諸外国との政治的摩擦や頻発する自然災害、IoT、AIといったイノベーションの飛躍的発展やそれらに伴う社会構造の変化など、不確実性の高い社会に突入してから久しい日本。それにより、人々の働き方や社会との関わり方が多様化し、どの年代においても一人一人が自身のキャリアをステージごとに顧みなければならない時代となりました。そして今般のコロナ禍より不確実性はさらに高まっていくことが予想され、ゆえに「キャリア教育」はますます重要な位置づけになっていくと思われます。
学校教育界よりさかのぼると、文部科学省の中央教育審議会では2011年に、キャリア教育のあり方を「一人ひとりの社会的・職業的自立に向け、必要な基盤となる能力や態度を育てることを通してキャリア発達を促す教育」と定義しています。また、キャリアについては「人が生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を見出していく連なりや積み重ね」と定義しています。
仕事・家庭・地域といった様々なコミュニティとの関わりの中で、自らの役割を果たし自らの力で人生を選択していくためには、一定の能力や態度、そしてそれらを裏づける価値基準を持つことが不可欠です。つまり、一人一人が社会においてそれぞれにふさわしいキャリアを形成していくための、自分の軸を見出すことが、キャリア教育の真の目的なのです。
今「キャリア教育」に力を入れるべき理由
ではなぜ今「キャリア教育」に力を入れるべきなのでしょうか?なぜ成人し社会に出てからではなく、中高生の時期から、働くことの意義や社会で必要な力を養う必要があるのでしょうか?この疑問について、「人材」と「産業」の2つの視点から説明します。
①「人材」の視点
まず、今の高校1年生の65%の生徒が10年前にはなかった新しい仕事に就く可能性が高いと言われています(下記※1)。次に、AIやロボットの技術革新により、機械に仕事が奪われていくと言われています(下記※2)。そして、「人生100年時代」が到来し、人々は80歳まで現役で働くことになると言われています(下記※3)。つまり、これまでなかった仕事が生まれ、これまであった仕事がなくなり、長生きせざるを得なくなる。このような状況から子どもたちは、 学生時代から未来を見据えて、今自分がすべきことを考え行動する必要があるのです。
②「産業」の視点
グローバル化、IT社会化、終身雇用制度の崩壊など日本の産業構造が大きく変化しているのに対し、現行の学校教育システムがそれに完全には対応しきれていないことが挙げられます。そのため若者が自己のキャリア形成における明確な目標を持ちにくく、精神的・社会的な自立が遅れていることが社会問題となっているのです。
具体的には、
- 人間関係の構築が上手くできない
- 自己肯定感が低く、自信が持てない
- 目的意識がないまま進学し社会に出たため、就職しても長く続かない
などです。これらのことから、社会に出るまでに自分の軸を見つけ、世の中の激しい変化や様々な難局に対応できる「生きる力」を子どもたちに身につけさせることが、産業界においても喫緊の課題になっています。
コロナ禍において効果的なキャリア教育
小学校、中学校、高校とそれぞれの発達段階に応じてキャリア教育は実施されています。具体的には、地域のボランティア活動や社会科見学、職業講話、職場体験、企業による出前授業、インターンシップなどです。 ここでは、キャリア教育に有効な上記プログラムのカギとなる「第三の大人」の存在と、コロナ禍を逆手に取った「オンライン活用」について説明します。
①子どもの心に火を灯す「第三の大人」
子どもたちの成長過程において出会う第一の大人を保護者、第二を先生とすると、「第三の大人」は保護者や先生以外の実社会で働く社会人であると言えます。その第三の大人との関わりを通じて子どもたちが社会人の多様なロールモデルに触れ、社会観や職業観を広げていくことがキャリア教育の主目的です。そして何より、社会が求めていることと自身の職業観が一致し、イキイキと働く社会人との出会いは、子どもたちの社会に対する恐れを払拭し、自己肯定感を高め、将来を前向きに考えさせる動機づけになります。イキイキと働く社会人の存在を直接知ることが子どもたちの心に火を灯す。これがキャリア教育の真骨頂なのです。
②オンラインを活用した社会人との出会い
今般のコロナ禍により、学校行事はほとんどが中止になり、それに伴い、人との接触があるリアルでのキャリア教育プログラムも全て中止となりました。一方で、コロナ禍であることを逆手に取りオンラインを活用したキャリア教育プログラムを提供するケースが増えてきました。ここでは、オンライン型と対面型で実施した場合のキャリア教育プログラムのメリットとデメリットを比較しました。
このようにオンライン型は、場所の制限がないことから様々な地域や職種の社会人を招聘でき、キャリア教育のカギとなる、「多様なロールモデル」に触れる機会を数多く提供することが可能になります。またチャット機能により、通常の対面では尻込みをしてしまい質問ができない子どもたちも積極的に社会人に話しかけることが可能になり、より平等性を担保することが可能です。 コロナにより教育の現場は現在も暗中模索が続いていますが、キャリア教育においてはオンラインの特性を活用することでむしろプラスに働くポテンシャルを持っていると言えるでしょう。
結論
未来を担う子どもたちが今後不確実性の高い社会を生きていくうえで、中学校や高校でのキャリア教育はより重要視されていきます。保護者と教員、そして「第三の大人」である社会人がタッグを組むことで、「人生100年時代」の中で社会での様々な困難を乗り越えるための自分の軸を子どもたちが見出すサポートをしていきたいと思っております。以下、JTBがコロナ禍でキャリア教育プログラムを実施した事例を二つ紹介いたします。ぜひご覧ください。