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自治体・行政機関向け WEBマガジン「#Think Trunk」 ワーケーション導入企業に訴えるべき地域の魅力は?企業が重視するワーケーションの効果と価値

2021.09.29
地域マネジメント
戦略策定
認知拡大・流通促進
誘客促進

在宅勤務やパラレルワークなど、多様で柔軟な働き方に注目が集まる昨今。地域は、テレワークのための通信環境やワーキングスペースの整備など「ワーケーション誘致」による観光振興に積極的ですが、ワーケーションを実際に導入している企業はまだまだ少数派です。株式会社JTBと株式会社タナベ経営は企業の総務、人事担当者を対象にWEBセミナー「ワーケーション導入の効果と企業経営 ~ワーケーションが生み出す新たな企業価値~」を開催。自由な働き方のひとつであるワーケーションの可能性についてお伝えしました。本記事ではセミナーの基調講演とパネルディスカッションの中から、地域の皆さまに知っていただきたいワーケーションに関する情報をピックアップして紹介します。記事の最後にはセミナーの参加者アンケートの結果から、企業の最新ニーズを考察しています。企業が重視するワーケーションの効果や価値を踏まえ、環境整備や企業誘致の具体策を考えてみてはいかがでしょうか。

WEBセミナー開催概要

セミナー名
ワーケーション導入の効果と企業経営 ~ワーケーションが生み出す新たな企業価値~
日時
2021年7月21日(水) 16:30~18:00
主催
株式会社JTB、株式会社タナベ経営(共催)

登壇者と講演テーマ

第一部基調講演

企業経営の視点からのワーケーションの効用と課題 ~「隠れワーケーター」はなぜ生まれるのか?~

講師
山梨大学 生命環境学部 地域社会システム学科長 教授
田中 敦(たなか あつし)氏

第二部パネルディスカッション

  • ワーケーション推進による企業価値のつくり方
  • スノーピークの取組事例
  • タナベ経営から見た地域企業の現状
  • トークセッション
パネラー

株式会社スノーピークビジネスソリューションズ 取締役
マーケティング戦略室 室長
藤本 洋介(ふじもと ようすけ) 氏

株式会社タナベ経営 経営コンサルティング本部 東北支社 副支社長
日下部 聡 (くさかべ さとし)氏

モデレーター
株式会社JTB総合研究所 主席研究員
山下 真輝(やました まさき)氏

企業の視点で見るワーケーションの効用と課題

基調講演では、山梨大学の田中教授より、企業経営の視点からのワーケーションの効用と課題について解説がありました。

ワーケーションの経営効果には、働く場所を適切に自主的に選ぶことがパフォーマンス向上に寄与する、企業の枠組みを超えた交流によりさまざまな新規事業が生まれる、多様な優秀な人材を抱えることで経営課題を解決できる可能性が広がるなどがあります。これだけのメリットがあるにもかかわらず、従業員のワーケーションを認めている企業はまだ少数に留まるのが現状です。

田中教授はワーケーション推進の課題としては、「行政・地域」「関連事業者」「従業員・働き手」「制度導入企業」の4つのステークホルダーに温度差があることを指摘しています。

4つのステークホルダーとそれぞれの期待

「行政・地域」「関連事業者」「従業員・働き手」の期待度は高い

ワーケーション受け入れに前向きな行政や地域には「ワーケーションを多拠点居住や移住への導線にしたい」「企業とのコラボレーションで地域課題を解決したい」という思いがあり、各地で「都心からのアクセスの良さ」「豊かな自然」など地域の特性を活かしたワーケーション整備・誘致が進められています。先進地域としては、企業のサテライトオフィスの誘致に力を入れる和歌山県や、テレワークができるリゾート地としてのブランディングに力を入れる信州などが有名です。

サービスを提供する事業者も定額制住み放題や高級ホテル×サービスアパートメントなど、これまでのビジネスモデルにとらわれない新規事業の参入が活発になっています。

従業員からは「旅行先での仕事が業務として認められれば休暇が取りやすくなる」とワーケーションに期待する意見も多く挙がっていますが、企業がワーケーションを制度として認めているケースは稀であり、会社の承認を得ないままワーケーションをしている「隠れワーケーター」も増えていることが田中教授の研究でも明らかになっています。

企業にとって、ワーケーション推進のボトルネックは?

コロナ禍を経て、テレワーク環境は多くの従業員に行きわたり、厚生労働省のガイドライン※においてもワーケーションがテレワークの一形態として位置付けられるなど、企業のワーケーション推進のハードルは徐々に解消されつつあります。政府主導でワーケーション推進が進む中、企業がワーケーションに消極的である背景には「ワーケーションの経営的な価値や従業員のメリットが十分に浸透していない」ことがあると田中教授は分析しています。

令和3年3月「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」

また、JTBが今回のセミナー参加者を対象に行ったアンケートでは「会社としてワーケーションに取り組む場合、不安や課題を感じますか?」という問いに対し、「労務管理が難しい」「ガイドラインの策定が難しい」「部署、職種間で業務のバラツキがあり社内での公平性が取れない」など、懸念を持っている方が多いことがわかりました。

一方で「自宅や会社より生産性が落ちそう」という選択肢を選んだ方の割合は少なく、ワーケーションにポジティブなイメージを持っているものの、実際の導入には慎重にならざるを得ない総務人事担当者のジレンマも浮き彫りになっています。

コロナ後、企業のテレワーク制度はどうなる?

コロナ収束後、テレワーク制度を残すかどうかについて検討中の企業が多いのが実情です。田中教授は、多様な働き方・休み方を広げることが従業員の自立や新たな価値創造に役立つことを企業がワーケーションを導入する意義として取り上げました。

ホワイトペーパー(お役立ち資料)

マンガで解説!「ワーケーションへの旅立ち ~企業・従業員・地域を豊かにするワーケーションの魅力と型がわかる!~」

資料のダウンロードはこちら

企業にとって魅力的なワーケーション環境とは?

ワーケーションの実施形態には大きく分けて「休暇型」と「業務型」の2つがあり、業務型はさらに3つに分類されています。それぞれの形態の効果を最大限に引き出すためには、どんなワーケーション環境を用意するのが良いのでしょうか。

以下ではワーケーションのアイデアや今後の課題が議論されたパネルディスカッションから、地域が取り組むべきことについて紹介します。

01 ワーケーション事例 「CAMPING OFFICE」での合宿型ワーケーション

スノーピーク社が手掛ける「CAMPING OFFICE」は自然を感じながら、人と人が心を通わせ、人間らしく働ける屋外のワークスペースです。ここでのミーティングはメンバーで協力して会議室を作る(テントを張る)ことから始まりますが、これが良質なコミュニケーションのきっかけとなり、会議室では生まれないアイデアも導き出すことができます。

スノーピーク社の実証実験では、開放的な自然の中で会議を行った方が笑顔が多くなることがわかっています。さらにメンバーと焚火を囲んで語り合う体験をした方からは、中長期的なビジョンが一人一人に浸透しやすいという感想も挙がっていると言います。「合宿型」のワーケーションは組織のビジョンを共有する会議や、新入社員研修など「絆」を創るミーティングと親和性があります。効果を高めるためには目的と環境が合致していることがポイントです。仲間とのディスカッションを目的とする場合は、外部のコミュニケーションを遮断できる貸し切り空間や非日常空間が最適です。

02 ワーケーション事例 合宿型と地域課題解決型を掛け合わせたユニリーバのWAA

ユニリーバ・ジャパンが導入した人事制度「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」は働く時間も場所も自由に選択できる制度です。自由な中にも従業員が守るべきルールは決まっており、自己管理の厳しさもあるうえで従業員と会社が理解して制度が活用されています。この取り組みは、企業と地域との包括的な連携で、従業員がワーケーションで訪れた地域に貢献する機会もセットで作られているのが特徴です。このように、「合宿型」のワーケーションと「地域課題解決型」を掛け合わせれば、ワーケーションが企業と従業員、地域のそれぞれにとって、より価値のある時間になります。

個人型(福利厚生型)ワーケーションの今後は?

テレワークは職種によって取り組みやすさに差があり、企業の総務人事担当者の中には、この不公平感の解消をワーケーション導入の課題として認識している方もいます。これに対して田中教授は、接客などのフィジカルコンタクトを必要とする職種にも一人で没頭する業務があることを指摘し、取り組みやすさを業種で二分するのではなく、業務にフィットするタイミングで、年に1・2回ワーケーションを行うといった働き方なら、より多くの従業員にワーケーションが広まる可能性があることを提起しました。

DX推進や働き方の最適化が企業経営のトレンドとなる中、ワーケーションをトライアル的に進めて課題を検証することは、DX推進や働き方の最適化にも波及する取り組みです。田中教授は「やるかやらないかを考えるのではなく、まずは従業員の働く場所の自由度を広げる、ワーケーションをしたい人やできる人を支えていくといった取り組みから進めるべき」とセミナーを締めくくりました。ワーケーション推進のためには、企業がワーケーションに興味がある従業員を支えることに加え、受け入れ地域がワーケーションを推進したい企業を支えていくことも重要になってくるのではないでしょうか。

地域が総務・人事担当者の期待に応えるための備え

ここからはセミナーの参加者アンケートの「ワーケーションの導入についてJTBに聞いてみたいことがあればご記入ください」という設問から明らかになった、ワーケーションに対する企業の期待と課題について、セミナーの内容や全国の事例とともに紹介します。

「ファミリーワーケーション」の需要に注目

アンケートには「家族旅行とワーケーションが組み合わせられるとうれしい」という回答がありました。ワーケーションに限らず、働き方が多様化していくこれからの社会において、親が働いている間の子どものケアは避けて通れない課題です。全国の自治体や観光事業者の間では、子連れワーケーションのニーズに対応するために、親が働いている間に宿泊施設が時間を決めて子どもを預かる、子どもに森林環境教育プログラムなどを提供するなどの取り組みもすでに始まっています。ワーケーション誘致を考える際には「ファミリーワーケーション」のニーズに注目し、親子向け、子ども向けのサービス、プログラムを検討してみてはいかがでしょうか。

地域のワーケーション施設は積極的に発信を

企業が個人型(福利厚生型)ワーケーションを推進する場合、従業員の働く環境をどのように整え、どのように管理するかは総務・人事担当者にとって大きな気がかりです。アンケートでは「滞在先のネットワーク環境やPC環境といった利用可能なインフラの情報を知りたい」「好条件のエリアを紹介してほしい」という要望も多く寄せられました。ワーケーション受け入れ整備を進める逗子市は、コワーキングスペースや宿泊施設、近隣で楽しめるアクティビティ、カフェ等の施設情報を電子書籍にまとめ、公式サイト上で発信しています。地域の受け入れ態勢をわかりやすく発信することは、企業のワーケーション推進の課題を解消することにも役立ちそうです。

ワーケーション導入・誘致は「目的」の検討から

「社員への制限はできる限り排除したいが、生産性を保つためにどんなルールを設けるべき?」「パフォーマンス向上のために企業が用意すべき環境・設備は?」といった疑問も多く挙がりました。前述したユニリーバ・ジャパンの人事制度「WAA」では、「何のためにやるのか」という目的意識を持ってから個人の多様性をより解き放つためのルールが検討されていったそうです。地域のワーケーション誘致も同様で、ワーケーションで何を実現したいのかを考えることが環境整備の第一歩になるのではないでしょうか。そのうえで、企業と地域がタッグを組み、お互いのビジョンを共有しながら設備の最適化を図ることもワーケーションを効果的に推進する手段の一つです。自治体が「企業版ふるさと納税」を活用して寄附を募り、財源を確保しながらワーケーションを推進する企業とつながるきっかけを作った事例もあります。企業と地域がともに課題解決を目指す関係性へ昇華することを目指して、ワーケーションへの取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。

まとめ

ワーケーション推進企業に響く環境づくりを

企業のワーケーション推進は、多様な働き方を認めることで従業員の働きやすさや満足度を高めるだけではなく、地域への貢献といった企業の社会的価値の向上にも結びつきます。企業にワーケーションの価値がより浸透すれば、滞在先の地域に対する企業の期待もますます高まっていくはずです。地域はワーケーションニーズの高まりに備えて、集中して働ける環境(Wi-Fi、デスク、会議室など)の整備だけではなく、従業員の自立や新たな価値創造を推進できる環境や、地域住民と交流できる場所・プログラムも合わせて考えていくことがポイントです。この機会に、ワーケーションの取り組みについて改めて検討してみてはいかがでしょうか。

最後に、今回のセミナーの参加者アンケートをレポートにまとめました。ぜひ、こちらもご覧ください。


ホワイトペーパー(お役立ち資料)ワーケーション受け入れ整備のヒントに!企業側のニーズは?
【WEBセミナー】ワーケーション導入の効果と企業経営 参加者アンケート 結果レポート

企業のワーケーション導入・推進担当者向けに開催したセミナ-の参加者にアンケートを実施。その結果をまとめたのが本レポートです。ワーケーションを通じた新しい働き方は、従業員にとっては「生産性の向上」や「ワークライフバランスの充実」、企業にとっては「有給休暇の取得率向上」や「従業員の業務効率の向上や帰属意識の向上」など多くのメリットが指摘されています。受け入れる地域側には何が求められているのか?皆さまのヒントになれば幸いです。


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