今回が初の開催となった未来探究祭は一般社団法人次世代教育ネットワーキング機構が主催する中学生・高校生の探究学習の祭典です。授業で『未来探究ゼミナール』を実施した中学高校の生徒を対象として2023年11月からエントリーを受け付け、2024年2月24日に11チームによるFinal STAGEでの発表が行われました。本記事ではその様子とともに、Final STAGEに進んだ参加校の先生7名に、探究学習の支援における悩みや取り組みの工夫についてお聞きしたお話をご紹介します。
INDEX
つながり合いの発想から生まれた“競争”と“共創”の場
1st STAGE(書類審査)、2nd STAGE(交流&協働ワークショップ)、3rd STAGE (動画審査)を勝ち抜いた12チームがFinal STAGE(プレゼンテーション審査)に進み、Final STAGE当日は参加辞退1チームを除く11チームが舞台に上がりました。プレゼンテーションの持ち時間は5分。その後、審査員による質疑を経て、生徒たちは探究を深めました。
栄えある金賞に輝いたのは、北鎌倉女子学園高校「RiNG」
11チームのプレゼンテーションの後、生徒たちは他校の生徒とカードゲーム「SDGs de 地方創生」で交流し、授賞式を迎えました。
銅賞に静岡サレジオ高等学校「チーム松田一希」、銀賞に茨城県立勝田中等教育学校「TEAM KATSUTA」が輝き、最後の発表となった金賞は北鎌倉女子学園高等学校の「RiNG」に決定しました。
「RiNG」は、「過去と未来をつなぐ1日中楽しめる鎌倉に」というテーマで発表。コロナ禍を経て、観光客が戻りつつある今だからこそ、一層の誘客につなげるためにはどうしたらいいかという課題意識から探究学習を行いました。季節や時間によって観光客数がどれだけ変動するかをSWOT分析を用いて整理。その結果、週末は人流が増え、週初めには減少すること。また、日中は人が多いが、夜間は減ることなどを明らかにしました。そこで「鎌倉モーニングイベント」「鎌倉イブニングイベント」を企画し、具体的な提案につなげました。
RiNGのメンバーは、「鎌倉市に住んでいると、昼間は観光客で賑わっているけれど、夜になると寂しいくらいに閑散としていると感じていたので、その課題意識を探究テーマに設定しました。実際に調査をした結果、夜間は人流が少ないことが裏付けられ、地域に対して何かできることはないかと考えるようになりました」とテーマに対する思いを語りました。
また、探究活動における自身の成長について、「わからないことがあり、先生に質問すると答えを渡されるのではなく、『こういう調べ方もあるよ』とヒントを与えてくれました。そのヒントを足がかりに考えを深めることができたように思います」と振り返りました。
さらに、「データの見方から始まりプレゼンテーションの方法に至るまで、さまざまなことを教えてもらいながら壇上に立つことができました。どうしたら私たちの伝えたいことがきちんと伝わるかを試行錯誤する中で、チーム全体が成長していくことができたと思います」と締めくくりました。
参加校の先生に各校の探究学習の取り組みや課題を聞きました
生徒たちのプレゼンテーション終了後には、Final STAGE進出校の先生方による座談会が開催され、探究学習の悩みや工夫をシェアすることで先生方の共創を生む場にもなりました。
座談会参加者(学校名五十音順)
- 愛知県立岡崎商業高等学校
- 竹内道治先生
- 茨城県立勝田中等教育学校
- 岡田新司先生
- 北鎌倉女子学園
- 田邊則彦先生
- 静岡サレジオ高等学校
- 長橋正樹先生
- 西武台高等学校
- 内田圭一先生
- 西武台高等学校
- 山下伸雄先生
- 八女学院高等学校
- 竹上健太先生
(記事中では敬称略)
――未来探究祭への出場を決めた経緯を教えてください。
――探究学習を支援する際の悩みや課題について教えてください。
山下 生徒たちに「課題設定をしなさい」と伝えても簡単にはできません。教員に提出するだけの場合には、モチベーションが上がらず、表面的な内容で提出するケースも少なくないというのが支援している担任団から出されている課題です。そのため、未来探究祭のような校外への発表の場を作っていくことは非常に重要でしょう。
田邊 未来探究祭は、課題解決よりも課題発見に重きを置いた取り組みだと私は理解しています。データを探し、それを解析して、どういう問題があるのかを検討し、そこからアイデアを出していく。課題発見という探究学習の重要なポイントをおさえるために、有効な試みだったと感じます。
「総合的な探究的の時間」では、よくSDGsがテーマとして扱われます。SDGsはすでに目標が定められているので、それに対してどうアプローチをしていくかが探究学習の内容になります。そうなると、課題発見にはつながりにくい。未来探究祭は、課題発見に注力できる、生徒たちにとって貴重な機会になったと思います。
竹内 本校は生徒のサポートはせずに、「生徒の時間はできるだけ生徒に使ってもらおう」と方針を決めて、教員は口出しをしないことにしました。しかし、生徒たちは、探究学習に正解はないのですが正解っぽいことを探そうとして、質問をするんです。「探究学習は正解探しではない」ということを伝えた上で、自身から湧き起こった課題に向き合っていくためには教室内に心理的安全性を醸成していくことが不可欠だと感じました。
そこで、例えば、手を挙げて発表しにくいようであれば、「黒板まで出てきて書いていいよ」と声をかける。さらに、「1人ではなく、みんなと書いてみたら」と支援をする。そうしたことの積み重ねで、少しずつ「自分の意見には価値があり、正解不正解はないのだ」という気づきにつなげていくことができました。このような雰囲気作りは、探究学習の第一歩目かもしれませんね。
田邊 子どもたちは「オリジナルな提案を作りたい」という気持ちを持っているものだと思います。オリジナリティを実現するために、どのようなアドバイスをしてあげることが求められるのかを考えていきたいですね。
――未来探究祭では、各チームがデータに基づいたプレゼンを行いました。探究におけるデータの活用についてご意見をお聞かせください。
竹内 表面的な話し合い活動や調べ学習で終わってしまうことも多いので、未来探究祭のような機会があると深掘りや多面的な検証の重要性などを知ることができる機会になりますよね。
岡田 本校は中学生での出場だったこともあるかもしれませんが、探究学習まで至らず調べ学習で終わってしまうようなことがあり課題を感じていました。データで根拠を裏付けられるような探究学習を実現していくにはどうしたらいいか。試行錯誤しています。
今後は教科横断的な視点でデータをどう扱うか、どう読み取るかなどの力を育成したいと考えています。データを正しく読んだり分析したりするためには、「情報」や「数学」の授業を活用することが最適だとは思いますがそこまで連携が図れていません。近年、大学入学共通テストでもデータや資料の読み取りの問題が出題されているので、探究活動の中でも特別講義などを実施してデータ分析力を上げていく必要があるかもしれないと思っています。
田邊 「調べ学習」が「調べっぱなし学習」になってしまっていることは、探究学習をする上での大きな課題だと考えています。本来であれば、調べたことをどう活用していくのかといった点まで踏み込んだ活動にし、アウトプットまでつなげていかなければいけないでしょう。
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――未来探究祭では、他校の生徒との交流や協働の場が設けられました。その意義についてどうお感じになりましたか。
竹上 初対面の人とコミュニケーションを取るためにはどうしたらいいかわからない子は本当に多いです。未来探究祭では、2nd STAGEの時に、「誕生日順で答えなさい」といった縛りを作り、「誕生日がいつかを話さなければいけない」という条件を設けていましたよね。こうした配慮により、コミュニケーションのステップを踏んでいくことができたのではないかと思います。最後には、他校の生徒と共通の話題で盛り上がる生徒の姿を見ることができました。
山下 未来探究祭のテーマである「競争と共創」は子どもたちの成長によい影響を与えてくれたと感じます。本校の生徒も、他校の生徒とすごく楽しそうに交流している姿を見ることができました。
――探究学習の経験を今後どのように活かしてほしいと考えていますか。
山下 本校のSTEAMコースでは生徒たちの提案を社会と接続させて、ものづくりなどにまで発展させたいと思っています。今回、ポスターを作り、企業や自治体に掲示をお願いするという行動を起こしたグループもありましたが、受け入れてもらえず悔しい思いをしていました。どうやって高校生の活動を社会に接続させていくか、あるいは社会に受け入れられるようなレベルにまで引き上げていくかは、今後の課題だと感じています。
竹上 私が担当する数学の授業では、以前は生徒たちは質問されたことに対して回答するだけでした。しかし、未来探究祭での経験を経て、質問の背景をきちんと探り、「こうした背景のもと、こう考えた」といった理由まで添えられるようになりました。探究学習でこうした成長があったのか、あるいは他の要因もあるのかもしれませんが、探究学習の時間だけで終わることなく日常の学びにも活きていくような成長につながったのではないかと考えています。
大人になっても続く「未来探究」
未来探究祭の最後には、総評として審査委員長の仙田先生から、「立命館アジア太平洋大学(APU)の元学長の出口治明さんは『モノゴトの考え方は、タテ・ヨコ・算数だ』といっています。私は探究学習でこうした視点を得ること自体が、教養を養うことであると考えています。知識やデータをもとにして考え、自分の言葉で語ること。ぜひ、この体験を忘れないでください」と語られました。
さらに、次世代教育ネットワーク機構代表理事 山田仁二氏より、閉会の言葉が述べられました。
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