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学校・教育機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 広島から日本全国へ。G7モデレーター 住岡健太氏とJTBがともに取り組む、未来志向の平和学習と新たな自己探求学習を通じた「平和文化」の実現

2023.07.25
国内プログラム
修学旅行
探究学習
キャリア教育
平和学習
事前事後学習

「平和をつくる仕事をつくる」をコンセプトに、広島から「平和文化」を届けるべく、独自の視点で探求・実践する場を提供し続けているNPO法人Peace Culture Village(PCV)。

PCVとJTB広島支店がともに開発した、対話型の平和学習プログラム「PEACE DIALOGUE」では、多くの子どもたちに「平和」を自分ごととして考える機会を提供してきました。現在は、その経験から派生したプロジェクト「PEACE QUEST」を日本全国、さらには世界に展開するべくスタートさせています。

今回は、PCV専務理事の住岡健太氏と、ともに2つのプロジェクトを作り上げた元JTB広島支店教育事業担当でもあり、PCVの活動にも参画する横田裕美にインタビュー。住岡氏とJTBとの運命的な出会いから、ともに取り組んできたプロジェクトが立ち上がった経緯についてや、「平和文化」継承への思いなど、さまざまなお話をお伺いしました。

プロフィール

NPO法人Peace Culture Village 専務理事
株式会社PLAY SPACE 代表
住岡健太氏(Kenta Sumioka)

1985年生まれ。広島県広島市出身の被爆3世。学生時代に社会起業プロジェクト「シブカサ」を運営し、25歳で起業。31歳に帰省し、NPO法人Peace Culture Village(PCV)に参画。「平和をつくる仕事をつくる」をコンセプトに、学校への出前授業、修学旅行生へのガイド、オンラインツアーの他、多種多様な事業のプロデュースを行う。2023年5月に開催されたG7広島サミットでは、パートナーズ・プログラム「次世代シンポジウム」のモデレーター兼プレゼンターを務める。
https://peaceculturevillage.org/

JTB企画開発プロデュースセンター 教育企画開発担当
一般社団法人次世代教育ネットワーキング機構 チーフコンサルタント 兼務
横田裕美(Hiromi Yokota)

1988年生まれ、徳島県出身。2017年には1年間インドネシアジャカルタで現地教育事業開発に携わり、絶え間ないトライアルアンドエラーの中で、Positive Peaceを学ぶ2WAYスタディツアーを成功させる。教育は社会を創る根幹。世界中の子どもたちの学びあい、トモダチの輪を拡げることが世界の平和に繋がるという信念と使命感を持って活動中。

奇跡的な出会いから始まったプロジェクト

――まずは、JTBとPCVがともにプロジェクトを立ち上げるきっかけから教えてください。

住岡 健太氏(以下、住岡) : 僕はずっと東京で仕事をしていたのですが、故郷である広島で平和に携わる仕事がしたいと思い、広島に戻って修学旅行生や海外から訪れる人たちに向けたガイドをやりたいと考えていたんです。ただ、具体的にどうしていくか、ビジネスモデルも定まらない状態で、JTB広島支店の営業課長・南知仁さんと出会いました。

横田 裕美(以下、横田) : 当時の私の上司、南と住岡さんは広島から1時間半ほどの離島で偶然会ったんですよね?

住岡 : そうです、そこでたった15分ほど話しただけで、お互いの夢を語るほどわかりあえたんです。南さんの夢である「学校と社会の溝をなくす」ということは、まさに僕のやりたいことで、すごい人と出会えたと思いました。そして会った日の夕方に偶然、南さんと広島市内で再会したんです!

横田 : ちょうど南から、「今日、住岡健太さんというすごい人に会ったんだよ。」と、住岡さんのFacebookを見せてもらっていたところに住岡さんが歩いてきて、本当にびっくりしました(笑)。

住岡 : 奇跡ですよ。そこから、「ご飯に行きましょう」ということになって、食べながら、「こんなことできたらいいよね」と夢の続きを話しました。僕の頭の中にはすでに「PEACE DIALOGUE」の構想はあったのですが、そのときは特に具体的な話はしなかったよね。

横田 : 出会ったのが2018年の夏で、そこから1年ぐらいは、定期的に集まってお互いがやりたいことを話しながら構想を練っていくという感じでしたよね。具体的に動き出したのは、2020年に近畿大学附属広島中学校東広島校(以下、近大)が「PEACE DIALOGUE」を採用してくださったときです。

――最初から「一緒にやっていこう」と意気投合したんですね。

住岡 : 想いが同じだったことはもちろんですが、広島で平和学習に取り組むPCVと、旅行のプロのJTBが合わさって教育プログラムを作ったほうが持続的に運営できる。作ったプログラムを売るだけではなく、ともに作るというプロセスが大切だと思いました。

横田 : 私も、旅行会社がすでにあるコンテンツを販売するという形に違和感がありました。教育旅行を担当していたので、修学旅行だけでなく事前学習に参加しても、教育の中にまでは入っていけない気がしていて。それは、私が外側で提供している立場だからだなと思ったんです。できることなら、学びの渦の中に入って一緒にプログラムを作って提供したい。私自身が主体者にならなければいけないと思いました。その点でもPCVのみなさんとはビジョンが同じだったので、JTBとしてPCVのコンテンツを販売するのではなくPCVとして一緒に作っていきたいと思い、私と南を含めた4人がPCVに参画しました。

住岡 : PCVとJTBさんは、お互いを補いあえる存在なんです。僕たちは教育現場に入りたくてもつながりがなかったですし、JTBさんは学校と一緒に教育コンテンツを作りたいけれど、学校側からは旅行会社だと思われてしまう。NPOと旅行会社、ふたつの良さが混ざり合ったことで、学校側からの視点が変わったのではないかなと。PCVとJTBさん、どちらとものやりたいことが実現できていると思います。

平和を学びながら自己探求できる、未来志向のプログラム

――最初に「PEACE DIALOGUE」を実施したのはいつですか?

横田 : 2020年の6月です。JTBとして担当していた近大さんが、年間のカリキュラムをPCVと一緒に作っていくという形で採用してくださいました。

住岡 : その点は横田さんに本当に感謝しています。当時、PCVは実績も何もなかったわけですから。プログラムも、学校ごとに採用されてから作るオーダーメイドなので、まだ形にはなっていないのに信じて伝えてくださった横田さんと、信じて受けてくださった近大さん。関係性は今も続いていますが、そこがPCVの感謝の原点です。

――平和教育がカリキュラムにあたりまえに組み込まれている広島という土地だから受け入れられた部分は大きいのでしょうか?

横田 : 反対に、広島の学校だからこその課題もあります。従来の平和学習ではなく、子どもたちが自由に未来や平和を考えられるような、未来志向の平和学習をしたいという学校側の課題を伺った上で、PCVをおすすめしました。PCVのプログラムを採用していただいているのは、修学旅行に来られる県外の学校さんがほとんどですが、子どもたちが主体的に対話できるような、未来志向の平和学習プログラムを求められることが多いです。

住岡 : 広島全体で、平和学習をアップデートしていくことも大きな課題です。広島は特殊な地域なので、歴史に基づいた平和学習においては、「未来」という言葉を使うのもタブーとされてしまうこともある。もちろん過去も大事ですが、必要なのはその先の、持続可能な平和学習です。平和を学びながら対話して自己探求する。そんな未来志向のプログラムを作りたかったんです。

横田 : PCVのプログラムは、「何を伝えるか」ではなく「どう伝わるか」に重きを置いています。例えば、被爆者の方のお話を聞くにしても、一方的に話していただくのではなく、PCVメンバーが子どもたちとの間にファシリテーションに入り、双方向でのやり取りができるようにする。子どもたちが考えてアウトプットできる機会も必ず作るといった設計にしています。

「PEACE DIALOGUE」広島の若者と共に考え、共に成長する平和学習
https://www.jtbbwt.com/education/service/solution/jh/domestic/regional-program/peace-dialogue/

持続可能な「平和学習」の仕組みをつくりたかった

――ボランティアではなく事業としてやられているところも、持続可能な平和学習としては大きいですよね。「平和をつくる仕事をつくる」という、住岡さんが目指すところにもつながっています。

住岡 : 事業になるとコミットも生まれますし、時間も確保できる。ガイドをしてくれる「ピースバディ」は現在、約100名のメンバーがいますが、毎回、振り返りのときには、誰かしら悔しくて泣いています。ガイドして涙を流せることなんて、そうそうないですよ。ピースバディの子たちの真剣さがその涙からわかる。「PEACE DIALOGUE」では、子どもたちだけでなく、提供する側も、熱中できる時間を得られるんです。プログラム全体が、広島から被爆者の方々がいなくなってしまう未来の平和学習の継承システムになっている上に、広島の学校が参加してくれることで広島の平和の応援にもなる、いいことずくめのプログラムだと思います。

――「PEACE DIALOGUE」から派生した「PEACE QUEST」もまた、興味深いプログラムです。広島からスタートして、現在では長崎、沖縄、鹿児島、そして東京と全国に広がりつつあります。

住岡 : 戦争経験者がいずれいなくなるという課題を抱える、長崎や沖縄でも必要としている人たちがいると思いスタートしました。このモデルは広島や長崎のような地域だけではなく、子どもたちが出会って欲しい、魅力的な人たちがいる地域であればどこでも成立するんです。

横田 : 人の価値観を変えやすいと言われる「人、旅、本」をコンセプトに、平和文化を学んだ子どもたちが、過去の経験から自己探求して、「平和✕◯◯」として実践している「観光人」に会いに行く。「PEACE DIALOGUE」は平和公園が主なフィールドですが、「PEACE QUEST」は広島県全体、さらには日本全土がフィールドです。「観光人」と呼ぶにふさわしい方々は全国にたくさんいるので、このモデルは全国で展開できる。地域が大事にしている風土や価値観と掛け合わせて、多くの地域で実施することができたら、教育は変わっていくと思います。

「観光人 QUEST」
「観光人 QUEST」は、魅力的な「観光人」がいる場所であれば、どこでも開催できる

――「観光人」の選定はどのようにされているのでしょうか?

住岡 : 平和学習は歴史や戦争だけじゃないと僕は思うんです。「平和」という言葉は使わずとも、持続可能な農業をされている方もいれば、難民の支援やハンディキャップを抱えた方の支援をされている方もいる。その活動の先にあるのも「平和」です。自分が思う「平和」を実現するための活動がより良い未来を作る。その活動に人生をかけて取り組んでいるというところを軸に見ていくと、「観光人」の選定もブレません。「この人と出会ったら、子どもたちの人生がより良い方向に向かう」というポイントは外さないようにしています。実は今回、子どもたちが「PEACE QUEST」で得た学びを、尾道市長にプレゼンすることになったんです。近大の高校1年生の子たちのプレゼンなのですが、尾道市の公共交通機関に関する内容で、かなり具体的な提案だったので驚きました。

――子どもたちの学びが地域とつながることで、「平和✕◯◯」はさらに広がっていきそうですね。

住岡 : 「平和✕◯◯」は、「◯◯」に好きなこと、得意なことを入れて、どんなことでも平和と結びつけて考えることができるんです。それが結局、持続可能な仕組みとなっていく。この式がすごく大事で、なんとなく平和を考えるのではなく、自分の人生を合わせて何をしていくかを考えることで持続可能になるんです。その取り組みこそがまさに平和だと僕は思います。

PEACE QUEST -観光人との出逢いを通じた自己変容プログラム-
https://www.jtbbwt.com/education/service/solution/jh/domestic/regional-program/peace-quest/

海外から注目されている「日本文化=平和文化」

――「観光人」の仕組みは教育だけでなく、自治体や企業からのニーズにも対応できそうです。

住岡 : 「ダボス会議」では、次に世界の観光を引っ張るのは日本だと言われています。世界から日本に何を見に来るのかというと、まさに「文化」です。「日本文化=平和文化」だと僕は思っているので、人と出会って文化に触れる「PEACE QUEST」の仕組みがさまざまなケースで使えます。例えば、滋賀に長年ぬか漬けを作り続けているおばあちゃんがいて、最近では、その人のもとにハリウッドの女優さんが尋ねるくらい、有名な場所になっているんです。僕らからしたら普通のことでも、世界から見ると最強コンテンツになっている。「観光人」は子どもたちに向けて選んではいますが、世界のV.I.Pが来た時に対応できるかも同時に考えています。持続可能なコンテンツにするには、ボランティアではなく、受け入れる側にもお金が入るモデルを作らなくてはいけない。僕らが入ることで、搾取されない仕組みを作ることも重要だと思っています。

――リピーター率100%という数字が、プログラムの価値を証明しています。

横田 : ただ会って話をするだけでなく、子どもたちの心の動きを意識してプログラムを設計しているので、必ず「観光人」の方がなぜその活動をしているのか、原体験や価値観といった深い部分の共有から入り、その方の「平和✕◯◯」を感じられる体験をしてもらいます。最後に、子どもたちが何を感じたかをアウトプットしながら対話をするという構成で展開しているので、提案をした学校さんは、地域課題の探究学習として採用いただくことも多いです。「観光人」の方を通して、平和文化や地域の課題を考えることができるプログラムだと思っています。

プログラムの設計
子どもたちの心の動きを意識してプログラムを設計している

住岡 : 平和学習は最高の自己探求学習です。子どもたちは、「PEACE QUEST」を体験した後に、地域の未来を描いてプレゼンします。実際に、広島県立高校の生徒たちが、次回のG7イタリアサミットで、未来のための政策を提言すると準備を行っています。まさにこれが平和ですよね。「戦争反対」とデモを起こすだけが平和ではなく、未来のための政策を提言した方がより建設的な平和を作れる。平和学習では笑顔や幸せを感じて欲しいんです。

同じ方向性を見て進む「仲間」と出会いたい

――G7広島サミットではモデレーターを務められるなど、住岡さんのご自身の活動も認められつつある中で、さらに責任のようなものを感じていらっしゃいますか?

住岡 : G7広島サミットの若者枠の3人のうちの1人に選んでいただいて、自分がやってきたことの方向性は間違っていないのかなとは思えました。同時に、世界の平和を作ることは本当に難しいと感じています。ウクライナ、ロシア以外にも、課題はたくさんあるわけですから。世界が広がった分、自分だけでできることは本当に少ないと実感しました。だからこそみんなでやらなければいけない。僕がこのプロジェクト始めたときに社会起業家の先輩から言われたのは、「ビジネスは儲からなくなったらやめてもいいけれど、社会起業家は儲からなくても続けなければいけない」ということです。多くの人たちからの期待を背負っているからこそ、持続可能性が必要になる。これからもしっかり向き合い続けていかなければならないと思っています。

――平和学習や自己探求学習にどのようなプログラムを採用すればいいか、検討している先生方にメッセージをお願いします。

住岡 : 僕らが提供するのは、先生方と一緒に作っていくプログラムです。先生方が抱えている課題感や理想を取り入れながら、子どもたちに届けたい。年間学習として採用いただいた学校の先生が、最初の段階では、「うちの生徒にこんなプログラムはできない」とおっしゃったんです。僕らは絶対できると思ったので、まずはやってみましょうと提案をしてやってみた結果、最後の発表会は素晴らしいものになりました。子どもたちの可能性を信じて、先生方とともに伴走したことで得られた体験は、平和学習だけではなく、今後の教育にもつながると思うんです。先生方にこれ以上プレッシャーをかけるのは本当に大変だと思います。タスクは増えるかもしれませんが、子どもの笑顔を見た瞬間に、ご自身が先生になった理由を改めて感じられた先生もいらっしゃいました。同じ方向を見て進む仲間になっていただきたいです。

――平和文化の担い手でもある子どもたちにもメッセージをお願いします。

住岡 : 子どもたちが未来を作っていく当事者だと思っているので、ただ体験をするだけではなく、子どもたちのアイデアが未来を作ることを知ってもらいたいです。子ども扱いをするのではなく、「もう未来を作れるでしょ」というスタンスで子どもたちの力を借りたい。一緒により良い未来を作るための仕組みが、「PEACE DIALOGUE」であり「PEACE QUEST」です。日本の魅力を世界に発信していくためにも、子どもたちには「まずはあなたと出会いたい」と伝えたいですね。

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