新学習指導要領で高校に「総合的な探究の時間」や「探究」がつく科目が設けられる中、それらをどのようにつなぎ、どう学びの横串を刺していくかは、多くの学校における課題となっています。このようなカリキュラム・マネジメントの過程で、行事の位置づけを再考する学校も増えてきました。今回取り上げる関西学院高等部では、50年も前から探究的な学びを重視した「読書科」という授業を設けてきました。しかし、あらためて探究を軸にした教科横断型の学びをすべての生徒に提供しようと、行事の見直しに着手したのです。同校副部長の田澤秀信先生、学年主任の澤田加奈先生、広岡直太先生に具体的な取り組み内容についてお話を聞きました。
学校プロフィール 関西学院高等部
1889(明治22)年設立の私立共学校。キリスト教の精神を持ちながら、幅広い学びを通じて自身の興味関心を知り、探究心を育む。希望者全員が関西学院大学に進学できる。
- 文部科学省指定事業「スーパー・グローバル・ハイスクール(SGH)指定校」(2014-18)
- 文部科学省指定事業「WWL(ワールド・ワイド・ラーニング)コンソーシアム 構築支援事業・カリキュラム開発拠点校」(2019-21)
- 所在地
- 兵庫県西宮市上ケ原一番町1-155
- ホームページ
INDEX
半世紀続く探究学習を縦横に広がるカリキュラムに再編
―これまで探究学習にどのように取り組んできたか教えてください。
田澤 本校は大学受験のない生徒が多いこともあり、今では探究学習と呼ばれるようになった学びを以前から重視してきました。約50年前から図書館で毎週1時間探究学習を行う「読書科」があり、そこでは生徒一人ひとりが自由にテーマを設定し、専任の教員が伴走しながら、興味関心を持ったことに対して自分で調べ、考えを深め、3年間をかけて論文にまとめていきます。この時間が、自分が何を深めたいのか?自分自身がどういう人間なのか?を考える機会になっており、大学での専攻を検討する機会にもなっています。
―3年間の探究学習を実現するために最も大きな課題はどのようなことだったのでしょうか。
田澤 最も大きな課題は色々なものがぶつ切りで存在していたということではないかと思います。「読書科」もありますし、各教員はそれぞれの授業の中で探究的な学びを取り入れていますが、なかなかそれがつながり合わない。すべての取り組みに対して「探究」で横串を通し、最後はきちんと振り返りを行うという体系だったカリキュラムを構想しています。
田澤 生徒全体で取り組むことを重視し、行事での探究学習の実施を企画しました。行事は生徒が一番ワクワクする機会です。心が大きく動く場面では、必ず学びがあります。こんなに良い機会が単体で存在しており、関連立てた学びがデザインできていないことは非常にもったいないですよね。それぞれの学年で実施する大きな行事をきちんとつなげていくことが重要だと考えるようになりました。
澤田 田澤先生から行事再編の構想を聞き、ようやく学年全体で探究学習に取り組めるチャンスになると考えました。
生徒の心を揺さぶる学年行事で探究学習を実践
―行事×探究学習の構想をどのように進めていきましたか。
澤田 1・2年生連続で実施する「ソーシャル探究プログラム」を設け、1年生の初めには仲間づくりも兼ねてSDGsのカードゲームを実施しました。クラスづくりの役割として楽しく実施でき、その上で社会課題への意識を育むような機会となりました。
2年生になり、「地域探究フィールドワーク」を行いました。最初の段階では、地理の担当教員が本校が位置する阪神間の地域的な特性についての授業をし、続いて伊丹市の職員の方に地域の課題について説明をいただきました。こうしたインプットを経て、生徒たちの地域への関心は少しずつ高まっていきました。
―そもそも、地域についての探究を実施したいと考えていたのですか。
田澤 私学の場合、生徒は様々な場所から通学してくるため、公立高校と違い近隣地域との接点があまりありません。しかし本来、私立学校こそ、特色の異なる様々な地域との協働を通して、地域振興の核ともなれる存在であり、そのつながりを重視しなければならないはずだと思うのです。JTBはこの地域とのつながりの重要性に着目して、地域探究フィールドワークを提案してくださいました。各自治体の方に地域の課題をヒアリングして、それをまとめて、フィールドワークの調整も行ってくれました。提案をいただいた際には正直なところ、「JTBはこんなこともできるんだ!」とびっくりし、すごく魅力を感じました。
澤田 どのような地域課題があるのかを理解し、生徒たちが探究していく地域探究フィールドワークは素晴らしいと感じました。とはいえ、たくさんの課題を多様な行政から拾い集めてくることは、学校だけでは難しい。ご提案を聞いたときには、生徒たちの新たなチャレンジにつながると思いました。
地域を生徒の探究フィールドに
―地域探究フィールドワークはどのように進めていきましたか。
澤田 フィールドワークの地域の方へのアポイントは、ソーシャル探究委員がクラスの意向をとりまとめ、広岡先生が集約して打診しました。実は、前年度、生徒がアポなしで市役所にお伺いしてしまったことがあったんです。積極性と行動力があってのことではありますが、担当者の方がいないとお話を聞くことが難しいという状況もあるため、事前の取りまとめ機能を設けました。
自治体職員もうならせた高校生ならではの解決策
―生徒の発表について、印象に残っている内容を教えてください。
澤田 全体会ではどのクラスも自由で上手なプレゼンテーションをしていました。伊丹市の市役所の方から出された<伊丹市に若い人たちが遊びにいきたくなるような新しいイベントを企画してほしい>という課題に対して、「伊丹市の旬の特産品を使ったスイーツの移動販売車で、自由な発想のお菓子を販売する」というグループの発表も面白かったです。
―自治体の方からはどのような感想が聞かれましたか。
学校行事との連携で、探究学習が全体的な広がりに
―地域探究フィールドワークを通して生徒たちはどのように成長しましたか。
広岡 自分たちで調べ、行動し、プレゼンテーションまでやりきったので、達成感を覚えていたと思います。自信をつけることにつながったのではないでしょうか。また、自分たちの地域に興味を持つきっかけになりました。
今回の探究学習では、文献を読み込んで研究にまとめるというような時間は取っていませんでした。そもそもそこまでは今回の課題では求めていませんでした。今後、3年生で本格的な探究学習をしていく中で、さらにそうした研究の力も伸ばしていくことが求められるでしょう。
澤田 学年全体で探究学習を行なっていくことができました。学年の行事として実施できることは大きな価値があったと思います。生徒も先生方も探究に対する温度差はあるものです。しかし、今回の地域探究フィールドワークではどのクラスも同じように積極的に取り組んでいく機会になりました。
田澤 実際その地域に行って、どうなっているのかを見て聞いて、まとめた上で自信を持って発表するような機会は学校として大事にしなければいけないでしょう。
―探究学習をどう発展させていきたいですか。
田澤 「読書科」と行事で行う探究学習をつなぎ、さらには教科と探究を接続させていきます。外社会ともつながり、それを踏まえて自分のテーマを見据えていく。そのためには、他の行事も探究を軸に接続をしていきたいと考えています。次なる一歩は、修学旅行×探究学習の実施です。
先生方は教員として行いたいことがあり、すでにそれぞれの授業で探究活動を行っていることも多いです。ただ、本校は「こうやれ」とトップダウンで落として動いていく学校ではありません。同じベクトルで、なだらかに一致させていくことが重要だと考えています。トライアンドエラーを繰り返しながら、本校らしい探究活動を作り上げていきたいです。
澤田 私も担当する古典の授業では探究的な学習をしています。他の教員もそれぞれ工夫をして、生徒に挑戦の機会を設けていると思います。田澤先生がおっしゃったように、そのベクトルをなだらかに同じ方向に向けていくことで、教員同士も刺激を受けていけるのではないかと思っています。
広岡 今回の地域探究フィールドワークを経験して、機会さえ設ければ生徒たちの探究心や主体性がどんどん出てくるのだと思いました。これからも、こういった体験的な学びをどんどんしていってほしいと思っています。
JTB担当者コメント ~教育的意義を軸にした地域貢献活動~
ホワイトペーパー(お役立ち資料)近隣6市の課題と向き合う地域探究フィールドワーク ~関西学院高等部~
近隣6市から70の地域課題を集め、学年の生徒全員がグループに分かれて探究活動を実施した関西学院高等部。お役立ち資料では、実際に集まった地域課題の数々を2ページに渡ってご紹介しているほか、自治体担当者から高く評価されたグループのプレゼンスライドを掲載しています。今すぐダウンロードいただき、地域との協働による探究活動の参考にお役立てください。