コロナ禍で迎える2度目の秋。日本国内ではいまだ訪日旅行や日本人の海外旅行の具体的な再開の見通しは立ちませんが、ワクチン接種が先行している海外では徐々に旅行回復への動きが見られています。
本記事では、2021年9月にJTB総合研究所が取りまとめた「旅と生活の未来地図 情報版 特集:旅行の本格的回復に向けたポイント整理と今行うべき備えとは」から、近い将来の旅行再開に向けた「人流予測」と「経済環境」、そして「生活者の意識と旅行消費行動」の変化についてご紹介しながら、コロナ禍を経た旅行のあり方と今できる準備についてお届けします。
国際観光の再開は約2年後?国際航空運送協会(IATA)の見通し
国際航空運送協会(IATA)が2021年5月に発表した予測によると、航空需要がコロナ禍前の2019年の水準に戻るのは早くて2023年後半とのことです。2020年7月に出された発表では2024年とされていたため、予測が1年ほど早まったことになります。
その要因の1つはワクチン接種です。日本を除く先進国では2021年第3四半期までに接種者が人口の50%を超えるとされており、需要回復を後押しすると考えられています。
国内線に目を向けてみると、2021年4月の日本国内線RPK(有償旅客数×輸送距離)は2019年比54.9%減で、コロナ前の水準と比較すると大幅に落ち込んでいました。しかし、前月の2019年比58.5%減と比べると3.6ポイント改善されています。
これらの動きから、国際観光がコロナ前の水準に戻るにはまだ時間がかかるものの、国内旅行に関しては一筋の光も見え始めていると言えます。外国人の訪日はアジア太平洋地域から回復が始まることが予測されますが、現在は多くの国が入国制限を設けていることもあり、まだ時間がかかります。そのため、当分はいかに日本人の旅行需要を取り込むかが地域の課題となりそうです。
地域住民の観光客受け入れに関する意識の変化
JTB総合研究所が2021年8月に行った調査によると、自分が住んでいない大都市圏(首都圏・関西圏)からの旅行者を「歓迎したい」と答えたのは10.5%に過ぎず、否定的な反応を示した(「出来れば来てほしくない」「来てほしくない」)人の割合は全体の約6割を占めました。海外からの旅行者に対してはさらに消極的で、「歓迎したい」と答えたのは6%のみ、「来てほしくない」「出来れば来てほしくない」と答えた人の合計は全体の約7割でした。国内で感染収束が見通せない中、地域住民の大部分が不安を抱えており、なかなか受け入れ態勢が整わないことを示しています。
打開策の1つはやはりワクチン接種です。同じ調査で大都市圏からの旅行者がワクチン接種済みの場合、「歓迎したい」は16.5%に、否定的な反応は46.9%と半分以下まで減少、海外からの旅行者もワクチン接種済みであれば「歓迎したい」は11.6%に、否定的反応は57.1%まで大幅に減少しました。
自分の居住エリアに旅行者が訪れることをどのように感じるか
さらに、「コロナ禍の旅行で重視すること」を聞いたJTB総合研究所の2021年8月の調査では、「現地の受け入れ体制」について「旅行先の地域全体に、観光客への歓迎の意があること」が重視されていることが明らかになっています。このことから、旅行者へのネガティブな対応や発信は旅行先の決定に影響すると考えられます。
地域観光の回復のためには、ワクチンパスポートなどの仕組みを整備して旅行者や地域住民の不安を軽減する取り組みのほか、訪れた旅行者が気持ちよく時間を過ごせるよう、ポジティブな情報を発信することも重要になりそうです。
コロナ禍の旅行で重視すること
また、同調査では、旅行者の多くが旅行の方法として「少人数の旅行」「家族だけの旅行」といった条件を重視していることがわかっています。近隣の観光スポットに小さなグループで出かけるマイクロツーリズムでは、旅行者自らが交通手段や施設を調べるという傾向があるため、旅行客が情報をストレスなく得られるように情報の発信手段や内容を工夫することも、需要を取りこぼさないための有効なアクションになると考えられます。
可処分所得の増加で消費は爆発するか
新型コロナウイルスの感染拡大により移動や外出を伴う消費は大きく落ち込みましたが、「巣ごもり消費」関連は依然として好調で、2020年度の日本の税収総額は60兆8,216億円と過去最高を記録しました。
2020年日本銀行の「生活意識に関するアンケート調査」から「暮らし向き(ゆとり)の状況推移」を見ると、新型コロナウイルスが拡大した2020年の上半期において「ゆとりがなくなってきた」と感じる人は増加傾向に。しかし、興味深いことに2020年6月の42.6%をピークにその後は徐々に減少しており、2021年6月では前年度比5ポイント減の37.3%まで下がっています。このことから生活のゆとり意識は緩やかながら、改善傾向にあると考えられます。
暮らし向き(ゆとり)の状況推移
ターゲットにすべき旅行者の属性
今後の旅行予定を聞いたところ、34.5%の人が1年以内に行くと回答しました。新型コロナウイルスの感染拡大が無ければ、例年は約6割の人が1回は観光旅行を行っていること、コロナ禍の2020年の旅行実施者が36.1%ということを考慮すると、今の段階では年内の旅行意向は低いと言えそうです。しかし、こうした状況においても20代の若い年代は常に旅行意欲が高い結果が出ています。
一方で旅行消費のけん引者のシニア層は、感染拡大当初は旅行への意欲が低い傾向でしたが、昨年秋の一時的な旅行再開で意欲が戻りました。しかし、感染拡大には慎重であるため、事態が悪化するとすぐに自粛につながってしまいます。ワクチン接種が進み、安心感が広がれば旅行意欲も向上してくるでしょう。
旅行商品についても変化が予想されます。従来型の低価格ツアーは残りつつも、コロナ禍をきっかけに、衛生面への配慮やおもてなしに力を入れた高品質な旅行に注目が集まります。
まとめ
旅行再開に向けて、今地域が行うべき備え
今回のJTB総合研究所のレポートでは、コロナ禍が長引くにつれて「新型コロナウイルスの終息宣言が出たら旅行する」「新型コロナウイルスの治療法が見つかれば旅行する」といった意識が減少し、「特に理由がなくても行きたい」と旅行へと気持ちがシフトしていることが明らかになりました。
感染拡大は予断を許さない状況が続いていますが、ワクチン接種が進み自粛ムードが解消された時、増加している可処分所得が国内旅行の需要を喚起する可能性は大いにあると言えます。また、コロナ禍を機に安全・安心の旅行へのニーズが高まるのは間違いありません。こうした消費者の意識や状況の変化を見据え、安心・安全に楽しめる、質の高い旅行商品を準備しておくことが重要だと言えます。詳しい情報は、ホワイトペーパー(お役立ち情報)「旅と生活の未来地図 情報版」(JTB総合研究所)にまとめました。本記事ではご紹介できなかった地域の情報発信のあり方や先駆的なリゾート地「白馬」の今後の戦略についてもご紹介しています。ぜひ、ご覧ください。
ホワイトペーパー(お役立ち資料)「旅と生活の未来地図 情報版」(JTB総合研究所)特集:旅行の本格的回復に向けたポイント整理と今行うべき備えとは(全10ページ)
日本国内では、訪日旅行や日本人の海外旅行の具体的な再開の見通しは立ちませんが、日本人の本格的旅行再開への期待は高まります。このような中、観光や交流による地域活性化事業に携わる皆様の準備は万全でしょうか。今回は「旅行の本格的回復に向けたポイント整理と、今行うべき備えとは」について特集します。旅行再開に向け、「人流予測」、「経済環境」そして「生活者の意識と旅行消費行動」を再整理し、コロナ禍を経た旅行のあり方と準備について考えます。ぜひ、ご覧ください。
INDEX
- 国際観光再開(インバウンド)の見通しは? ~旅行再開後しばらくは日本人の国内旅行が中心に~
- 旅行消費のマグマは爆発するか? ~コロナ禍の長期化で「特に理由はなくても行きたい」が増加~
- 安全・安心への意識は今後どうなるか? ~旅行先の決定に影響するものは何か~
- ターゲットとなる旅行者は? ~感染状況により旅行意欲の高い層は変わる~
- 参考になる旅行情報はどう変わっていくか? ~求められる“地域ならでは”&“スピーディー”な情報発信~
- 先駆的リゾート地に聞いた、今後目指すべき姿とは!? ~コロナ禍を経て白馬が描くシナリオ展開~