。「日本で一番子どもたちが川に入る町」となっていると自負しています。

日米の先生方はこうした川での環境教育活動体験をどう捉えたのでしょうか。ペンシルベニア州から参加した先生は、こう意義を語ります。

私の勤務している学校の近くにも川が流れており、石をひっくり返して水棲昆虫を探したり水質検査をしたりといった体験的な学びを大切にしています。直接自分達の住む自然に触れることで、環境が生活に与えている影響や、逆に人々が環境にどのような影響を与えているかを実感として知ることができます。こうした学びを経ることで、自分達を取り巻く社会に対して変化を起こす原動力が生まれてくると思っています。

福岡県の私立高校で生物を教えている先生はこう続けます。

学校教育の中では、リスクの観点や時間確保の難しさから、校外の自然体験は実施しにくい状況です。しかし、自分の住んでいる地域を知らない生徒は多いもの。そのため、地域と協働して自然に触れる意義は大きいといえるでしょう。小学生であればワクワクする体験から自然科学へ興味を広げる意義があるでしょうし、高校生であれば指標生物(環境調査などで指標とすることができる生物)を観察し、自然をデータで分析する姿勢の育成につながります。

データを見て考察する力は大学入試でも問われています。例えば、河川に関する数値的なデータを与えられて、その考察として正しいものを選びなさいといった出題はよくなされています。自然の中で体験的に学ぶことで、関心を軸にした、忘れにくい記憶として生徒の中に定着するはずです。

【浜松】地域産業と高校生の協働事例 日米教員をうならせたその実践内容とは?

2日目の午前中は、浜松学芸高校を訪問しました(浜松学芸高校の取り組みの詳細はこちら)。同校では、地域の魅力発信にアートの観点を取り入れた「衣」「食」「住」にまつわるそれぞれの探究プロジェクトをいくつも同時進行で実施しています。その中から今回は、特に「注染浴衣プロジェクト」や「天竜浜名湖鉄道プロジェクト」について紹介されました。

「注染浴衣プロジェクト」では、生徒たちが浴衣の取り扱い量日本一の地場産業である注染染めの浴衣の伝統的な配色方法を学んだ上で、新しい配色を提案しました。その後、二橋染工場と協働して新たな配色デザインを反物とし、次に浴衣メーカーとのコラボレーションで製品化にまでつながりました。日米の先生方は、浜松学芸高校のこうした地域との取り組みを知った上で、二橋染工場を訪問し、染め布体験をしました。

「天竜浜名湖鉄道プロジェクト」では、生徒たちが「天浜線勝手に応援団」を組織し、駅ごとにポスターを作成、PRを行ってきました。さらに、同校では「食」のプロジェクトの一環として、おにぎりのメニューの開発を進めてきました。日米の先生方は、生徒たちがどのように鉄道のプロモーションを続けてきたかや、試行錯誤しながらおにぎりメニューを企画してきたプロセスを踏まえた上で、実際に天竜浜名湖鉄道に乗車。生徒たちが開発したおにぎり弁当を食しました。

浜松学芸高校の探究活動について生徒たちから話を聞き、高校と協働している地域の産業に触れた先生方はどのような思いを抱いたのでしょうか。

ユタ州で中学1年生から高校3年生までの生徒に社会科を教えている先生は、学校と地域の協働の意義をこう語ります。

地域の人とパートナーシップを組むことによって、プロジェクトのレベルをもう一段階引き上げることができると思います。高いレベルのプロジェクトを経験することで、生徒たちは実践力や社会的なスキルを身につけることができるでしょう。地域の人とのパートナーシップは、学びのステップの向上に欠かせない取り組みだといえます。

バージニア州で中高生にアートなどを教えている先生は、自身の活動も踏まえて、地域と生徒が協働する意義を改めて痛感したといいます。

浜松学芸高校の生徒たちが動画や浴衣などアートを組み合わせたアウトプットをしている姿を見て、私が理想とする学びの場はここにあると感じました。完成度の高い作品に取り組んだり、自己表現したりすることは、生徒の自信につながる非常に大切な学びです。私も、生徒の作品をギャラリーに飾ったり、生徒のデザインを広報に活用したりする活動をしています。学校の外に出て様々な人に認められる経験を経ることで、生徒は大きく成長していくことができると感じています。

静岡県の公立中学校から参加した英語科の先生はこう語ります。

浜松学芸高校の取り組みを知って、当事者視点に立って地域を考えることの重要性を感じていました。中でも、『地域の魅力ある大人との関わり』は欠かせないと感じました。地域の魅力は自然資源などからも感じ取れるものですが、『人』から影響を受けることは多いと思います。もし高校生段階で地域の人の魅力を十分に実感していたら、地元を離れても地域に何らかのかたちで関わりたいという思いを持ち続けていくと思うのです。浜松学芸高校の人を基軸にした地域探究活動に大いに刺激を受けました。

交流プログラムで得た気づきを、自校での教育実践にどうつなげるか?

日米の先生方は、2日間の静岡県での体験を経て、どう自校の教育実践にどう落とし込むか検討を進めていきます。学校と地域との連携に実践のヒントを得た方もいれば、日米の教員間で連携するプロジェクトを構想した方もいるでしょう。中島先生は今回の体験を通して各校の取り組みに生かしてほしいと期待を語ります。

地域のNPOとコラボレーションした自然体験や、浜松学芸高校の地域探究プロジェクトは、先生方にとって地域の人々と学校が協働するヒントを得る体験となったはずです。今回の静岡ツアーを、未来の担い手である子どもたちにどのような体験が求められているのかを考える機会にしてほしいと願っています。各先生方の新たな取り組みをお聞きするのが心から楽しみです。

生形さんも先生方が今回の体験を自校の教育活動に落とし込んでほしいと続けます。

参加した先生方自身が『楽しかった』で終わらず、児童や生徒に還元していってほしいと考えています。また、今回は日米の多様な先生が集っています。ぜひたくさんのコラボレーションを生んで、日米の生徒たちの学び合いにもつなげてほしいと思っています。


まとめ

2日間のツアーの中で、日米の先生方が常に積極的に生徒や地域の方々に話しかけている様子が大変印象的でした。「少しでも多くの学びを持ち帰ろう」「目の前の子どもたちに生かせることはないか」という姿勢を目の当たりにし、先生方が国や地域を超えて学ぶことの大きな意義を感じることができました。体験で得た学びをそれぞれの勤務校に持ち帰り、学校と地域の協働の取り組みをどう花開かせていくのか。これからの取り組みのお話を伺うことがとても楽しみです。
学校間や地域間での学び合いがますます盛んになるこれからの時代、相互に知見や実践を交換することこそ、日本や世界の教育をアップデートする近道なのかもしれません。

担当 JTB浜松支店 矢部 太偉希
担当 JTB浜松支店 矢部 太偉希

今回の企画を立案するにあたり、アメリカの先生方がどのようなことに新鮮さを感じるのか、さまざまな方へヒアリングをさせていただきました。「相手を理解しなければ、学びにつながる体験プログラムは策定できない」ということを改めて実感する機会となりました。地域の方々に協力のお願いにあがる中で、少しずつ「こうした方が喜ぶのでは?」とご意見をいただけるようになり、どんどん充実したプログラムとなっていきました。

2日間のツアーの中で、参加者の皆様のたくさんの笑顔を見ることができました。これは事務局の皆様や地域の方々のお力があったからこそ。多くのことを学ぶことができたワクワクする体験をご一緒させていただき、誠にありがとうございました。


ホワイトペーパー(お役立ち資料)地域と学校の協働的な学びの現場を訪ねる 日米教員交流プログラム三島・浜松視察ツアー

今回のホワイトペーパーでは、コラム記事ではご紹介しきれなかったプログラム当日の様子を写真と参加者のコメントで振り返ります。また、今回の視察先となった浜松学芸高等学校・大木島先生への特別インタビューでは「生徒が地域で学ぶ意義」についてお話を聞きました。ぜひご覧いただき今後の教育実践にお役立てください。

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