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学校・教育機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 「一般社団法人次世代教育ネットワーキング機構」が描く日本教育の未来 ~事務局長 中野憲氏インタビュー~

2023.05.29
学校運営・総合
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株式会社JTBは、2023年4月、「一般社団法人次世代教育ネットワーキング機構」を設立しました。同機構の理事・事務局長である中野憲氏に、設立にかける想いや具体的な活動内容、これからの教育に求めることについてお話を聞きました。

(聞き手:佐藤智)

一般社団法人 次世代教育ネットワーキング機構

私たちは、JTBグループのもつ交流や体験のノウハウと、教育に関わるあらゆるステークホルダーとのネットワークによって、“ココロ動かす学び”を創造し、次の時代を担う子どもたちの糧となるチカラの育成に貢献します。

プロフィール

中野 憲

国際理解教育・留学の専門企業を経て2000年に株式会社JTB入社。国際交流推進室長、国際交流センター長、教育事業ソリューションセンター長等を歴任後、2023年4月より一般社団法人次世代教育ネットワーキング機構の理事兼事務局長に就任。教育全般の高度化への貢献を目指し、国内外の教育プログラムやスキーム開発に携わってきた経験を基に、次世代型教育及び人材育成のための活動に従事。

佐藤 智

横浜国立大学大学院教育学研究科修了。中学校・高校の教員免許を取得。出版社勤務を経て株式会社レゾンクリエイトを設立。全国約1千人の教員へのヒアリング経験をもとに、教育現場の情報をわかりやすく伝える教育ライターとして活動中。著書に『10万人以上を指導した 中学受験塾 SAPIXだから知っている 頭のいい子が家でやっていること』、『公立中高一貫校選び 後悔しないための20のチェックポイント』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)などがある。

次世代教育の情報発信を通じて教育に携わる方々の一助になりたい

佐藤  私はこれまでたくさんの教育現場にお邪魔をして、取材をしてきました。その中で、先生方が奮闘しながら目の前の生徒たちに向き合っている現状や取り組みを、多くの方に知ってもらう「橋渡し役」が自身の役割であると感じるようになっていきました。

学校の外側からどう教育を支えていくかということにもとても関心があるのですが、今回はJTBがその方向性を強めていくということで、お話を聞きにまいりました。今年度、「一般社団法人次世代教育ネットワーキング機構」を設立したのにはどういった経緯があったのですか。

中野  私は2000年にJTBに入社して、それから20年以上、留学事業や海外研修などの国際理解・グローバル教育の推進を中心に仕事をしてきました。さまざまな国を見る中で感じたのは、教育と(経済を中心とする)国力は両輪だということです。経済の成長が見られる国は教育にも力を入れていますし、教育に力を入れている国は国力(経済)も成長している。この両者は確実にシンクロしています。

かたや日本に目を向けると、例えば「失われた30年」などと揶揄されるように、経済状況については多くのメディアで取り上げられてきましたが、教育の本質的な部分についての深い考察や理解は長きに渡ってなされてこなかったのではないかと感じています。例えば近年、「センター試験の名称や出題内容が変わる」や「探究学習を推進しなければならない」ということはメディアに取り沙汰されても、その背景にある本質は何か、日本の教育がどう大きくシフトしようとしているのかを理解している人は少ないように思うのです。今回の教育改革は、これまでにないパラダイムシフトに挑戦しています。私共はこうした次世代教育についてきちんと情報をお伝えし、教育機関の方々や学習者・保護者の皆様への一助になるような役割を果たしたいと考えています。

佐藤  近年の教育改革は多様な文脈で行われていますが、中野さんはどのようなパラダイムの変化を感じているのですか。

中野  少し乱暴ですが、一言でいうとIQからEQへの基軸の転換だと私は捉えています。EQは以前から存在していた概念ですが、国がそちらへの転換に本腰を入れたと考えています。EQ的な力は新学習指導要領でいえば、「3本の柱」のうちの「思考力・判断力・表現力」の一部と「学びに向かう力・人間性等」の部分に該当するのではないでしょうか。その狙いが顕著に表れているのが、探究活動の重点化です。体験の中で心が動き、その感性を大切にしながら自己や他者への理解を深め、主体的にモノゴトに取り組む力が求められるようになったと考えています。

IQ:英 Intelligence Quotient        一般的に「知能指数」と訳される
EQ:英 Emotional Intelligence Quotient  一般的に「心の知能指数」と訳される

佐藤  先生方と探究活動についてお話をすると、生徒たちが「問いを立てられない」「テーマを決められない」というお悩みを耳にします。問いを立てるには、自分が何に興味関心を持っているか、感情が大きく動く瞬間はどんな時かを捉えていく工程が欠かせません。そうした意味で、EQの視点が重要になってくるのでしょうね。

データに基づく効果検証とネットワーキングでより良い学びをコーディネート

佐藤  具体的に、社団法人ではどのように教育現場をサポートしていこうと考えていますか。

中野  大きく分けて「①教育活動支援」「②ネットワーク形成」「③調査研究」の3つの役割を果たしていきたいと考えています。

一般社団法人次世代教育ネットワーキング機構の活動内容について、詳しくはこちら

中野  IQを基軸とする世界での評価指標が偏差値だったとすれば、EQを基軸とする世界での「伸び」や「変容」をどう評価するのか、まだその見解が乏しい状況だと感じています。先生方からも探究学習や体験活動をどう評価するか、日々悩まれているとお聞きします。そこで、「①教育活動支援」の一つとして、様々な教育活動と「伸び」や「変容」との相関関係を明らかにする検証システムの開発を進めています。このシステムが完成し、データが蓄積されると、探究学習や特別活動などの教育活動が生徒の資質・能力にもたらす効果を可視化でき、エビデンスベースで活動の振り返りや検証ができるようになります。

佐藤  修学旅行や海外留学、Global Link(※注 課題研究発表の国際コンテスト)などの探究学習のイベントを取り扱ってきたJTBの経験値に加えて、さらにそこに効果検証を加えられるようになるのですね。教育現場では定量的な評価も重要ですが、定性的な子どもたちの見取りも欠かせません。そのバランスを取りながら、取り組みの改善を進めていくことにつなげられるとよいですよね。

中野  その通りです。各校や目の前の生徒の状況に応じて、数値をどう解釈し、どう行動につなげていくかは変わっていくはずです。データを併用することで、課題意識を持っている先生や、生徒の成長や変容の原因や相関関係に苦慮されて悩んでいる先生方のヒントにしていただきたいと考えています。

佐藤  データで検証していくことで、個人の先生が抱えがちであった問題を多くの先生で考えていくことにもつながるかもしれませんね。課題を「開いて」いくために、データを使うという方法も有効だと感じました。

また、こうした効果検証は自校の中だけでとどまらず、学校間で連携しながら進めていくことでより有効性が高まるのではないかと思います。「なぜA校の探究学習はこのような評価が出ているのか。B校において生徒の状況に合わせたアレンジをしていくことができるか」といった検証を重ねていくことが、日本の教育の底上げやベンチ・マーキングにもつながっていくのではないでしょうか。

中野  それが機構の役割の「②ネットワーク形成」にあたります。学校間、あるいは学校種を超えて学び合えるといいですよね。それに加え、有識者や大学・企業などの組織をネットワーキングすることにも注力していきます。これにより、生徒や学校が必要とする知見やツールをより適切に選び取れるようになっていくと考えています。

佐藤  すべての解題解決策を次世代教育ネットワーキング機構が担うのではなく、学校のよりよい教育活動のために必要な環境整備をしていくようなイメージなのですね。

中野  そうです。だから、「コンペティターはどこですか?」というような一般的な質問を受けると、正直、困ってしまう(笑)。これまでの資本主義的な「どちらが勝つ・負ける」という次元や思考法ではなく、私共は全体性を持って教育を考えていく時機を迎えていると思うのです。例えば、Aというケースではa社と研究者のb氏が組んで対応するとよいかもしれませんし、Bというケースでは企業3社が協業して課題解決に当たるとベストなのかもしれません。様々な領域のネットワークを広げることで、より良い座組みをコーディネートする。少々、表現が大きくなり恐縮ですが…、私共は日本の教育の「参謀」のようなポジションを担える組織でありたいと考えています。

多分野の有識者との連携を通して蓄積した専門的知見を社会に還元

佐藤  先述の検証システムによる評価のほかに、「①教育活動支援」では具体的にどのような取り組みを学校に提案していきたいと考えていますか。

中野  専門家との連携によって蓄積された知見を教育関係者や社会に還元する活動にも注力していきます。例えば、昭和女子大学ダイバーシティ推進機構キャリアカレッジ学院長の熊平美香先生が提唱されている「学習する学校(組織)」やその方法論としての「リフレクション」の手法や概念を教育現場で活用することを伝えていきます。熊平先生は生徒たちのリフレクションの重要性を伝えているだけでなく、先生方がリフレクションに協働することで、有機的な組織としての「学習する学校」になっていくことができるとおっしゃっています。

教育の大きなパラダイム変容の中で、先生方の役割がティーチャーからファシリテーターやメンターになっていくべきと言われています。新たな取り組みをする中では、適切にリフレクションし、それを次なる活動のサイクルへと継続的につなげていくことがより求められるでしょう。

佐藤  リフレクションにより、生徒も成長し、教員も変容していく。学校が動的に変わっていくためには欠かせない営みであるように感じます。

中野  私もそう考えています。さらに、リフレクションや検証システムによる定量調査を行いながら、各校が自校に合わせたカリキュラム・マネジメントを実践していくことも重要でしょう。それを実現するために、私共は大阪教育大学大学院 連合教職実践研究科教授の田村知子先生にも知見をいただいています。そして、こうした知見や実践の積み重ねが、機構の役割の「③調査研究」にもつながっていくと考えています。

実践から生まれる課題の解決を通して子どもたちの資質・能力の育成に貢献

佐藤  中野さんのお話からは、教育現場にコミットし、教育現場が実践のなかで変わっていけるような情報やツールの提供に力を入れたいと考えているのを感じました。

中野  それは、私自身が教育学等の学術・研究領域からではなく、教育現場の実践を拝見するところから教育に携わるようになったという背景に起因しているのかもしれません。「サポート」や「支援」というと大変おこがましいのですが、実際の教育現場の困りごとを一緒に解決し、腰を据えて本質的な次世代教育の推進と浸透のお手伝いをしたいと考えています。

佐藤  もし学校や先生が「次世代教育ネットワーキング機構と協働したい」と考えたら、どうアプローチをすればよいのですか。

中野  先生方と協働するために社団法人という位置付けの組織を作りましたので、ぜひお気軽にご連絡ください。以下公式ウェブサイトからご連絡を頂けると助かります。JTBが長年の教育事業で蓄積した「社会との出会いを通じて子どもたちの心を動かすノウハウ」を基盤としながら、多様な先生方や機関と連携し、よりよい未来の社会を創る子どもたちの資質・能力の育成に貢献していきたいと思っています。

佐藤  ありがとうございました。


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