2014年からスタートした、中高生が自身の研究内容を、英語で発表・議論・交流する課題研究コンテスト「グローバルリンク(Global Link)」。2022年はオンラインとオンサイトのハイブリッド開催となり、6カ国から52チーム133名の高校生が参加しました。2日間におよぶコンテストに向けて、生徒はどのような準備を経て、何を体験し、どんな気づきを得たのでしょうか。社会科学分野(Social Science)で準グランプリに輝いた宮崎県立高鍋高等学校探究科学科3年生の守部心々音さんへのインタビューをお届けします。また後半では埼玉県立浦和高等学校1年生の出道瑛太さんが課題研究に打ち込む様子を収めたドキュメンタリー映像と併せて、受賞者への賞状授与の様子を御覧いただけます。
自身の課題研究内容をブラッシュアップし、英語で発表!
「グローバルリンク(Global Link)」とは、2014年からスタートした中高生が自身の研究内容を英語で発表・議論・交流する課題研究コンテストです。これまでシンガポールとオーストラリア(クイーンズランド州)で実施してきましたが、コロナ禍の2021年からは「グローバルリンクオンライン(Global Link Online、以下GLO)」と銘打ち、オンラインでの開催となりました。
オンライン開催の様子は、大会ホームページ(https://global-link-online.com/)のダイジェスト動画からもご覧いただけます。
発表分野は、基礎科学分野(Basic Science)、応用科学分野(Applied Science)、社会科学分野(Social Science)の3分野が用意されており、共通の興味関心を持つ各国の生徒たちと切磋琢磨して、学びを深めてくことができます。
GLOでは、自身の研究内容のブラッシュアップと英語でのプレゼンテーションスキルの向上を目的に、約2ヵ月間にわたる事前トレーニングプログラム「グローバルリンクアカデミー(Global Link Academy)」を開催しています。参加する生徒たちは在籍校からのサポートに加えて、この事前学習プログラムを経ることで、実践的なプレゼンテーション力を高めていくことができるのです。
グローバルリンク挑戦に向けた準備とは?
生徒たちは、自身の研究内容を掘り下げ、プレゼンテーションするグローバルリンクの場でどのような成長を遂げているのでしょうか。社会科学分野に挑戦し、準グランプリを受賞した宮崎県立高鍋高校探究科学科3年生の守部心々音さんにお話を聞きました。
―GLOに出場した背景を教えてください。
- 守部
- 2年生の時に、日本の国際教育をテーマに探究学習をしました。さらに、模擬国連にも参加し、異文化交流の大切さや重要性を強く感じる機会も得ました。その一方で、海外や外国人に触れることがほとんどないせいか、クラスメイトのグローバルへの関心はあまり高くないと感じていました。なぜ、日本においては国際教育に関心を持ったり参加したりする生徒や学生が限られているのか。そんな疑問が発端となり、自分で研究を深めてみたいと思いました。さらに、その研究を東京大学の推薦入試に生かしたいという思いもあり、GLOで自分の成果を発表し、力試しをする目標に据えたのです。
―GLOではどのようなテーマを発表しましたか。
- 守部
- きちんとデータから分析したいという思いがあったので、公表資料がある「高校生の海外留学」に焦点を当てました。高校生の海外留学に地域間格差があることは、文部科学省が指摘していたので、実際にどのような格差が生まれているのか、そしてその要因とはいかなるものなのかを重回帰分析という統計方法を用いて分析しました。格差の要因は、家庭の年収とICT・インターネットの普及率の大きく2つあることがわかりました。
―どのように研究と発表の準備を進めていきましたか。
―学校は守部さんの挑戦をどうサポートしてくれましたか。
- 守部
- 発表の内容は担任の先生に相談しました。発表に研究内容を全て盛り込もうとするとどうしてもボリュームが増えてしまうので、取捨選択の相談をしたんです。どこを割愛すればよいかアドバイスをいただけたのはとてもありがたかったです。
- また、重回帰分析は高校では学んだことがなかったので、自分一人で取り組んでみようとしてもうまく理解できませんでした。そこで、学校の物理の先生に「教えてください!」とお願いにいきました。先生も統計がご専門ではなかったのでわからない部分もあり、調べていただきながら、丁寧にサポートしてくださいました。
- 他にも学校に東京大学の大学院生がきてくださったことがあり、本番さながらに発表をして、それに対するフィードバックをもらうこともできました。学校からは私の挑戦に対して多くのサポートをしてもらったと感じています。
―英語での発表準備はどう進めていきましたか。
- 守部
- 2年生まではオンライン英会話レッスンを受けていたのですが、すでにやめてしまっていたので英語には自信がありませんでした。特に質疑応答の時にはどのような質問が飛んでくるかわかりません。その点は、GLOの事前学習プログラムに、「英語力スピーチデリバリー向上プログラム」や「プライベート英語レッスン」などがあり、コミュニケーションツールの習得として楽しみながら学ぶことができたことはありがたかったです。英語力を高めることができたことに加えて、実践練習では「とてもよいプレゼンテーションだったよ!」と声をかけてもらい、自信につなげることもできました。
研究を深める中で将来のビジョンが明確に
―他の参加者からどのようなことを学びましたか。
- 守部
- 社会科学分野でファーストプライズ(最優秀賞)を受賞した長崎県立諫早高校の岸ふみさんの発表にはとても印象に残りました。プレゼンテーションでの説明もスライドの使い方も非常にうまい。何よりも、環境問題に着目して自身でその解決に向けて行動していることを知り、自分には足りていない点だと痛感しました。まるで一人の経営者のようだと思ったんです。自分の探究からアクションにつなげていく姿に大いに刺激を受けました。
―海外の生徒たちからも刺激を得ましたか。
コンテスト2日目には、多様な国の生徒5~6人で少人数グループを組み、お互いの研究を発表し合う機会がありました。私のグループは、環境問題に着目しているメンバーが多く、環境問題というのは世界全体の問題で、自分も将来を担う者として大きな責任を担っているのだと感じる機会となりました。
―グローバルリンクに参加して感じた課題や展望はありますか。
- 守部
- 質疑応答でタイの審査員の方に質問をされたのですが、聞き取ることができず、返答できませんでした。英語が隔たりとなり、自身の研究を伝えられなかったことがとても悔しかったんです。改めて、英語力は必要不可欠だと感じ、もっと向上させようというモチベーションにつながりました。
- そして、GLOに向けて数ヶ月間自分の研究に打ち込んだことにより、将来への思いが明確になりました。「コミュニケーションをしながら何かを創造していく国際教育の場をつくること」が私の最終目標です。現在、そのために必要なことは、3つあるのではないかと思っています。
- 1つ目は客観的・批判的にデータを用いて論理を積み上げていくこと、2つ目は「日本社会だからこそ、こういう結果になる」といったように論理を社会と結び付けていくこと。そして3つ目に、日本という固有の文化や社会を掛け合わせて検討し、子どもたちに一番効果的な国際協力の場とは何かを明確化させ、政策立案につなげていくことだと考えています。こうしたビジョンを実現するための第一歩として、より自身の研究を深め、進路実現に向けて準備を進めています。
険しいからこそ学ぶ意味がある「実録 課題研究への挑戦!」
生徒たちはグローバルリンクオンラインに向けてどのような思いで挑戦し、準備を進めているのでしょうか。その様子をよりリアルにお届けしたく、埼玉県立浦和高校1年生の出道瑛太さんに密着させていただきました!
出道さんは今回の発表や交流の場に対して、「他の人の意見や考え方、リサーチの方法を知れたのが良かった」「裏付けのために何をしなきゃいけないのか等は普通の学校生活では見つからなかった」と振り返っていました。また指導された先生は「英語を使って初対面の外国の方に意見を発表する機会は学校の力では作れない」とコメントされています。
こうした出道さんの率直な言葉や、先生の言葉からは、学校での探究学習への取り組みや発表の場の活用に関するヒントが見えてきます。ぜひ下記から動画をご覧ください!
表彰の場で垣間見れた、生徒の満足感と次への意志
日本国内の受賞生徒にはGlobal Link実行委員会を代表して、株式会社JTB常務執行役員 檜垣克己が表彰状と副賞を直接学校へ訪問してお渡ししました。
受賞生徒からは、今回の参加を通じて「自分の興味のある事がもっと好きになった」「世界と繋がれる発表、それに対する批評をしてもらえた事は自身の成長に繋がると思う」という言葉が聞かれました。また、同席の先生からも「学外のこのような機会や表彰経験は生徒にとって大きな励みになる」という反応を頂きました。
中高生にとってのこの貴重な経験は、更なる研究の深堀りに繋がると共に、日常の学びにも良い影響を及ぼすはずだと確信をして、我々は学校を後にしました。