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学校・教育機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 自治体の課題解決に学年全員で取り組む地域探究フィールドワーク ~関西学院高等部~

2023.03.13
学校運営・総合
国内プログラム
探究学習
キャリア教育
カリキュラム構築支援
業務効率化支援

新学習指導要領で高校に「総合的な探究の時間」や「探究」がつく科目が設けられる中、それらをどのようにつなぎ、どう学びの横串を刺していくかは、多くの学校における課題となっています。このようなカリキュラム・マネジメントの過程で、行事の位置づけを再考する学校も増えてきました。今回取り上げる関西学院高等部では、50年も前から探究的な学びを重視した「読書科」という授業を設けてきました。しかし、あらためて探究を軸にした教科横断型の学びをすべての生徒に提供しようと、行事の見直しに着手したのです。同校副部長の田澤秀信先生、学年主任の澤田加奈先生、広岡直太先生に具体的な取り組み内容についてお話を聞きました。

(左から)広岡先生、澤田先生、田澤先生

学校プロフィール 関西学院高等部

1889(明治22)年設立の私立共学校。キリスト教の精神を持ちながら、幅広い学びを通じて自身の興味関心を知り、探究心を育む。希望者全員が関西学院大学に進学できる。

  • 文部科学省指定事業「スーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)指定校」(2014-18)
  • 文部科学省指定事業「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム 構築支援事業・カリキュラム開発拠点校」(2019-21)
所在地
兵庫県西宮市上ケ原一番町1-155
ホームページ

https://www.kwansei.ac.jp/hs/index.html

半世紀続く探究学習を縦横に広がるカリキュラムに再編

―これまで探究学習にどのように取り組んできたか教えてください。

田澤  本校は大学受験のない生徒が多いこともあり、今では探究学習と呼ばれるようになった学びを以前から重視してきました。約50年前から図書館で毎週1時間探究学習を行う「読書科」があり、そこでは生徒一人ひとりが自由にテーマを設定し、専任の教員が伴走しながら、興味関心を持ったことに対して自分で調べ、考えを深め、3年間をかけて論文にまとめていきます。この時間が、自分が何を深めたいのか?自分自身がどういう人間なのか?を考える機会になっており、大学での専攻を検討する機会にもなっています。

田澤先生

一方で、この10年ほどは「読書科」に探究的な学びを任せきりにしていたような側面もありました。せっかく「読書科」の中で3年間にわたり探究的な学びを深めてきているにもかかわらず、他の教科や行事において、うまく連携を図ることができていなかったのです。

私は探究学習を「読書科」だけが担うのではなく、授業や行事など学校での全ての活動で関連づけていくことが命題であると考えるようになっていきました。2014年にSGH(スーパー・グローバル・ハイスクール)に採択され、そこで浮き彫りになった課題をWWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム構築支援事業の指定のもと、縦にも横にもつながり合うカリキュラムへと変革してきました。簡単なことではありませんが、本校の伝統を守りながら、学校をもう一度デザインしようと考えていたのです。

―3年間の探究学習を実現するために最も大きな課題はどのようなことだったのでしょうか。

田澤  最も大きな課題は色々なものがぶつ切りで存在していたということではないかと思います。「読書科」もありますし、各教員はそれぞれの授業の中で探究的な学びを取り入れていますが、なかなかそれがつながり合わない。すべての取り組みに対して「探究」で横串を通し、最後はきちんと振り返りを行うという体系だったカリキュラムを構想しています。

澤田  WWLを機に設けた「グローバル探究」関連7科目は、その授業を選択した生徒だけが取り組んでいる状況でした。そのため、一部の生徒は熱心に探究をしていましたが、全体的な広がりはなかなか持てていないと課題があったのです。生徒全体で探究に取り組める方法を検討していました。

澤田先生
関西学院高等部の探究学習関連の全体図
関西学院高等部の探究学習関連の全体図

田澤  生徒全体で取り組むことを重視し、行事での探究学習の実施を企画しました。行事は生徒が一番ワクワクする機会です。心が大きく動く場面では、必ず学びがあります。こんなに良い機会が単体で存在しており、関連立てた学びがデザインできていないことは非常にもったいないですよね。それぞれの学年で実施する大きな行事をきちんとつなげていくことが重要だと考えるようになりました。

澤田  田澤先生から行事再編の構想を聞き、ようやく学年全体で探究学習に取り組めるチャンスになると考えました。

生徒の心を揺さぶる学年行事で探究学習を実践

―行事×探究学習の構想をどのように進めていきましたか。

澤田  1・2年生連続で実施する「ソーシャル探究プログラム」を設け、1年生の初めには仲間づくりも兼ねてSDGsのカードゲームを実施しました。クラスづくりの役割として楽しく実施でき、その上で社会課題への意識を育むような機会となりました。

2年生になり、「地域探究フィールドワーク」を行いました。最初の段階では、地理の担当教員が本校が位置する阪神間の地域的な特性についての授業をし、続いて伊丹市の職員の方に地域の課題について説明をいただきました。こうしたインプットを経て、生徒たちの地域への関心は少しずつ高まっていきました。

広岡先生

広岡  5月に6つの自治体から課題が挙がってきました。その数、約70個です。各課題に取り組むグループ決めて、6月にフィールドワークを実施しました。フィールドワーク後は、グループでプレゼンテーションを作成し、クラス内でグループごとに発表、その後最終的には学年全員の前で各クラスの代表グループが発表しました。

生徒の活動は「ソーシャル探究委員」が中心になって進めていきました。クラスの進捗状況の確認や学年の発表会の司会もソーシャル探究委員が担いました。生徒主体でこうした活動を進められるのは、「読書科」で探究学習に慣れてきたからこそ、ともいえるでしょう。

地域探究フィールドワークのスケジュール
地域探究フィールドワークのスケジュール

―そもそも、地域についての探究を実施したいと考えていたのですか。

田澤  私学の場合、生徒は様々な場所から通学してくるため、公立高校と違い近隣地域との接点があまりありません。しかし本来、私立学校こそ、特色の異なる様々な地域との協働を通して、地域振興の核ともなれる存在であり、そのつながりを重視しなければならないはずだと思うのです。JTBはこの地域とのつながりの重要性に着目して、地域探究フィールドワークを提案してくださいました。各自治体の方に地域の課題をヒアリングして、それをまとめて、フィールドワークの調整も行ってくれました。提案をいただいた際には正直なところ、「JTBはこんなこともできるんだ!」とびっくりし、すごく魅力を感じました。

澤田  どのような地域課題があるのかを理解し、生徒たちが探究していく地域探究フィールドワークは素晴らしいと感じました。とはいえ、たくさんの課題を多様な行政から拾い集めてくることは、学校だけでは難しい。ご提案を聞いたときには、生徒たちの新たなチャレンジにつながると思いました。

地域を生徒の探究フィールドに

―地域探究フィールドワークはどのように進めていきましたか。

澤田  フィールドワークの地域の方へのアポイントは、ソーシャル探究委員がクラスの意向をとりまとめ、広岡先生が集約して打診しました。実は、前年度、生徒がアポなしで市役所にお伺いしてしまったことがあったんです。積極性と行動力があってのことではありますが、担当者の方がいないとお話を聞くことが難しいという状況もあるため、事前の取りまとめ機能を設けました。

フィールドワークの様子

広岡  フィールドワークは70グループに分かれているので、教員が全てについていくことはできません。そのため、ICTを使って出欠を取り、あとは生徒たちがそれぞれフィールドワークを行うような仕組みとしました。生徒たちはフィールドワーク中、写真やメモだけでなく、動画で収録するなど創意工夫を凝らし、情報を収集していました。

生徒たちは自分が住んでいる地域の課題もほとんどわかっていない状況です。まして、別の地域ではなおのことそうでしょう。実際に、地域にフィールドワークに足を運び、新たな発見がたくさんあったと感じています。

自治体職員もうならせた高校生ならではの解決策

―生徒の発表について、印象に残っている内容を教えてください。

広岡  僕はクラス担任をしているので、クラスでの発表と学年全体の発表を見学しました。最優秀賞を取ったグループは、<西宮は古くから日本酒の一大産地として知られており、現在でも酒蔵やアンテナショップ、お酒に関する博物館などがあります。このような施設を巡る「酒蔵ツーリズム」が人気で、日本酒に興味のある人が訪れています。一方、日本酒に親しみのない人にも興味を持ってもらいたいのですが、様々な理由でお酒を飲めない人もいます。お酒を飲めない人に日本酒文化と酒蔵を楽しんでもらうには、どうしたらよいか考えてください。>という西宮市役所から出された課題から、探究を深め、「西宮市における清酒産業広報に関しての一考察」というテーマでプレゼンテーションをしました。当初、未成年なのでアルコールのテーマはとっつきにくいのではないかと思っていましたが、菊正宗酒造記念館と白鶴酒造記念館でのフィールドワークの経験を踏まえて、具体的な提案にまとめていました。(詳細はホワイトペーパーをご参照ください。)

澤田  全体会ではどのクラスも自由で上手なプレゼンテーションをしていました。伊丹市の市役所の方から出された<伊丹市に若い人たちが遊びにいきたくなるような新しいイベントを企画してほしい>という課題に対して、「伊丹市の旬の特産品を使ったスイーツの移動販売車で、自由な発想のお菓子を販売する」というグループの発表も面白かったです。

―自治体の方からはどのような感想が聞かれましたか。

いちじくサンデー
生徒のプレゼンテーション資料から一部抜粋

田澤  各自治体の方からは、「大人の発想では出てこないような解決策が多く、参考になりました」と感想のメールをいただきました。

学校行事との連携で、探究学習が全体的な広がりに

―地域探究フィールドワークを通して生徒たちはどのように成長しましたか。

広岡  自分たちで調べ、行動し、プレゼンテーションまでやりきったので、達成感を覚えていたと思います。自信をつけることにつながったのではないでしょうか。また、自分たちの地域に興味を持つきっかけになりました。

今回の探究学習では、文献を読み込んで研究にまとめるというような時間は取っていませんでした。そもそもそこまでは今回の課題では求めていませんでした。今後、3年生で本格的な探究学習をしていく中で、さらにそうした研究の力も伸ばしていくことが求められるでしょう。

澤田  学年全体で探究学習を行なっていくことができました。学年の行事として実施できることは大きな価値があったと思います。生徒も先生方も探究に対する温度差はあるものです。しかし、今回の地域探究フィールドワークではどのクラスも同じように積極的に取り組んでいく機会になりました。

田澤  実際その地域に行って、どうなっているのかを見て聞いて、まとめた上で自信を持って発表するような機会は学校として大事にしなければいけないでしょう。

―探究学習をどう発展させていきたいですか。

田澤  「読書科」と行事で行う探究学習をつなぎ、さらには教科と探究を接続させていきます。外社会ともつながり、それを踏まえて自分のテーマを見据えていく。そのためには、他の行事も探究を軸に接続をしていきたいと考えています。次なる一歩は、修学旅行×探究学習の実施です。

先生方は教員として行いたいことがあり、すでにそれぞれの授業で探究活動を行っていることも多いです。ただ、本校は「こうやれ」とトップダウンで落として動いていく学校ではありません。同じベクトルで、なだらかに一致させていくことが重要だと考えています。トライアンドエラーを繰り返しながら、本校らしい探究活動を作り上げていきたいです。

澤田  私も担当する古典の授業では探究的な学習をしています。他の教員もそれぞれ工夫をして、生徒に挑戦の機会を設けていると思います。田澤先生がおっしゃったように、そのベクトルをなだらかに同じ方向に向けていくことで、教員同士も刺激を受けていけるのではないかと思っています。

広岡  今回の地域探究フィールドワークを経験して、機会さえ設ければ生徒たちの探究心や主体性がどんどん出てくるのだと思いました。これからも、こういった体験的な学びをどんどんしていってほしいと思っています。


JTB担当者コメント ~教育的意義を軸にした地域貢献活動~

JTB神戸支店(当時) 鷲見匡紀

田澤先生から「3年間の体系的な行事にしたい」とご相談をいただいたのは、2021年度末のことでした。先生から「私学なので地域とのつながりが薄い」という課題をお聞きしたことがきっかけとなり、「ソーシャル探究」の中で、近隣の自治体が抱える課題を探究する「地域探究フィールドワーク」を実施しませんか?と提案しました。自治体には福祉課題や医療課題など多様な社会課題があります。先生方と話し合い、課題の中でも高校生に取っ付きやすい「観光課題」をテーマに据えようと決めました。

私たちから各自治体へ、地域課題を挙げていただくようお願いをして、取りまとめを行いました。例えば、宝塚市であれば、「宝塚歌劇に来る人が他の観光地には足を運ばず地域として潤いにくい」といった課題が聞かれました。こうした声から、一口に観光課題といっても、すごく多様性があるのだと私自身も勉強になりました。

JTBは地域を活性化させる企業であらねばいけないと思っています。今回の地域探究フィールドワークはまさに教育的意義を軸に地域に貢献する活動であると考えています。学校、地域、企業をつなぐことができる私たちだからこそできる貢献の方法がまだまだあるはずです。その可能性を探りながら、探究学習構築のお手伝いを進めていきたいと考えています。


ホワイトペーパー(お役立ち資料)近隣6市の課題と向き合う地域探究フィールドワーク ~関西学院高等部~

近隣6市から70の地域課題を集め、学年の生徒全員がグループに分かれて探究活動を実施した関西学院高等部。お役立ち資料では、実際に集まった地域課題の数々を2ページに渡ってご紹介しているほか、自治体担当者から高く評価されたグループのプレゼンスライドを掲載しています。今すぐダウンロードいただき、地域との協働による探究活動の参考にお役立てください。

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