昨年に引き続き、新型コロナウイルス感染症のまん延によって来校型オープンキャンパスや個別相談会などの中止や縮小、制限を余儀なくされた2021年。こうした状況によって、大学法人は受験生との接点を従来のようには持ちづらくなっているのが現状です。
コロナ禍の長期化はもちろん、国家的な課題である少子化傾向のなかで、大学法人はどのように受験生へアプローチし、志願者を増やしていくべきなのでしょうか。認知拡大や志願者増につながる、大学広報のさまざまな取り組みを紹介していきます。
2022年度は大学志願者数の回復が鈍化。重要性を増す大学広報
東京や大阪、愛知など18の都道府県に適用された「まん延防止等重点措置」の最中に行われた2022年度大学入試の動向から、大学入試を取り巻く現在の状況についてお伝えします。
長期化する新型コロナウイルスの影響
昨年度(2021年度)大学入試においては新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け、全国主要私立大学の一般選抜における志願者数は減少。コロナ禍による家庭の経済状況の悪化や受験による感染リスク回避などを背景に、出願校を絞る傾向が見られました。
2022年度入試は状況の好転が期待されたものの、大手予備校「河合塾」の集計(2022年4月1日時点)によると、この傾向は大きく変わらず、志願者数は前年比101%でほぼ横ばい。回復が鈍化する結果となりました。
逆境のなかで志願者数を伸ばす大学も
一方で、コロナ禍でも堅調に志願者数を伸ばす大学もあります。特に顕著なのが、2022年度入試における私立大学志願者数ランキング一位の近畿大学と、同ランキング二位の千葉工業大学です。いずれも前年から大幅に志願者数を伸ばし、一般方式・共通テスト方式の合計で10万人を超えています。
これらの大学に共通している点は広報活動を推進し、学外への精力的な情報発信が行われていることです。大学広報の成功例として取り上げられることの多い近畿大学、受験料負担の軽減などの入試改革が支持されている千葉工業大学ともに、情報発信力の高さは特設の入試情報サイトからも見て取れます。
近畿大学は、他の大学では見られないインパクトのあるクリエイティブやコンテンツが、唯一無二の「近大ブランド」を表しています。一方、千葉工業大学は多様な入試形式の詳しい解説とともにWEB出願までのスムーズな導線が引かれ、受験生目線のコンテンツづくりが行われています。これら2校のアプローチの方法は異なりますが、いずれも広報活動の推進が受験生への認知を広げ、志願者数にも反映されている好例と言えるでしょう。
コロナ禍の志願者獲得に向けた大学広報の取り組み
コロナ禍における大学広報において、実施されている具体的な取り組みをお伝えします。
イベントは来校型とオンライン型のハイブリッド開催が主流に
対面イベントを待ち望む声を受けてか、2021年はオープンキャンパスを「来校型」と「オンライン型」の2パターンで行うハイブリッド開催が目立ちました。
ちょうどオープンキャンパスが盛んに行われた2021年夏に、東京・大阪を中心とする地域で緊急事態宣言が発令されたことを受け、来校型のオープンキャンパスについては最終的に中止の判断を下した大学も少なくなかったものの、事前予約制としたうえで開催に踏み切った大学もありました。
オンライン型はYouTubeなどの動画プラットフォームを活用する大学が多く、いつでも好きな時に視聴できる常設コンテンツをはじめ、当日限定のライブ配信という形式で「実際にキャンパスに訪れている感覚」を受験生に味わってもらう試みなども見られました。大分県別府市にある立命館アジア太平洋大学は、自然豊かで広大なキャンパスの様子がわかるキャンパスツアーを配信するなど、遠方から受験生を呼び寄せるための魅力的なコンテンツが充実していました。
新たな変異株の流行によって、いまだ感染拡大の収束が見えない2022年もこの傾向は続くと予想されるため、現地まで足を運ばなくても情報収集ができるオンライン型オープンキャンパスは、今後選択肢の一つとして定着する可能性も大いにありそうです。
LINEやオンライン会議ツールを活用した個別相談会
オープンキャンパスと同様に、コロナ禍で対面での開催が難しくなった個別相談会もデジタルシフトが進んでいます。LINEやZoomなどのオンライン会議ツールを活用した個別相談を取り入れる大学は多くなっています。
たとえば、産業能率大学は公式LINEアカウントを通じて、チャットで受験生からの質問を受け付けています。デジタルネイティブ世代の受験生にとって、身近なツールであるLINEは対面では聞きづらいことなどを質問しやすいという気軽さがあるため、受験生の疑問や不安を解消して志望度を引き上げるためのコミュニケーションツールとして機能しているようです。
また、明治大学のように、Zoomを使ったオンライン相談の事前予約をLINE上で簡単に手配できるようにするなど、複数のツールの連携による効率的な運用を実現している大学もあります。
受験生にリーチしやすいSNS活用で認知拡大へ
オープンキャンパスのオンライン化にともない、大学広報におけるSNS活用も活発化している昨今。特にYouTubeやInstagramのライブ配信、TikTokといった動画系SNSの活用が目立ちます。ライブ配信はリアルタイムに受験生と交流が図れる点が大きなメリットであり、先進的な取り組みを行う大学も出てきています。
たとえば、中央大学商学部は2021年8月に日本初の試みとしてTikTok LIVEを使ったオープンキャンパスを実施。中央大学商学部のTikTokアカウントでは教員や専門分野の紹介動画や、在学生による企画動画などを公開しています。Z世代(16~24歳)の利用者が多いとされるTikTokを戦略的に活用し、敷居の高さや堅苦しさを感じさせないカジュアルな投稿で認知拡大やイメージ向上につなげています。
まとめ
受験生と直接的な接点を持ちづらいコロナ禍においては、デジタルシフトの推進を含めた積極的な大学広報が不可欠と言えます。さらに、日本全体の大学進学率は高まっているものの、歯止めの効かない少子化傾向を考えると、コロナ収束後も大学法人による志願者の獲得競争が激化することは間違いないでしょう。
いわゆる“偏差値”や“ネームバリュー”にとらわれない、その大学ならではの魅力はどこにあるのか。多様なデジタルツールを複合的に活用するなど、大学広報には今後ますます従来のやり方に固執しない柔軟さが求められていくのではないでしょうか。ぜひ今回ご紹介した例を参考に、新たな取り組みを検討してみてはいかがでしょうか。