新型コロナの影響で首都圏からの観光客が激減した今、地域の観光振興の柱として期待されているのがワーケーションです。緑豊かな場所でのワーケーションは、密を避けて仕事ができる、気分転換によって生産性の向上も期待できるとあって、多くの企業が地域の動向に注目しています。
今回はワーケーション誘致のために、快適なテレワーク環境を整えようとしている自治体に向けて、JTBのアンケート調査※1※2で明らかになった企業のニーズを紹介します。地域の既存施設や空き家、歴史的建造物を上手に活用し、コワーキングスペースの整備や観光資源の磨き上げに取り組んでみてはいかがでしょうか。
企業がワーケーション受け地に求めることとは?
JTBが開催したオンラインセミナー「企業版ふるさと納税を活用したワーケーションの取り組み方」にご参加いただいた方へのアンケート※1では、企業担当者が求めるワーケーションの効果として「従業員のモチベーション向上」が最も多く、続いて「多様性のある働き方の浸透」という結果になりました。社員の価値観が多様化する中、それに応える施策としてワーケーションに期待が寄せられていることがわかります。このような効果を期待している中で、ワーケーションの受け入れ地域にどんなことを求めているのか見ていきたいと思います。
設問:ワーケーションにどのような効果を期待しますか?
ポイントは「共創・創発」の場 ~地域住民との交流や異業種企業との交流~
「企業が受け入れ地域や自治体に求めること」について聞いたところ、最も多かったのがWiFiの整備でした。滞在中の仕事場となるコワーキングスペースには、Wi-Fiの整備が最低条件となります。とはいっても、安全性の低い公衆Wi-Fiではなく、安定していてセキュリティ面でも質の高い通信環境が必要です。WiFi環境はワーケーションにあたって無くてはならない設備であることは多くの方が理解するところだと思います。
次に多かったのが「コワーキングスペースで他企業、他業種の方との情報交換、交流ができるようなスペースの設備」と「地域の方との交流ができる仕組み」でした。さまざまな企業が既存のビジネススタイルからの脱却を目指す中、イノベーションの重要性が増しています。そのことが今回のアンケート結果にも反映されていると考えられます。ワーケーションの型にも地域関係者との交流を通じて、地域課題の解決策を共に考える「地域課題解決型」というものがありますが、このような活動を通じて自社にもイノベーションを起こそうというのが企業側の狙いの1つだと言えます。これらのことから、地域がワーケーション推進企業に選ばれるためには、共創・創発の場を提供することがポイントだと考えられます。
設問:ワーケーションにあたって受け入れの地域・自治体にどのようなことを求めますか?
- JTB主催オンラインセミナー「企業版ふるさと納税を活用したワーケーションの取り組み方」参加者アンケート アンケート回答数:57
設問:企業活動としてのワーケーションに必要と思われるファシリティをお答えください。(複数回答可)
※2 JTB「企業におけるワーケーション実施に関するアンケート調査」(2020年9月14日~10月8日実施)より抜粋
企業単位での受け入れのために用意しておきたいもの
そのほか、企業単位でのワーケーション受け入れを考えるなら、さまざまなスペースを用意することも有効です。JTB「企業におけるワーケーション実施に関するアンケート調査」※2の結果でも「日中の個室利用」が2番目にあがっています。あるコワーキングスペースでは、1人用個室のほか、固定席、フリー席(大テーブルや個別席)を用意するなど、利用者同士のコミュニケーションも想定した多様なスペースが設けられています。また大人数で利用できる会議室も用意できるとコワーキングスペースとしての使い勝手はより向上します。
最低限の持ち物で仕事ができるよう、サブモニターや複合機、文房具などの備品を揃えることも利用者の利便性向上につながります。また複数の人が設備を共有するという性質上、消毒用アルコールの設置や換気の実施などの感染症対策も欠かせません。ほかにも、飲食売店やコンビニ等の周辺施設の充実や送迎サービスなど、利便性を向上させるさまざまなプランが考えられます。
古民家や廃校など、既存資源の活用を
ワーケーションの拠点となる滞在施設の“質”も企業が重視するポイントです。「企業活動としてのワーケーションを農山漁村でおこなう場合、拠点となる滞在施設の何を魅力と感じますか?」という設問では、「古民家や空き家を改修した一棟貸しの施設での宿泊(内装は最新設備)」「廃校や空き家を改修した交流を深めるゲストハウスまたは民宿での宿泊」が「大変魅力に感じる」という意見を多く集めました。
ワーケーションに廃校を活用した例としては、平成20年に地域住民の出資によって誕生した和歌山県田辺市の「秋津野ガルデン」があります。田辺市立上秋津小学校の旧木造校舎はワーキングスペースとして活用されているほか、スイーツづくり体験などができる施設も内包。校庭にはスローフードバイキング料理を提供する農家レストランもあります。
さらに、校庭には木造2階建ての小さな宿泊施設も併設。和室(4人部屋、8人部屋)と洋室(ツイン+エキストラベット対応)があり、各部屋にはトイレ、バス、洗面所、Wi-Fiを完備しています。
バケーション部分を充実させる「農泊」のアイデア
夕食は地元のフレンチオーナーシェフが店から半径30km圏内の食材を使った料理を提供。予約をすれば地元のお母さんと一緒に郷土料理体験もできます。こうした非日常を楽しむアクティビティはチームに一体感を生み、職場の仲間との交流促進や仕事のモチベーションアップに寄与します。リラックスした雰囲気で楽しく視野を広げることができる農泊は、企業にとって大きな魅力となるでしょう。
JTBでは農泊地域への交流拡大・産品の流通拡大による地域活性化をサポートしています。詳細は事例ページをご確認ください。
まとめ
企業と地域の継続的な関係が地域振興につながる
自然の中で過ごし、地域ならでは体験や食で健康な心身を取り戻すことができる「ワーケーション」。企業と地域がつながると地域課題の解決にも新たな視点が加わり、企業にとっても、受け入れ地域にとってもメリットがあります。
コワーキングスペースや会議室といったハード面の整備に加え、アクティビティや文化体験などソフト面での受け入れ整備を進めることが、アフターコロナのワーケーションによる観光振興のポイントです。
記事内で紹介した企業担当者向けアンケートの詳しい集計結果は資料ダウンロードでご確認ください。