2024年5月、JTBは地域観光の活性化に向けたマーケティング支援において、株式会社電通デジタルと協業することで合意しました。両社は、全国の自治体やDMO、地域の観光関連事業者を対象に、より質の高い顧客体験を提供するための観光地域づくりに向けたマーケティングコンサルティングを行います。両社の担当者に取り組み内容について聞きました。
以下、電通デジタル『KNOWLEDGE CHARGE』で掲載された記事になります。
INDEX
ツーリズム産業におけるマーケティングの現状と課題
――現在の旅行業界の状況についてお聞かせください。
畠山
コロナ禍を経てお客様(旅行者)の流れが変わり、旅行需要の中心が団体旅行から個人旅行にシフトし始めています。FIT(Free Individual Traveler)やOTA(Online Travel Agent)のお客様が増加し、カスタマージャーニーの始まりから終わりまで、すべてがオンラインで完結してしまう傾向も大きくなっている中で、お客様一人ひとりの多様なニーズを捉えることが難しくなってきていると感じています。
こうした状況で、地方自治体やDMO(Destination Marketing/Management Organization/観光地域づくり法人)がお客様を呼び込むためには、ステークホルダーの協力を得ながらも、地域の当事者が主体的に連携してお客様一人ひとりのニーズを捉え、One to Oneマーケティングを実施することが必要となっています。
――One to Oneマーケティングを実践するにあたり、地域が抱える課題は何ですか?
畠山
大きな課題は2つあります。1つは、マスではなくお客様一人ひとりのニーズを捉える方法が多様であり煩雑であること。もう1つは、ニーズを捉えるために必要なデータ収集がスムーズに行えないことです。マーケティングに必要な消費につながる顧客データを持っているのは、宿泊施設や観光施設等の地域の事業者の方たちです。行政・自治体が主導してデータを収集し、マーケティングに活かして地域全体で人を呼び込む。このような仕組みを作りたいところですが、まずデータ収集を行うための地域内での合意形成が非常に難しいというのが、最大の課題だと思います。
電通デジタル・大木真吾氏
最近は地域の観光ビジネス再生を目的として「面的DX」という言葉も使われます。観光地という面に対して、特定企業が高度なDXを実現しても意味はなく、地域が一丸となって取り組まなくてはならない点に、特有の難しさがあると感じています。
電通デジタル・開地俊介氏
自治体やDMOのご担当者は、その担務が多岐にわたることから、ケースバイケースの対応が必要であったり、明確な費用対効果が評価しにくいマーケティング活動そのものに対して、実行計画を作りづらいという課題もあるようです。「やりたい」「やるべき」であることはわかりつつも、その1歩をどう効率よく踏み出していいのかがわからない地域の方が少なくないと感じています。
JTB×電通デジタルの協業について
――観光マーケティング領域において、JTBと電通デジタルが協業するに至った背景を教えてください。
畠山
JTBは2006年に「地方創生に資する地域交流事業」を立ち上げました。観光を軸にして地域の魅力を発掘・育成し、地域の課題を解決するソリューションを提供することで、持続可能な地域づくりの実現を目指しています。この取り組みの基盤となるのが、47都道府県に設置されている支店です。それぞれの支店に所属する「観光開発プロデューサーTM」が、この事業を推進する業務に携わっています。こうした活動を続ける中で、データからお客様の旅行目的や行動動機を探り、ニーズを具体的に捉えたマーケティングを実行するために、統合データ基盤(DMP)の導入をご提案しています。これに伴って、デジタルツールの活用方法やオンラインとオフラインの中から顧客接点の作り方など新たな課題も出てきていました。電通デジタル様と連携することで、これらの課題を解決し、行政・自治体やDMO等に対して、より具体的な解決策のご提案ができるのではないかと考えました。
大木氏
昨年、何度か合同提案をさせていただいたときに、お互いの強みが掛け算として活かされている手応えを感じました。今後もこの連携をしっかり強くしていくことで、双方にいい機会が生まれると期待しています。
JTB、電通デジタルならではの強みを活かす
―― JTB、電通デジタルならではの強みは何ですか?
畠山
長年、地域の方に寄り添ってきたことがJTBの一番の強みです。地域の事業者の方々は、私たちが観光のお客様をお連れしたい目的地であると同時に、宿泊や体験のような観光商品の仕入れ先でもありパートナーです。そのような密接な関係で、地域内で地域の魅力を活用したビジネスをさせていただいていることが、なによりもJTBらしさを示す強みだと思っています。また、豊富な行政営業の経験を有していることも大きな強みです。
開地氏
電通デジタルの強みは、これまでに多くの企業において、One to Oneをはじめとして、企業マーケティング変革支援に特化したコンサルティングサービスや、生成AI・メタバースを活用した新たなデジタル体験をトータルでサポートしてきた実績です。観光マーケティング領域では、両者が強みを出し合いながら一緒になって地域ごとに戦略を構想し、その仕組みを実装するにあたり、これまで培ってきたマーケティング力や技術力を発揮できると考えています。
観光マーケティングの現状を客観的に把握できるサービスを共同で開発
――今回の協業と同時に、「観光マーケティング課題診断」をリリースしました。どのようなものか教えてください。
開地氏
「観光マーケティング課題診断」は、オンラインで30問のアンケートにお答えいただくことで、戦略・地域連携・データ活用・商品・流通・情報発信・人財・運用の8つの課題領域から、現状を客観的に把握できるサービスです。診断結果はレポートにまとめて、地域マーケティングの伸びしろや、今後実施すべき施策と併せて提示します。また、この診断結果を基に、JTB各支店に在籍されている「観光開発プロデューサーTM」から最適な方をマッチングし、地域の事情を踏まえた最適なプロセスやゴールの設計を行います
畠山
これまで多くの地域の方々と接してきて、新たな一手を打ちたいものの何から始めたらいいのか分からず、最初の一歩を踏み出せずに終わってしまったケースをたくさん目にしてきました。診断は無料ですので、観光マーケティングで新たな取り組みを始めるための一歩として、気軽にお使いいただきたいと思っています。
現在は、自治体が政策に予算を計上する際に、EBPM(Evidence-based Policy Making/エビデンスに基づく政策立案)が求められる時代です。行政・DMOの方々には、診断結果をエビデンスとしてもご活用いただけると考えています。
大木氏
「観光マーケティング課題診断」は、出口のバリエーションが豊富です。課題解決のための様々な施策を、JTB様と電通デジタルのアセットの融合によってご提案します。戦略だけでなく、出口のプロモーションまで伴走するほか、SNSの運用などの細かなノウハウを含めたスキルトランスファーによって、現場の方々が自走できる仕組みを提供するなど、幅広くご支援できるメニューを用意しています。
来訪する人と迎える人を「つなぐ」「つなげる」ために
――両社の連携により、今後どのような観光地域づくりマーケティング支援を行っていく予定か、展望をお聞かせください。
大木氏
観光地域づくりマーケティングには、地域の様々な企業の協力が欠かせません。今後は、行政・DMOの皆様だけでなく、直接観光には従事していないけれどもその地域を担う企業様とも、新しいビジネスを作り上げていきたいと構想していますし、将来的にはモビリティの観点からのアプローチも考えています。そうした多様な力を観光マーケティングというひとつの目的に集約し、地域のウェルビーイングにつながる力となるよう、JTB様とともに長期的視野で取り組んでいきたいと思っています。
畠山
旅はお客様の自己実現を叶えられるものです。そのための素敵なディスティネーションを日本各地に作っていくことがとても重要だと考えていて、観光地域づくりマーケティングはそれを実現するための重要な手段のひとつです。来訪する人と迎える人を「つなぐ」「つなげる」ために、電通デジタル様と連携してデジタルの力を効果的に活用していきたいと思っています。
開地氏
観光地域づくりマーケティングの推進には、デジタルの力が不可欠です。デジタルを上手に活用することで、取り組みの効率化、省力化はもちろん、生産性や再現性を向上させることもできます。地域に住まう皆様の「幸せな未来」を思い描きながら、JTB様と一緒に統合的に伴走支援していきたいと考えていますので、観光マーケティング、観光DXに課題を感じている地域の担当者様は、ぜひご相談ください。
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